昴 (漫画)
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昴 | |
---|---|
ジャンル | スポーツ・青年漫画 |
漫画 | |
作者 | 曽田正人 |
出版社 | 小学館 |
掲載誌 | ビッグコミックスピリッツ |
発表期間 | 2000年2・3合併号 - 2002年49号(休載中) |
巻数 | 11冊(単行本) |
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日本の漫画作品 |
日本の漫画家 |
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『昴』は曽田正人による漫画作品。バレエを題材として扱っている。「ビッグコミックスピリッツ」にて連載(2000年2・3合併号~2002年49号)、現在休載中。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 概要
- バレエの為にその他の全てを切り捨てながら太く短く生きることを宿命付けられた一人の少女・宮本すばるの栄光に満ちたしかし天賦の才ゆえの孤独で哀しい生涯を綴った物語。それと同時に、彼女に関わることで少なからず自らの運命の歯車を狂わされていく人々の苦悩と葛藤を描いた物語でもある。
- 小学生時代からローザンヌ国際バレエコンクールまでを描いた第一部(単行本1~5巻に掲載)、ローザンヌ以降単身アメリカに渡ったすばるの活躍を描いた第ニ部・職業舞踊手(プロダンサー)編(単行本6巻以降)を連載中だが、諸般の事情により休載となっている。作者が最も思い入れを持つ作品でもあり作者公式サイトでも「30代のうちには連載を再開したい」とコメントしている。
- 第二部・職業舞踊手編を便宜上のエピソード別に更に細分化すると、すばるの渡米~初の慰問公演成功までを「アメリカ・デビュー」編、プリシラ・ロバーツ登場~ボレロ公演までを「ボレロ」編、それ以降をすばるの淡くほろ苦い恋を描いた「アレックス」編として分けることが出来る。
- 小学館ビッグコミックス公式サイトの単行本第1巻発刊記念インタビューにて当作品の構想の経緯などが語られている。その記事によると、作者が元パリ・オペラ座バレエ団のエトワールで世界的プリンシパル・ダンサー、シルヴィ・ギエムのインタビューを目にした事が大きなきっかけとなったとしている。ちなみにシルヴィ・ギエムは主人公・宮本すばるのモデルではない。
[編集] あらすじ
横須賀に住む小学3年生の少女・宮本すばるは、2年前に発病した悪性の脳腫瘍が原因で記憶障害になってしまった双子の弟・和馬の為、友人たちと遊ぶこともせず、毎日弟の入院先に通っては弟の目の前でひたすら日々の出来事を「踊って」みせることで回復を願う日々を送っていた。
そんなある日、すばるは検査中の和馬に面会できなかった後、クラスメイト・真奈の母親が経営するバレエスクールの見学に誘わていたことを思い出し、軽い気持ちでレッスンを受けたところ「筋がいい」と誉められる。初めて誰にも束縛されず自由に踊ることの喜びを知り、その足で病院に向かい母親の前でバレエ教室に通ってみたいと懇願するが、その日の検査結果で余命幾ばくも無いと宣告された弟の前で嬉々として自分に起こった楽しい出来事を語るすばるに対し、母は「和馬がかわいそうだとは思わないのか」と抑え様の無い苛立ちを思わずぶつけてしまう。弟の入院以降、両親に殆ど構ってもらえなかったことに鬱屈を募らせていたすばるは、自分の気持ちを少しも理解しようとしない母の言い分に我慢が出来ず、心ならずも「かずまなんていなきゃいいんだッ!!」と暴言を吐くが、ふと気がつくと一瞬意識を取り戻した和馬にその言葉を聞かれていたことを悟る。
その翌日、和馬の容態が急変。自らの言葉が引き金になったと思い込んだすばるは、精一杯の謝罪の気持ちを何とか和馬に伝えようと思い悩む。そんな切羽詰った心情を知らず、些細なライバル心から挑発的な言葉を投げかけてくる真奈に、すばるは「バレエを観に行ったからかずまにあんなことを言っちゃったんだ」と感情を爆発させる。そのただならぬ様子に気圧された真奈は、すばると共に病院に向かい、ようやく事の深刻さを悟ってすばるになんとか手を貸そうと、「気持ちを踊りで伝える術を見つけられない」と泣きじゃくるすばるに対し、記憶のみを頼りに「ジゼル」のアルブレヒトの踊りを披露してみせ「飛んだり回ったりするだけがバレエではない」とすばるに伝える。その言葉に励まされ真奈から即興の手ほどきを受け必死になってアルブレヒトの踊りを短時間でマスターしようと試みるすばる。ついに全ての振り付けを覚えて真奈と共に喜ぶが、その刹那ふと我に返り、自分が和馬のことを忘れてただ踊ることに夢中になっていた事実に気付く。その事に深い罪悪感を抱えながら、和馬が助かればこれを最後にバレエはやらないと誓って和馬の元に急ぐが時既に遅く、すばるに見取られること無く和馬は帰らぬ人となってしまう。
葬式の日、一目を憚ることなく泣き続けるすばるに、父は慰めの意味をこめて和馬が最後に言った「すばるちゃん、ごめんね」という言葉を聞かせた。しかし、それは逆にすばるが心の中で抱えていた罪悪感をより一層刺激し、かろうじて保っていた精神の糸を断ち切ってしまう。すばるはショックから心身喪失状態となり葬式を一人で抜け出して雨の街を彷徨う。気が付いた時には和馬との思い出が深く残る空き地に足が向いていた。思わず和馬の名を叫んだ時、目の前に現れた黒猫に導かれるように辿り着いたのは「パレ・ガルニエ」という名の場末のキャバレーだった。何気なく建物の中に足を踏み入れるすばる。
そこに他の誰よりも辛く過酷な試練と、孤独で残酷な運命が待ち受けるとも知らずに・・・。
[編集] 登場人物
[編集] 宮本家の人々
- 宮本 すばる(みやもと -)
- 本作品の主人公。物語開始時は小学校3年生の少女。クラスは3年1組。誕生日は5月1日。
- 脳腫瘍に倒れ生死の境に居る双子の弟・和馬の為に毎日病室で踊り続けているうちに「自分が踊り続けなければ弟が死んでしまう」という強い脅迫観念に囚われてしまっている。しかし皮肉にもその事が、生まれながらにして持っていた「踊ること」に対する天賦の才能を意識せぬうちに磨き続ける事になっていた。
- 和馬の死のショックから街中を彷徨ったあげく辿り着いた先のキャバレー「パレ・ガルニエ」のオーナー・日比野五十鈴と運命的な出会いをし、以後6年に渡り「パレ・ガルニエ」のステージに上がりながらクラシック・バレエの基礎段階から英才教育を受ける。15歳の時に同時に通っていた「呉羽バレエスタジオ」の生徒として白鳥の湖第4幕における群舞で正式に舞台デビュー。ローザンヌ国際バレエコンクールでは日比野の依頼を受けたボリショイ・バレエ団出身のプリンシパル、イワン・ゴーリキーに師事し、スカラシップ(奨学金)と滅多に選出されないとされる最優秀賞、視聴者投票のスイス・ロマンド・テレビ視聴者賞を受賞。英国の名門ロイヤル・バレエ・スクールから「必要ならば無期限で」という超破格待遇で迎えられる。当初は「賞にもれた人のためにも」とその話を受ける気でいたが、ザックの強引な(半分は詐欺同然の)説得を受け、迷った末にいち早くプロのバレエダンサーになる事を選び、16歳で単身渡米して弱小バレエ団の「システロン・バレエ・カンパニー」に身を寄せるが、スカラシップを蹴ったことでバレエの本場・欧州バレエ界に対し泥を塗ることになってしまった。
