ライトレール
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ライトレールとは、軽量軌道交通(Light Rail Transit:LRT)のこと。本来は都市間路線や国際路線といった大型車両を用いた本格的鉄道(Heavy Rail)に対し、都市計画・地域計画等で位置付けられた都市内や近郊での運行を行う中小規模鉄道全般を指す言葉だが、併用軌道との組み合わせによる都市内輸送との親和を図ったシステムが注目され、近年は併用軌道を用いた都市交通システムとしての認識が強くなっている。
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[編集] 概要
ライトレールは高架鉄道、地下鉄よりも一回り小さいシステムの交通機関で、バス以上の輸送力を持つものの、地下鉄よりは簡易な大量交通輸送システムを低コストで建設することを目指して開発が行われた。
「LRT」 はLight Rail Transit、 「LRV」 はLight Rail Vehicle の略称ではあるが、これらは、1972年ごろにアメリカ連邦交通省都市大量輸送局によって制定された単語である。
定義の大要は「大部分を専用軌道とし、部分的に道路上(併用軌道)を1両ないし数量編成の列車が電気運転によって走行する、誰でも容易に利用できる交通システム」で、「これに使用する車両を『LRV』という」である。現在でもこの定義は有効である。
したがって、本来の「LRT」「LRV」という言葉には「低床車」という意味はまったく含まれておらず、路面電車である必要もない。アメリカなどの路線では、低床車でなくてもLRTを名乗っている。日本では「次世代型路面電車」と訳されることが多いが、上記の定義とは明かな差がある。ただし、これは欧州の非英語圏国家におけるLRT呼称法にも留意する必要がある。
欧州においても広くLRTの呼称は使われており、とくに英語圏以外の国(ドイツ・オランダ・ベルギー・フランスなど)の国が、自国の新型路面電車の英語名称としてLRTを使用している場合が多い。イギリスのLRT愛好団体、LRTA(Light Rail Transit Association)は各国のシステムを"LRT"と"路面電車"に区別して紹介している。ただし、北米・イギリス・欧州大陸さらに日本で語彙が異なるために、LRTAの区分法だけで判断できるものではない。例えば、LRTA分類ではドイツのLRTは、フランクフルト・ケルンなど地下区間を持つ路面電車が該当している。これらのものはドイツ語でStadtbahnと呼称される路面電車と地下鉄の中間的なシステムであり、LRTAはStadtbahn=LRT、Straßenbahn=路面電車として分類している。と言えども、ドイツの「路面電車」も、ドイツ人は英語ではLRTと紹介することが多い。オランダでもSneltramがあり、地下区間を持つ路面電車である。欧州大陸では、地下区間を持つ路面電車を他と区別する用語が存在しており、LRTAはこれらのものを"LRT"と呼称している。フランスでは"LRT"という語彙を持つ言葉自体が存在しておらず、路面電車を意味するLe Tramが使用される。と言えども、フランス人も自国の路面電車の英語名称にLRTを使用するケースが多い。国によって、都市交通システムの相違が語彙の違いに出る点に特に留意する必要がある。
現在の国際的なLRTの使用法では
- 英語圏の、アメリカ定義による中量軌道交通システム
- 非英語圏の新型路面電車システムの英語名称
の2つの意味があると言える。日本における定義は、2の非英語圏の新型路面電車の英語名称という意味においては、妥当と言える。
[編集] 歴史
アメリカでは、車社会の絶頂期にあった1970年代、路面電車や郊外電車(インターアーバン)は、ほとんどが廃止され、一部の都市に残存していたものの、旧態依然としていた。しかし、経済格差のある同国では、弱者の交通手段確保が必要となった。このために、新たな軌道システムを構築する必要からうまれたのがライトレールである。
ライトレールの形態をした路線は西ヨーロッパでは1960年代から一部の都市に存在していた。中でも西ドイツでは、第二次世界大戦後、連接電車の大量投入・セルフサービス制の導入などトラム(路面電車)およびその延長上の郊外電車の輸送力増強・生産性向上を行っていた。その改良を更に高規格化し、路線の専用軌道化による定時制の確保と、高速化を行うことが考えられた。これは、西ドイツ各都市の人口が100万人以下で、通常規格の地下鉄では費用対効果が悪い為である。1968年に、フランクフルト・アム・マインでこの第一号が開業、都心部では地下線、郊外では路面電車を改良したセンターリザベーション軌道または普通鉄道となる。
