フィギュアスケート
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フィギュアスケート (figure skating)は、スケートリンクを舞台に音楽に合わせ、ステップやスピン、ジャンプなどの技を組み合わせて滑走するスケート競技のひとつ。リンクの上に図形(フィギュア)を描くように滑ることから、この名がある。
競技者の年齢と保持するバッジテストの級によって出場できる競技大会が決められており、現在日本スケート連盟が主催する大会にはシニアクラス(15歳以上かつ7級以上)、ジュニアクラス(13歳以上18歳以下かつ6級以上)、ノービス(Aクラス:11歳以上13歳以下かつ4級以上,Bクラス:9歳以上11歳以下かつ3級以上)の3つのクラスがある。シニアの代表的な大会の1つである世界選手権では、1人で演技をするシングルスケーティングが男子女子2種目、男女2人組で演技をするペアスケーティングとアイスダンスの合計4種目が行われている。また、グループスケーティングとして、男女2人ずつの4人で演技をするフォアスケーティングと、男女20人のチームで演技をするシンクロナイズドスケーティングの国際大会も実施されている。
目次 |
[編集] 起源
- 詳細はフィギュアスケートの歴史を参照
スケートの起源ははっきりしないが、すでに先史時代には北欧で動物の骨をブレードにしたスケート靴が用いられていた。それが南下してオランダに伝わり、運河の発達により国民各層で行われるようになった。農民たちは、凍った運河の上で目的地にできるだけ早く到着することに熱心であったが、貴族たちの間では、優雅さやマナーを重んじた芸術的なスケーティングが好まれた。彼らの滑走様式は、オランダ人の弧線滑走という意味の「ダッチロール」と呼ばれるようになり、フィギュアスケートの原型となった。これが、やがてスコットランドに伝わり、愛好家らにより図形を描いて滑走する技術が研究されるようになった。一方でフランスやドイツにおいては芸術的な滑走動作が研究された。
イギリスのエジンバラで世界初のスケーティングクラブが発足して以降、各国においてスケーティングクラブが設立され、その国独自の形態で競技会が行われるようになった。1772年にはイギリスのロバート・ジョーンズにより『スケーティング論』という世界初のフィギュアスケートの技術書が出版された。フィギュアスケートはヨーロッパ全域で盛んになり、1882年にはウィーンでフィギュアスケート最初の国際大会が開催された。アメリカ、カナダに伝わったフィギュアスケートは、ニューヨーク出身のバレエ教師ジャクソン・ヘインズにより、バレエの要素が加えられ今日のフリースケーティングの基礎が築かれた。1892年には、スケート競技を国際的に統轄する国際スケート連盟が創立され、1896年から世界選手権が開催されるようになった。
オリンピックでは、1908年の夏季オリンピックで初めて実施された。夏季オリンピックではこの大会と1920年の大会のみで行われており、1924年にシャモニーオリンピックが開催されてからは毎回冬季オリンピックで実施されている。
[編集] 現在の競技と演技の規定
共通事項として、フィギュアスケートの規定(rule)は非常に細かく定められており、クラス毎に若干の違いがある。ここではシニアの規定のみ説明する。
[編集] 男子シングルスケーティング
男子女子ともに、シングルスケーティングには、ショートプログラムとフリースケーティングがあり、先にショートプログラムが行われる。所定の順位に入った者のみがフリースケーティングに出場できる。
採点方法は、後述する現在の採点法の項を参照。
- ショートプログラム
- 演技時間は、2分50秒。その間に、「アクセルジャンプ(三回転もしくは二回転)」,「ステップからのジャンプ(四回転もしくは三回転)」,「ジャンプコンビネーション(四回転-三回転,四回転-二回転,三回転-三回転もしくは三回転-二回転)」,「フライングスピン」,「任意の単一姿勢での足替えスピン」,「スピンコンビネーション」,「異なる2種類のステップシークエンス」の8個の要素 (elements)を必ず1つずつ行う。余分な要素があったり、ミスをした要素をやり直してはいけない。ジャンプは規定より回転不足になるとその技術点から更にGOEとして3点減点される。また、ジャンプは基本的に各要素で同じ種類のジャンプを跳んではいけない。四回転は演技中1回のみで、アクセルジャンプの要素でトリプルアクセルを跳んだ場合、他のジャンプの要素でトリプルアクセルを跳んではならない。