- システロンのフォンタナ刑務所慰問公演で、バレエになんの興味の無かった囚人たちを精神的に激しく揺さぶり最後は絶望感から泣き出すほどの超絶的なバレエを披露したことにより密かにマスコミの注目を集め、ついにはニューヨーク・シティ・バレエの女王、プリシラ・ロバーツの向こうを張って行なった同日同演目の「ボレロ」を成功させる。しかしそれを契機に世間の注目を一気に浴びたことにより、皮肉にもその存在を危ぶむFBIや、就労ビザの未取得問題で米司法省移民局から目を付けられることになってしまう。その際、自らを調査しにきたFBI捜査官アレックスに自分と同じ孤独の匂いを嗅ぎ、1人の女性として初めて熱く激しい恋に落ちるが、相手から生き方の違いを指摘されて苦い別れを経験する。
- 初登場時は少し大人びた風情のどこにでもいるごく普通の小学生といった感じだったが、中学3年時には大人でさえ思わずハッとするような美少女に成長。しかしその一方で弟・和馬の死をきっかけにトラウマを抱えることになり、気まぐれで我儘、気に入らないことがあるとすぐ拗ねる、癇癪持ちで苛立ちをストレートに他人にぶつける・・・等、極めて情緒不安定な人格が形成されてしまった。また強情なまでの負けず嫌いで、感情の起伏が激しくすぐ泣く癖がある。また天才ゆえに他人になかなか理解されず、「私の事は誰も解からない」と常に精神的な孤独の中に身を置いている。気がつけば自分の感情の赴くままに行動したり、他人の気持ちを顧みず暴言を吐いたりするので、それが原因となり周囲と衝突することも多いが、その一方で機嫌が良い時には妙に素直で年相応の可愛らしさをみせる為、周囲の人間も憎みきれずに思わず手を貸してしまう、というなんとも得な性格をしている。究極の自己陶酔者であり、他人の気持ちにはいつも後から気付く。その事を度々自己反省するも改善される様子は今のところない。
- しかしことダンスに関してだけは飛び抜けて鋭敏な感覚を持ち、例えバレエ以外のダンスであってもほんの少しコツを知れば完璧に振り付けをトレースし、更にそれを昇華させてしまう。精神的に追い込まれるほど極限の集中力を発揮し、”表現者として究極といわれる領域(ゾーン)”に自ら入り込める稀有な才能の持ち主。その結果、時として観客全員を麻薬を投与されたような異常な感覚(音響のボリュームを上げていないのに音がどんどん大きくなって聞こえる等)に巻き込むほど通常では考えられない奇跡ともいえるムーブメントを引き起こす。この類稀なカリスマに関わった人々は、すばるの内包する圧倒的なパワーに翻弄され必死に抗いながらも、多かれ少なかれ彼女の影響を受けて自らの運命を変転させてゆくことになる。
- 「パレ・ガルニエ」時代、近くにある米軍駐屯基地の兵隊相手に踊っていたことで日常会話程度の英会話は難無くこなせる。アメリカに渡ってからは未成年でありながら飲酒は当たり前。プリシラ・ロバーツから譲り受けたと思われるバイクを度々無免許で運転するなど、周囲の注目度とは裏腹に普段の生活態度は無茶苦茶な不良少女ある。周囲を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して後は知らん顔という現実社会から見ればただの迷惑な厄介者であるが、天才とは得てしてそういうものだという作者の意図が色濃く反映されているキャラクターであり、作者自身も「大のお気に入り」と公言している。
- 宮本 和馬(みやもと かずま)
- すばるの双子の弟。しっかり者で聞き分けが良く、姉のすばるが子供っぽいこともあってか、時折大人の物言いでたしなめたりする。しかし姉弟仲はとても良く、親に怒られるのを覚悟ですばるの為に黒猫を捕まえてきたりする優しい面も持っている。小学校1年の時に体調の異変から脳腫瘍が発見され、自宅近くの聖ポウル病院に入院。腫瘍の圧迫が広がるにつれ徐々に記憶障害を引き起こし、ついには身動きどころか言葉も発せられなくなってしまう。すばるは和馬の為に踊ることを繰り返すうちに、いつしか「踊り続けなければ和馬が死んでしまう」という強迫観念に取り付かれた。
- 死に際に一瞬だけ意識を取り戻し、すばるの為を思い最後の言葉を残すが、図らずもそれがすばるを精神崩壊させ、後まで残るトラウマを植え付けることになってしまった。しかしそれは同時にすばるを、生きることの全てをバレエだけに注ぐことの出来る、史上最も純粋なバレエ・ダンサーとして覚醒させ、生涯バレエから逃れられぬ宿命へと導くことになる。ある意味、命をかけてすばるにダンスを残し、その人生の行く末までも決定付けた最重要人物である。
- すばるの父・母
- すばる、和馬の両親。父の仕事関係で横須賀近辺の社宅住まいをしている。ごく普通の中流家庭であったが、和馬の脳腫瘍発病を契機に家庭内のバランスが崩壊。特に母親は和馬の入院費を稼ぐ為に共働きするようになり、看病のこともあって和馬をますます溺愛するようになっていく一方で、すばるとの間には埋め様の無い心の溝を深めていってしまう。同じく仕事に奔走していた父親は、形の上ではすばるに優しく接してはいたものの、腫れ物を触るような当り障りの無い扱いであったことが、母子関係の微妙な変化に最後まで気づけなかった事等から窺える。
- すばるが中学の3者面談を親に伝えていなかったことを発端に両親とすばるは口論。プロのダンサーになるため進学はしないと語るすばるに対し、母はすばるが数年前から「パレ・ガルニエ」へ出入りしていたことを今さらながらに咎めるが、「では何故遅く帰ってきた時に問い詰めなかったのか?」と逆に子供に対しての無関心さを突かれる。更にすばるの進路の話にもかかわらず「和馬の為にも」とあからさまに和馬の死を引き摺った発言をしたことで、ますますすばるは反発。「あたしの人生だよ」と言うすばるが癇に障り「そんなことは言わせない」と最後まですばると正面から向き合うことを避け続ける態度を改めようとせず、ついにすばるから「和馬を殺したのはあたしだと思っているんでしょう?」と核心を突く問いを投げかけられても顔を背けるだけで否定できなかった。そのやり取りを見ていた父は、「バレエだけで食べていけるほど世の中は甘くない」と常識論を掲げて説得しようとするが「最初から賛成してもらえるなんて思っていない。自分の力だけでなんとかやって、それでダメになるならあたしはそこで終わっても構わない」とまで言い切るすばるの悲壮な覚悟の前に絶句。もはやどんな言葉も届かず、親子の絆がもはや修復できないほど離れてしまったことを痛感する。なおこのエピソード以降、作中に両親は出てきていない。
