豚カツ
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豚カツ(とんかつ、英語 Pork cutlet)とは、豚のヒレ肉やロース肉に小麦粉、卵、パン粉などの衣をつけ、油で揚げたフライ料理。もともとは日本で生まれた洋食のひとつだが、あらかじめ細切りしてあり箸で食べやすくなっていることが多く、最近は味噌汁・御新香とともに出されるなど和食化しつつある。ウスターソースをアレンジしたトンカツソース、中濃ソース、塩、醤油などをかけて食べる。カラシや、レモンが添えられることもある。近年は、大根おろしとポン酢をかけて食べる和風と呼ばれるスタイルも人気が高い。ヒレ肉を用いたものはヒレカツ(関西地区ではヘレカツとも)、ロース肉を用いたものはロースカツというように使用する肉の部位により呼び名を変えることもある。
「カツ」が「勝つ」に通じるとして、受験の前などに縁起を担いで食べる事がある。しかし、豚カツは消化に時間がかかる繊維質な豚肉を、消化に時間のかかる油で揚げた料理のため、試合や受験の直前に食べる料理としてはあまり適していないともいわれる。
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[編集] 起源
「カツレツ(カツ)」は本来肉を少量の油で焼くものであるが、現在のように大量の油の中で揚げるスタイルを考案したのは明治時代に銀座で開店した煉瓦亭であるとされている。豚カツの元となった料理、カツレツは、英語の"cutlet"がなまったもので、煉瓦亭の店主が日本人に発音しやすいようにカツレツ(漢字では勇ましい感じを持たせるため『勝烈』とした)と名づけたという。なおカツに千切りキャベツを添えることを始めたのもこの店である(当初は温野菜を添えていたが、日露戦争でコックが徴兵されたので、手間を省くために、なおかつ安くてソースにあう千切りキャベツを採用した)。またオリジナルのレシピでは衣に西洋式の細かい粉末状パン粉を用いていたが、油を吸いやすく日本人には不評だったため、店主の思いつきで荒削りのパン粉が使用されるようになり、日本オリジナルの洋食である「カツレツ」の原型が誕生した。
豚カツという名前の起源にはいくつかの説がある。
[編集] 作り方の一例
厚さ3~4cm、150gほどの豚肉ロースを包丁で斜めにそぎ落とすようにして、筋を離す。
脂身は好き好きの量とし、余分なところは切り離す。
肉を肉叩きで叩き、元の大きさの倍ぐらいに伸びたら、無理をせず丁寧に少しずつ元の形に戻す。
肉に塩コショウをふりかけ、小麦粉、溶き卵、パン粉の順につける。小麦粉は余分につけていると衣が剥がれるので手で叩いてよく落とす。
大きめの鍋を用意し、ラード120~130℃ぐらい(天麩羅より低く)に熱して揚げる。 温度が高すぎると周りだけ固くなって、中まで火が通らない。また、低すぎると衣にパリッとした食感がなくなる。 こうした事を防ぐ為、高温の油と低温の油を用意し、最初は高温の油で数秒、そして低温の油でおよそ10分位を目安に揚げると、衣はパリッとした食感で中までちゃんと火が通る豚カツができる。
また、溶き卵ではなく、長芋の摩り下ろしを衣につけると、サクサクとした食感が生まれる。
[編集] 分類・派生
豚カツは、その派生料理の多さも特徴の一つである。
- カツサンド : ビフカツや豚カツをウスターソース等で味付けし、サンドウィッチの具としたもの。関西ではビフカツが主流で、トンカツを挟んだ物は豚カツサンドなどと区別される場合が多い(マスプロ品は別)。パンは食パンが多いが、コッペパンやハンバーガーのバンズでも可。
- 味噌カツ : 名古屋近郊では、トンカツに八丁味噌仕立ての甘いタレをかけるのが一般的である。豚カツをどて煮に落とした所から始まったと言われる。
- 一口カツ : 肉の大きさを3-4cm角程度に小さくしたもの。お弁当のおかずとしても重宝される。
