ノンステップバス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ノンステップバス(Non step Bus)とは、出入口の段差を無くし乗降を容易にしたバス。床面高さはおおむね35cm以下のものを指す。中ドアに車いす用スロープを設けることにより、車いすでの乗車が容易となるが、前ドアに車いすスロープを取り付けた例もある。
また、現在日本で市販されているノンステップバスは、エアサスペンションを採用することにより、乗降時に車高を下げて歩道との段差を少なくする「ニーリング機能」が装備されている。
三菱ふそうトラック・バスでは「ノーステップバス」とも称している。
目次 |
[編集] 本格的実現まで
日本初のノンステップバスは、近畿日本鉄道(現・近鉄バス)が日本初の2階建バス「ビスタコーチ」をベースに1963年(昭和38年)に導入した車両である。このバスは「ビスタコーチ」の2階部分を廃し、ホイールベース間(前輪と後輪の間)の床面地上高の低い部分をノンステップの客室としたバスであった。シャーシは日野自動車工業(現・日野自動車)が製造し、ボディは近畿車輛が製造したが、ワンマン運転に対応できないなどの問題があり、これ以降の導入は無かった。
1985年(昭和60年)に三菱自動車工業(現・三菱ふそうトラック・バス)が初のワンマン運転対応の本格的なノンステップバスを試作した。同年にモデルチェンジした大型路線バスエアロスターシリーズをベースにして、前中ドア間の床を350mmまで下げノンステップ化を実現した。エンジン部分は通常のバスと同じ構造である。
高価であったため、導入例は名古屋鉄道(現・名鉄バス)、岐阜乗合自動車、京浜急行電鉄(現・京浜急行バス、羽田京急バスなど)の3社のみで、1987年(昭和62年)頃まで製造された。
その後、1994年(平成6年)に、名鉄向けとして上記のノンステップバスの生産初期車を使用していた名古屋空港(現・名古屋飛行場)循環車用の代替に1台が追加製造されている。
[編集] 大型ノンステップバス
1997年(平成9年)に三菱自動車工業と日産ディーゼル工業が、本格的な量産大型ノンステップバスを開発し販売を開始した。
三菱は前年にモデルチェンジしたニューエアロスターをベースにして、偏心デフを用い縦置きのままエンジンを運転席側にオフセットすることにより、後部までのノンステップエリアを確保している。また車体後部にドアを設け、前後扉仕様にも対応できたが、この場合は車いす対応が困難になるため、実際には前中後の3ドア仕様での後部ドア付きがほとんどである。また三菱は当初「ノーステップバス」という名称を使用していた。
日産ディーゼルは従来の富士重工業(FHI)7EボディのUAシリーズをベースにして、ドイツ・ZF社からリアアクスル(サスペンション)とトルクコンバータ式AT(オートマチックトランスミッション)を輸入し、車体最後部にエンジンを垂直横置きに配置することにより、後部まで低床を実現している。なお富士重工業のバス車体架装撤退に伴い、2003年以降は西日本車体工業(NSK)が車体架装を行い、このとき構造が大幅に変わり、三菱ふそう・ニューエアロスターに近い構造となった。従来の富士重工業製をFタイプ、西日本車体工業製をNタイプと呼称する。
1998年にいすゞ自動車・日野自動車工業の両社も日産ディーゼル(富士重工製)に近い、車体最後部にエンジン横置き垂直搭載の構造でノンステップバスを開発し販売を開始した。いすゞは当時のキュービックボディで、日野はブルーリボンボディでのノンステップバスとなった。ZF製ATの採用は共通だが、リアアクスルはいすゞがハンガリーのラーバから輸入、日野は国産と異なる。
2000年にいすゞ・日野の両社とも路線バスボディのフルモデルチェンジを行ない、キュービックがエルガ(type-B)に、ブルーリボンがブルーリボンシティに変更されたが、バスの構造面での変化は少ない。
圧縮天然ガス(CNG)バスは車体下部のホイールベース間に燃料タンクを搭載していたため、低床化が困難であったが、1999年からCNG自動車の燃料タンクに関する保安基準が改正され、ノンステップバスの屋根上に燃料タンクを搭載することが可能になり、低床化が進み各社ともCNGノンステップバスを販売開始した。
なおCNGバスは、エンジンをディーゼルサイクルからオットーサイクル化し搭載した。ガソリンエンジンに構造が近いため、エンジン音が大幅に変わっている。