[編集] パレ・ガルニエの人々
- 日比野 五十鈴(ひびの いすず)
- 横須賀にあるキャバレー「パレ・ガルニエ」のオーナー。すばるからは「日比野のおばちゃん」、「パレ・ガルニエ」のダンサー達からは「社長」と呼ばれる。ふくよかな外見のどこにでもいそうな独身の壮年女性だが、かつては東洋一とも噂された天才バレリーナであり、その存在は世界のバレエ界に於いて「顔は知らずとも誰もが名を聞いたことがある」程、既に伝説化している。「外国人は絶対に入団できない」とされるパリ・オペラ座バレエ団において東洋人で初めて入団試験を受けることを許された程の才能の持ち主であったが、事前の身体適性検査によって骨格と祖母の体型から遺伝性の肥満体質であるとされて入団は叶わなかった。突然「パレ・ガルニエ」に迷い込んできたすばると出会い、その生い立ちを知ると共に、子供らしからぬ強い精神力と自分を遥に凌ぐ今だ未開花のままのダンスの才能を看破。以後6年間、自らの持つ全てのバレエ技術の全てを徹底的に教え込む。
- 実は進行性の不治の病を抱えていて、余命が短いことを周囲に隠している(病名については特に詳細な記述は無かったが、作中のあらゆる描写と入院した際の「内臓疾患の検査」という台詞から推察すると何らかの癌であった可能性が高い)。ローザンヌに旅立つすばるが別れの挨拶に訪れた時は病気の影響ですっかり痩せた外見になっていた。「バレエは本来”ヨーロッパ人が踊るように”出来ている。それだけに”バレエのない国”から”侵入”してきたダンサーこそ本物なんだ。あんたならきっとやれる」と最後の言葉を贈り、心血を注いで育て自分の手から巣立っていくすばるの後姿に涙しながら「あんたは強い。頑張れ、私の娘よ」と心の中で呟く(これは作中屈指の、記憶に残る名場面である)。すばるにとっては厳しくも愛情を持って自分を深く理解してくれた最も信頼する恩師であり、大きな精神的支えでもあった。しかし、ローザンヌの決選前夜に病状が急変し他界する。
- 可愛い教え子の為とはいえ、自分に代わるコーチとしてイワン・ゴーリキーという現役の世界的トップダンサーを難なく引っ張ってきたことから、現役引退し表舞台から完全に姿を消して後もバレエ界に独自のコネクションを持っていることが窺える。現役当時自分たちの下の世代に対してそれだけ強い影響力を残してきた証でもある。ちなみに店の名前の「パレ・ガルニエ(Palais Garnier)」は、かつて日比野が憧れた舞台であり、古き良き伝統と格式を備えたパリのオペラハウス、オペラ座の異名「ガルニエ宮」からとられている。
- サダ
- 「パレ・ガルニエ」で踊るおかまのダンサー。「パレ・ガルニエ」に転がり込んできたすばるを温かく向かい入れた。おかまではあるがバレエに対しての造詣は深く、決してただの色者ではない。群舞に慣れていないすばるに、神経を集中しダンサーの持つ空気を感じることで周囲と呼吸を合わせる群舞の極意と難しさを教え、それでもすばるには将来を考えてあえて伸び伸びと踊ることを教えてきた日比野の想いを語る。イワン・ゴーリキーが己の野望のためだけにすばるを利用し指導していることを知って気を許さないようにすばるへ忠告するが、「それならば自分も利用するだけ」と言い放ち、15歳とは思えない肝の据わった精神力をみせるすばるに思わず戦慄する。ローザンヌ国際バレエコンクールには病床にある日比野に変わり日本から唯一人すばるの応援に駆けつけたが、準決選最中に日比野危篤をイワンから知らされ、残されたすばるの身を心配しつつ急遽帰国する。
- マリコ
- 「パレ・ガルニエ」で踊る花形の女性ダンサー。一人息子のリョウが居る。サダと共にすばるの行く末を見守る。
- リョウ
- マリコの息子。すばるの、ローザンヌ用のコンテンポラリー・バリエーションに取り組んでからひと月後の成果を見るため、日比野に頼まれてマリコが「パレ・ガルニエ」に連れてきた。課題曲の「Polo Zero(ポロゼロ)」を踊るすばるの常軌を逸したダンスに恐怖心を感じて思わず泣き出してしまう。その様子から日比野は、すばるが初めてコンクールに挑むプレッシャーと家庭内での己の居場所を失った焦りから必要以上に生き急いでいると感じ、ダンサーにとって一番大切な「楽しんで踊ること」まで見失いかけていることを暗に指摘した。
- 徳次(とくじ)
- 「パレ・ガルニエ」の常連客。「パレ・ガルニエ」のダンサーたちとも個人的に懇意にしている模様。日比野の気まぐれで突然「ジゼル」の舞台に放り出された小学生時代のすばるに対して冷やかし混じりで物を投げつけるが、大人の眼のプレッシャーに負けず鬼気漂う迫力でアルブレヒトを踊ってみせたすばるを認め、それ以降ファンとなり応援している。日比野の容態を案じてローザンヌから「パレ・ガルニエ」に国際電話をしてきたすばるに、日比野の急死を伝える。
[編集] すばるのライバル、師
- 呉羽 真奈(くれは まな)
- すばる、和馬の同級生で幼馴染。幼少時から母の真子にクラシック・バレエの指導を受けている。和馬に密かな恋心を抱いており、誕生日プレゼントを和馬に渡すべくすばるに懇願して同級生の女子と共に入院中の和馬を1年ぶりに見舞うも、既に殆どの知覚を失って寝たきりになっている姿に衝撃を受け、同時にすばるが何故人付き合いが悪かったのかを知る。その帰り、忘れ物を取りに和馬の病室まで戻った際、夕闇の病室ですばるが和馬との思い出に強く残る黒猫の踊りで必死になって和馬に何かを伝えようとしているところを目撃。その鬼気漂う迫真の演技を目の当たりにして、すばるの中に眠るダンサーとしての底知れぬ才能を子供ながらに知覚する。縁あって母の経営するバレエスタジオに通うようになったすばるにライバル心を燃やして何かと自らの優位を保とうとするが、すばるの秘めたる才能が開花していくにつれて、自らの限界を思い知らされることになる。
- 15歳ですばると共に白鳥の湖第2幕における群舞で正式な舞台デビューを飾る。ローザンヌ国際バレエコンクールにて決選まで進出。その他にも数々のコンクールで入賞を果たしているらしい描写もあり、すばるや春原多香子にこそ及ばないものの、非常に高いレベルのバレエ技術を誇る、国内ジュニアレベルでは間違いなく5本の指に入るトップクラスの実力の持ち主。もちろんこれは己の努力だけでなく、常に自分の上にいるライバル・すばると最も近い環境で競い合ってきたことが大きく作用している。
- 出自ゆえエリート意識が高く、他人に対して挑発的な物言いをする事が多いがそれは反骨心の表れでもある。根は優しく目の前で困っている人間を放ってはおけない性格。ローザンヌでは初めて春原多香子の高い実力を目の当たりにして芽生えた不安と、応援に来ていたはずのサダが自分に何も告げず決選前に急遽帰国してしまったことで一人落ち込んでいたすばるに挑発的に絡むも「あなたが本当の本気を出したのは和馬君が亡くなった時のアルブレヒトだけでそれ以外はみんな手抜き。あなたが本気を出したら春原多香子など足元にも及ばない。あなたの本気を知ってる自分こそが本当のライバルなんだ」とハッパをかける。和馬を失った時にすばるが精神的に一度死んでいることを認識しているように、すばるの心の奥底に眠る闇の部分をよく知る数少ない人物。それだけに何でも正直に言い合える唯一の友達としてすばるも心を許している。自分勝手な行動ばかりするすばるに何時の間にか巻き込まれてしまっていることに屈辱感を覚えつつも、その人外の才能に間近で触れ合える喜びを同時に見出している部分がある。すばるが真の能力を発揮する時には必ず現場に居合わせて数々の奇跡の目撃者となっているように、ある意味”傍観者”という読者の感覚に最も近いキャラクターである。
