東急8090系電車
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8090系電車(8090けいでんしゃ)は、1980年(昭和55年)12月27日に営業運転を開始した東京急行電鉄の通勤形電車。また、8590系と呼ばれる前面貫通扉付の先頭車両も本稿ではあわせて記述する。
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[編集] 概要
1980年から1989年(平成元年)にかけて、8両編成10本80両および組成変更用先頭車10両(8590系)の計90両を東急車輛製造で製造した。広義の8000系に含まれるが、外観の違いやこのグループのみで編成を組む事から、区別される事が多い。
1978年(昭和53年)に試作された8000系中間電動車デハ8400形(8401・8402。登場時は8000系編成に組み込んでいた。その後デハ8200形8281・8282を経て8254・8255に改番)の実績に基づき、有限要素法を用いたコンピュータ演算による車体設計がなされ、強度を落さないまま従来のステンレス車より重量を車体で約24%(約2t)、編成全体で約8%の軽量化に成功した。日本初の量産軽量ステンレス車両である。
[編集] 外観
- ステンレス鋼製の20m級4扉車で、東急のステンレス車では初めて側面に赤帯を2本通した。
- コルゲートを廃したためひずみ防止に車体断面は車体上部を内傾させ裾を絞った卵形とした。また外板を0.8mmから1.5mmに厚くした。
- 正面は非貫通構造の3面折妻とし、前照灯は角型となり、尾灯と一体化し車体下部に設置した。
- 制御方式は、8000系と同様の界磁チョッパ制御であるが、制御段数を増やして乗り心地の改善を図った。制御器は日立製作所製のMMC-HTR-20F(直列15段、並列13段、弱め界磁無段階)である。
- 台車は、軸ばね式空気ばね台車のTS807B形(電動車)とTS815B形(付随車)で、波打車輪を採用した。
- 大井町線に転属した8090系の全編成と8590系の8691F・8692F・8693Fはパンタグラフを菱形(PT42形)からシングルアーム式に変更した。8691Fは廃車となった8000系8003Fで使用していた物を流用した。8692F・8693Fの物は真新しく、廃車編成も無いため新品を取り付けたと思われる。
- 大井町線所属の8590系の前面の帯は、2006年3月18日からの同線⇔田園都市線直通急行の運転開始に伴い誤乗防止のために、赤色から赤色→黄色のグラデーションに変更し、また大井町線を表す認識ステッカーも貼付した。側面の赤帯は従来のままである。
- 8090系8081F~8089Fも2006年4月下旬より順次8590系(8691F~8693F)と同様の帯色とステッカーに変更した。変更した編成は各駅停車時の種別表示を無表示から「各停」表示に変更した。
- 田園都市線用8590系の帯色は変更していない。
[編集] 運用
現在、東武線乗り入れ装備を持たないので東武線には乗り入れない。
[編集] 増備・組み替え
- 1980年に東横線に投入した1次車(8000系12-1次車)1本(8091F)は7両編成(Tc2-M2-M1-T- M2-M1-Tc1(MT比4M3T))であったが、1982年2月~3月製の2次車(8000系13次車)2本(8093F,8095F)は8両編成(Tc2-M-M2-M1-T-M2-M1-Tc1(5M3T))となり、1次車も 1983年に1両(8491)を増結して8両編成となった。
- 1984年12月~1985年4月製の4次車(8000系16次車)では5本(8097F,8099F,8081F,8083F,8085F)を増備したが、車両番号が8090番台からあふれてしまい、8080番台に繰り下げると共に機器配置を見直し、編成順序も変更し(Tc2-M2-M1-T-M-M2-M1-Tc1)、低運転台構造から高運転台構造に変更(従来車ものちに変更)し、前照灯も少し高い位置に移設した。
- 1985年には5次車(8000系17次車)2本(8087F,8089F)を増備し、8090系は8両編成10本が出揃っている。このロットは方向幕の形状が異なる。
- 1988年9月~1989年2月には、将来のみなとみらい線との直通運転に備え、組成変更を実施した。従来の8両編成からM1-M2-Tを抜いて5両編成に組み直して大井町線に転用すると共に、東横線用はMT比を従来の5M3Tから6M2Tに増強するため、前面貫通式にした制御電動車デハ8590形(M1c)とデハ8690形(M2c)を各5両新製して前述の編成から抜いた3両×2に組み合わせて8両編成5本を組成した。この8両編成を特に8590系と呼んで区別する事がある。この8590系には当初より自動放送装置と電動ワイパーを採用し、9000系に準じた構造にもなっている。8500番台になったのは先頭車が電動車であるという8500系の要素が入っているためである。営業運転開始から2001年3月までは東横線急行専用(平常時)だった。2001年3月からは特急から各駅停車までの全種別に充当するようになった。