その後、1999年から2000年に日産ディーゼル、いすゞの両社からワンステップバスをベースとした前中扉間ノンステップのバスが登場している(後述)。これらと区別するため従来のノンステップバスは「フルフラットノンステップ」(「ノンステ」と略す場合もある)と呼ばれることがある。
[編集] 大型ノンステップバスの問題点
[編集] 車内レイアウトの問題
大型ノンステップバスは、エンジンなどがある車体後部にデッドスペースが多く、三菱車と日産ディーゼル車(西工製)の場合、中ドアから後ろの座席がひな壇になり位置が高い。また横置き垂直エンジンの日野車といすゞ車は座席の位置はそれほど高くないが、座席が三菱車、日産ディーゼル車や通常の大型バスに比べ1列(日野車は2列)少なく、収容力も少ない。
また各メーカーのバスとも、タイヤの寸法や配置に抜本的な改良を施せないまま床面高さを下げているため、前輪のタイヤハウスの張り出しが従来のバスに比べて大きく、室内のレイアウトにも影響を及ぼしており、前扉と運転席直後の前輪上に位置する座席はかなり位置が高くなり、座る際には「よじ登る」という感じになる。このため危険性も高く、バス事業者によってはこの部分には座席を設けず、荷物置き場にしている例もある。
このように大型ノンステップバスの車内のレイアウトには、まだ問題が多い部分もある。
[編集] 価格の問題
センタードロップアクスル(後輪に用いられる、中心部分が低い特殊な車軸)をはじめとした特殊部品を多く使うため、車体価格が、従来のバスをペースにした三菱車で約2100万円、専用部品が多い日野車で約2400万円と、大型ワンステップバス(約1600~1800万円)の1.5倍の価格となる。一部車種で輸入品を使っている点もあるが、この価格が問題であり、公営バスを除くと、事業者の負担のみでは購入しにくい。そのため各種助成制度が用意されており、通常のワンステップバスとの差額を行政からの助成金で賄い購入する場合が多い。
なお、安価なノンステップバスということで、別項のワンステップバスペースのノンステップ(前中扉間ノンステップ)や中型ノンステップ・中型長尺車を導入する動きもある。
以上のような課題を踏まえ、ノンステップバスを次世代の標準型路線バスに位置付けようと、国土交通省は各メーカーと共同でノンステップバス標準仕様を策定した。次項に記す。
[編集] 国土交通省認定ノンステップバス標準仕様
旧・運輸省は、ノンステップバスが上記のような理由で、普及が遅々として進んでいない現状を踏まえ、各メーカーで仕様を統一して、より使いやすいシティバスの次世代の標準形を模索することになった。これがノンステップバス標準仕様である。
2000年、大型4社は、先の「人にやさしいバス技術検討委員会」で示された中長期モデルバスに範を取り、3扉・前~後扉間フルフラットのノンステップバスを試作した。ベースとなったのは日野・ブルーリボンシティ(KL-HU2PMEE)、すなわち後部横置きエンジンでトランスミッションはオートマチックという条件に決まった。
[編集] ワンステップバスベースのノンステップバス
日産ディーゼル・UAはGタイプ、いすゞ・エルガはtype-Aと呼ばれるモデルである。従来の大型ノンステップバスは高価であったため、西日本車体工業が安価な大型ノンステップバスを独自に企画し、1999年から製造開始したノンステップバスである。いすゞも2000年にキュービックからエルガへのモデルチェンジの時、車種に追加した。
従来の日産ディーゼルといすゞのノンステップバスはすべてトランスミッションがトルコンATのみであったため、MT(マニュアルトランスミッション)ベースの安価なノンステップバスを求める声に応じ、ワンステップバスの前輪から中ドアまでをノンステップ化し、後部のエンジン周りはワンステップバスと同じ構造を採用してコスト削減とMT化を実現したバスである。
また、ノンステップ部分から車体後部へは2段の段差があるものの、その上はフラットな空間が広がり、座席も5列確保できるため収容力も大きい。
日野自動車のみ、ワンステップバスベースのノンステを製造してこなかったが、日野・いすゞ両社のバス事業統合に伴い、いすゞ自動車からエルガtype-Aを「ブルーリボンII」としてOEM供給を受け、日野ユーザー向けに販売している。
これにより、フルフラットノンステップバスはラインナップから消滅した。