- バレエ界で密かに話題になっていたすばるの現状を確認する為、システロンの「ボレロ」公演に合わせて一人でニューヨークに渡りすばると再会。ニューヨーク一美味いと評判のホットドッグ・スタンドに連れて行かれ、そこで偶然にもプリシラ・ロバーツとすばるの再会の場に居合わせ、刑務所慰問公演を”あのプリシラ・ロバーツがわざわざ休暇をとってまで”観に来ていた事実をすばるから聞くと、チケット販売で苦戦していたシステロンとすばるを見かねて、持ち込んでいたノートパソコンを使い即興で宣伝チラシを制作。煽り文句にプリシラを利用したことでシステロンのメンバーから不満の声があがるも、持ち前の反骨心から「プリシラの名前で集まった客を満足させる自信が無いのか」と逆挑発。先頭に立って尻を叩き街頭でのチケット販売に協力。公演成功に陰から助力してすばるとシステロン・メンバーから感謝されるが、実際の公演を舞台袖で観て、自分の知らぬ間にプロ・ダンサーとして急成長を遂げるすばるに自分が置いていかれる恐怖心を覚え、複雑な気持ちになる。
- バレエを習い始めたきっかけは、母が幼少時からバレエにかかりっきりで構ってもらえず、教室の生徒の子とは手を繋ぐのに、実の子の自分とは手を繋がない事に嫉妬を覚えたことによる。また作中において真奈の父親が一切出てこない事や、真奈の母親への強い独占欲から考えると母子家庭である事を暗示するような描写をされている。
- 春原多香子(すのはら たかこ)
- ニューヨーク帰りのジュニアクラス・バレリーナ。父の赴任先のニューヨークで5歳の頃からクラシック・バレエを始め、以来バレエの王道を歩んできた。在米中からアメリカバレエ界の名門、アメリカン・バレエ・シアター(A.B.T.)の著名な指導者フレディ・ヒューストンに見初められ、A.B.T.入団の誘いを受けるほどの逸材。恩師がプリマドンナを務める「白鳥の湖」をたまたま観に来ていた時に、群舞を踊っていたすばるの飛び抜けた存在感に興味を持ち自ら接触。進路としておぼろげながらプロのダンサーになる術を模索し始めていたすばるに「ローザンヌ国際バレエコンクールに出て賞を獲れば、学費免除で世界の好きなバレエ団の付属学校に留学できる」と助言する。そのローザンヌにて決選に進出(作中で具体的な描写は無いが、すばるとの対比から何らかのスカラシップを獲得しているものと思われる)。その後A.B.T.スクールに進学。ニューヨークですばるとつかの間の再会を果たし、ABTⅡ(A.B.T.の若手部門)でのプロデビュー公演に招待する。
- ライバルが強ければ強いほど燃えるタイプで、強いライバルに巡り会う為なら自ら敵に塩を送ることも厭わない。しかしそれは自らが踊り手としてステージに立っている場合のことであり、観客として人の踊りをただ観るのは苦手で、喋る相手がいなければ退屈してすぐに寝てしまうらしい。自信のある時ほど殊勝なものの言い方をする。すばるを相手にしても決してひるまずに自らの表現に沿って踊りきる冷静さを持つ。そのバレエはすばると対極的で、全ての観衆を太陽の如く暖かな陽射しで包み込むかのような感覚を与える。癖のある登場人物が揃う本作品の主要登場人物のなかでは、珍しく公私とも非の打ち所のない優等生キャラ。名前の由来は元SPEEDの上原多香子。
- プリシラ・ロバーツ
- 米バレエ界の名門、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)において15年に渡りプリンシパルを務め、バレエ界の女王として君臨する世界屈指のバレリーナの一人。作中の扱いからもアメリカ編におけるもう一人の主役。
- 17の時にバレエを本格的に学ぶ為、オハイオからニューヨークに移住。NYCBの創始者で伝説的振付師ジョージ・バランシンの晩年、当時のプリンシパルであるダーシー・ヒュッペがレッスン中に負傷した際に、バランシン自らに見出された最後のミューズとなる。彼女の公演は毎回プレミア・チケットとなり、合衆国大統領を初め世界の要人・VIPから祝電が打たれる程のカリスマ性を持つ(自らが望めばローマ法王でさえ会えると豪語)。その動向は常に衆人監視にさらされ、睡眠時間さえろくに与えられない殺人的なスケジュールをこなす日々を送っているが、空き時間があれば睡眠よりも遊ぶことを優先するパワフル・レディで、既にそういう生活に慣れっこになってしまっている。但し本質的に時間にはルーズで辣腕マネージャーのマリアがそばにいなければ滅茶苦茶な生活を送るはめになることは想像に難くない。地元ニューヨークでは初めて訪れた盛り場であっても「いつもの」というだけでお気に入りのカクテルが出てくる程の有名人にもかかわらず、日中特に変装もせずに街中にある美味で評判のホットドッグ・スタンド(すばるもご用達)に友人を引き連れてフラリと現れたりする。
- 世間一般にはスマートで器用、最初から全てに秀でた才能の持ち主と認識されているが実は全く逆で、NYCB入団後も長期間群舞を踊ってしっかりとした下積みを経験した後に今の地位を築き上げている。今日においても初作品に望む際には一人で数日間スタジオにこもり、自ら考える到達点に達するまで荒れ狂う程に自分を追い込む不器用さをみせる。上着も着ずにTシャツ1枚でバイク移動する事(後述)といい、夜遊び好きなところといい、自らの商品価値にまるで無頓着な奇行をとる事が多いが、どんなに忙しくてもバレエの基礎中の基礎である足のポジションの確認を毎日2時間欠かしたことがなく、他人を蹴落とし長年トップに立ち続けることの困難さと厳しさを誰よりも深く理解している典型的な努力型の天才。究極の目標として将来宇宙人を相手にバレエで意思疎通を図ることを本気で目指している。そういった凡人には思い浮かばない発想をする事から判るように、好奇心旺盛な夢見る少女がそのまま大人になってしまったような人物。自らの心の内を表現する言葉を上手く見つけられず、非常に抽象的な物言いをする時があり、周囲から変人と思われている部分もある。