この方式はシュタットバーンと呼ばれるようになり、以降ケルン、ボン、デュッセルドルフ、シュトゥットガルトなど、各地で開業した。
アメリカ(およびカナダ)のライトレールはシュタットバーンに準じている。違いとしては、併用軌道の比率が若干高く、また都市政策的な側面から都心部は無料となっているものが多いことである。新規に開業した区間もある。
一方、1980年代になると、ドイツの成功に刺激されフランスで新規の軌道系交通の開業が相次いだ。フランスでは、特に「LRT」に該当する呼称は定めず、旧来からの「Le Tram」の用法をそのまま使用している。英語圏の交通関係者はフランスの新型路面電車を、ライトレールと呼ぶようことが多い。また、同じ時期に路面電車の乗降性改善の為に、超低床電車の開発がドイツ・フランス・イタリアで進められた。 1990年代には、アメリカやフランス、スペインなどこれまで路面電車/LRTがあまり普及していなかった国や地域でも、超低床電車を使用して新規開業する路面電車が増えた。
日本では、1980年に鉄道技術協会が開発した次世代路面電車に、LRTにあやかって軽快電車と名付けたことからLRTという用語が広く使われるようになった。90年代以降の欧州における低床車の普及の紹介により、LRTに注目が集まりはじめた。また、1980年代以降、近畿車輛や日本車輌などの日本の鉄道車輌製造メーカーからアメリカ向けに多くのLRVが輸出され、アメリカの動向にも注目が集まったことも無視できない影響はあった。1997年の熊本市交通局9700形電車導入以後、超低床車をシンボルとするLRTブームが起きている。富山の例に見られるように、欧米型のコンパクトシティ指向のまちづくりと一体となった交通システムとしてのLRTが一般に認識されつつあるといえる。
[編集] LRTと路面電車
一言でいえば、LRTは運行面のソフトを含めた総合的な「システム」である。LRTの実現には、次の用件を満たす必要がある。
- 都市計画・地域計画での位置付けといった政策的な側面
- 専用軌道やセンターリザベーションによる定時性の確保および運行速度の向上(都心部では利便性向上のために併用軌道も可)
- 既存交通との連携
- 運賃収受制度の改良(プリペイドカードの導入など)
LRV形態の車両を導入する試みは日本各地で行われているが、システムがそのままである限りはLRTと呼ぶのは相応しくない。
なお、LRTがトランジットモールを走行する事例が多いことから、この2つがセットで解説されるなどの誤解が多い。実際には、トランジットモールを持たずに都心部は地下区間としてるLRTも少なくはない。
[編集] 日本におけるLRT導入例
ライトレール導入を計画中の都市は、日本の路面電車一覧#路線新設を計画又は検討している(していた)事業者・都市を参照。
- 富山ライトレール
- 旧JR西日本富山港線を路面電車化し第三セクターが経営を引き継いだ。2006年4月29日開業(富山ライトレールとして開業時に一部区間が経路変更となった)。開業にあたり車両を全て入れ替えて、富山市の都市計画にも組み込まれるなど日本におけるLRT第一号と呼べるものである。これは日本初の試みとして全国から脚光を浴びている。
[編集] 日本におけるLRT類似例
鉄道線であっても駅間が短く、列車を頻発に運転している路線などが、多くあてはまる。日本では標準的な高床ホーム・高床式の例が大半だが、ごく一部に低床車を用いる例が存在する。
一方で、軌道線主体の事例では、鉄道線を接続して直通運転をしている路線などをLRTの類似と見なすことがある。しかし、この点では、欧米と日本での鉄道・軌道それぞれの概念に差があることに留意する必要がある。
日本では、鉄軌道の区別を、鉄道事業法および軌道法に求める。たとえ、その機能や規格が同じであっても、どちらに準拠するかにより、別のものとされる。
これに対して、欧米では、日本における路面電車(軌道)と郊外電車(鉄道)にあたる区別がない。車両も同じタイプが使われ、路線が一体になっている例も多い。その代わりに、これら近距離輸送用の電車類(軌道)とヘビーレール(鉄道)の区別があり規格的な隔たりも大きい。つまり日本における鉄道と軌道の直通事例は欧米ではごく普通の現象[1]であり、それだけでライトレールと呼ばれることもない。
[編集] 併用軌道のない路線
- 長野電鉄
- 沿線の母都市となっている長野市・長野県が長野電鉄をはじめとした鉄道各線を長野都市圏の基幹交通機関として明確に位置付け、都市開発や人口分布も沿線を中心に行われるという、政策面でのLRTの側面を持つ。特に長野線の長野都心部は都市政策的視点から(都心部の軌道敷を都心環状道路へ転用するため)地下化されている[要出典]。欧米では都市計画との連携という視点から、大型車両タイプのLRTに類似するものとして紹介されることがある。なお、輸送力の面でも編成長36~54m、時間当たり4~8本程度の運行本数は、ライトレールと評するに値するものである。
