一眼レフカメラ
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一眼レフレックスカメラ(いちがんレフレックスカメラ)とは、単一のレンズを用いて、実際に撮影されるイメージをファインダーで確認することができるスチルカメラ(still camera)をいう。ドイツ語のシュピーゲル・レフレックス(Spiegelreflex:鏡の反射)という言葉が表現する通り、反射鏡とペンタプリズムを使ってファインダー(スクリーン)に結像させる機構が特徴である。
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[編集] 概要
レンズとフィルム(あるいはCCDなどの撮像素子)の間に鏡を置き、フレーミングやピント調整は鏡に反射させた光をファインダー用スクリーンに投射して行い、露光時に鏡を跳ね上げる、あるいはハーフミラーを使用してフィルムや撮像素子に光を当てるという構造を持つカメラ。
撮影用とファインダー用の光学系が共用され一系統となるため「一眼」、そして鏡によって光路を折り曲げるので「レフレックス」という。
英語ではSingle Lens Reflex、略してSLRと呼ばれる。
2007年現在、高級カメラの主流となっている形式である。
異なる構造を持つカメラに二眼レフカメラやレンジファインダー・カメラがある。
利点としては、ファインダー(およびファインダー用スクリーン)を変えずに撮影用レンズの交換ができ、パララックス(視差)の発生がなく、実写像に非常に近い像を見ながらフレーミングが可能なことである。
この特徴のため、初期の一眼レフカメラは学術用として昆虫などを接写することを目的として開発された。
欠点としては鏡などの内部反射機構の分だけ本体が大きくなることと、それに見合うバックフォーカス空間が必要となり、レンズ(特に広角レンズなど焦点距離が短いもの)の設計に制限が発生すること、原理上撮影される瞬間はファインダーから像が消失し確認ができないこと、などである。また、ミラーの動作に伴うショックや騒音も大きくなりがちである。ただし、「撮影される瞬間に像が消失する」現象は、発想を転換すれば撮影できたことが目でわかるということであり、オリンパスは同様の機能をコンパクトカメラにも搭載していた(ただし原理は異なる)。
一般的にはファインダーに正像を結ばせるためのペンタプリズム(廉価機種ではペンタミラー)が装着されていることが多いが、プリズムを持たないウエストレベルファインダー等が使える機種も存在する(ニコンFシリーズなどにオプションとして用意されている)。
一眼レフカメラのうち、デジタル一眼レフカメラは略して「デジイチ」や「デジタル一眼」とも呼ばれる。前者はペンタックスで公式に使用されている。
[編集] 歴史
[編集] 黎明期
一眼レフカメラの光学機構の源流は、カメラの前身であるカメラ・オブスクラの時代にさかのぼる。カメラ・オブスクラの中には、光路の途中に反射鏡を設置し、レンズの光学軸にたいして90度の方向に、像を結ばせるようになっていたものがあるのである。
ダゲレオタイプの発明以降のカメラの歴史に限ってみると、一眼レフカメラの最初期のもののひとつは1861年にトーマス・サットンによって考案された物だと考えられる。
それ以前のカメラは像面にフォーカシングスクリーン(ピントグラス)を取り付けてレンズの操作を行った後、その場所にスクリーンと交換する形で感光材料を設置するものであった。
サットンは光路上に可動式の鏡を取り付けカメラボディ上面のスクリーンに像を結ばせるという工夫をした。この機構によって写真を写す直前まで像を見つづけることができるようになった。
初の実用一眼レフカメラとされているのは、カルビン・レイ・スミス社から1885年に発売された「パテント・モノキュラー・デュプレックス」である。このカメラはミラーをシャッターとして使う構造であった。
その後、1890年代にかけてさまざまな一眼レフカメラが作られた。
一眼レフカメラと同じレフレックスファインダーを搭載する二眼レフカメラが登場したのもこのころである。
[編集] 一眼レフカメラの確立
1890年代も終わるころになると、フォーカルプレーンシャッターの登場によって一眼レフカメラの高機能化が加速し、現代に通ずる一眼レフカメラの形式が確立してくる。
これらの一眼レフカメラはイギリス、アメリカなどで作られており、このころの代表的機種としては、1898年登場の「グラフレックス」(アメリカ製)などがある。これらのカメラは乾板を用いたもので木製箱型の大型カメラである。また、ドイツを中心としてボディを折畳式としたホールディングタイプの一眼レフカメラも多く作られた。