- ある日、朝食を取りながら目にした新聞でシステロンのフォンタナ刑務所慰問公演で起こった騒動を伝える記事に目を留め、”自分にできない事をやっているダンサー”すばるの存在を知り、個人的な興味からマリアに詳細調査を依頼。ところが刑務所での慰問公演ゆえに関係者以外の観劇ができないと知るやついに溢れる好奇心を抑えられなくなってしまい、マリアに「10年ぶりに休暇を取る」とだけ言い残し、殆ど失踪同然でシステロンの興業先のウォータールー刑務所まで一人バイクでやってくる。ガス欠で大幅に遅れて到着した移動バスから降りてきたすばるに思わず声をかけて呼び止めるが、当のすばるはプリシラの存在を全く知らず、自分の舞台を観に来た熱心なファンと勘違いされたまま刑務所内に連れ込まれたことで目をシロクロさせる(この時すばるは楽屋のシステロン・メンバーに「バレエ好きなあたしのおばさん」としてプリシラを紹介するが、もちろん正体はバレバレだった)。その日の演目を開演直前に決めるという通常のバレエ団では考えられない行為に驚愕しつつも、原因がプリマドンナを演じるすばるの”飽きっぽさ”にあると聞き、さらにすばるへの関心を強める。プリシラでさえ1回演じれば体重が3kg落ちるという「眠れる森の美女」のオーロラ姫の”ローズ・アダージョ”を僅か16歳にして苦もなくこなしてみせるすばるを観て、女性には似つかわしくない孤高の逞しさを感じるが、それはかつて自分がオーロラ姫を演じた時のマスコミ評価と全く同じ感想であることに気付き、すばるが近い将来にプリシラの座を脅かす”似て非なる異質な才能の持ち主”であることを強く感じ取る。
- プリシラを連れ戻しに来たヘリコプターに勢い余って乗り込み、システロンのツアーを放り出すように付いてきてしまったすばるの破天荒さを大いに気に入り、ついでに真のスターの優雅な生活ぶりとその裏に潜む常人には到底理解し得ないトップダンサーにのみ科せられる厳しい現実を見せつける。すばるを連れまわしている最中にふと「なぜこれほどすばるが気になるのか」と自問自答しその理由を、ダンサーとして絶頂期を迎えている自分が無意識のうちにすばるを後継者として認識しつつあるのではないかと気付き始め、心の内で自らを言い聞かせるように強く否定しつつ葛藤する。それを振り払うかのように、それまでの優しかった態度が豹変しすばるをシステロンに帰す。
- 直後の英国ロイヤル・バレエ団「恋する悪魔」での客演を経て”究極の表現領域(ゾーン)”に開眼(これにはすばるとの邂逅で得たインスピレーションが大きく働いたと思われる)。自らの目指すヴィジョンが明確になった事を契機に、バレエ人生における最大の課題であった「ボレロ」に挑戦する事を決意。この決断はバレエ界にセンセーショナルな話題を巻き起こし、その発表記者会見で「ボレロに準備は要らない。ボレロを”許される”のをただ待つだけ」という名言を残す。偶然にも同日程で「ボレロ」を演じることになったすばるとニューヨークを舞台に直接対決することになる。
- 「ボレロ」では意図してオーケストラを徐々にフェード・アウト、最後の5分間だけ無演奏にさせ、シドニー・エクレストン博士一人を除く劇場の全観衆がその異常事態に全く気付かない、つまりダンスの中に”耳から入る情報まで”練り込んでしまうという奇跡のような光景を現出させた。その事実が新聞記事に掲載された後、オークションにおける「ボレロ」の公演チケットは1枚4万2千ドル(当時のレートで約500万円)で取引されるまでになる。しかしプリシラは、観衆が帰宅後の夜中に劇中曲が耳鳴りのように鳴り響くことでその事実に気付くだろうことを予想していて「観客につけを回してしまった。自分もまだまだ青い」と、この大いなる実験を自嘲する。
- 毎年日本の東京バレエ団に招かれて「プリシラ・ロバーツ・オン・ステージ」という来日公演を開いている程の親日家。ウォータールー刑務所慰問公演に現れた時は”風里白”という日本語で自らの名前の当て字が書かれたTシャツを着ている描写もある。
- 呉羽 真子(くれは まこ)
- 真奈の母親でプロのバレエダンサー。自宅に「呉羽バレエ・スタジオ」を開き、娘の真奈以下数人の生徒を教えている。生徒不足の折、真奈が友人づてで声をかけた同級生のすばるにダンスの才能を見出し勧誘、娘を刺激する素材としてバレエを指導する。しかし週2回しかレッスンに現れないにもかかわらず真奈に匹敵する実力を見せるすばるに常々疑問を持っていた。
- ローザンヌ挑戦を前に2ヶ月も無断でレッスンを休んでいたすばるを呼び出し、試しに”ドン・キホーテ”のキトリのソロを躍らせてみたところ、ジュニアレベルではありえない高度な技術を連発し見学中の子供たちをも魅了したすばるに、自分の他にバレエの指導者がいることを確信、尋問する。そこで伝説のバレリーナ・日比野五十鈴の手ほどきを受けていたことを知り、嫉妬心からすばるに破門を言い渡す。作中の台詞によると9歳からバレエを始めたらしい。
- イワン・ゴーリキー
- 元ボリショイ・バレエ団所属で「英雄」と呼ばれた世界的に著名なプリンシパル・ダンサー。愛称はワーニャ。現在は世界各国のバレエ団に客員として招かれ踊る生活を送っている。ローザンヌ国際バレエコンクールに出場するすばるをさらに鍛える為、日比野五十鈴がフリー(コンテンポラリー)・ヴァリエーションの振り付けとコーチを依頼した。
- 自分の現役生活がもう長くない事と、現在まで自分に相応しいベスト・パートナーに恵まれていなかった事を強く意識していて、ドイツ人のカティアという自らが惚れ込んだ才能を持つ愛弟子を最後のパートナーとして育て上げようとしている。しかしダンサーとして充分な素質を持ち環境が整っているにもかかわらず、バレエに対して本気に打ち込もうとしないカティアを目覚めさせる当て馬としてすばるを鍛えることを了承して来日した(イワンの思惑は日比野も了承済み)。コーチを引き受けたものの、当初はすばるを、東洋人ゆえにどんなに優れたダンサーであっても絶対にトップにはなれないと決め付けていたが、厳しいレッスンとコーチングを通じて、すばるが自分の想像を遥に越えて成長していく姿とその無限の可能性を目の当たりにし、ローザンヌで滅多に出ない最優秀賞を獲得するに至って「私の星(エトワール)」と呼び、ついにその才能を認めてカティアに変わるパートナーとすることを決断する。しかしすばるの本当の本心である”踊ることへの執念”を利用し、誰よりも大切な恩師・日比野の死による深い悲しみまでも己の糧にして舞台に立ち続ける事を強要したことが逆にすばるの不信を買ってしまい、コンクール直後に決別される。その後英国ロイヤル・バレエ団の客員としてマクミラン版「ロミオとジュリエット」のプリンシパル、タマラ・コルスのパートナーを務めるが、すばるに感じた麻薬のような極限状態を味わうバレエを忘れられず、苛立つ日々を送っている。世間から才能を認められた数少ない真のエリートだが、作中愛弟子カティアと共に”持たざる者の渇望と悲劇”を体現するキャラクターである。
[編集] システロン・バレエ・カンパニーの仲間たち
- ザック・ジャスパー
- ニューヨークのウェスト・ハーレム127丁目に居を構える貧乏バレエ団「システロン・バレエ・カンパニー」の主催者兼芸術監督。ヒスパニック系で燃え上がるようなブロンドヘアが特徴。「バレエ界の主流に対する反抗勢力(レジスタンス)」として混成人種のバレエ団・システロンを若くして立ち上げる。