- 静岡鉄道
- 静岡清水線は旧静岡市・清水市の都市圏輸送兼インターアーバン路線として建設され(かつては両市内の軌道線と直通運転していた)、現在でも短編成・高頻度運転や短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態等から欧米ではLRTとして紹介されることもある。
- 東京急行電鉄
- 池上線は運転区間や輸送規模等から欧米ではLRTとして紹介されることもある。一説にはLRTの始祖はこの路線で、ヨーロッパがこの路線を応用してLRTを開発したとも言われている。世田谷線は、全線が専用軌道を走り、ホームの若干のかさ上げとともに車両も全て低床タイプのものに置き換えられている。短編成、高頻度運転、短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態はLRT的側面を備えている。
- 筑豊電気鉄道
- 筑豊電気鉄道線は北九州市の副都心・黒崎と福岡市を結ぶ高速鉄道として建設された(時代情勢の変化により途中で断念)。黒崎と郊外を結ぶ全線が専用軌道で、路面電車規格の車両を使用している。短編成、日中でも10分間隔の高頻度運転、短い駅間距離、簡易な駅施設といった輸送形態はLRT的側面を備えている。かつては西鉄北九州線と直通していた。
[編集] 併用軌道を持つ路線
- 広島電鉄
- 郊外路線である鉄道線の宮島線から市内線へ直通列車が走る。実態としては日本最大のLRTシステムといえるが、市内線区間における表定速度が遅いなどの課題が残る。しかし、路面電車の信号停車を極力減らす方向性が打ち出された。さらに、車両の購入や電停の整備なども含め、国、広島県、広島市の協力が得られるようになりLRT整備への追い風が顕著に現れている。
- 京阪電鉄
- 京津線は京都市内では京都市営地下鉄東西線に乗り入れ、郊外では専用軌道を走行、大津市内では併用軌道を走行して市中心部に入る。併用軌道上に駅が無く、地下鉄に乗り入れることから車両は4両編成の高床車を使用する。石山坂本線も京津線と同様に高床車を使用し、郊外では専用軌道を、大津市中心部では併用軌道を走行する。両路線とも大型車両タイプのLRTに類似するものといえる。だが、大津市や京都市の都市計画との関連性が薄く、乗り入れる京都市営地下鉄との運賃体系など課題もある。
- 福井鉄道
- 福武線は福井市内中心部では軌道上を走行する。名古屋鉄道から路面電車規格の車両を導入・使用しているが、ラッシュ時には大型車両を用いるなど、柔軟な車両運用を行っている。過去にNPO団体や自治体と共同で実験的にトランジット・モールを行ったりしている。
[編集] 導入支援
日本の国土交通省では、LRTの導入支援を行っている。同省では、LRTに「次世代型路面電車システム」というかっこ書きをつけ、「LRVの活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム」としている。
[編集] 脚注
- ^ たとえば、ドイツにはマンハイム~ハイデルベルク~ヴァインハイムを結ぶオーベルライン鉄道、カールスルーエから南の山間に延びるアルブタール鉄道、デュセルドルフ~クレーフェルトのライン鉄道のU76系統などの各種路線がある。また、オーストリアにはウィーンとその南郊を結ぶウィーン地方鉄道などが存在する。古くは第2次世界大戦前にアメリカ各地に存在したインターアーバンも同様に専用軌道(鉄道)と併用軌道を直通する仕様であった。
[編集] 日本以外の国における事例
- 路面電車の走る街の一覧も参照。
- アメリカ合衆国カリフォルニア州
- サンフランシスコ:サンフランシスコ市営鉄道 (MUNI) の運営するライトレールが、都心部は地下を、それ以外は路上を走行する。バートとの路線共有、運賃割引など、乗り換えも容易化されている。
- ロサンゼルス:ロサンゼルス郡都市圏交通局の運営するライトレールが、かつてのパシフィック電鉄の廃線跡を利用して建設された。
- サンノゼ:サンタクララバレー交通局(VTA) の運営するライトレール(通称は同じくVTA)が、市内を中心に、マウンテンビュー、サニーベール、サンタクララ、ミルピタスへと向かう。マウンテンビュー駅やタミエン駅ではカルトレインとの接続、メトロ/エアポート駅ではサンノゼ空港へ、そのほか、西海岸最大のテーマパーク、グレートアメリカや、通勤に便利なアルタモント通勤急行 (ACE) へ行けるなど、用途は幅広い。
- フランス
- ドイツ:従来の「シュトラッセンバーン(路面電車)」に対して、軌道や車両などを改良した「シュタットバーン (LRT)」が多くの都市で導入されている。
- イギリス
- アイルランド
- 香港(中華人民共和国):新界西北部の屯門、元朗各地区を連結するLRT九広軽鉄を九広鉄路 (KCR) が運行している。