機動警察パトレイバー 2 the Movie
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『機動警察パトレイバー2 the Movie』(きどうけいさつパトレイバー ツー ザ ムービー)は1993年8月7日に公開されたアニメーション映画作品である。
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[編集] あらすじ
1999年東南アジア某国、PKO部隊として日本から派遣された陸自レイバー小隊がゲリラと接触、攻撃を受けながら後退していた。指揮車に乗車する柘植は発砲許可を求めるが、許可は降りず小隊は全滅してしまう。そして、ただ一人生き残り車外へ出た柘植の目に映ったのは・・・。
「方舟」の一件から3年後の2002年冬、かつての特車二課第2小隊の面々は隊長の後藤と山崎を除いて、それぞれ新しい職場に異動していた。遊馬と野明は八王子の篠原重工のレイバー開発部門に出向、太田はレイバー訓練所の教官に、進士は本庁の総務課長に栄転し、それぞれの日々を送っていた。彼らの愛機であったAV-98「イングラム」も最新鋭のAV-2「ヴァリアント」に交替して現役を退き、今は篠原重工でデータ収集用のテストベッドとして使用されている。一方で、第1小隊隊長の南雲しのぶは警部に昇進し、特車二課の課長代理も務めていた。
そんな中、横浜ベイブリッジに米軍機から一発のミサイルが放たれる。巧妙な歪曲工作によって自衛隊の関与が疑われ、更にハッキングによる自衛隊三沢基地所属機による幻の東京爆撃が演じられる。これに過剰反応した警察の露骨な自衛隊への対抗行動により、自衛隊の基地篭城という緊迫した事態に発展していった。在日米軍の圧力もあって事態の早急な収拾を図ろうとした政府は、遂に警察に事態悪化の責任を押し付け、自衛隊に東京への治安出動命令を下す。
これと相前後して、南雲と後藤の元に柘植という人物の捜索の協力を依頼する荒川と名乗る男が現れる。後藤は荒川の依頼は断るものの、独自に本庁の松井刑事に依頼して柘植の足取りを追い始める。そして、ある雪の朝、埋立地から飛び立った戦闘ヘリが都内の通信設備と橋を尽く破壊、さらに飛行船が妨害電波を流し、都内に展開した自衛隊は情報が途絶する中、孤立していった。柘植による東京を舞台にした「戦争」が現実のものとなった瞬間である。
その朝、後藤と南雲は急遽開催された警視庁警備部の幹部会議に召喚されていた。議題は今現の事態を警備部としてどう乗り切るかであったが、実態は南雲が神奈川県警交通機動隊レイバー隊に対し特車二課課長代理名をもって”独断”で出動要請を出したことへの吊し上げの場と化してしまった。南雲と警視庁上層部の対立が決定的となる中、特車二課壊滅を知った後藤は、この期に及んでもなお責任転嫁に汲々とする上層部を見限り、南雲と共に自らの手で事態を収拾する覚悟を決める。そして壊滅した特車二課に代わり、かつての第2小隊メンバーがAV-98「イングラム」と共に呼び集められる。
戦争という状況下におかれた東京を舞台に、この「状況」を演出したテロリストを逮捕するため、特車二課第2小隊最後の出撃が始まる。
[編集] 本作品の特徴と評価
当時、監督の押井守は『西武新宿線戦異状なし』や『機動警察パトレイバー』初期OVAにて自衛隊のクーデターをモチーフとした作品を手がけていた。本作品も自衛隊の治安出動やテロを取り上げた内容であるが、「モニター越しの戦争」「現代の戦争」を取り上げた本作品は、前記の作品群とは一線を画すものとなっている。また、「現代の東京を舞台とした戦争」という物語は、様々な漫画やアニメ、架空戦記小説といったもので描かれてきたが、それらの「現代」とは、時代が「現代」なだけであって、押井守の描くものとは異なる。