- 毎年恒例で訪れているローザンヌ国際バレエコンクールの決選前夜、恩師・日比野の死を知らされたことで踊ることに絶望し雨の中で泣きじゃくっていたすばるをマリ=クロードと共に保護。舞台上で見せたパフォーマンスとは余りにもかけ離れた姿に困惑するも、これ幸いとすばるを酒場に連れ込み未成年と知りつつ酒を飲ませ、そのままニューヨークに連れて帰ろうと画策する。しかし、酒場を抜け出しコンクールの行なわれる劇場に戻ったすばるは風邪から40度の高熱を出して最悪のコンディションであるにもかかわらずコンクールの決選に出場。意識が朦朧とする中、”純粋にダンスを求めること”に目覚めて最大限の集中力を発揮、コンクールの領域をはるかに越えた重力を自在に操るかのような圧倒的力量のバレエを披露して観客を魅了。結果、スカラシップのみならず滅多に受賞者が出ないとされる最優秀賞までも獲得してしまう。すばるが一躍時の人となってしまったことから一時はスカウトを断念しかけるが、十年に一人の逸材であるすばるを簡単に諦めることは出来ず、日比野の葬儀の為に急遽日本へ帰国したすばるを追いかけ単独で来日、「パレ・ガルニエ」を訪れる。ローザンヌでの様子から、もはやコンクール程度の”優しい観衆”の前で踊ることに飽き足らなくなっていたすばるの心情をズバリと言い当て、「俺はスバル・ミヤモトをさらいに来た。プロのダンサーになるのなら回り道はするな」と改めてスカウト。日比野の死を対価にしてまで勝ち取ったスカラシップの価値を大事にしようと考えるすばるに一旦は拒否されるが、その心の拠り所であった「パレ・ガルニエ」までが取り壊されて日本での居場所を失ったことがきっかけとなり、すばるをアメリカに呼ぶことに成功する。
- 舞踊演出家として優れた才気を持ちながら、絶対的な核となるダンサーが居なかったことと弱小バレエ団ゆえの資金難からすばるが来るまでの丸2年間、バレエ団でありながら公演を全く行っていなかった。自分が考えていた以上にあっさりすばるが手に入ったにものの、プロとしての公演を打つ手立てが見つからず荒れていたが、マリ=クロードの説得とすばるに引っ張られるように急速に実力を高めていくメンバー達を目の当たりにし、フォンタナ刑務所でのボランティア慰問公演を決断する。その公演では当初の伝えておいた演目を「眠れる森の美女」から「ドン・キホーテ」に変更。すばるによって引き起こされるであろう凄まじい光景を予見する。すばるの中に内包する己の全てを殺ぎ落としていくようなバレエの本質を見抜き、アメリカに来て今だ本気を出すに至っていないすばるを完全に覚醒させることと、システロンを光を当るための大勝負をかける舞台として、新解釈による「ボレロ」とニューヨーク・ダン・ガーニー劇場を密かに用意する。期しくもプリシラ・ロバーツが同日同演目であることが判明し、プリシラ自ら公演日延期の提案まで出されるが、「自分たちはレジスタンスである」というシステロンの信念を貫く為、すばるに眠る未開の能力に全てを託し、直接対決に望む。
- マリ=クロード
- システロンに所属する美人女性ダンサー。すばるが来る10年前に欧州でザックにスカウトされた。以来ザックの右腕的存在としてザックを陰に日向にサポートしているシステロンの良きまとめ役。すばるに当面の喰いぶちを稼がせる為、アルバイト先として「little YOKOHAMA」といううどん屋を紹介した。公演のアテが無いにもかかわらず、フォンタナ刑務所でのボランティア慰問公演の話を「望まれない客の前で踊るのはイヤだ」という舞台人としてのプライドから反対していたザックを説得し、渋々了承させる。
- ロビー
- システロンに所属する濃い縁付きの眼鏡をかけているヒスパニック系のダンサー。手癖が悪く、金に困った末にシステロンを探してハーレムに訪れたすばるからバックをひったくるが、システロンのスタジオに逃げ込んだところですばるに発見される。酒に酔った勢いですばるに得意技のグラン・フェッテでの勝負を挑むが、すばるが披露したより正確で高速なフェッテのあまりの美しさに魅了されてしまう。それ以降すばるを気になる存在として意識し始め、日を重ねることでいつしか仲間以上の愛情を持つようになる。すばるの前にアレックスが現れたとき、早くからロビーの気持ちを見抜いていたウェンディにけしかけられて一旦はすばるに告白しようとするが、自分ではすばるを支えられない事に気付いており、最後は自分を押し殺してすばるをアレックスの元へ再び送り出す。
- 天性のキャラクテールであり、システロン一の三枚目キャラ。過去に古典バレエの名作「海賊」に出演して好評だったとすばるに自慢するが、それがシステロンでの事なのかどうかは不明。
- ウェンディ
- システロンに所属するヒスパニック系の女性ダンサー。普段はホテルで働いている。すばるの持つバレエの才能を認めているが、我儘なすばるの態度に振り回されて衝突することも多い。宿無し状態でシステロンに寝泊りしていたすばるを同居人として迎え入れる。プロダンサーらしくカロリー計算をした食事を毎日欠かさないが、すばるによると作る料理はみなパサパサしているらしい。
- ガストン
- システロンに所属する剃髪が特徴的なダンサー。演目によってはすばるの相手役を務める。ウェンディと同棲中。
- ロイ
- システロンに所属するダンサー。口ひげともみあげが特徴。
- キム、ナンシー
- システロンに所属する女性ダンサー。
[編集] その他の人物
- 熊沢(くまざわ)
- すばるが舞台デビューで初めて挑んだ「白鳥の湖」公演の演出を担当。時折、呉羽バレエスタジオでプロ志望者向けのレッスンを行なっている縁もあり、「白鳥の湖」の群舞の欠員1名を補充する為、真奈とすばるが候補としてレッスンを受けることになる。すばるの持つ素質にはすぐに気付いたが、呉羽バレエスタジオのレッスンでも今まで全く顔を合わせた事がないことと、周囲を無視した身勝手なダンスで群舞が全く出来ないことで「自分だけ美しく見せるならその辺の子供でも出来る」と強烈なダメ出しを喰らわし、尚且つすばるが呉羽以外の指導者にバレエを教わっている事を見抜き「そいつはボンクラだ」と言い放ちレッスン中止と退場、欠員の採用は真奈と冷たく言い渡す。その言葉に恩師の日比野を罵倒されたと感じたすばるは、思わずカッとなって「群舞なんて1週間あれば踊れる」と啖呵を切ってレッスン場を後にする。サダの「空気を感じろ」というアドバイスと自ら考えた目隠し特訓の末、ようやく”スイッチの入った”すばるは、宣言よりも早い僅か5日でレッスン場に戻り、逆に周囲のダンサー達を自らの持ちえる領域にまで引っ張り込んで踊らせてしまい、いよいよその怪物級の力量を覚醒し始める。
