ファーストフード
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ファーストフード (英語: fast food)とは、短時間で作れる、あるいは、短時間で食べられる手軽な食品・食事のこと。
マスコミでは「ファストフード」が統一表記として用いられているが、日本国民の間では「ファーストフード」と表記・発音する者が圧倒的に多い(参照)。
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[編集] 定義
fast(早い)をキーワードとした場合、「農作物・畜産物・魚介類を収穫した時点から食べるまでの時間が短い」という考え方も出来、踊り食い・刺身・サラダなどの「生食」が最も短時間(fast)である。作るという部分をもう少し長くとっても、手軽に作れるという面では缶詰・レトルト食品・カップラーメンなどの「加工食品」、親子丼・牛丼などの「丼物」、うどん・そば・ラーメンなどの「麺類」等等多岐に渡る。食べるという行為に費やす時間の長短からみても、食事のスピードには個人差・年齢差が激しく、なかなかfastの定義は出来ない。食品・食事としての手軽さでいえば、パスタ・菓子パン・中華まん・おにぎりなど、際限なく存在している。「産業革命以前の庶民の食事は全てファーストフード」と言えるほどである。
このように、fast な food は世界各地に存在している。しかし、「ファーストフード」と言う場合は、
という定義が、ファーストフード文化や、世界各地でのファーストフード経済周辺を眺めるにはよい。
ファーストフードは、高カロリー、高脂肪、栄養素の偏りがあり、手早く食べられるため過剰摂取の可能性が高い。そのため、「ジャンクフード」の一種とすることがある。生活習慣病のリスクファクターを沢山取り揃えている「死に至らしめるのが早い(=fast) 食べ物」をしてファーストフードと定義する場合もある。
[編集] アメリカ合衆国
食文化は、民族・地域によって異なるため、それらの枠を越えて広がるには時間がかかり、それどころか、全く伝播しないことさえある。米国は多民族国家であるため、民族・出身国・人種・アメリカ国内での地域差などで分かれる食文化の枠を越えなければ、大きなビジネスにはならない宿命があった。
「ファーストフード」の始まりは、アメリカ国内における民族・地域の枠を越えて民族横断的に受け入れられる味付けであったこともさることながら、エンゲル係数が高かった時代に「安価」であったことが最大の武器となって広まった。中産階級においては、「安価」であることよりも、「手軽に食べられる」「高カロリー」なファーストフードは、労働効率を上げる食事として受け入れられていった。ハンバーガー・ホットドッグ・フライドチキン・サンドイッチ・ピザなど、種類ごとに「フードチェーン」がつくられて大企業化していった。
第二次世界大戦後、アメリカのファーストフードチェーンは、本格的に海外展開を始めた。しかし、アメリカのノウハウそのままで海外進出した場合、為替の問題でファーストフードはかなり「高額」な食事になってしまった。特に、牛肉食の文化があまりない国に出店する際は、材料の入手でさらにコストが上がり、「ファーストフード = 富裕層の食事」という、アメリカ国内では考えられない図式で導入されることとなった。
海外進出初期においては「安価」ではないファーストフードであったが、「アメリカ資本」の「巨大フードチェーン」の進出は、競争力のないそれぞれの国の国内産業を圧迫するとともに、米国の文化侵略の象徴とみなされ、出店規制が行われることが多々見られた。
アメリカ合衆国でも、ハンバーガーやピザなどはジャンクフードとみなされて、「発育段階の子供が食べてはいけない物」と教育されたり、日常的に食べることは健康に良くないと言われることもある。
[編集] ヨーロッパ
自国産業を保護する政策が強く、巨大資本のアメリカ系企業に規制がかけられている国がある。特にフランスでは、アメリカ資本のファーストフードチェーンは少ない。しかし、国内企業のファーストフードチェーンや、個人経営に近いファーストフード系の店は見られ、パニーノ、グレック、シシカバブのような、アメリカとは異なった種類のファーストフードも見られる。
アメリカの主導するグローバリズムの象徴としてファーストフードが取り上げられる場合もあり、反グローバリズム、スローフード、フェアトレードなどの、経済論理と文化論が混ざった「反ファーストフード運動」が見られる。
[編集] 日本
日本では江戸時代以来、そばや天ぷら、寿司などの屋台形式の店舗が存在していた。こうした店舗がある意味においては「世界最古のファーストフード」であるとする考えも成り立つ可能性がある(勿論、「ファーストフード」の定義をどう考えるかにもよって、この考え方に対する議論が存在する事は言うまでもない)。
アメリカ式のファーストフードが広く発展するのは、1970年代初頭にケンタッキーフライドチキンやマクドナルドなどが出店して以後の事である。 1963年に当時米軍統治下にあった沖縄県の北中城村にA&Wの1号店が開店。本土では1970年、東京都町田市にドムドムハンバーガーが開店。
日本には、アメリカ系ファーストフードチェーンの他、様々なファーストフードチェーンがある。「安い」「早い」というキーワードで言うなら、立ち食いそば・うどん・おにぎりのような古来からの食文化がファーストフードとなったのみならず、牛丼・ラーメン・カレーライスなど、近代になってから日本で展開されるようになった食文化もファーストフードチェーンとして営業している。
また、ファーストフードのライバルとなっている「安価」で「手ごろ」な食産業は、いわゆるレストランと自炊の間のすべて、と言えるほど、日本の食産業は発展している。ファミリーレストラン・定食屋・回転寿司のような店内で座席に座るものから、弁当屋・コンビニ弁当・菓子パンの他、デパ地下やスーパーの惣菜など、軽食産業の広がりは他国の追随を許さないほどである。