- 串カツ : タマネギなどと交互に串にさしてから衣をつけて揚げたもの。野菜と肉のコンビネーションが特徴。ソースやケチャップのほか、洋ガラシをつけて食べる。ビールのお供に最適である。
- チキンカツ : 豚肉の代わりに鶏肉を使用。トンカツに比べてあっさりとした食感で安価ですむ上、カロリーもトンカツほど高くはないため、根強い人気がある。
- ビフカツ : 牛肉を使用したもの。牛カツ、ビーフカツレツとも。トンカツよりも歴史は長いが、現在は関西、西日本を中心に食べられている。
- ハムカツ : 豚肉の代わりにハムを使用したもの。関東に多い。
- シュニッツェル : 豚カツと似たドイツ料理。バターかラードで炒め揚げする。ディープフライしたものではない。
- カツ丼 : 丼飯の上にタマネギを割下で煮てトンカツを入れ卵でとじたものをのせた料理で丼物の一種。
- カツ皿 : 上記のトンカツの卵とじを、ご飯に乗せずに出す料理。大阪の「やなぎ」が卵とじのカツ丼のご飯がないものを「台抜き」と称して客に出したのが始まりとも言われる。「カツ煮」ともいう。土鍋で供するものは「カツ鍋」と呼ばれる。
- ソースカツ丼 : 長野県駒ヶ根市や福井県、新潟県、山梨県など中部地方の地方料理であり、丼飯の上にキャベツを敷き(福井県、新潟県のものにはキャベツがない)ウスターソースをかけた豚カツをのせたもの。
- おろしカツ丼 : 丼飯の上にトンカツを乗せ、大根おろしをかけたもの。七味唐辛子や白醤油など、和風の調味料をかけて食べる。
- デミカツ丼 : 後述するかつめし 同様、ご飯の上に豚カツをのせ、ドミグラスソースをかけたもの。「デミグラスソース」をかけたカツ丼、という意味である。岡山県ではこれが定番とされ、ラーメンと一緒にに食べられることも多い。
- カツカレー : 米飯の上に豚カツを敷き、その上にカレーソースをかけたもの。単にカレーライスに豚カツを乗せただけのものもある。元読売ジャイアンツの千葉茂が考案者といわれる。
- かつめし : ご飯の上に豚カツをのせ、たれ(主としてドミグラスソース)をかけた料理。兵庫県加古川市の郷土料理である。北海道札幌市の居酒屋では、「かつめし」の名称で豚肉を袋状に裂き、中にご飯を詰めたメニューがある。
- エスカロップ : バターライスの上に豚カツを乗せ、ドミグラスソースをかけたもの。タケノコがライスの具に入っているのが特徴である。北海道根室市の名物の1つ。
- トルコライス : 豚カツ・ピラフ・スパゲッティを一つの皿に載せた料理。長崎の洋食屋で一般的に見られ長崎県以外で見ることはほとんどないローカルメニューの一つ。ほか、大阪と神戸でも同名の料理がある。
- キムカツ(希夢かつ): 薄切りのバラ豚肉を重ねて揚げた豚カツ。(大正時代ごろに、関西の各家庭で作っていたビフカツ、薄切り牛肉を小判形にしたものの派生品とされる)
- 松本丼 : スタンダードなカツ丼のタマネギを、ゴボウと山芋の千切りに替えたもの。長野県松本市で2000年頃に町興しの一貫として、同市蟻ヶ崎の喫茶「モーリ」が地場の食材を使用した新しい名物料理を創作したものだが、2005年現在、同店では作っていなかった(現地調査による)。
- 上海炸豬排(上海トンカツ) : 中国で洋食として、またはパーティー料理などとして作られている一口サイズで薄めのトンカツ。上海の紅房子西餐館の名物料理であるが、中国各地のホテルでも同様の料理が作られるようになっている。ウスターソースで食べる。
- とんかつ茶漬け:新宿すずやが有名。
- とんかつパフェ:愛媛県松山市にある豚カツ店「清まる」の登録商標。名物デザートメニューとなっている。予約すれば、他に「とんかつケーキ」も食べられる。
[編集] 参考文献
- 岡田哲著『とんかつの誕生――明治洋食事始め』講談社[講談社選書メチエ]。ISBN 4062581795