チェレスタ
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チェレスタ(またはセレスタ)は、鉄琴をピアノと同様の鍵盤で演奏できるようにした楽器である。鍵盤楽器にも分類されうるが、実質は、体鳴楽器に分類される打楽器の1種である。外見は、小型のアップライト・ピアノのようである。
目次 |
[編集] 発明
パリの凱旋門近くに、ハーモニウム製作家ミュステル(Mustel)の店があった。ヴィクトル・ミュステル(Victor Mustel)は1860年に、typophoneあるいはdulcitoneと呼ばれる楽器によってチェレスタの先駆的特徴を開発していたが、これは金属板でなく音叉を鳴らすものであり、その音はオーケストラの中にあっては役立たないほどの音しか出ない楽器であった。
その息子のオギュスト・ミュステル(Auguste Mustel)は、それを音叉でなく金属板を打つ構造に進化させ、チェレスタは彼によって1889年に形となった。
[編集] 音色の特徴
ダンパー・ペダルによって、ピアノと同様に音を引き伸ばすことができ、響板がついているため、鉄琴だけの音よりも、オルゴールの響箱効果のように音が大きく増幅され、そしてまろやかに響く。
同じオギュスト・ミュステルが発明し、1886年に特許を得た鍵盤付きグロッケンシュピール(グロッケンシュピール=鉄琴)と呼ばれる同じ構造の楽器があるが、それに比べるとチェレスタはかなり柔らかい音が特徴である。モーツァルトの『魔笛』でも使用されている鍵盤付きグロッケンシュピールはもっと澄んだ音が特徴であるため、時にそれがチェレスタで代用されることもあるものの、全く表現が異なってしまう。
ミュステルはこの楽器を効果音程度にしか考えていなかったらしく、鍵盤の機構部分は精密なものではなかったが、後の時代にヤマハなどのメーカーが、グランドピアノのアクションを参考に改善し、金属板の材質やハンマー部分も研究され、現代では繊細な表現にも応じられる楽器として定着している。
[編集] 呼称の由来
仏語では“célesta”、多くの言語では“celesta”であり、仏語・英語などでは「セレスタ」と読み、「チェレスタ」と読むのは伊語である。天上的な音がすることから、天上的という意味の形容詞“céleste”から派生して“célesta”と名づけられたが、語尾が“-a”で終わる女性名詞の形をとりつつも、実は男性名詞であるという非常に珍しい特別なフランス語の単語として知られている。
[編集] 普及への偶然
ヴィドールは1880年にバレエ音楽「小妖精」の中で、ショーソンは1888年に舞台音楽「嵐」作品18の中で、それぞれチェレスタが使用したが、まだ広く知られるには至らなかった。
1891年、パリの街を歩いていたチャイコフスキーはたまたまミュステルの店の前を通りかかり、チェレスタの音を耳にした偶然こそ、この楽器が世界的に知れ渡るきっかけとなった。チャイコフスキーはその楽器の有効性に注目したが、その後すぐにアメリカへ演奏旅行に発たなくてはならなかったため、母国ロシアで楽譜出版社を営む親友のピョートル・ユルゲンソンに直ちに手紙を送った。その中で彼は、「チェレスタを1200フラン相当で買っておいて欲しい」と頼み、更に、「誰にもそのチェレスタを見せないで欲しい。特にリムスキー=コルサコフやグラズノフに見せてはならない。これは絶対に私が最初に使うから。」と念押ししたのであった。
当時、彼がバレエ音楽「くるみ割り人形」中の1曲としてアルモニカのために作曲していた「金平糖の精の踊り」をチェレスタに変更することとし、1892年に初演された。このバレエおよびバレエ音楽から編んだ演奏会用組曲(「金平糖の精の踊り」を含む)はその後、世界各国のバレエ団やオーケストラがこぞって取り上げるようになったため、チェレスタも世界中から注文が殺到し、瞬く間に音楽界に知られることとなった。
[編集] 音域の変遷
音域は中央ハから上へ4オクターブが標準である。1オクターブ高い音が出る移調楽器として書かれる。しかしアルバン・ベルクが『ヴォツェック』で誤って5オクターブの楽器と勘違いして使用したことから、5オクターブの楽器を製作する会社も出始め、現在では5オクターブの楽器が主流になりつつある。その際には「5オクターブを持つチェレスタ」と但し書きが入る。
[編集] 使用楽曲の例
チェレスタ独奏の為の作品は未だに少ないが、この楽器のみで即興演奏をする森ミドリのようなアーティストも存在する。ロバート・W・マンのチェレスタとピッコロの為の作品など、彼が使うチェレスタの楽器法は現在でも評判が高い。ボグスワフ・シェッフェルは最近になってチェレスタと室内オーケストラの為の協奏曲を書き、菅野はソロの為の「秘密の漏洩」を書いた。シュトットガルトの楽器メーカーが行っている作曲コンクールなどでは独奏楽器としての活用が奨励され、その表現力の新しい可能性が期待されている。
- 管弦楽曲
- チャイコフスキー:『くるみ割り人形』の「金平糖の精の踊り」
- ラヴェル:『マ・メール・ロワ』
- マーラー:交響曲第6番(交響曲では初めてチェレスタが用いられた)
- バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽
- バルトーク:舞踏組曲
- ショスタコーヴィチ:交響曲第4番(終楽章のラストに長いソロあり)
- ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
- マリ:『金婚式』
- グローフェ:組曲『グランド・キャニオン』(『山道を行く』の終盤に華麗なソロあり)
- グラズノフ:バレエ音楽『四季』の『秋』(終曲にわずかながら使用箇所あり)
- リヒャルト・シュトラウス:『アルプス交響曲』
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』(1910年原典版)
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽『ペトルーシュカ』
- ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲『展覧会の絵』
- ガーシュウィン:『パリのアメリカ人』
- 小山清茂:管弦楽のための木挽歌
- オペラ
- リヒャルト・シュトラウス:『サロメ』
- リヒャルト・シュトラウス:『影のない女』
- ベルク:『ヴォツェック』
- その他
- 作詞・下山啓、作曲・宮川彬良:『ちょっと』
- ジョン・ウィリアムズ:『ハリー・ポッターと賢者の石』~『ヘドウィグのテーマ』