[編集] 日本国内にあるファーストフード店
アメリカの食文化
日本の食文化
他,回転寿司店,立ち食いそば・うどん店
[編集] ファーストフード店での勤務
ファーストフードは「安さ」が1つの売りでもあるため、労働力のコストダウンも激しい。店員は、企業にとって社会保障をつける必要がない非常勤が多く、昼間は主婦のパート、夕方以降は高校生・大学生などのアルバイトが相場となっている。ファーストフードの興隆と時期を同じくして若者のフリーターが大量に生み出され、欧米にはあまり見られない日本的な労働者の形を作り出した。
企業側の論理のみならず、学生や若者のライフスタイルに合ったこの労働スタイルは、「可処分所得の比較的大きい学生・若者」を大量に作り出し、海外に発信する日本の若者文化の下支えとなった。
[編集] 中国
中国語でファーストフードは「快餐 クワイツァン kuàicān」と呼ばれるが、必ずしも洋風のものを指す訳ではなく、トレーに中華料理を盛って食べさせる定食屋などにも「快餐」の看板が掲げられている。中国では、1980年代に始まった改革開放政策の結果、ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドなどの世界的ファーストフード店が大都市から出店を始め、すでにかなりの地方都市にまで普及している。民族資本系洋風ファーストフードチェーンでは中国・台湾合弁のディコスが最大手である。もともと中国にある、麺類や餃子、ちまきなどの点心も、ファーストフードの性格をもっているが、欧米のチェーン店についで、台湾資本の豆乳を売り物にするファーストフード店が人気を集めるようになると、中華料理を基本にしたファーストフードチェーンも種々オープンするようになった。最近では台湾風のおにぎりチェーンや、日本式のラーメン店やカレーライスの店などにも人気が出ている。
[編集] 日本国内にはなく、海外で展開しているファーストフード店
詳しくはファーストフード店の一覧を参照
[編集] アメリカ
- ジャックインザボックス
- In-N-Out Burger
- バーガーキング(日本にも出店したが撤退・現在再進出準備中)
- ヤムバーガー
- クリスタルバーガー
- ロングジョンシルバーバーガー
- Taco Bell
[編集] カナダ
[編集] ブラジル
[編集] 香港
- 大家楽(カフェドコラル)
[編集] 台湾
- 永和世界豆漿大王
[編集] 中国
- ディコス(徳克士)
[編集] 「ファーストフード」? 「ファストフード」?
アメリカで生まれた "fast food" という食文化は、世界中のあらゆる国に浸透し、"fast food" という言葉も外来語として入っていった。日本においては、「ファーストフード」という発音・カタカナ表記でこの食文化が浸透したが、近年になって「ファストフード」と表記される場合も見られるようになった。
fastの母音は、アメリカ英語では[æ]で短母音、イギリス英語では[ɑː]で長母音である。同じ区別がある母音を含む外来語にはハーフ half、パス(コンピュータ用語) path、バス(風呂) bathなどがあり、日本語として長短どちらにするかの規則は曖昧である。
"fast" の発音としては、イギリス英語(ここではイギリス本国のほか、オーストラリア・ニュージーランドを含む)で「ファーストゥ フッドゥ」とのばす以外、ドイツ語・フランス語・イタリア語などでは「ファストゥ フッドゥ」と短い母音を使っている。当のアメリカ英語でも、「ファストゥ フッドゥ(ファスフッドゥ)」または「ファストゥ フードゥ(ファスフードゥ)」と短い母音を使っている(但し、"ファ" の "ァ" はアとエの中間の音)。
日本では、イギリス英語のように 「ファーストフード」と母音を伸ばす発音・表記が使われてきたが、イタリアで始まったスローフード運動の影響から、日本のスローフード運動家を中心に、ヨーロッパ風発音の「ファストフード」が広がりをみせている。また、「アメリカから入ってきた食文化であるからアメリカ英語に従う」という、日本食のファーストフードについての考慮がない意見や、「日本語でファースト と言えばfirst の片仮名表記であることが多いため、first food と誤解されないようにファスト とした方がよい。」という意見もある。ただしこれは、スローフード運動家による fast food のネガティブキャンペーン、または、ファーストフード市場の一部をスローフード市場に置き換えようとする経済活動の一戦略であるため、「原音主義」(外来語・人名を、その国の発音に近いカタカナ表記に置き換える)と同一と考えることに異を唱える向きもある。
不景気感の漂う中で、スローフードやスローライフが癒しの面でも浸透していった近年の流れで、スローフード活動家の主張に従い、日本放送協会、日本民間放送連盟、日本新聞協会など、マスコミ関連団体がすべて「ファストフード」に表記統一した。特に、記事1本の予算の小さい紙メディアでは、依頼記事・記事広告が横行しているため簡単に「ファストフード」が広がった。また、テレビ(やラジオ)業界では、音声メディアでもあることから、字幕スーパーでは「ファストフード」という表記が使われているものの、「ファーストフード」と発音してしまうアナウンサーもしばしば見受けられ、マスメディア全体では未だ不統一である。
なお、NHKが2003年に行った調査では「ファーストフード」と言う国民が圧倒的に多かった[1]とのことであり、既に日本の食文化に深く浸透している「ファーストフード」との名称を「ファストフード」へ変更する国民的なコンセンサスは得られていない。