亡国のイージス
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『亡国のイージス』(ぼうこくのイージス)は講談社から発行されている、福井晴敏によって書かれた小説である。
目次 |
[編集] 概要
2000年に日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞。また、これを基にした映画が2005年公開され、週刊モーニングでもこれを基にした漫画が連載されている。またこの物語の後日談としてコーエーがプレイステーション2用ゲームとして『亡国のイージス2035 ~ウォーシップガンナー~』を発売している。
2006年現在、発行部数は110万部を越える。
[編集] 小説
講談社(単行本)
- 亡国のイージス(1999年8月、ISBN 4062096889)
- 亡国のイージス(上) (2002年7月、ISBN 4062734931)
- 亡国のイージス(下) (2002年7月、ISBN 406273494X)
[編集] 映画
防衛庁・海上自衛隊・航空自衛隊協力の下、2005年7月30日に公開。配給元は角川ヘラルド・松竹。阪本順治監督作品。音楽はトレヴァー・ジョーンズが担当。 日本での公開の後、台湾でも2005年11月26日から「亡國神盾艦」の名で劇場公開された。
[編集] 漫画
2000年にエニックス(現スクウェア・エニックス)の漫画雑誌「コミックバウンド」で中村嘉宏作画によるコミカライズが連載されていた(雑誌廃刊のため打ち切り)。
2004年-講談社週刊モーニングにて横山仁作画によるコミカライズ版が連載された。現在は物語中盤で連載が休止されており、発売されているコミックス上では「第1部完」と表示されている。
[編集] ラジオドラマ
2005年7月に劇場公開と併せてTOKYO FMで放送された。また同年8月7日までネット配信[1]された。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
以下は単行本『亡国のイージス』についての解説である。
海上自衛官である宮津弘隆が、自分の座乗艦であるミニ・イージスシステム搭載ミサイル護衛艦「いそかぜ」(艦番号はDDG183)に、特殊兵器「グソー」を持ち込み反乱を起こした。人質は東京、困惑する内閣。如月を、そして自分の艦を取り戻すために飛び込んでいった先任伍長仙石恒史。 「守るため」に戦う二人の隊員は「俺たち」の艦を取り戻し、ミサイルの発射を阻止出来るか。
- 映画版では、実物のこんごう型イージス護衛艦「みょうこう」DDG175を、「いそかぜ」として撮影に使用した(原作では、「いそかぜ」ははたかぜ型護衛艦の三番艦)。静岡県内の海岸にこんごう型をモデルとした「いそかぜ」の実物大の巨大撮影用セットも建設された。なお、登場人物や内容が若干変更されている。又、作中に登場する兵器も異なっており、F-15JもF-2に変更されている他、ミサイル護衛艦「うらかぜ」も汎用護衛艦である「いかづち」(むらさめ型)が使用されている(「うらかぜ」の艦種は汎用護衛艦に変更されている)。
[編集] 主要キャスト・登場人物
- 仙石恒史(せんごく ひさし)(映画では真田広之、以下カッコ内は映画でのキャスト)
- 宮津弘隆(みやつ ひろたか)(寺尾聰)
- 如月行(きさらぎ こう)(勝地涼)
- 「いそかぜ」第一分隊砲雷科一等海士。
- 少年時代、母、祖父を失い、父を自分の手にかける。その後、ある組織に所属し、以降その組織の一員として行動する事になる。寡黙で、訓練の成果もあるが感情を押し殺している。天才的な絵の才覚を持っている。今回「いそかぜ」に乗艦したのは、名目上はミニ・イージスシステムの習熟者として、「いそかぜ」のクルーに新システムの指導を施すため、横須賀から配転されて来た、とのことであったが、実は宮津達による反乱を阻止することが目的だった。
- 田所祐作(たどころ ゆうさく)(斉藤陽一郎)
- 竹中勇(たけなか いさむ)(吉田栄作)
- 杉浦丈司(すぎうら たけし)(豊原功補)
- 風間雄大(かざま ゆうだい)(谷原章介)
- 衣笠秀明(きぬがさ ひであき)(橋爪淳)
- 第65護衛隊司令、一等海佐(映画では宮津が副長に設定変更されたため「いそかぜ」艦長に変更されている、また風貌も大きく異なる)。
- 一度、宮津が海上勤務から離れそうになった時、上司越しに直接人事に直談判する。そういう点では、宮津の恩人といっても良い存在だろう。ただし、宮津はその恩を仇で返すのだが…。
- 阿久津徹男(あくつ てつお)(矢島健一)
- 渥美大輔(あつみ だいすけ)(佐藤浩市)
