宇宙科学研究所
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宇宙科学研究所(うちゅうかがくけんきゅうしょ、ISAS)は、旧文部省(現文部科学省)の国立研究機関で、宇宙開発のうち科学分野を担当する。前身の東京大学宇宙航空研究所(1964年設立)が1981年に改組して発足した。2003年10月に宇宙開発事業団・航空宇宙技術研究所と統合され、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙科学研究本部」に改組された。衛星打ち上げ拠点は鹿児島県肝付町の鹿児島宇宙空間観測所(現内之浦宇宙空間観測所)。
1969年に宇宙開発事業団が発足したが、その際に東大でのロケット開発は中止に追い込まれそうになった。しかし、実用衛星ではない科学研究のためだけの衛星のみを打ち上げる事を条件に研究の続行が許可された。このため、JAXA統合後も科学衛星の開発と打ち上げだけを行う。1970年に日本初の人工衛星おおすみを鹿児島県内之浦から打ち上げたのを初め、X線天文衛星・ハレー彗星探査機・太陽風・地球磁気圏観測衛星など、天文学などの分野で国際貢献を果たしてきた。
大学の共同利用機関でもあり、大学院教育として全国国公私立大学の研究指導も行っていた。現在も、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙科学研究本部」として、教育研究活動を実施している。
目次 |
[編集] 沿革
- 1945年(昭和20年)
- 1952年(昭和27年)
- 日本主権回復し、航空分野の研究開発が一斉に再開する。
- 1953年(昭和28年)
- 1955年(昭和30年)
- 4月、東京都国分寺の工場跡地でペンシルロケット(23cm)の水平試射に成功。
- 8月、文部省が秋田県道川海岸をロケット垂直発射場に選定し、「秋田ロケット実験場」とする。
- 秋田ロケット実験場でペンシルの弾道飛行試験を開始。最初の高度記録はペンシル300(30cm)の600m。
- 全長1.3m直径8cmの2段式ベビーロケットの飛行試験開始。ベビーSが4kmを達成。
- 1956年(昭和31年)
- 国際地球観測年(IGY、1957-58)での観測に参加を決定。
- 高高度観測用の大型「カッパ(K)ロケット」飛行試験開始。
- 1958年(昭和33年)
- 1960年(昭和35年)
- 7月、K-8型1号機が高度190kmに到達し、イオン密度の観測に世界で初めて成功。
- 1961年(昭和36年)
- K-8型8号機が高度200km到達。
- 3段式のK-9L型で350km到達。
- 人工衛星打ち上げを目指す大型の「ラムダ(L)ロケット計画」開始。
- 鹿児島県内之浦に射場に移転決定。翌年起工。
- 1962年(昭和37年)
- K-9M型が機器75kg搭載して350km到達。
- 5月、K-8型10号機が燃料の配合不具合が原因で打ち上げ直後に爆発、破片が周囲の民家に落下して炎上(負傷者なし)。
- 秋田ロケット実験場使用中止(延べ打ち上げ回数88回)。
- 10月、能代ロケット実験場開設。
- 11月、K-9M型観測ロケットの打ち上げ開始。1988年まで計81回。
- 1963年(昭和38年)
- 4月、本格的宇宙開発を目指す「ミュー(M)ロケット計画」開始。
- 科学技術庁内に宇宙航空部門新設。後に航空宇宙技術研究所に改称。
- 12月9日、内之浦実験場開所式(後の鹿児島宇宙空間観測所、現内之浦宇宙空間観測所)。
- 1964年(昭和39年)
- 4月、東京大学宇宙航空研究所創設。
- 科学技術庁内に宇宙開発推進本部を設立。後に宇宙開発事業団へ発展。
- 7月、ラムダ-3(L-3)型1号機を打ち上げ。高度1000km到達。
- 7月、太陽活動小期観測年(IQSY)に参加し、初の気象観測機(MT-135-1)を打ち上げ。
- 1965年(昭和40年)
- L-3H型で高度2000km到達。
- 11月、K-10型観測ロケット1号機を打ち上げ。
- 1966年(昭和41年)
- 9月6日、4段式のL-4S型を試験打上げ。
- 9月26日、L-4S型1号機で初の人工衛星打ち上げを目指すが、3段目が軌道から外れ失敗。
- 12月20日、L-4S型2号機で人工衛星を打ち上げるが、4段目が点火せず失敗。
- 1967年(昭和42年)
- 2月、L-3H型3号機が高度2150kmに到達。
- 4月13日、L-4S型3号機で人工衛星を打ち上げるが、3段目が点火せず4段目を放棄し失敗。
- 4月、種子島で宇宙センター建設を巡る漁協との衝突。東大内之浦も業況と交渉のため一時打ち上げ自粛(1968年も同)。
- 1969年(昭和44年)
- 8月、S-210観測ロケット1号機を打ち上げ。1970年2月より南極昭和基地で使用される。
- 9月3日、 L-4T型1号機を打上げ