なお、三菱ふそう・ニューエアロスターはフルフラットノンステップとこのワンステップバスベースのノンステップの中間的な構造である。
[編集] 中型ノンステップバス
中型ノンステップバスは現在日本のバスメーカー全社が製造しており、各地のバス事業者に導入されている。
中型バスは大型バスに比べエンジンやトランスミッションがもともとコンパクトであるため、中型ノンステップバスではそのコンパクトな機類を車体後部にうまく納めることにより、大型ノンステップバスに比べデッドスペースが少なく、ノンステップ化による収容力低下も大型バスに比べ少なく抑えられている。大型バスに比べ、中型バスのノンステップ化は進まなかったが、1999年の「平成10年排出ガス規制」対応時に各社ノンステップバスをモデルに追加した。
構造的には日野と三菱はエンジンを横置きに搭載して、リアオーバーハングを短縮し、ノンステップエリアを広げている。日産ディーゼルといすゞはそれまでのワンステップバスを改良することにより、前中扉間をノンステップ化している。
その後、2004年の「平成15年排出ガス規制」対応時に三菱ふそうは、従来のノンステのエンジン横置きのMJ系から、エンジン縦置きのMK系に変更され、ノンステップエリアは前中扉間のみとなった(エアロミディMKノンステップ)。
[編集] 中型ロング車
この中型ロング車は中型長尺車、中型10.5m車とも称し、中型バスの車体を伸ばして全長10.5mと大型車並みにしたバスである。そのため車体断面は中型バスと共通で、全幅は2.3mである。この中型10.5m車は外観的には細長く車高が低いことから「ウナギ」、「もやし」という別名がある。
中型バスがベースのため、大型ノンステップバスに比べ安価であり、大型ワンステップバスと同程度の価格であるため、最近は東京都交通局(都営バス)などで導入例が多い。また車体長さが長い分、ある程度の収容力はあり、大型ノンステップバスの代わりに使用される例も多い。
日産ディーゼルは元々存在したワンステップ中型ロング車JP系にノンステップバスを追加し、日野もノンステップバスHR系に中型ロング車の設定がある。
当初は、日産ディーゼル・日野のみが製造していたが、2002年に三菱も参入している。なお、三菱の中型ロング車は、従来のノンステップ車のエンジン横置きのMJ系ではなく、エンジン縦置きのワンステップバスMK系をベースに10.5m化している(エアロミディMKノンステップ)。
いすゞでは中型ロング車を製造していないが、日野・いすゞバス事業統合に伴い、日野自動車からレインボーHR10.5mのOEM供給を受け「エルガJ」として発売開始している。
[編集] 小型ノンステップバス
前輪駆動(FF)シャーシとして駆動系を車両前部にまとめ、車両後方の客室をフルフラットとした小型ノンステップバスは、中型バスよりも小さく、狭い道や商店街などにも入れるためコミュニティバスに向いている。
1997年に西日本車体工業において三菱・パジェロをベースに、後ろ半分を11人乗りノンステップの客室とした改造車が試作されたが、量産に至らずに終わった。その後このタイプは日本国内で生産されることなく、2000年頃からクセニッツやルノー、オムニノーバ・マルチライダーなど欧州からの輸入により日本各地で使用されるようになった。
しかしエアコンの故障多発など輸入車特有の不都合が多数存在し、それらに応えるため、日野はフランス・プジョー社から商用車用のFFシャーシを輸入し、日本で車体を製作したポンチョを発売した。
また、中型ノンステップバスの車体を短くした中型7m車(通称・チョロQ)を小型ノンステップバスに加える場合がある。三菱はこの市場でエアロミディMJ7m車をベースに全幅を2mに縮小したエアロミディMEを2002年に投入した。
[編集] 関連項目
- ワンステップバス
- 低床バス
- 超低床電車
- 高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)
- 旭川電気軌道
- いすゞ・エルガ
- いすゞ・キュービック
- 日産ディーゼル・U/UA
- 三菱ふそう・ニューエアロスター
- 三菱ふそう・エアロスター
- 日野・ブルーリボンシティ
- クセニッツ
- 日野・ポンチョ
- つくバス
- 尼崎市交通局※ノンステップバス導入率全国一位
カテゴリ: バス関連のスタブ記事 | バス車両 | 交通政策