テクノロジーの発達による「ハイテク戦争」は、指揮官がモニターを通して遠くの戦場を理解し、現場の兵に命令を下すだけで良いというものにした。ベイブリッジがミサイルによって破壊されるシーンは、湾岸戦争でアメリカ軍が記者達に見せ付けた、イラク軍の施設をピンポイント攻撃で破壊する映像を思い起こさせる。だが、それらは簡単に細工する事が可能であり、とても脆い。モニターに映される事象がすべて真実ではありえないと訴えている。作中の終盤に柘植が都心に立ち並ぶ高層ビル群をみながら「すべて蜃気楼の様に見える」と言った台詞は、現実とは何なのかという強烈なメッセージに聞こえる。また、2000年代になってクローズアップされてきた「リンクによる情報の共有」も、オープニングで具体的な運用方法(GONG00がGONG01のカメラ情報を利用して、ゲリラの情報を得ようとしたシーン)が示されている。また、いつもと変わらない街の風景の中に、治安出動によって配置された自衛官や戦車などが存在する。だが、そんな異端な物が入り込んだとしても、人々はなんら変わりなく忙しなく流れて行くという「日常」の中の「非日常」という強烈なギャップが、強く演出されている。
自衛隊のPKO派遣や武器使用に関する描写などは映画公開当時の世相を反映しているが、アメリカ同時多発テロ事件や地下鉄サリン事件等の大都市における無差別テロ事件、自衛隊イラク派遣が現実となった今、それらを読み解くのに示唆する点も多いといえる。国際的事件が起きるたびに、この映画の先見性を見直す動きがあることも確かである。例えば松井刑事が荒川茂樹に対し「破壊活動防止法違反その他の罪で逮捕する」と告げるシーンなどは、破壊活動防止法の名前そのものがオウム事件に関連して世間に認知される以前の事であり、映画で取り上げられた珍しい例としても知られている。
劇場版第1作に比べ、濃厚に映し出された押井独自の「都市論」に基づく描写や、第二小隊やレイバーの登場シーンが少なかったことから、主に漫画からパトレイバーのファンになった人達からは高い評価を得られたとは言えない。しかし、これらを背景にして展開された人間ドラマや、たった「一発」のミサイルによって演出された東京での「戦争」という思考実験、「正義の戦争」と「不正義の平和」といったキーワード、「現場」と「上層部」の対立の構図など、一部から高い評価を受けた部分も多い。劇場版1作目から共通して描かれている点としては「有事」、とその状態に陥ってしまった「日本」。そしてそれらに翻弄される「人間たち」がテーマであり、『逮捕しちゃうぞ the MOVIE』や『新世紀エヴァンゲリオン』、『踊る大捜査線』など、その影響を受けたと目される作品は多く、制作者自身がそれを公言する作品も少なくない。子供向けと看做されがちな作品を題材にして、その実、子供を最初から置き去りにするつもりで意図的に制作された作品であり、この点でも極めて押井的である。
本作は映像的にも高い評価を受けている。アニメの動作画枚数こそ少ないものの、当時としては革新的であったCGによるモニタ画面や空戦シーン、そして名著と称される「METHODS-機動警察パトレイバー2演出ノート-」が刊行されたレイアウトは高い評価を受けている。
当時の映画評論家からは「何故これほどの作品が実写映画ではないのか」とシナリオや演出を評価する声があがると同時に、「これはアニメーション、特に「パトレイバー」というジャンルでなければ表現できない」と、アニメ作品としての評価も高いものとなった。
[編集] スタッフ
- 監督:押井守
- 企画:ヘッドギア
- 原作:ヘッドギア
- 原案:ゆうきまさみ
- 脚本:伊藤和典
- 演出:西久保利彦
- 作画監督:黄瀬和哉
- 美術監督:小倉宏昌
- プロデューサー:鵜之沢伸、濱渡剛、石川光久
- エグゼクティブプロデューサー:山科誠、植村徹
- 音楽:川井憲次
- キャラクターデザイン:高田明美、ゆうきまさみ
- メカニックデザイン:出渕裕、河森正治、カトキハジメ、藤島康介
[編集] 声の出演
- 篠原遊馬:古川登志夫
- 泉野明:冨永みーな
- 後藤喜一:大林隆介
- 南雲しのぶ:榊原良子
- 太田功:池水通洋
- 進士幹泰:二又一成
- 山崎ひろみ:郷里大輔
- シバシゲオ:千葉繁
- 榊清太郎:阪脩
- 松井刑事:西村知道
- 荒川茂樹:竹中直人 - モデルは大学時代に押井が主宰した「映像芸術研究会」に所属していた一橋大学の学生
- 柘植行人:根津甚八 - 名前とPKO時代の容姿のモデルは作家・軍事評論家の柘植久慶。作中では「告げ行く人」を暗示している。
[編集] 賞歴
- 毎日映画コンクールアニメーション映画賞
