日本庭園
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日本庭園(にほんていえん)とは、日本の伝統的な庭園である。和風庭園ともいう。寺院に見られるものや、大名屋敷の庭園跡、政治家・実業家の邸宅跡のほか、公共施設やホテルの敷地に造られたものもある。
池を中心にして、土地の起伏を生かすか、築山を築いて、庭石や草木を配し、四季折々に鑑賞できる景色を造るのが一般的である。滝を模し水が深山から流れ出し、大きな流れになってゆく様子を表現する手法や、石を立て、また石を組合せることによる石組表現、宗教的な意味を持たせた蓬莱山や蓬莱島、鶴島、亀島などに見立てる手法が多く用いられる。
灯籠、東屋(あずまや)、茶室なども配置される。室町時代以降には枯山水といって、水を用いずに、石、砂、植栽などで水流を表現する形式の庭園も作られた。江戸期以降になると庭園内のみならず庭園外の景色を利用する借景という手法も用いられる。
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[編集] 庭園史
- 飛鳥時代には中国から伝わった須弥山・蓬莱山など仏教・道教の世界観などを表現した庭園が造られたという。
- 推古20年(612年)百済から路子工が来日し、須弥山、呉橋を造った。
- 藤原京、平城京の庭園跡は、1960年代以降の発掘調査によりいくつか例が知られている。平城京では曲水の宴に使われたと思われる水路の跡も見られる。
- 平安時代の貴族の邸宅の形式は寝殿造と呼ばれ、寝殿の正面(南側)には遣水から中島のある池に水を流し込む庭園が設けられた。そこでは曲水の宴などが行われた。こうした平安貴族の庭園(寝殿造系庭園)の様子は『源氏物語』などに描写があるが、当時の面影を伝える現存作例はほとんどない。
- 平安時代後期に庭園の地割、石組、滝・遣水、植裁等の技法についての秘伝書『作庭記』が初めて著された。また浄土教の影響で西方浄土の極楽に見たてた浄土式庭園が流行した。ここでは中心建築が寝殿から阿弥陀堂に変わっている。
- 鎌倉時代から室町時代は禅宗の興隆と書院造の発達に伴い、作庭技術が向上し、歴代将軍が作庭を好んだこともあって、多くの名庭園が作られた。この時代には夢窓疎石をはじめとする作庭家が輩出した。また、池や小川などの水を用いずに、石の配置によって水の流れを表現する、枯山水の手法も広まった。
- 室町時代から茶の湯が盛んになり、安土桃山期の千利休によって茶室というジャンルが確立し、茶室に付属して露地が設けられた。
- 江戸時代初期には将軍あるいは大名が城や(江戸の)屋敷を築く際に庭園内を回遊することができる廻遊式庭園を盛んに築いた。江戸時代初期の作庭家として小堀遠州などが有名である。(大名屋敷の庭園に代表される池、築山を中心にした回遊できる庭園は池泉回遊式庭園といわれる)。
- 明治時代以降では、実業家・政治家などの庭園に有名なものがある。三菱財閥の岩崎家が築いた庭園のいくつかは東京都の公園として公開されている。山県有朋は庭園好きで知られ、京都の無鄰庵、東京の椿山荘などを残している。庭師では植治こと七代目・小川治兵衛が有名で、代表作の無鄰庵と慶雲館庭園などが国の名勝に指定されている。また、重森三玲が斬新な枯山水の庭を造った。
[編集] 日本三名園
以下の三つの日本庭園は、それぞれ雪月花を鑑賞する代表的な大名庭園として、日本三名園あるいは日本三大庭園と呼ばれる。
ただし、その由来や選定基準は明確でない。いずれも江戸時代につくられた広大な大名庭園が選ばれている点で、日本庭園すべてを考慮したものといえないことも指摘されている。
[編集] 著名庭園
日本の特別名勝一覧も参照のこと。
中世
- 西芳寺(苔寺)
- 龍安寺 方丈石庭 ― 枯山水
- 天龍寺 曹源池庭園
- 大徳寺 大仙院 ― 枯山水
- 大徳寺 龍源院方丈庭園
- 妙心寺 退蔵院
- 鹿苑寺 (金閣寺)
- 慈照寺 (銀閣寺)
- 毛越寺 (岩手県平泉町)
- 太山寺 安養院庭園 (兵庫県神戸市西区) ― 枯山水
- 東光寺 (山梨県甲府市)
- 摩訶耶寺 (静岡県浜松市)
- 光前寺 (長野県駒ヶ根市)
近世
- 松花堂 庭園(京都府八幡市)
- 大通寺 含山軒庭園、蘭亭庭園 (滋賀県長浜市)
- 玄宮園(滋賀県彦根市)
- 徳島城 旧徳島城表御殿庭園 (千秋閣庭園) (徳島県徳島市)
- 粉河寺 庭園 (和歌山県紀の川市)
- 桂離宮
- 修学院離宮
- 醍醐寺 三宝院
- 西本願寺 書院
- 二条城 二の丸御殿庭園
- 南禅寺 方丈
- 南禅寺 金地院
- 大徳寺 方丈
- 詩仙堂
- 円通寺
- 水前寺成趣園 (熊本県熊本市)
- 栗林公園 (香川県高松市)
- 浜離宮 (東京都中央区)
- 六義園 (東京都文京区)
- 養翠園 (和歌山県和歌山市)
近代
- 慶雲館庭園 (滋賀県長浜市) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。
- 無鄰庵 (京都市左京区) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。
- 平安神宮 神苑 (京都市左京区) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。
- 円山公園 (京都市東山区) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。
- 碧雲荘 (京都市左京区) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。非公開
- 慶沢園 (大阪市天王寺区) ― 七代目・小川治兵衛(植治)作。
- 東福寺 方丈(京都市東山区)
- 松尾大社 松風苑(京都市西京区) ― 重森三玲の絶作
- 大徳寺 龍源院東滴壺 (京都市北区) ― 鍋島岳生氏遺作
- 相楽園 (兵庫県神戸市中央区)
- 温山荘園 (和歌山県海南市) ― 潮入式池泉回遊庭園
- 足立美術館 (島根県安来市)
- アメリカの専門誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』の「優れた日本の庭園ランキング」で2003年以降、毎年グランプリを獲得
大徳寺龍源院 |
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長久邸庭園 |
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 『岩波 日本庭園辞典』小野健吉 岩波書店 ISBN 4000802070
- 『植治の庭 小川治兵衛の世界』尼崎博正編 田畑みなお撮影 淡交社 ISBN 4473011585
- 『枯山水』重森三玲 河原書店 ISBN 4761101598
- 『古代庭園の思想―神仙世界への憧憬』金子裕之編 角川選書 角川書店 ISBN 4047033391
- 『庭園の中世史』足利義政と東山山荘 歴史文化ライブラリー 飛田範夫 吉川弘文館 ISBN 4-642-05609-2