エアバス
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エアバス(Airbus S.A.S.)もしくはエアバス・インダストリー社は、ヨーロッパ(欧州連合の内の4カ国)の国際協同会社。本社はフランス・トゥールーズ。
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[編集] 概要
ジェット旅客機時代になり開発費の高騰などから、ヨーロッパの既存の各社が単独では、アメリカ合衆国の航空機メーカーであるボーイング社やマクドネル・ダグラス社(現ボーイング社)、ロッキード社(現ロッキード・マーチン社)への対抗が難しくなったことから、フランスのアエロスパシアル(現EADS)と西ドイツDASA(現EADS)が共同出資し、1970年12月に設立され、中型機の製作に取り掛かった。これは後にエアバスA300となる機体で、イギリスのBAeとスペインのCASA(現EADS)も参加して4カ国体制となった。
完成したA300は、初めて作った旅客機で信頼性がなかったので売上は非常に悪く、エアバスは膨大な赤字を抱えたが、フランスと西ドイツ政府の全面的な援助によって成り立っていた。新型機にはボーイングに対抗するため、次々に斬新なアイデアを機体に盛り込み、特色を出した。1988年に旅客機初のフライ・バイ・ワイヤー機であるエアバスA320が運航を開始したことなどから、「コンピュータ中心のコクピット」と言われることも多い。
A320以降、急速に売上を伸ばし、マクドネル・ダグラス社を追撃する勢いとなり、それまで静観していたボーイング社は危機感を覚えた。そのため、仏独政府に手厚く保護された体制を批判する強烈な非難キャンペーンを繰り広げた。エアバス社もこれに対して、ボーイング社が米国政府と一体となって売り込んでいる姿勢をあからさまに批判し、双方が裁判に持ち込むなど泥仕合となったが、2001年にエアバス社が完全に株式会社化したことで、組織体制の非難合戦は収束した。
アメリカの大型ジェット旅客機製造メーカーが合併、統廃合の結果、ボーイング社1社のみとなったため(ロッキード社は1984年に旅客機から撤退、マクドネル・ダグラスは1997年7月31日にボーイング社へ吸収された)、現在、世界で大型旅客機を製造しているのはボーイング社、エアバス社の二大メーカーだけであり、抜きつ抜かれつの熾烈な競争を繰り広げている。1999年には販売受注数で初めてボーイングに勝利し、ボーイングが新型機開発に右往左往している間に販売数を着実に伸ばした。しかし、2005年にボーイングが787と747-8の開発を発表すると形勢は再び逆転、中型機市場では787に受注が集中し、その後発表されたエアバスのエアバスA350は受注数が伸び悩んでいる。また、期待の超大型機A380はたびたび引渡しが遅れて発注航空会社の信頼を著しく損ねているほか、新設計の軍用輸送機A400Mも計画の遅れと予算超過がほぼ確実な情勢となり、さらにはエアバスの社長によるインサイダー取引疑惑が持ち上がったり、親会社EADSの株主であるフランスやドイツ政府の横槍で必要なリストラ策を実行できず非効率的な生産体制が温存されたままであるなど、近年は様々な面でトラブルに見舞われている。2006年度の市場シェアは金額ベースで36%にまで低下する見込み。2004年度54%、2005年度45%と急減しており、やはりA380とA350の迷走が響いている。なお、2006年度の中大型機の受注ではボーイングに5倍近く引き離されてしまった。
[編集] 民間向け製品
エアバス社の製品群は世界初の2列通路、双発航空機「エアバスA300」から始まった。A300の短胴型はエアバスA310として知られる。西ドイツとフランス政府の全面的な支援を受けたエアバス社は、革新的なフライ・バイ・ワイヤー制御システムを備えたエアバスA320の計画を立ち上げた。A320はすばらしい商業的な成功をおさめる。エアバスA318及びエアバスA319はビジネスジェット機需要のため、後になって制作された短胴派生型である(エアバス・コーポレイト・ジェット)。延長型はエアバスA321として知られボーイング737型機の後期モデル(737-300・400・500の第2世代および737-600・700・800・900の第3世代=737NGシリーズ)と競争をする事になる。
長距離路線向け製品である、双発のエアバスA330及びエアバスA340はウイングレットによって強化された有能な翼を備えている。A340-500はボーイング777-200LR型機(航続距離17,446 km か 9,420 nm)に次いで商業ジェット機で2番目に長距離である、16,100 km(8,670マイル)の航続距離を持っている。
[編集] 製造機の仕様
航空機 | 特徴 | 座席数 | 開発開始 | 初飛行 | 初引き渡し | 生産終了予定 |
---|---|---|---|---|---|---|
A300 | エンジン2基、2列通路 | 250-361 | 1969年5月 | 1972年10月 | 1974年5月 | 2007年7月 |
A310 | エンジン2基、2列通路、A300型機を6.96 m短胴化 | 200-280 | 1978年7月 | 1982年4月 | 1985年12月 | 2007年7月 |
A318 | エンジン2基、1列通路、A320型機を6.17 m短胴化 | 107 | 1999年4月 | 2002年1月 | 2003年10月 | |
A319 | エンジン2基、1列通路、A320型機を3.77 m短胴化 | 124 | 1993年6月 | 1995月1月 | 1996年4月 | |
A320 | エンジン2基、1列通路 | 150 | 1984年3月 | 1987年2月 | 1988年3月 | |