- 9月22日、L-4S型4号機で人工衛星を打ち上げるが、3段目に推力が残っていたため4段目に衝突し失敗。
- 10月1日、科学技術庁宇宙開発事業団が発足。
- 1970年(昭和45年)
- 1971年(昭和46年)
- 1972年(昭和47年)
- 1974年(昭和49年)
- 2月16日、M-3Cロケットで「たんせい2号」打ち上げ。
- 1975年(昭和50年)
- 1977年(昭和52年)
- 1978年(昭和53年)
- 1979年(昭和54年)
- 1980年(昭和55年)
- 1981年(昭和56年)
- 2月21日、M-3Sロケットで「ひのとり」打ち上げ。
- 他大学と研究を共有する為、文部省宇宙科学研究所に改組。
- 1986年のハレー彗星接近により国際観測計画が起こり、探査機とM-3S-IIロケット計画始まる。
- 1983年(昭和58年)
- 1984年(昭和59年)
- 1985年(昭和60年)
- 1987年(昭和62年)
- 1989年(平成元年)
- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)
- 1993年(平成5年)
- 1997年(平成9年)
- 1998年(平成10年)
- 2000年(平成12年)
- 2月10日、X線天文衛星「ASTRO-E」打上げ(軌道投入できず)。
- 2003年(平成15年)
- 5月9日、小惑星探査機「はやぶさ」打上げ。
- 10月1日、航空宇宙3機関が統合し、独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部となる。
[編集] ロケット
東大と宇宙科学研究所が製作したロケットの詳細。K、L、M はそれぞれカッパ、ラムダ、ミューとギリシア語読みする(ギリシア文字ではそれぞれ Κ、Λ、Μ)。
- ペンシルロケット 1955年
既成の炸薬を使用した最初のロケット。ロケットの基礎的な知識を得る為に作った。
- 初代は全長23cm、直径1.8cm、重量200g(水平発射)。
- 2代目はペンシル300(全長30cm)、初めて垂直発射し記録は600m。
- 3代目は2段式となった。
- ベビーロケット 1955年
ペンシルロケットの炸薬を束にして使った2段式ロケット。全長1.8m、直径8cm。
- ベビーR - 回収用にパラシュートを搭載した。
- ベビーS - 発炎筒を組み込んで航跡を追尾できるようにした。高度4kmに到達。
- ベビーT - テレメーターを搭載して機械的に追尾できるようにした。
国際地球観測年参加のために製作した観測用ロケット。目的達成後も改良を続け、次々と高度記録を更新した。科学実験の参考資料としてインドネシアとユーゴスラビアに輸出したが、小型固体燃料ロケットはミサイルに転用可能なため、米国に咎められた。後に職員が状況調査のために輸出国へ行くと、購入時は背広だった人間が軍服を着ていたという。宇宙開発事業団がH-II誕生まで米国によるロケット技術管理を受ける理由の一因となった。
- K-6型 - 2段式、搭載量15g、高度約60km到達(1958年)
- K-8型 - 2段式、搭載量50g、8号機が200km到達(1961年)10号機で爆発。
- K-9L型 - 3段式、350km到達(1961年)
- K-9M型 - 搭載量75g、350km到達(1962年)ISAS観測ロケットの標準型となり、1988年まで81機打ち上げ。
- K-10型 - (1965年)
1961年に始まった計画。カッパロケットをより大型化し、人工衛星の打ち上げを目的としたもの。4S型5号機で初の人工衛星打ち上げに成功した。
- L-3型(1964年)3段式、高度1000km到達
- L-3H型(1965年)高度2000km到達(3号機で2150km)
- L-4S型(1966年)4段式、4度の失敗の後に初の人工衛星打ち上げに成功した。
- 全長16.5m 直径0.735m 重量9.4t 低軌道打ち上げ能力26kg
- 打ち上げ衛星:おおすみ
- L-4T型(1969年):ラムダ4Sの第4段目の能力を減じたもの。
- L-4SC型(1971年):ラムダ4Sに誘導装置を追加したもの。主としてミューロケットの開発実験に使用。1979年まで使用された。
[編集] M(ミュー)ロケット
1963年から計画が始まった、宇宙開発を本格的に推し進めるためのロケット。合わせて衛星追跡センターと大型ロケット用発射場の整備、ランチャーの建設を行った。
ミュー計画の1号機で、L-4Sを大型化、飛行安定性を強化した。
3段式となり、2段目に姿勢制御装置が付いた。
C型の1段目のモータケースを延長し、打ち上げ能力を大幅に強化した。
M型の1段目に姿勢制御装置を取り付けた。
S型の1段目を利用するが、そのほかは全くの新造。打ち上げ能力は一挙に2倍以上となった。