- 防衛庁情報局(作品内では「DAIS・ダイス」という略称で呼ばれる)内事本部長。
- 宮津による「いそかぜ」叛乱を早くから察知し、様々な作戦を繰り出すのだが…。仙石が戦っていることを知り、何とか助けてやりたいと思っている。潔癖な性格で、自分の仕事と性格の不一致に嫌気が差している。
- 宗像良昭(むなかた よしあき)(真木蔵人)
- チェ・ジョンヒ(チェ・ミンソ なお、ラジオドラマ版では、浅野真澄)
- 工作員の1人。本編において、1つの鍵を握る人物でもある。
- 後述するヨンファの部下らしいが、詳細は不明(おそらく義兄妹と思われ、そんな描写も見られる。映画では血のつながった兄妹の設定)。女性としては類稀な体力・戦闘技術を持つ。韓国にいた時の地雷の事故により声帯を吹き飛ばされているため、声を出すことが出来ない。そのときの傷を隠すためか、首に常にマフラーをまいており、映画では傷が確認できる。
- 梶本幸一郎(かじもと こういちろう)(原田芳雄)
- 溝口哲也(みぞぐち てつや)/ホ・ヨンファ(中井貴一)
- 海上訓練指導隊所属三等海佐。しかしそれはあくまで顔を隠すためであり、本来は北朝鮮対日工作員(映画では某国工作員・指導教官)である。
- 朝鮮戦争や窮乏にあえぐ北朝鮮での経験から、非常に冷徹で目的遂行のために高い意思を持つ。そこが宮津たちと違うところであり、彼の暗さを引き立たせている。しかし、ジョンヒの死には我を忘れて激昂し、周囲からなだめられる場面もあった。ジョンヒにこそ劣るが、かなりの戦闘能力を有する。少佐と呼ばれていることから軍属と思われる。
- 本編当初において、ある事件から宮津に急接近していく。
[編集] 本作品の評価
「護衛艦艦長が日本政府に対し反乱を起す」という内容ではあるが、「バブル崩壊以降、自信と誇りを失い、国家としてのありよう、守るべき形を失った日本を守るに値する価値があるのか?」という問い掛けがなされ、国民一人一人の国防や平和への意識を考えさせられる作品となった。
だが、映画版においてチェ・ミンソの出演が決まった際、韓国国内では「日本の軍拡に繋がる右翼映画に出演する女優」と批判が噴出し、本作が風当たりの良い物ではなかったことが伺える。また、ゴジラ映画等の怪獣映画などへの撮影協力を行なってきた防衛庁であったが、戦後60年を迎えた2005年には、本作を含め「ローレライ」「戦国自衛隊1549」「男たちの大和/YAMATO」などの作品への協力を積極的に行なった。
本作品も例外でなく、また原作の内容を100%汲み取ることの難しい実写化自体への心配をする声もあった。実際、原作に比べて著しく娯楽色を失い、ハリウッドテイストなシーンが削除されている。
特に前述の問いかけに対する原作終盤の仙石の強烈な返答と行動は全て無くなっており、静かな返答によってエンタテインメントを失った単なる「考えさせられる映画」になってしまっている。元のセリフと行動が、周辺諸国に対する強烈なメッセージを送ることになると期待した向きには肩透かしであった。これに関しては、監督の他の監督作品から当然の措置と見る向きもある。さらに、そういった高度なメッセージからは遠くかけ離れているが、しかし重要なエピソードも原作者自身の判断で削除されている。
結果として、一部からは「うらかぜ海戦シーンだけの映画(庵野のコンテだけの映画)」と言われることになったものの、原作ファンの中にもこの映画を高く評価する人間は多く、さらに初見の人間からは福井三部作最高傑作との高い評価も聞かれた。
福井晴敏原作の映画は愛国的・反米的ではあるが、決して戦争を賛美するものではなく(むしろ、戦争批判のメッセージさえ込められている)、国民一人一人に日本のあり方を問いかける物であることを付け加えたい。
なお、ストーリー展開や設定が1996年公開の『ザ・ロック』に強く影響されているという指摘もあり、これに不満を持つファンも存在する。
[編集] 防衛庁の協力
本作品は当初2000年に映画化する予定だったが、防衛庁(現:防衛省)へ企画を持っていった1999年当時の防衛庁側は「現職の海上自衛隊護衛艦艦長が、反乱を起し最新鋭護衛艦を乗っ取り、日本政府に対して脅迫をする内容の映画撮影には、一切協力することは出来ない」と強く拒否した経緯がある(そのため、映画版では反乱の首謀者である宮津の役職が艦長から副長へ変更されている)。
※2度目の協力要請の時、同庁広報は再度拒否するつもりだったが、同作品の読者であった石破茂長官(当時)が再考を促し、後に協力することとなった(石破茂著「国防」より)。
[編集] その他
『亡国のイージス』の文庫版の上巻の表紙の護衛艦ははたかぜ型護衛艦(「いそかぜ」)、下巻の表紙の護衛艦はミニ・イージスシステムを搭載した「いそかぜ」。