ハブ空港
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ハブ空港 (hub airport、-くうこう) は、各地に放射状に伸びた航空路線網の中心として機能する、「拠点空港」を意味する言葉である。自転車などのタイヤに例えると、車輪の軸 (じく/ハブ) 部分が「ハブ空港」で、輻 (や/スポーク) の部分が「航空路」にあたることからこの名称がついた。
「ハブ空港」という語には二つの意味がある。
- ある空港を特定の航空会社が運用の拠点としていること → これを「航空会社ハブ空港」ともいう。
- ある空港が広域航空網のかなめとして機能していること → これを「拠点都市」ともいう。
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[編集] 航空会社ハブ空港
航空業界で「ハブ空港」と言うと通常は「航空会社ハブ空港」のことを指す。
[編集] 概要
航空機・整備場・要員などの効率的な使用や乗客・貨物の効率的な輸送を可能とするため、多くの路線をもつほとんどの航空会社はどこかにハブ空港を持っている。また航空会社によっては、ハブ空港ではないがハブ空港の機能を果たす空港を準ハブ空港 (secondary hub) と位置づけているところもある。
ハブ空港や準ハブ空港のステータスは、各航空会社の事業戦略によって決るものであり、必ずしも空港の規模や設備がこれを左右するものではない。例えば、すでに混雑が問題となっている成田国際空港は、日本航空と全日本空輸のほかにも、アジアに広範な路線網を持つアメリカのノースウエスト航空とユナイテッド航空がハブ空港としている。一方、アメリカ有数の大空港であるジョン・F・ケネディ国際空港は、デルタ航空と新規参入のジェットブルー航空がハブ空港としているのみで、アメリカン航空とユナイテッド航空はこれを準ハブ空港の一つと位置づけているのみである。これは、東海岸に位置するケネディ空港は、カリブ海路線や大西洋路線が充実したデルタ航空やアメリカ東部一帯に路線網が偏るジェットブルー航空にとってはハブ空港として機能するものの、北米全土に広範な路線網を持つ他の二社にとっては逆に不便で、もっと内陸部にハブ空港をおいた方がより効率的なためである。
したがってハブ空港・準ハブ空港のステータスは航空会社の事業内容の変化に沿って変わることがしばしばある。デルタ航空は過去にケネディ空港をハブとしていたが、1990年代中頃からはソルトレイク・シティ国際空港に巨額の設備投資を行ってこれをハブ化し、ケネディ空港を準ハブに降格していた。しかし2005年のハリケーン・カトリーナによって同社が強い地盤を持っていたアメリカ南部の経済が揺らぎ始めると、テキサス州のダラス・フォートワース国際空港のハブステータスを解消し、これに代わってケネディ空港をハブに再昇格している。
なお大手航空会社の最重要ハブ空港は「要塞ハブ空港 (fortress hub)」と呼ばれることもある。デルタ航空におけるハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港、アメリカン航空におけるダラス・フォートワース国際空港、ノースウエスト航空におけるミネアポリス・セントポール国際空港などがこれにあたり、こうした要塞ハブ空港では発着便の七割以上を単一航空会社が占めている。
[編集] 主なハブ空港
[編集] 北米
アメリカ マサチューセッツ州 ボストン
アメリカ ニューヨーク州 ニューヨーク都市圏
アメリカ ペンシルバニア州 フィラデルフィア
アメリカ バージニア州 ワシントンD.C.首都圏
アメリカ ノースカロライナ州 シャーロット
- シャーロット・ダグラス国際空港
アメリカ ジョージア州 アトランタ
アメリカ フロリダ州 マイアミ
アメリカ ミシガン州 デトロイト
アメリカ オハイオ州 クリーブランド
アメリカ オハイオ州 シンシナティ都市圏
アメリカ テネシー州 メンフィス
アメリカ イリノイ州 シカゴ
アメリカ ミズーリ州 セントルイス
アメリカ テキサス州 ダラス
アメリカ テキサス州 ヒューストン
アメリカ コロラド州 デンバー
アメリカ ユタ州 ソルトレイクシティ
アメリカ ネバダ州 ラスベガス
アメリカ アリゾナ州 フェニックス
アメリカ カリフォルニア州 サンフランシスコ
アメリカ カリフォルニア州 ロサンゼルス
アメリカ アラスカ州 アンカレッジ
カナダ オンタリオ州 トロント
カナダ ケベック州 モントリオール
カナダ ブリティッシュコロンビア州 バンクーバー
メキシコ メキシコシティ
[編集] 中南米
パナマ パナマシティ
エルサルバドル サンサルバドル
ペルー リマ
アルゼンチン ブエノスアイレス
ブラジル サンパウロ
ブラジル リオデジャネイロ
[編集] アジア・オセアニア・中東
日本 東京首都圏
- 東京国際空港(国内線)
日本 関西都市圏
韓国 ソウル首都圏
中国 香港
シンガポール
タイ バンコク
オーストラリア シドニー
アラブ首長国連邦 ドバイ
[編集] 欧州
イギリス ロンドン
フランス パリ
ドイツ フランクフルト
ドイツ ミュンヘン
スイスチューリヒ
オーストリアウィーン
オランダ アムステルダム
デンマーク コペンハーゲン
スウェーデン ストックホルム
イタリア ローマ
スペイン マドリッド
[編集] 拠点都市
日本語では、「ハブ空港」のもう一つの意味として「拠点都市」を表わすことがある。
拠点都市とは、英語の「ゲートウェイ都市 (gateway city)」に相当し、ある特定の広域地域のかなめとして機能し、その地域への表玄関となる空港または都市を指す言葉である。
ロサンゼルス国際空港には、全米各都市からの航空便のみならず、隣国のカナダやメキシコからの便、そして北太平洋路線に就航するアジア諸国からの便や、南太平洋路線に就航するオセアニア諸国からの便が多く発着する。そのため同空港は単にロサンゼルス市の空の玄関口という機能以上に、アメリカ西海岸の表玄関として性格をもっている。ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港やロンドンのヒースロー空港も同様に、各広域地域における表玄関としての性格をもち合わせている。
拠点都市の地位は、ある空港が当該の広域地域でどの程度かなめとしての機能を果たしているかによって、自然に決定する。
東アジアの拠点都市を例にとると、成田国際空港は1978年の開港以来、東アジア諸国と北米諸国を結ぶ航空便の多くが発着する拠点都市として機能してきた。しかし1990年代以降、同空港が急速に混雑化したこと、拡張計画も遅々として進まないこと、航空機の性能が向上して航続距離が伸び北米から成田以遠への航行が可能になったこと、そして大型機の離着陸に必要な長い滑走路を二本備えた香港国際空港と仁川国際空港が1998年と2001年に次々と開港したことにより[1]、今日では成田の拠点都市としての地位は急速に揺らぎ始めている。
同様の例は、西ヨーロッパにおけるシャルル・ド・ゴール国際空港、スキポール空港、フランクフルト国際空港の間にも見られる。拠点都市の地位をめぐるこうした競争は、各国に巨額の財政的負担をもたらす一方で、結果的には空港設備と広域航空網のより一層の拡充をもたらすものとなっている。
— 注 —
- ^ 香港国際空港は3800mの平行滑走路二本、仁川国際空港は3750mの平行滑走路二本を備える。これに対し成田国際空港には現在のところ4000mの滑走路一本と平行する2180mの滑走路が一本あるのみで、2180mの滑走路は短すぎて大型機の離着陸には使えない。