[編集] こぼれ話
- 本作はOVA第1期・劇場版1作目と同じく押井守監督作品だが、公開当時のテレフォンサービス等ではTV版・OVA第2期に連なる世界である事が明言されており、特車二課棟の所在地もOVA第1期・劇場版1作目で設定されていた大田区城南島の埋立地には存在しない様子である。本作中では18号埋立地に通じる海底トンネルの入り口が城南島東端に存在する(ただし、これは押井の認めるところであったか、単なる演出ミスであったどうかは判断しづらい)。
- 本作ではあくまで後藤をメインに話が展開される一方で、登場割合が激減してしまった旧第二小隊の面々。だが、後に押井自ら手がけた小説版『TOKYO WAR』では割愛された部分が大幅に追加されている為、映画では描かれなかった彼らの様子も詳細に書き綴られている。この小説版はそんな映画版の内容補完的な役目を担う一方、あらゆる面で『食』に対する押井の執拗なまでのこだわりが書き綴られている点も大きな特徴である。押井にとっての小説処女作でもある。
- ベイブリッジ爆破事件当日はサントラCD盤のブックレットによると2002年2月21日。時刻は17時20分。また、本編中の描写によれば柘植の決起はそれから五日後の2月26日となっている。これは史実の二・二六事件になぞらえたものであると思われ、当日の天候が雪であったというのも共通している。このことは、赤穂浪士吉良邸討ち入り事件の決行日を雪の夜に脚色した『仮名手本忠臣蔵』のように、日本人が古来持つ伝統的な美意識にも通じるものであろう。また、これに合わせる形で2002年以降、2月26日に六本木ヒルズにおいて押井の戦争に関するトークショーが毎年開催されている。
- 本作は富野由悠季による『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を絶賛する押井からのある種の回答やテーマに関する呼応の意味が込められている事が同人誌『逆襲のシャア友の会』における庵野秀明との対談で告白されている。押井が他人の映画をほぼ手放しで褒める事は極めて稀な事であるが、押井との対面時にそれを告げられた富野は、同じく庵野との対談で「お世辞だと思って聞き流した」と語る。これに関してその場で庵野は「あの人(押井)はそんなに世渡りが上手くないです」と加えている。
- 柘植には初期設定の段階で「神渡」という苗字が宛てられていた。
- 南雲と柘植が密会した場所は東京都港区浜松町駅附近である。
- 「正義の戦争と不正義の平和」について後藤と荒川の台詞のやりとりが交わされるシーンは、横浜ベイブリッジから羽田付近の湾岸工業地帯にかけての風景。
- コンビニの買出し(買占め)部隊として登場する「整備員B」は、劇場版第一作目冒頭で進士と共に二号機輸送車の運転席に居た「整備員C」と同一人物である。
- 川井憲次によるサウンドトラックアルバムは三種類が発売されている。まず、劇場公開一週間前の1993年8月1日には本編の予告編的な意味合いを持つイメージアルバム「PATLABOR 2 the Movie/PRE SOUNDTRACK」が発売され、続いて9月21日に正式な劇中サントラ盤となる「ORIGINAL SOUNDTRACK "P2"」が発売された。1998年発売の「PATLABOR 2 the Movie "SOUND RENEWAL"」は本作のDVDソフト化に際しリニューアル(再録音)された音源を収録している。
- 劇中歌「おもひでのベイブリッジ」は前売りチケットマガジン付属のシングルCDに美桜かな子が歌ったバージョンが収録されている。本編を観る前にこれを聴いたファンの多くは曲の正体がわからず戸惑ったという。また、のちにVAPより単発のシングルCDとしても一般発売された。こちらには美桜バージョンと劇中で使用されたカラオケ・バージョンの他に、「しのぶと喜一」(榊原良子と大林隆介)によるデュエット・バージョンも併せて収録されている。当初この「おもひでのベイブリッジ」は冗談の様な軽い気持ちで作曲されたが、美桜かな子バージョンのレコーディングの際には「演歌の鬼」の様な先生が同伴してきて美桜かな子に熱烈指導を始めた為、作曲を担当した川井の顔は徐々に青ざめていった。