[編集] ロールフィルムを用いた一眼レフカメラ
1933年に旧ドイツ・ドレスデンのイハゲー社が開発し、1934年に発売した「VPエキザクタ」がロールフィルム(8枚撮り127フィルムを使用4×6.5cm画面を撮影)を用いた一眼レフ(フォーカルプレンシャッター装備・シャッターダイヤルと巻き上げノブを有する)カメラの最初である。
35mmフィルムを使用した世界最初の一眼レフカメラは、ソビエト連邦・レニングラードのGOMZ社(国立光学器械工場、後のLOMO社)が1936年に発売した「スポルト」である。板状の2枚の金属板を使い、ミラーアップ時に先幕が閉じ、続いて後幕が縦走行するという、縦走り方式のフォーカルプレーンシャッターを搭載、シャッタースピードも最高1/500秒から最低1/25秒まで可変可能で、フィルム送りとシャッターチャージは上部の縦方向のダイヤルにより同時に行われる。バヨネット式の交換レンズ機能を有し、フィルム装填は普通の35mmフィルムを専用カートリッジに移し変えて装着、50枚まで連続して撮影できる。専用カートリッジは自作することもでき、ダークバック等で映画用35mmフィルムを最大50駒分切断し、リールに差し込めば容易に撮影できる。反射ミラーによる上部からの一眼レフのファインダーのほか、透視式の標準レンズ用のファインダーも装備され、世界初の一眼レフとして約16,000台販売された。
同年、イハゲー社も、VPエキザクタを小型化し35mmフィルムを使用するウエストレベルファインダーの一眼レフ「キネ・エキザクタ」を「スポルト」に続いて発売した。この「(バヨネットマウントの)エキザクタ」シリーズは1950年にファインダー交換式としてペンタプリズム式をもラインナップして連綿と製造販売された。このイハゲー社の「エキザクタ」機種群は「エキザクタ一眼レフシリーズ」として1960年代末まで継続して販売・開発され、多数の交換レンズ群をも提供し数多のバリエーション機種を供した。なお、「キネ・エキザクタ」の基本性能は、VPエキザクタを踏襲している。
「ペンタプリズム式一眼レフカメラ」の出現には、1948年の東ドイツ・ドレスデンのツァイス・イコン社による「コンタックスS」の発売まで待たなければならない。「コンタックスS」は、現在においても最も普及しているスクリューマウント形式であるM42マウントを採用、フランジバック・内寸口径の国際規格を有する卓越したシステムカメラで、無数の世界中の各種交換レンズと互換性を有し、ロールフィルムを用いたペンタプリズム式一眼レフの規範となった。
[編集] 戦後日本における一眼レフカメラの発展と隆盛
日本では一眼レフカメラが早くから開発されてきた。これは、レンジファインダー・カメラの分野ではライカM3など極めて完成度が高いものがすでに存在しており、日本のメーカーがその土俵での勝負を避け、別の方面からのアプローチをしたためだと言われている。現在の一眼レフカメラでは当たり前の装備となっているクイックリターンミラーや、TTL測光方式の露出計などは日本で開発・実用化されたものである。
日本初の本格一眼レフカメラは、1952年に旭光学工業(現ペンタックス)が発売した「アサヒフレックスI」である。このカメラはウエストレベルファインダーを使用していたが、その後1957年にペンタプリズムを使用し、アイレベルファインダーに変更した「アサヒペンタックス」を発売、以後ペンタプリズムによるアイレベルファインダー形式が一眼レフカメラの基本型となった。
1959年、ニコンから「ニコンF」が発売される。報道などで広く使われ、日本製の一眼レフカメラを世界に知らしめた名器である。一方キヤノンは「キヤノンフレックス」を発売、そこからさらに10年の開発期間を経て1971年に「F-1」を発表することとなった。以後ニコンはF一桁シリーズからD一桁シリーズに至るまで、そしてキヤノンはF-1から「ニューF-1」そしてEOS-1系に至るまで、プロ向けフラッグシップ機の開発でしのぎを削っている。
その後技術革新が進み、最新テクノロジー、特に自動露出(AE)やオートフォーカス(AF)などの電子技術が一眼レフカメラに矢継ぎ早に搭載されていった。これによりアマチュアにも扱いやすいカメラが多く発売され、一眼レフカメラユーザーのすそ野が広がっていった。特にキヤノンが1976年に発売した「AE-1」は世界中で爆発的な売れ行きを記録、カメラ業界に地殻変動を起こした。1985年にはミノルタ(現コニカミノルタ)が世界初の実用的なAF一眼レフカメラ「α-7000」を発売、「αショック」と呼ばれるカメラ業界全体への衝撃を与えた。さらに1993年にキヤノンが発売した「EOS Kiss」は低価格かつボディの軽量・小型化を実現し、母親などこれまで一眼レフカメラを使ったことのない初心者層の開拓に成功している。