- フリースケーティング
- 演技時間は、4分30秒。±10秒の幅が認められている。その間に、「最低1つのアクセルジャンプを含む合計8つまでのジャンプ」,「スピンコンビネーション,任意のフライングスピン,任意の単一姿勢でのスピンを最低1つずつ含む4つまでのスピン」,「異なる2種のステップシークエンス」の14個までの要素を行う。ジャンプのうちジャンプコンビネーション(またはジャンプシークエンス)は3つまでであり、そのうち3回連続コンビネーションは1つまでである。ショートプログラムと比べると演技に弾力性はあるが、ミスをした要素をやり直してはいけない。また、挑戦可能なジャンプの種類と回数にはザヤックルールによる制約がある(ジャンプの場合参照)。
[編集] 女子シングルスケーティング
採点方法は、男子シングルスケーティングと同様である。
- ショートプログラム
- 演技時間は、2分50秒。その間に、「アクセルジャンプ(二回転)」,「ステップからのジャンプ(三回転)」,「ジャンプコンビネーション(三回転-三回転もしくは三回転-二回転)」,「フライングスピン」,「レイバックスピンもしくはサイドウェイズリーニングスピン」,「スピンコンビネーション」,「スパイラルシークエンス」,「ステップシークエンス」の8個の要素を必ず1つずつ行う。余分な要素があったり、ミスをした要素をやり直してはいけない。ジャンプは規定より回転不足になるとその技術点から更にGOEとして3点減点される。また、ジャンプは基本的に各要素で同じ種類のジャンプを跳んではいけない。
- フリースケーティング
- 演技時間は4分。±10秒の幅が認められている。その間に、「最低1つのアクセルジャンプを含む合計7つまでのジャンプ」,「スピンコンビネーション,任意のフライングスピン,任意の単一姿勢でのスピンを最低1つずつ含む4つまでのスピン」,「1つまでのステップシークエンス」,「1つまでのスパイラルシークエンス」の13個までの要素を行う。ジャンプのうちジャンプコンビネーション(またはジャンプシークエンス)は3つまでであり、そのうち3回連続コンビネーションは1つまでである。ショートプログラムと比べると演技に弾力性はあるが、ミスをした要素をやり直してはいけない。男子同様ザヤックルールが存在する。
[編集] ペアスケーティング(男女2人組)
ペアも、シングル同様ショートプログラムとフリースケーティングで競技されるが、こちらは男女2人でしか表現できない技に重点が置かれる。演技の中には失敗すると危険な要素も多く、フィギュア中、最もアクロバティックな競技と言われる。
採点方法は、男子女子シングルスケーティングと同様である。
- ショートプログラム
- 演技時間は、2分50秒。その間に、「リフト」,「ツイストリフト」,「スロージャンプ」,「ソロジャンプ」,「ソロスピンコンビネーション」,「ペアスピンコンビネーション」,「デススパイラル」,「ステップシークエンス」の8個の要素を必ず1つずつ行う。シングルスケーティング同様、余分な要素があったり、ミスをした要素をやり直してはいけない。
- フリースケーティング
- 演技時間は、4分30秒。その間に、「3つまでのリフト」,「1つまでのツイストリフト(三回転もしくは二回転)」,「異なるもの2つまでのスロージャンプ」,「1つまでのソロジャンプ」,「1つまでのジャンプコンビネーションまたはジャンプシークエンス」,「1つまでのソロスピンコンビネーション」,「1つまでのペアスピンコンビネーション」,「1つまでのデススパイラル」,「1つまでのステップシークエンス」,「1つまでのスパイラルシークエンス」の13個までの要素を行う。ショートプログラムと比べると演技に弾力性はあるが、ミスをした要素をやり直してはいけない。
[編集] アイスダンス(男女2人組)
アイスダンス(ice dancing)は、ペアスケーティング同様、男女2人で競技されるが、こちらはリフトやジャンプは制限されており、ステップの技術が中心となる。課題名などから、さながら氷上の社交ダンスといえる。
採点方法は、コンパルソリーダンス以外はシングル・ペアスケーティングと同様である。コンパルソリーダンスは、構成点が、スケート技術・演技力・曲の解釈・タイミング、の4項目(各10点満点)の合計点となる。