NASDAと共同開発。1段目にH-IIのSRB、2段目にM-3SIIのM-23を使用している。試験1号機のみで計画凍結。
- 全長33.1m 直径1.8m 重量88.5t
- 打ち上げ衛星:高速再突入実験機(HYFLEX)
直径の1.41m枠が外れ太くなった。打ち上げ能力も2倍以上に。M-V-5以降は2段目がCFRP化され更に打ち上げ能力が50kgアップ。 研究所最後のロケット。固体燃料ロケットとしては世界最大級。
- 全長30.7m 直径2.5m 重量139t 低軌道打ち上げ能力1850kg
- (M-V-4以前は低軌道打ち上げ能力1800kg)
- 「すざく」「あかり」「ひので」はJAXA統合後に打ち上げ。
[編集] 科学衛星ミッション一覧
宇宙科学研究所で開発・打上げを行なった科学衛星ミッションは以下の通りである(東京大学宇宙航空研究所時代を含む)。
名称 | 命名前 | 打上げロケット | 打上げ年月日 | 目的 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
おおすみ | - | L-4S-5 | 1970年2月11日 | 打上げ試験衛星 | 日本初の人工衛星 |
たんせい | MS-T1 | M-4S-2 | 1971年2月16日 | 工学試験衛星 | |
しんせい | MS-F2 | M-4S-3 | 1971年9月28日 | 電離層観測衛星 | |
でんぱ | REXS | M-4S-4 | 1972年8月19日 | 電離層・磁気圏観測衛星 | |
たんせい2 | MS-T2 | M-3C-1 | 1974年2月16日 | 工学試験衛星 | |
たいよう | SRATS | M-3C-2 | 1975年2月24日 | 熱圏観測衛星 | |
たんせい3 | MS-T3 | M-3H-1 | 1977年2月19日 | 工学試験衛星 | |
きょっこう | EXOS-A | M-3H-2 | 1978年2月4日 | オーロラ観測衛星 | |
じきけん | EXOS-B | M-3H-3 | 1978年9月16日 | 磁気圏観測衛星 | |
はくちょう | CORSA-b | M-3C-4 | 1979年2月21日 | X線天文衛星 | |
たんせい4 | MS-T4 | M-3S-1 | 1980年2月17日 | 工学試験衛星 | |
ひのとり | ASTRO-A | M-3S-2 | 1981年2月21日 | 太陽観測衛星 | |
てんま | ASTRO-B | M-3S-3 | 1983年2月20日 | X線天文衛星 | |
おおぞら | EXOS-C | M-3S-4 | 1984年2月14日 | 中層大気観測衛星 | |
さきがけ | MS-T5 | M-3SII-1 | 1985年1月8日 | ハレー彗星探査機 | 初めて惑星間軌道を飛行 |
すいせい | PLANET-A | M-3SII-2 | 1985年8月19日 | ハレー彗星探査機 | |
ぎんが | ASTRO-C | M-3SII-3 | 1987年2月5日 | X線天文衛星 | |
あけぼの | EXOS-D | M-3SII-4 | 1989年2月22日 | 磁気圏観測衛星 | |
ひてん | MUSES-A | M-3SII-5 | 1990年1月24日 | 工学実験探査機 | |
ようこう | SOLAR-A | M-3SII-6 | 1991年8月30日 | 太陽観測衛星 | |
GEOTAIL | GEOTAIL | デルタII | 1992年7月24日 | 磁気圏観測衛星 | |
あすか | ASTRO-D | M-3SII-7 | 1993年2月20日 | X線天文衛星 | |
SFU | SFU | H-II 3号機 | 1995年3月18日 | 宇宙実験衛星 | フリーフライヤー 1996年1月13日にSTS-72若田光一が回収 |
はるか | MUSES-B | M-V-1 | 1997年2月12日 | 電波天文衛星 | スペースVLBI観測 |
のぞみ | PLANET-B | M-V-3 | 1998年7月4日 | 火星探査機 | 2003年12月に火星周回軌道投入断念 |
はやぶさ | MUSES-C | M-V-5 | 2003年5月9日 | 工学実験衛星 | 実質は小惑星探査機、サンプルリターン 2005年にイトカワに到達 2010年に地球帰還予定 |
すざく | ASTRO-EII | M-V-6 | 2005年7月10日 | X線天文衛星 | |
あかり | ASTRO-F | M-V-8 | 2006年2月22日 | 赤外線天文衛星 | |
ひので | SOLAR-B | M-V-7 | 2006年9月23日 | 太陽観測衛星 |
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 宇宙科学研究所 旧URL http://www.isas.ac.jp/
- 宇宙科学研究本部