A321 | エンジン2基、1列通路、A320型機を6.94 m 延長 | 185 | 1989年11月 | 1993年3月 | 1994年1月 | |
A330 | エンジン2基、2列通路 | 253-295 | 1987年6月 | 1992年11月 | 1993年12月 | |
A340 | エンジン4基、2列通路 | 261-380 | 1987年6月 | 1991年10月 | 1993年1月 | |
A350 | エンジン2基、2列通路 | 250-300 | 2004年12月 | 2009年 | 2010年 | |
A380 | エンジン4基、2列通路、2階建 | 555-840 | 2000年 | 2005年4月27日 | 2006年 |
エアバス社は2006年をもってA300、A310の受注受付を中止して2007年7月に生産停止することを発表し、30年間に渡って生産されたA300とA310の従業員を他のラインへ配置転換する見込みである。もっともA310は1998年以降生産が止まっている。
現在、ボーイング787に対抗する中型ジェット旅客機A350の開発も進行している。初期の設計ではA330をベースで作っていたが、一部の航空会社から不満の声が出ており、機体の再設計を求める声が出てきた。その為、A350とは別の設計であるA350XWBが考案されている。
[編集] 計画中の製品
[編集] 日本向け製品
1979年に日本エアシステム(JAS)からA300を受注し、1987年には全日空グループ(ANA)からA320を受注した。さらに2001年になると日本での販売を促すためにエアバス・ジャパンが設立された。
日本のエアラインにおいて、JASを吸収した日本航空グループ(JAL)やANAなど大手のジェット旅客機は次第にボーイング社製の旅客機(B737、B747、B767、B777)に置き換えられ、エアバス社製の旅客機(A300、A320)は少しずつ整理されつつあり、将来的にはボーイング787も導入する予定である。しかし、スターフライヤーがA320を就航させ、ギャラクシーエアラインズが貨物機A300-600Fを導入し、全日空グループもA320の増備や就航の延長を表明したことから、日本の空におけるエアバス機の活動はもうしばらく続く見込みである。
今後2006年度下半期には海外エアラインによるA380の日本就航が予定されていることから、また何らかの動きがあるだろうという日本のファンからの声もある。
日本ではかつてニチメン(現:双日)がエアバス社の総代理店を手がけていたことがあった。ちなみに双日のもうひとつの前身、日商岩井がボーイング社の代理店である。
[編集] 空軍向け製品
- 軍用輸送機:エアバス A400M型機
- 多目的空中給油機・輸送機:エアバスA310 MRTT型機(Airbus A310 MRTT)
- 多目的空中給油機・輸送機:エアバスA330 MRTT型機(Airbus A330 MRTT)
1999年1月にエアバス社はターボプロップエンジンを動力とする軍用輸送機の開発と生産を行うため、エアバス・ミリタリーS.A.Sを設立した。輸送機C-130に代替機としてイギリス、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、スペイン、トルコなどNATO加盟諸国の支援を受けてA400Mが開発された。
[編集] 国際的な製造拠点
エアバス社の最終組み立て工場のラインはフランスのトゥールーズに2本、ドイツのハンブルクに1本ある。また、A400M用に4本目がスペインのセビリャで2006年10月生産開始を目処に建設中である。
国 | 従業員 | 部品業者の従業員 |
---|---|---|
フランス | 19,358人 | to be added |
ドイツ | 18,423人 | to be added |
イギリス | 8,688人 | to be added |
スペイン | 2,726人 | to be added |
アメリカ合衆国 | 405人+ | 120,000人 |
中華人民共和国 | 100人+ | to be added |
総計 | 49,700人+ |
エアバス社の拠点 ¹ | 国 | 従業員数 |
---|---|---|
トゥールーズ (Saint-Martin-du-Touch, Colomiers, Blagnac) |
(F) | 14,133人 |
ハンブルグ (Finkenwerder, Stade, Buxtehude) |
(G) | 11,185人 |
ブリストル (Filton) | (UK) | 4,379人 |
チェスター (Broughton) | (UK) | 4.309人 |
ブレーメン | (G) | 3,051人 |
マドリッド (Getafe, Illescas) | (S) | 2,243人 |
サン・ナゼール | (F) | 2,227人 |
Nordenham | (G) | 2,106人 |
Nantes | (F) | 1,869人 |
Varel | (G) | 1,172人 |
Albert (Meaulte) | (F) | 1,129人 |
Laupheim | (G) | 909人 |
Cadiz (Puerto Real) | (S) | 483人 |
ワシントンD.C. (Herndon、Ashburn) | (US) | 165人+ |
ウィチタ | (US) | 140人 |
北京 | (PRC) | 100人+ |
マイアミ (マイアミスプリングス) | (US) | 100人 |
総計 | 49,700人+ |
[編集] 関連記事
- ボーイングとエアバス
- EADS(ヨーロッパ航空防衛宇宙会社)
- 航空機メーカーの一覧
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- ボーイング社