- すばるの口から、かつて若かりし頃に共演した年上の天才バレリーナ・日比野の名を聞いてようやく全てを理解し「怪物が怪物を育てた」と戦慄を覚える。その時に日比野から「将来はパリのオペラ座でエトワールとして踊る」という夢を聞き、あまりに現実離れした話がカンに触り「現実を直視しろ」と言うが、後に日比野がオペラ座バレエ団の入団試験を許されたという話を伝え聞いて、年齢に関係なく常に高みを目指す志の大切さを知る。またそれをきっかけに自ら目指すバレエ哲学をより先鋭化し、一般的に形骸化している白鳥の湖の解釈に長年不満を持っていた。偶然にもすばるが熊沢の考える解釈と同じ群舞を踊ってみせたことで、欠員1名だったところを出演パートを真奈と分けることによってすばるの採用を決定する。公演本番で熊沢の考えていたものよりさらに数段上のレベルの群舞を現出させたすばるを称えつつ、このままバレエを続ければ周囲を置き去りにしていずれ一人ぼっちになると予見し、演出家としての達成感が全く得られなかったのと自らの器を思い知らされて深い失望感を覚える。
- 円(まどか)、椎名(しいな)
- 日本現代舞踊協会の職員。協会主催の芸術フェスティバルの演目「白鳥の湖」の群舞に急遽欠員が出たことで、人員補充を目的に呉羽バレエスタジオにやってくる。当初は演出家の熊沢が推薦する真奈を見に来ていたのだが、円は真奈の顔を知らなかったらしく、真奈の隣でレッスンしているすばるを真奈と勘違いしていた。中学で進路を決める時期になっていたこともあり、漠然と好きなダンスだけで食べていくことを考えていたすばるは、それまで自ら断っていた公の舞台に上がることをついに決断する。ちなみに円は男性で、椎名は女性。
- 加藤(かとう)、白旗(しらはた)
- すばるたちと共に「白鳥の湖」の群舞を踊るダンサー。すばるの群舞採用再テストにおいて、眠っていた能力が覚醒し始めたすばるに引っ張られて急激に実力を上達させていく。
- 清子先生
- 日本における春原多香子の師で、芸術フェスティバル「白鳥の湖」公演のプリマドンナとしてオデットを踊る。苗字は不明。ローザンヌに向けてレッスンに励む多香子を見ながらその才能を改めて評価するも、「白鳥の湖」第4幕の群舞を引っ張り、実質上観衆の視線を自分から奪ったすばるを思い出し、自分たちにとって未知の領域に踏み込めるのは、教え子の多香子よりも自分のより多くの部分を捧げて踊ることの出来るすばるであるかも知れないと感じる。
- コーヘイ
- 春原多香子のボーイフレンド。ティッシュペーパー配りのバイトをしていた時に、群舞の極意を会得する為、街中を目隠しで歩く訓練をしていたすばると遭遇(この時はお互い気付いていない)。すばるが車に惹かれそうになった時に真っ先に助けに飛び出した。その面影が和馬に似ていたことが印象に残り、すばるは密かに再会を楽しみにしていた。多香子に誘われて「白鳥の湖」を観に行くもすばるの存在には気付かずにいた。その後、街でストリートダンスのチラシを配っていたところですばると再会。チラシに興味を持った(実はコーヘイ目当て)のすばるをストリートダンスが行なわれている公園へ連れて行く。
- ヒロミ
- ストリートのヒップポップダンス・チーム「フライング・フィン」のメンバー。顔見知りのコーヘイにチラシ配りを頼んでいた。チームのダンスレベルはソコソコ。
- タク
- 名の知れたストリート・ヒップポップダンス・チーム「サリュー・ジル」のリーダー。プロのヒップポップ・ダンサーとしてニューヨークの様々なアーティストのバックダンサーを務めていたこともある。公園内での場所取りの件で「フライング・フィン」を相手に因縁を吹っ掛けるが、横からすばるが口を挟んだことからダンスバトルを挑む。途中、春原多香子のごく簡単な助言だけで初体験のヒップポップを完璧に踊ってみせたすばるの素質に惚れ込み「一緒にニューヨークに来ないか」と誘うが、すばるは自分の住む世界がバレエにあると再認識し、踊ることの楽しさを思い出させてくれた礼を残して別れを告げた。周囲はヒップポップを軽く見られたと憤慨するが、タクはつたない言葉の中にダンサーとしての行き方の違いを感じ取った。
- フレディ・ヒューストン
- ニューヨークに居た春原多香子を見出した著名なバレエ指導者。多香子がローザンヌ国際バレエ・コンクールの決選のチケットだけを送って招待。いても立ってもいられずに準決選前に駆けつける。作中で特に言及はないが、呉羽バレエ・スタジオの生徒が春原多香子について「アメリカン・バレエ・シアターのナントカって先生がニューヨークに呼び戻そうとしている」という台詞と「自分が見初めたダンサーといえばアメリカン・バレエ・シアターの入団に異を唱えるものはいない」というフレディ自らの台詞から、アメリカン・バレエ・シアターに籍を置いていると思われる。
- 布施(ふせ)
- ローザンヌ国際バレエ・コンクールを取材中の眼鏡に短くカットした頭髪、髭面の日本人記者。パートナーらしき若い女性記者を同行している。全くのノーマークながら「日本バレエ界に現れた新星」と騒がれていた春原多香子と互角以上の実力を見せるすばるに興味を引かれて注目する。イワン・ゴーリキーから日比野の危篤を知らされ、それを払拭するように一人で一心不乱にレッスン室で踊るすばるを偶然目撃。ジュニアながらベテランのプロダンサーを髣髴とさせるその卓越したバレエに圧倒される。しかしだだ一人夜中にレッスンをする姿にただならぬ雰囲気を覚えて声をかけ、理由を聞き出した上で「日本に電話をして様子を知れば先生も自分も少しは気持ちが落ち着くのでは」と助言した。ローザンヌ以降、姿を消していたすばるの「ボレロ」公演を聞きつけてニューヨークを訪れ、ローザンヌで出会った天才ダンサーが想像を越える進化を遂げていたことに驚愕する。
- カティア
- イワン・ゴーリキーのドイツ人パトロンの娘で自らの現役生活最後のパートナーとして育てようとしている才能豊かな若きバレリーナ。しかし恵まれすぎた環境からかバレエに対して本気で向き合おうとせず、毎日のように夜遊びを繰り返して朝帰りするなど怠惰な生活を繰り返し、持てる素質を腐らせる態度がイワンを苛立たせている。カティアをその気にさせる最後の手段としてイワンが当て馬として用意したすばると引き合わされる為にローザンヌに現れるが、コンクールの決選前夜に宿泊先から勝手に姿を消した挙句、過度の飲酒で地元警察の厄介になり病院行きになるという、もはや誰にも手の施し様もない醜態をさらす。コンクール終了後、同じ市立病院に入院していたすばるの病室から師のイワンが出てきたところを目撃。何事かと病室に忍び込んだところ、偶然にもイワンが現れ咄嗟にベッドの下に隠れるが、すばるを未来のパートナーとして見出したイワンの呟きから、図らずも自分が見限られた事実を知ってしまう。その後のイワンの独白からすると既にイワンとの関係を完全に切られてしまっているようである。
- スパーキー
- システロンがボランティア慰問公演で訪れたフォンタナ刑務所に懲役235年の終身刑で収監されているシチリヤ系マフィアの大ボス。当初はバレエに何の興味も無かったが、囚人たちを精神的に痛めつけ、あまつさえ後悔の涙さえ流させるほどの激情を呼ぶダンスを見せ付けたすばるに対し深い感銘を受け、持っていた所持金を公演のギャラとして贈った。後に別の刑務所に移送中、ハインツ刑務所に立ち寄り再びシステロンの慰問公演を観た際、かつて自分が観た「心を抉り出されるようなダンス」では無くなっていることをすばるに指摘。プリシラ・ロバーツの投げかけた「立つことの意味」という謎かけから自分を見失い、極限の高みを目指すことを諦めてかけていたすばるの心に再び火をつける。
