夏時間
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夏時間(なつじかん、サマータイム(イギリス英語 summer time、ヨーロッパ大陸でも用いる)、デイライト・セービング・タイム(DST)(アメリカ英語 daylight saving time)とも)は、夏の間、太陽の出ている時間帯を有効に利用する目的で、時刻を1時間早めて、それに合わせた生活を送る制度。またはその早められた時間のこと。
明るいうちに仕事をして、夜は早く寝るようになるから、結果的に省エネルギーにつながるとされている。緯度が高く夏の日照時間が長い欧米諸国などでは一般化した制度である。
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[編集] 目的と効果
日本における当初の目的は、戦時中の燃料需要の低下を期待してのものであったが、現在では以下のような効果が期待できると考えられている。
しかし、夏時間の導入については反対論も存在する。夏時間に対する批判としては、以下のようなものが挙げられる。総じて言えば“導入派の主張は理想論に過ぎない”。
- 省エネに関しては、帰宅時間が早まり、暑い時間を家で過ごすので冷房需要が増え、かえってエネルギー消費量が増える可能性がある
- 始業時間は夏時間でも終業時間は平常時間(外の明るさ)を基準にする人が出れば、逆にサービス残業が増加する
- 生活リズムが混乱する。これについては「昼食の時刻は昼間の真中の12時」と子供のころから刷り込まれている日本人の場合、日本人以外一般と異なり「昼食時刻の認識の正確さを利用して、無意識のうちに日周体調リズムを取っている」との説がある。そして夏時間の導入は、西日本においては「(自然時間の)正午」と「12時」とを分裂させる為、「2つの昼食時刻」を生じさせ、リズムを取る方法として利用できなくなることがその混乱の引き金になるのである。なお昼と夜の日照有無の認識だけで24時間リズムが常に保たれるとは限らない点については、下記参考文献を参照の事。この事は、既に夏時間を導入している国であるスペインで、夏季に時差を慣らす実験がこれらの問題に興味を持つ執筆者ら有志により行なわれ、確認された。おそらくは、これと(日本における)前回導入時の、もともと自然の少ない都市部での苦情「疲れてだるい(日本睡眠学会 清心女子大 石原金由教授らの調査)」とは何らかの関連があるものと見られる。
- 通勤時間が長い勤労者が多く、また日本の多くの民間企業や一部官庁では20時~21時過ぎ、あるいはそれ以降までの残業が常態化しており(労基署で把握が困難なサービス残業も多い)、1時間程度帰宅が早まったからといって「明るい時間に帰宅する」ことは不可能であること。
- 夏時間⇔通常時間の切り替え時の時計合せが面倒、また切り替え時に取り違えて商取引などに支障をきたす可能性がある。
- 夏時間の制度を導入すると、コンピュータを利用する各種システムに自動的に時間を切り替える機能を追加しなければならないなど、移行コストが膨大。特に信号機や鉄道運行などの交通システム、銀行や証券取引などの金融機関、時刻により自動的に管理されている医療機器などに大きな影響がある。
- 日没時刻が遅くなることにより未成年者の夜間外出、深夜徘徊等が助長される懸念がある。
- 企業・家庭で使用される多くの機器に時計が内蔵されており、それらの時刻を修正する手間がかかること(移行コストが膨大)。
- 一部の学校で行われている「冬時間」のように、金融機関が音頭をとる形で就業規則で変更すれば良いだけの話である。
- 参考文献:「生物時計の話」千葉喜彦、中央公論社、昭和50年(1975年)5月発行
- 日照リズムだけで体内時計の24時間時計合せが常にできる訳ではない点については、特に168ページ以降の、第16章・第17章の中の「千葉喜彦氏の奥さんの場合」を参照のこと。
[編集] 歴史
18世紀にベンジャミン・フランクリンが提唱したが、フランクリンの時代には実現しなかった。第一次世界大戦中のドイツで、1916年4月30日から10月1日まで、同じくイギリスが1916年5月21日から10月1日まで採用したのが始まりである。
アメリカ合衆国では1918年と1919年に各7か月間、夏時間が導入されたが、大変に不評のため廃止になった。その後第二次世界大戦中に資源節約目的で復活し、今に至る。現在は現地時間4月最終日曜日午前2時から10月最終日曜日午前2時までの間、時計を進める「1966年方式」が主に使われる。1986年より、開始日は4月第1日曜日となった。ちなみに、2007年からは「包括エネルギー法案」の可決により期間が約1ヶ月延び、開始日は3月の第2日曜日、終了は11月の第1日曜日となることが決まっている。なお、議会で法案が通れば、その自治体は夏時間を使用しなくてもよいため、2006年現在、ハワイ州は州全体、アリゾナ州では大半の自治体で夏時間を採用していない。なお、2005年まで大半の自治体で夏時間を採用していなかったインディアナ州は、2006年から州全域で夏時間を採用している。