- 本作のイメージソングとしてMANAによる「愛を眠らせないで」というCDシングルが発売されているが、事前のプロモーションやTV・ラジオCF等で流れたのみで、本編中では聴く事は出来ない。また、この曲に川井憲次は参加していない。
- 荒川が「おもひでのベイブリッジ」のカラオケ映像で解説する二機種のF-16の内、航空自衛隊が装備しているF-16Jは現在F-2支援戦闘機として実在している。本作品制作当時は次期支援戦闘機 (FSX)として試作機の存在が知られるのみであった為、劇中ではその機体の1998年以降の配備仕様として登場しているが、実在のF-2は2000年に配備されている。劇中では三沢基地北部航空方面隊隷下の第3航空団第8飛行隊所属の機体番号「91-9666」、「91-9667」、「91-9668」の三機がバッジシステム画面上に登場するが、これも架空のもので、実在の第8飛行隊にはF-4EJ改が配備されている(第3飛行隊はF-2を装備)。現実では恐らく当初案の配備機数141機から98機へと大幅に減じられた事が影響しているものと思われる。なお、F-2の製造と最終組立は主に三菱が担当しているが、F-16Jがパトレイバー世界において三菱に相当する四菱(あるいは菱井)によるものであるかどうかは、劇中では明らかとなっていない。
- 一方、アメリカ空軍が装備するF-16改(通称「ナイトファルコン」)および航空自衛隊のF-15J改(通称「イーグルプラス」)は、それぞれ実在のF-16、F-15Jをベースに発展した姿として本作で描き起こされたオリジナルの空想航空機である。それぞれステルス性の向上を図った改造が施されている。ちなみに、両者のデザインを担当した河森正治がのちに「マクロス」シリーズで発表するVF-22 シュトゥルムフォーゲルIIのベクターノズルの形状は、本作のF-16改と共通のものである。
- 「ワイバーン」、「トレボー」等のコールサイン名は、押井がかつて熱中していたゲーム「ウィザードリィ」からの引用である。
- 本作ではレイバーを差し置いて、ほぼ主役級の活躍を見せる「ヘルハウンド」だが、アニメ版では「AFH-02B」であった形式番号が、後発の小説版では「AH-88」に改められている。そのためAH-1Sの後継機種でマクダネルダグラス社製としていたアニメ版の設定から、AH-56の後継機でヒューズ社製のものへと変化している。それぞれの詳細に関しては各項目「AFH-02B」及び「AH-88」を参照の事。後者は「パトレイバー世界では米陸軍のAAFSS計画がキャンセルされなかった」という裏設定に基づくものであり、押井守の個人的な趣味が反映されたものである。押井の著書「メカフィリア」によれば、実は当初の段階から後者の構想で河森正治には発注が出されていたらしい。押井が監督した実写作品『PATLABOR LIVE ACTION MOVIE』(パイロットフィルム)には、後者の設定に基づく後継機AH-88J2改「グレイゴースト」も登場している。
- 本作品には、前作以上に「鳥」が随所で登場している。これは、押井氏が「空を飛ぶものは、人間からすれば怖いもの」という考えに基づいて演出がなされたという。「ヘルハウンド」に関しても、デザインされた時期こそ前作の劇場版第一作目の物ではあるが、河森いわく「猛禽類が獲物を狙う様をイメージソースとした」と語る本機を鳥類のメタファーとして効果的に登場させているのが判る。
- 柘植が野戦基地を構え、ラストシーンの舞台ともなる「18号埋立地」は架空の場所であるが、劇場版第三作目「WXIII 機動警察パトレイバー」に登場する廃棄スタジアムも実は同じ土地に存在している。本作では進士と南雲が敵本部への侵入経路をCGで説明するシーン、「WXIII」では怪物が殲滅されたあとカメラが上空へと引いていくシーンや設定資料などでそれぞれ地形が確認できる。周辺の立地状況に関してはこちらも参照されたし。南雲が柘植を逮捕する場所と廃棄スタジアムは、実は徒歩で行き来する事も十分に可能な距離なのである。本作では殺風景な様子だが、南雲たちの居た場所から水門や側路(ところどころは未舗装)を挟み、島中央のスタジアム周辺には駐車場や小さな公園が広がっている。スタジアムは元々2002 FIFAワールドカップ開催時の使用を目指し建設が進められていた物であるらしい。だが、結果として「パトレイバー」の世界ではその誘致に失敗した為、半ば建設中のまま破棄され、バビロンプロジェクト完了後もこの埋立地そのものが宙に浮いた状態が続いていた模様。