- 吉田 ひとみ(よしだ -)
- ニューヨークまで自費で3週間だけダンス修行に来ていた18歳の日本人女性ダンサー。初めての刑務所慰問公演で気力を使い果たし抜け殻のようになっていたすばるとオープンスタジオで出会い意気投合、数日間行動を共にする。後日偶然目にした新聞記事により、すばるが新聞で騒がれている刑務所慰問バレエ団のプリマドンナであったことに気付くが、ローザンヌの最優秀賞獲得後に失踪したとされる幻の天才・宮本すばる本人とは最後まで気付かなかった。
- マリア
- プリシラ・ロバーツのスケジュール管理を一手に握る辣腕の女性マネージャー。身勝手なプリシラの行動に毎回振り回されるものの、彼女の絶対的なカリスマ性に心酔し苦労しつつも支える。突然「10年ぶりの休暇を取る」とだけ言い残し、勝手に”失踪”したプリシラを探して、自家用ヘリで追いかけてきた。普段は隠されているプリシラの裏の顔を知る数少ない人物。
- ドクター・ハンソン
- 心理学医師。プリシラ・ロバーツのカウンセリングを行い、「舞台の最中に音や色が消えた」という話から、命の危険がかかっている場面で極限の集中力が発揮され意識が先鋭化した時にのみ見られる不可思議な現象(事故の瞬間、自分だけ時間がゆっくり流れているように感じたりする等)と関連付けて、そのメカニズムを説明する。その話を聞いた直後、プリシラは自分が「ボレロ」を踊るのを”許された”と感じ、挑戦を決意する。
- シドニー・エクレストン博士
- カリフォルニア州NASAエイムズ研究所に勤務。作中での言及は無いが「NASAにこの人ありと呼ばれてる」というプリシラの台詞とその話の内容からして宇宙工学の権威と思われる。
- 10年来、実の娘や孫にさえ会おうとしない偏屈な老人だが、子供のように純粋な心を持ち、宇宙人の話をしにわざわざニューヨークからカリフォルニアまでやってくるプリシラ・ロバーツにだけは心を許している。「21世紀人類最初の大イベントは”宇宙人歓迎式典”でそこで自分は踊りたい」と話すプリシラに「”今はまだ”話せないがその時が来たら大統領より先に知らせる」と約束。「ボレロ」を演じるに当たり古今東西の踊り手の誰もが実現していない表現を模索しているプリシラに「お前を殺してしまわないものは、全てお前を強くしてくれる」と助言を贈る。その大いなる実験の場となった「ボレロ」に招待され、劇場内の全観衆の中、プリシラ・ロバーツの目指そうとしている境地に唯一人その場で気付いた。
- カイエン
- プリシラ・ロバーツの舞台衣装を手掛ける著名な衣装デザイナー。プリシラがニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルになりたての頃、極度の緊張から毎回舞台袖に自分の代役を用意しておいた為に、サイズの違うチュチュ(バレエの舞台衣装)を2着も縫わなければならなかったと昔話をする。その話ぶりからプリシラとは少なくとも10年以上の付き合いがあるものと思われる。プリシラのお供で”ニューヨーク一美味い”というホットドッグ・スタンドに連れて行かれた事で、かねてから興味を持っていたすばると直接面識を得る。
- プリシラとすばるの「ボレロ」を実際に生で観比べて、すばるがプリシラとは違うアプローチからプリシラと同じ境地に至ろうとしている事、それ故プリシラがすばるを後継者として目を付けたのではと指摘する。その意見にプリシラは無言でただ口元にかすかに笑みを浮かべて答えた。
- タマラ・コルス
- 英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル。イワン・ゴーリキーを相手に「ロミオとジュリエット」を共演。世間からの絶賛を受け自身も「過去最高の舞台」と感じているが、すばるとの出会いで極限のバレエを知ってしまったイワンの苛立つ理由を理解できずに苦悩する。1年半前、イワンがカティアを見初める前にも共演していたらしい。その描写からイワンにパートナー以上の感情を持っているようである。
- アレクサンダー・シン(アレックス)
- システロンの「ボレロ」公演においてすばるが観客に及ぼした影響力から、将来の危険分子となりうる存在としてFBIが人物調査の為に送り込んだ捜査官。優れた数学者であり飛び級で大学を卒業、若くしてFBI入りしたエリート。映画のようなヒーローに憧れて自ら現場勤務を志願したものの、本来の気が弱い性格から失敗続き。システロンでのすばるとの初接触でいきなりFBIの身分証明を見られてしまい、慌ててすばるを外に連れ出した。データ分析能力において優れた頭脳を持ち、立ち寄ったオープンカフェですばるがメニューのうち「何を」「どの程度」食べるのかを正確に予測し、その合計金額をテーブルに置いて立ち去るという離れ業をみせ、すばるを驚愕させる。後日システロンで再会した際に「置いて行った代金にはチップが含まれていなかった」と食ってかかるすばるに奇妙な親近感を覚える。バイクの無免許運転で警察に捕まってしまったすばるの身元をFBI権限を使って確保。移民局の影に怯えていたすばるを慰めつつ、「システロンのメンバーを仲間や同志と思っていない」「想いの詰まった土地も愛した人も居ない」「自分はみんなとは違うという違和感だけを持っている」という深層心理をズバリ言い当てるが、アレックスもまた心の奥底に拭い様の無い孤独感を抱えていることを、「あなたもここにいない」という端的な言葉ですばるから指摘される。今まで誰にも悟られていないと思っていた空虚な気持ちを理解してくれた相手に、心の中で寄り添える相手を求めていたことをお互いが気付き、2人は程なく激しい恋に落ちる。
- その鋭い洞察力で、理由は解からないがすばるが”一度死んでいる”状態にあることを見抜いていた。お互い同じ方向を向いているものの、自らの命を短時間で燃やし尽くし、それゆえ世間に何かを生み出し続けなければならない宿命を背負ったすばるの苛烈な生き方に付いていくことは叶わないと悟っていたアレックスは、自分のボスが流した情報から動き出した移民局の手からすばるを庇いつつ、別れを告げる。その瞬間、自分の居場所を失ったと感じたすばるは、自ら移民局の手に落ちアメリカを後にすることになる。
- ダグワース
- FBI捜査官。アレクサンダー・シンの上司で部長。エリートなのに自ら現場勤務を希望したにもかかわらず、全くうだつの上がらない部下のアレックスを「ボーイのお守りはご免だ」と蔑み毎回怒鳴りつけているが、その能力には一目置いている。調査対象であったすばるとアレックスが図らずも恋仲に進展してしまったことを危惧。司法省移民局に情報を流し、関係の終焉と不法就労者であるすばるの身柄確保を図る。
[編集] 外部リンク
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