- 1997年(平成9年)東横線の3月25日ダイヤ改正に伴う運用減により、8694Fと8695Fが田園都市線に転属した。8694Fは8695Fから2両を組み込み8M2Tの10両編成とした。8月21日から営業を開始し、半蔵門線へも乗り入れ、8590系では初の地下鉄乗り入れとなった。6両編成となった8695Fは予備車となり営業運転は行わなかった。
- 2001年(平成13年)東横線の3月28日ダイヤ改正に伴う運用減により、8693Fが田園都市線に転属した。8693Fは4両を8695Fに提供し予備車となり営業運転は行わなかった。4両を組み込み10両編成とした8695Fは5月25日から運行を開始し、約3年半ぶりの営業運転復帰となった。
- 2003年(平成15年)田園都市線への5000系投入に伴い、8693F~8695Fが1997年までと同様の8両編成3本に組み替えの上、東横線に復帰した。
- 2005年(平成17年)東横線への5050系投入により、8月に8691Fが長津田車両工場に入場し、大井町線向けに転用改造の上5両編成(M2c-M1-T-M2-M1c)となった。そして8003Fの代替として11月24日に大井町線で運行を開始した。Mc車は補助電源装置である静止形インバータ(SIV)設置のためHS-20G型空気圧縮機(CP)を撤去し、代わりにM2車にHB-2000型CPを追加した。また、シングルアーム式パンタグラフに交換した。この転用改造で余剰となった3両(8391,8291,8191)は保留車となった。
- 2006年(平成18年)更なる東横線への5050系投入により、8692Fと8693Fは8691Fと同様の改造(パンタグラフ交換を除く)と5両編成化を行い大井町線に転属した。8694Fと8695Fは10両編成として田園都市線に転属した。
- 8692F 3月に長津田工場に入場し、3月27日に大井町線で営業運転を開始し、3月18日のダイヤ改正による運用増に対応した。また、10月にシングルアーム式パンタグラフへ変更した。
- 8693F 6月29日に長津田工場へ回送し、8月11日の昼間に梶が谷~中央林間間で試運転を行い、8月14日から大井町線で営業運転を開始した。また8692F同様に11月、シングルアーム式パンタグラフへ変更した。
- 8694F 8月1日に長津田検車区経由で鷺沼へ回送した。8月下旬に長津田へ回送し、田園都市線向けの転用改造を行なった上で8月28日に8195・8295を組み込み10両編成とした。10月31日から田園都市線で運行を開始した。なお東武形ATSは準備工事のみで取り付けられていないため、○Kマークが貼付されている。
- 8695F 7月31日に長津田へ回送した後、8月9日に8199・8299を組み込み10両編成とした。組み込んだ車両は7月末に車両点検を実施した。田園都市線向けの転用改造を行なった上で(こちらも東武形ATSは準備工事は行われたが取り付けられていない)9月中旬に○Kマークを貼付し、田園都市線に再復帰し9月25日から運用を開始した。
- 田園都市線用8694F・8695F共東急線・東京メトロ線・東武線の自動放送を備えている。また方向幕を2007年4月5日のダイヤ改正に向けて交換した。4月6日には8694FがA42Kで準急運用に就いた。
- 保留車 元8691Fの8391・8291・8191、元8692Fの8393、元8693Fの8395の5両である。長津田検車区の片隅に5両をまとめて留置した。この5両は客用ドアの窓ガラス部分に貼付する四角い広告を撤去した。
- 保留車である元8691Fの8391・8291の2両が2007年3月12日に8090系としては初めての廃車除籍にされた。更に元8692Fの8393、元8693Fの8395の2両も廃車除籍の見通しである。なお元8691Fの8191の処遇については、現段階では不明である。[1]
[編集] 所属線区の変遷
- 東横線~大井町線 8691F・8692F
- 東横線~田園都市線(営業運転なし)~東横線~大井町線 8693F
- 東横線~田園都市線(1)~東横線~田園都市線(2) 8694F・8695F
- 注:(1)と(2)では中間車の連結車両が一部異なる
[編集] 編成表
号車 | 1 (Tc2) | 2 (M) | 3 (M2) | 4 (M1) | 5 (Tc1) |
---|---|---|---|---|---|