日本でも、進駐軍の施政下にあった1948年~1951年の間のみ実施されていた(後述)。
[編集] 主な地域の実施期間
2007年現在。
- アメリカ合衆国(前述のとおり2007年から次のようにすでに変更され実行されている)、カナダ、メキシコ(一部除く) - 3月第2日曜日午前2時~11月第1日曜日午前2時(現地時間基準。開始日には2時が3時になり、終了日は2時が再度1時になるため、開始日は1日が23時間、終了日は逆に25時間になる)
- ヨーロッパ各国(一部除く) - 3月最終日曜日午前1時~10月最終日曜日午前1時(UTC基準)
- ロシア - 3月最終日曜日午前2時~10月最終日曜日午前3時(現地時間基準)
- オーストラリア(北部は実施なし、西部は2006年度から3年間試験的に実施予定) - 10月最終日曜日午前2時~翌年3月最終日曜日午前3時(現地時間基準)
- ニュージーランド(一部除く) - 10月第1日曜日午前2時~翌年3月第3日曜日午前3時(現地時間基準)
- ブラジル - 10月第3日曜日午前0時~翌年2月第3日曜日午前0時(現地時間基準)
なお、ドイツ・フランス・ブラジルでは年々、廃止を求める意見が増加している。
[編集] サマータイムを実施していたが廃止した地域
- 日本(後述)
- 香港(1941年-1979年)
- 韓国(1987年-1988年)
- 中国(1986年-1992年)
- オーストラリア北部・西部(1917年、1942年-1944年)
- 台湾(1945年-1979年)
- コロンビア
- モロッコ
- アルゼンチン
[編集] 日本におけるサマータイム
日本でも、1948年4月28日に公布された「夏時刻法」に基づいて、同年5月から毎年(ただし、1949年のみ4月の)第1土曜日24時(=日曜日1時)から9月第2土曜日25時(=日曜日0時)までの「サンマータイム」(当時の発音のまま 英語をそのままローマ字読みにした事による表記と思われる。なお国語辞典によっては「サンマー」で夏のことと記載してあるものがある)を実施していた。しかし、4回の実施を経て5回目直前の1952年4月11日に夏時刻法は廃止され、以後、日本では法律に基づく全国一斉の本格的なサマータイムは実施されていない。廃止の原因としては、農家の生活リズムの混乱、加えてより深刻だったのが、当時一般会社員と公務員は出勤時間が大体一時間ほどずれていたが、サマータイムの導入に際し、公務員の出勤時間が早まりサラリーマンと出勤時間が一致して鉄道・バスが殺人的な混雑(しかも夏に、である)を招いたことが挙げられる。なお、この通勤ラッシュはサマータイム廃止後も人口増に伴い慢性化していくことになった。
しかし、1995年頃から省エネなどを名目としたサマータイムの再導入が一部議員を中心に検討され始め、2004年8月には衆参両院の超党派による議員連盟が設立され、2005年に法案提出の動きがあったが、郵政民営化法案のからみで見送られた。
[編集] 北海道サマータイム
高緯度である北海道の夏は日中時間が日本一長いため、北海道全域を日本標準時より1時間ないし2時間早めることによって明るい時間を有効に利用しようという「北海道サマータイム特区構想」にからんだ実験として実施されている。 最終的には北海道全域に限り4月第1日曜日から9月最終日曜日までの期間、1時間ないし2時間時計を進める仮構想が提唱されている[1]。
札幌商工会議所は、2004年7月の1ヶ月間、北海道内の企業、官公庁に対し、就業時間を1時間繰り上げるよう呼びかける「北海道サマータイム月間」を実施。2005年は6月20日から7月31日の期間内で実施。夏のイベントとしての定着が進められている。しかし、北海道サマータイムは時計をいじらず、出退勤時間を1時間早めるというフレックスタイム制であり、本来の「サマータイム」とは異質な制度である。
[編集] 滋賀県庁
2003年7・8月には、滋賀県庁で職員を対象にサマータイム導入実験が行われた。
[編集] 関連項目
- アラスカ夏時間(AKDT)
- 太平洋夏時間(PDT)
- 山岳部夏時間(MDT)
- 中部夏時間(CDT)
- 東部夏時間(EDT)
- 大西洋夏時間(ADT)
- ニューファンドランド夏時間(NDT)
- 英国夏時間(BST)
- 西ヨーロッパ夏時間(WEST)
- 中央ヨーロッパ夏時間(CEST)
- 東ヨーロッパ夏時間(EEST)
- モスクワ夏時間(MST)
- 西アフリカ夏時間(WAST)