- 劇中でテレビなどのニュース番組の内容が映されているが、日本語のアナウンスは複数の文化放送の現役アナウンサーが声優として出演している。また、自衛隊員や民間人など、主要キャスト以外の声に敢えて素人を起用しているのも特徴である。「声優による上手すぎる演技」を払拭する事で、現実感や臨場感を強調する為の措置であるという。ただし、これはDVDソフト化の際のサウンドリニューアルで差し替えられている。
- キャストとして、お笑いコンビバナナマンを結成する以前、ピンのタレントとして活動をしていた頃の日村勇紀の名がクレジットされている。本人はどんな役をやったのかもう覚えていないとレギュラーのラジオ番組で語ったが、リスナーからの指摘と相方の設楽統の証言により、冒頭部分に出てくる、シゲに「班長、後藤さん見かけなかったかって」「後藤さん捜してるんだって」と話しかける整備員が日村であるとされた。また、他の部分にも何度か出ていると設楽が話したが、こちらは未確認。
- 前述の通り、荒川茂樹のモデルは大学時代に押井が主宰した「映像芸術研究会」に所属していた学生であるが、一橋大学を卒業後、本当に幹部自衛官になっていた。本作に関する雑誌インタビューにも応じており、当時は、防衛大学校の防衛学教官であった。
- 劇中でテロ鎮圧に駆り出され、戦線復帰したイングラムであるが、さらに後の所在に関しては、東ヨーロッパの警察に払い下げられ、2017年の時点でも現役で災害救助活動を行っている一号機と、頭部をTV版仕様に戻した三号機の姿が確認できる(「モデルグラフィックス」2001年8月号及び12月号)。
- この映画と山田正紀が1982年に出版した長篇小説『虚栄の都市』(のちに『三人の『馬』』と改題)は設定や全体の雰囲気がきわめて似ている。山田が作家デビューした当初からのファンである押井は『虚栄の都市』も読んでおり、何らかのヒントにした可能性は高い。押井と山田は公私ともに親しい関係にあるが(たとえば『イノセンス』のノベライズを山田が担当するなど)、この件に関しては両者とも公の場では発言していない。
[編集] 「幻の新橋駅」について
物語終盤において、南雲しのぶと旧第二小隊の面々とレイバーを載せた列車は丸の内線の「新宿三丁目」駅を通過する。そこから次の「四谷三丁目」駅に向う途中、線路は駅の手前で一度地上に出る。その間に列車は自衛隊の治安部隊に発見され、「四谷三丁目」に先回りして別働の隊員が配備される。だが、直前で何者かの手によりポイントが切り替えられており、列車は自衛隊員の待つホームには姿をあらわさなかった。
南雲達を載せた列車は丸の内線から(おそらくは赤坂見附駅にある丸ノ内線と銀座線の連絡線を経由して)昭和13年に封鎖された銀座線の「幻の新橋駅」に乗り入れ停車する。これは現在使用されている新橋駅ではない。
もともと銀座線は昭和9年に東京地下鉄道という会社が浅草-新橋に建設した路線を使用している。そして昭和13年、これとは別に東京高速鉄道が渋谷-新橋に地下鉄線路を敷いた。この時点でふたつの地下鉄にそれぞれの新橋駅が並立したことになる(東京地下鉄銀座線新橋駅も参照のこと)。しかし、東京高速鉄道の五島慶太社長が東京地下鉄道の株を大量に買い占めた為、ふたつの路線は繋がれる事となり、東京高速鉄道の新橋駅は約8ヶ月で閉鎖されてしまう結果となった。この閉鎖された駅を含む地下空間が後藤と荒川が南雲たちを待っていた場所だった。
この「幻の新橋駅」(旧東京高速鉄道の駅)は現在の新橋駅として使用されている東京地下鉄道の駅とは、西端(虎ノ門方)券売機の壁一枚しか隔てていない。劇中では「昭和18年に閉鎖されて以来半世紀以上眠っていた地下鉄銀座線の幻の新橋駅」と述べられているが、そのモチーフ自体は実在するものである。だが、映画のシーンに映る空間は、押井守の著書「METHODS-機動警察パトレイバー2演出ノート-」によれば、とある工事現場を参考に設定がおこされた情景である事が述べられており、劇中でも「湾岸開発華やかなりし頃に建造された地下鉄銀座線の幻の新橋駅と湾岸の工区とを結ぶ新旧の結節点」と説明している為、正確には「幻の新橋駅を拡張(あるいは隣接)する形で作られた架空の空間」と考えるべきであろう。ただし実際の駅の様子も当時ロケハンされており、本編では駅名プレートのみ実在のものをそのまま再現して描いている。