形式 | クハ8090 | デハ8490 | デハ8290 | デハ8190 | クハ8090 |
機器類 | SIVorMG | P,cont | SIV,CP,CP | P,CONT | |
車号 | A8091 | C8491 | A8292 | A8192 | A8092 |
B8093 | B8492 | B8294 | B8194 | B8094 | |
B8095 | B8493 | B8296 | B8196 | B8096 | |
D8097 | D8494 | D8298 | D8198 | D8098 | |
D8099 | D8495 | D8280 | D8180 | D8080 | |
D8081 | D8496 | D8282 | D8182 | D8082 | |
D8083 | D8497 | D8284 | D8184 | D8084 | |
D8085 | D8498 | D8286 | D8186 | D8086 | |
E8087 | E8499 | E8288 | E8188 | E8088 | |
E8089 | E8490 | E8290 | E8190 | E8090 |
デハ8290、8298は100kVA-SIV(新型)を設置。デハ8282、8296は100kVA-SIV(旧型)を設置。
号車 | 1 (M2c) | 2 (M1) | 3 (T) | 4 (M2) | 5 (M1c) |
---|---|---|---|---|---|
形式 | デハ8690 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8590 |
機器類 | SIV | P,CONT | SIV | CP,CP | P,CONT |
車号 | F8691 | B8193 | B8392 | B8293 | F8591 |
F8692 | D8197 | D8394 | D8297 | F8592 | |
F8693 | D8181 | D8396 | D8281 | F8593 |
8193・8197・8181は東横線所属時に車いすスペースを設置した。大井町線では2号車に組み込んだためフリースペースとして扱っている。
号車 | 1 (M2c) | 2 (M1) | 3 (T) | 4 (M2) | 5 (M1) | 6 (M2) | 7 (M1) | 8 (T) | 9 (M2) | 10 (M1c) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
形式 | デハ8690 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8190 | デハ8290 | デハ8190 | サハ8390 | デハ8290 | デハ8590 |
機器類 | CP | P,CONT | SIV | CP | P,CONT | CP | P,CONT | SIV | CP | P,CONT |
車号 | F8694 | D8185 | D8397 | B8295 | B8195 | D8283 | D8183 | D8398 | D8285 | F8594 |
F8695 | E8189 | E8399 | D8299 | D8199 | E8287 | E8187 | E8390 | E8289 | F8595 |
8185・8189は東横線に復帰後(田園都市線在籍時は車いすスペースの設置は行われていない)車いすスペースを設置した。田園都市線では2号車に組み込んだためフリースペースとして扱っている。
[編集] 凡例
- CONT:主制御器(1C8M)
- cont:主制御器(1C4M)
- SIV:冷房用電源(静止形インバータ)170kVA
- SIV:静止形インバータ 10kVA(青字車両:100kVA)
- MG:電動発電機140kVA
- CP:HB-2000型空気圧縮機
- CP:HS-20型空気圧縮機
- P:パンタグラフ
- P:シングルアームパンタグラフ
- 車号強調:車椅子スペース
- 車号の前のアルファベット
- A=1980年度投入
- B=1981年度投入
- C=1983年度投入
- D=1984年度投入
- E=1985年度投入
- F=1988年度投入
[編集] その他
- 東京急行電鉄スタンプラリーPART10~12のストーリーに登場するキャラクター「電車くん」は8090系がモデルである。漫画 三鷹公一
- 電車とバスの博物館に8090系のシミュレーターを設置している。車両番号は8090号で実車では5次車に当たるが、4次車登場前に製造したため、前照灯の位置は3次車に準じている。
[編集] 鉄道模型
グリーンマックスからNゲージエコノミー組立キットが商品化されている。