デジタルカメラの時代になってからは、これまで培ってきた一眼レフカメラ開発のノウハウと、イメージセンサーや画像処理技術などデジタル技術の融合が行われ、既にニコン・キヤノン両社がプロ・ハイアマチュア・パーソナルユースのそれぞれを対象とした機種を発売し、他社に先行する状況になっている。
その一方で、オリンパスとコダックがデジタル一眼レフカメラの統一規格フォーサーズ・システムを策定・公開し、オリンパスと共同開発を行なって新たに参入した松下電器産業などのように賛同会社を増やしている。またソニーは、コニカミノルタと共同開発を行って新たにデジタル一眼レフのレンズを使用した新しいカメラを開発すると発表(その後2006年1月にコニカミノルタはデジタル一眼レフカメラ事業の一部をソニーに譲渡しカメラ事業から撤退)、さらに韓国サムスン電子グループのサムスンテックウィンがペンタックスとデジタル一眼レフカメラを共同開発すると発表した。今後、これまで一眼レフカメラを作ってきたカメラメーカーと、デジタル技術のノウハウを持つ電機メーカーとの間で、合従連衡が今後増えていく可能性がある。
[編集] 主な一眼レフカメラ
[編集] 35mmフィルム一眼レフカメラ
- オリンパス
- OMシリーズ
- ペンFシリーズ(唯一のハーフサイズ一眼レフカメラ)
- キヤノン
- Fシリーズ
- F-1/ニューF-1
- Aシリーズ
- A-1、AE-1、AV-1、AL-1
- Tシリーズ
- T50、T70、T80、T90
- EOSシリーズ
- EOS-1、EOS-3、EOS 5、EOS 7など
- Fシリーズ
- 京セラ(コンタックス)
- CONTAX RTSシリーズ
- CONTAX Nシリーズ
- コシナ(フォクトレンダー)
- ベッサフレックス
- ニコン
- Fシリーズ
- F一桁系(F、F2、F3、F4、F5、F6)
- F二桁・三桁系(F100、F80、etc)
- FM/FE/FAシリーズ
- ニコマートシリーズ
- プロネアシリーズ(APS一眼レフ)
- ニコノスRS(水中撮影用一眼レフ)
- Fシリーズ
- ペンタックス(旧・旭光学工業)
- アサヒフレックス シリーズ
- アサヒペンタックス シリーズ (プラクチカマウント)
- アサヒペンタックス / ペンタックス (Kマウント)
- K / M / A / P シリーズ (MF機種)
- SF / Z / MZ / *ist シリーズ (AF機種)
- ペンタックス LX
- コニカミノルタ
- Xシリーズ
- αシリーズ
- VECTIS Sシリーズ(APS一眼レフ)
- シグマ
- SAシリーズ
- ライカ
- Rシリーズ
[編集] デジタル一眼レフカメラ
- オリンパス
- Eシリーズ(除くE-100RS)
- Cシリーズ(C-1400L/XL、C-1000L、C-2500L)
- キヤノン
- EOSシリーズ
- 京セラ(コンタックス)
- CONTAX N Digital
- シグマ
- SDシリーズ
- ニコン
- Dシリーズ
- D一桁系(D1、D2系)
- D二桁・三桁系(D200、D80、etc)
- Dシリーズ
- ペンタックス
- Kシリーズ
- *istDシリーズ
- EI-2000
- コニカミノルタ
- αシリーズ
- DimageRDシリーズ(旧デジタル一眼レフ)
- マミヤ
- MamiyaZD
- 松下電器産業(LUMIX)
- DMC-L1(ライカはDigilux3として発売)
- ソニー
- α(コニカミノルタから一部資産譲渡受けたものを含む)
- 富士フイルム
- FinePix S Proシリーズ
[編集] 中判一眼レフカメラ
- 京セラ(コンタックス)
- CONTAX645
- タムロン(ブロニカ(旧ゼンザブロニカ))
- ブロニカETR
- ブロニカSQ
- ブロニカGS-1
- ペンタックス(旧・旭光学)
- PENTAX645シリーズ
- PENTAX67シリーズ
- ハッセルブラッド
- 500シリーズ
- 2000シリーズ
- H1(富士フイルムと共同開発、富士フイルムではGX645AFとして発売)
- 富士フイルム
- GX680シリーズ
- マミヤ
- MamiyaM645シリーズ
- Mamiya645ProTL
- Mamiya645AFシリーズ
- MamiyaRB67/RZ67
- ローライ
- ローライフレックス6000シリーズ