現実の「幻の新橋駅」も劇中の様に銀座線から乗り入れられるため、線路自体は留置線として現在も使用されている。現在、この駅は「旧新橋駅」と名付けられ、東京メトロが主催するイベント等で、内部を見学できる機会が設けられている。その様子は劇中から想起される「廃駅」という言葉のイメージからは程遠く、駅員・乗務員の施設(控室、講習室、トイレ等)が備えられており、見学者用に当時の遺構や資料なども展示されている。だが、これらは1997年に銀座線の開業70周年記念イベントに際した大掃除とリニューアル作業が実施されて以降の事であって、それ以前はほぼ放置に近い期間が続いていた為、本作品の取材が行われた当時は内部が相当に荒廃した状態だったという。展示されている資料は大掃除の際に「出土」したものもあるという。
なお、これら一連のシーンのあと列車はさらにレールを通って湾岸部周辺(大田区城南島東端)まで進んでいるが、その間の描写はなく、観た者の想像に委ねられるかたちとなっている。だが、既存の路線から考えれば「結節点」の先は恐らく都営地下鉄浅草線に通じており(実際に新橋駅は銀座線と浅草線の連絡駅である)、そこを経由しながら目的地点へと到達したものと考えられる。都営浅草線は西で京急本線に通じている為、直接羽田空港や小島新田駅(行政区分上の所在地は神奈川県)等の東京湾岸エリアに直通している。また、製作当時は小島新田駅付近はJR川崎貨物駅から貨物列車乗入れの為三線軌条化されており、1067mm軌間との接点にもなっていた(奇しくも、イングラム制式化の前年になる1997年に廃止、撤去されてしまった)。
[編集] 参考文献
- 『THIS IS ANIMATION THE SELECT 機動警察パトレイバー2 the Movie』(小学館、1993年) ISBN 4091015190
- 『機動警察パトレイバー2 the Movie 設定資料全集』(小学館、1993年) ISBN 409101576X
- 『機動警察パトレイバー2 the Movie』(小学館、1994年) ISBN 4091218741
- 本作のフィルムコミック
- 『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』(角川書店、1994年) ISBN 4048524984
- 押井 守『TOKYO WAR MOBILE POLICE PATLABOR』(エンターブレイン、2005年) ISBN 4757723660
- 監督押井守自ら書き起こした小説処女作の完全版。
- 『WXIII 機動警察パトレイバー 設定資料全集』(小学館、2002年) ISBN 4091015654
- 『P‐pack』(こだま出版、2002年) ISBN 4906069347
- 『押井守・映像機械論 メカフィリア』(大日本絵画、2002年) ISBN 4499227542
- 『押井守 人間の彼方、映画の彼方へ』(河出書房新社、2004年) ISBN 4309976824
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
機動警察パトレイバー | |
---|---|
TV・OVA: | 機動警察パトレイバー |
劇場版: | 機動警察パトレイバー the Movie - 機動警察パトレイバー 2 the Movie - WXIII 機動警察パトレイバー - ミニパト |
ゲーム版: | 機動警察パトレイバー ~ゲームエディション~ |
劇中項目: | 篠原重工 - シャフト・エンタープライズ - バビロンプロジェクト |
劇中項目一覧: | 登場メカ一覧 - 登場人物一覧 |
テンプレート/ノート |
カテゴリ: アニメ作品 き | 機動警察パトレイバー | 1993年の映画