- コンパルソリーダンス
- 制限時間はなく、シーズン毎に国際スケート連盟 (ISU)から、所定の22種類のうち、3つの課題(ワルツ、クイックステップ、タンゴ等)が提示される。その中から抽選で1つを選び、そのリズムとテンポの音楽に合わせ、規定のパターンを滑る。2006-07シーズンの課題は、スターライトワルツ・シルバーサンバ・ミッドナイトブルースの3つ。
- オリジナルダンス
- 演技時間は2分30秒。リズムはあらかじめ指定されており、2006-07シーズンはタンゴ。
- フリーダンス
- 演技時間は4分。曲、リズム、テンポは自由。近年はほとんどの選手が多種の要素でレベル4を狙っているため、危険も増している。かつてはアイスダンスで転倒するシーンは極めて珍しかったが、近年では難しい動きに挑戦する為か表彰台に乗るようなチームでも転倒することが珍しくない。またリフトは回転しながら遠心力を利用して男性、女性ともお互いの身体を片手で支えるなどの難度の高い技に挑むチームが現れており、トリノ・オリンピックにおいてはマリー=フランス・デュブレイユ&パトリス・ローゾン組が試合中にリフトのバランスを崩して転倒、負傷という事態になった。
[編集] 現在の採点法
現在採用されているISUジャッジングシステムは技術点(要素点)と構成点の合計から、規定による減点を行った総得点による絶対評価で争われる。
技術点において、各技術(要素)に与えられる得点は詳細に決められている(フィギュアスケートの技術と得点参照)。
減点は、「転倒1回につき 1.0点」,「時間超過又は不足、5秒につき 1.0点」,「ボーカル入りなどの曲の違反に対し 1.0点」,「バックフリップなどの禁止されている要素1つにつき 2.0点」,「小道具使用などの衣装の違反に対し 1.0点」,「ペア要素での落下1回につき 1.0点」,「10秒以上の中断は10秒につき 1.0点(やむをえない場合は除く)」となっている。
以前のシステムに比べ客観的な審判が出来るとされるが、競技の性質上構成点はやや主観的と言える。
[編集] 技術点
選手は上述した規定に沿った要素を実行する。技術点はそれらの要素の1つ1つに与えられる得点の合計点である。この方式によると、仮に1つの要素で大きな失敗をしてしまい、その要素が1点以下になったとしても、その他の要素で高い点を得ることができれば、それらを合計した技術点では、平均的に要素の難度が劣る演技をノーミスでこなした選手より高い点を獲得することが出来る。
1つ1つの要素の得点は以下の手順を踏んで決定される。
- 手順1 : 演技のスロー再生によって選手の実行した要素が何であったかを判定し、その要素に対応した基礎点を与える。3人の「技術審判」(2人のテクニカルスペシャリストと1人のテクニカルコントローラー)によって行われる。
- 手順2 : 手順1で判定された要素の出来栄えに応じ、その基礎点にGOE(Grade of Execution)による加減点を付加する。10人から12人の「演技審判」(ジャッジ)によって行われる。
- GOEの判定には全ての演技審判の評価が反映されるわけではない。まず審判の中から7人がランダムに選ばれ、その7人の評価のうち最も高いものと最も低いものを除外した、5つの評価の平均が最終的GOEとなる。
しかし、要素の成否の判断は大変詳密であり、素人が見分けるには困難なものとなっている。例えば、トリノオリンピックでほぼノーミスの演技をした村主章枝の得点が、お尻をつく大失敗をしたサーシャ・コーエンの得点を超えることができなかったため、観客がブーイングをしたことがある。これは、ジャンプは転倒すれば素人目にも失敗とわかりやすいが、コーエン選手が得意とし高得点を得ているスピンやスパイラルは、素人目にはどのようになると高得点なのかジャンプよりは分かりにくいためである。
以下では上記の手順のうち、得点により大きく反映する手順1に相当する部分を中心に審査の内容を説明する。
[編集] ジャンプの場合
ジャンプの成否に関しては、例えば選手が四回転ジャンプを試み、一見着氷に成功したように見えても、手順1で技術審判に回転不足(およそ4分の1以上回転が足りていない)と判定されると、その評価は手順1の時点で三回転ジャンプとなり、三回転ジャンプの基礎点が与えられる。つまりジャンプの手順1での評価で最も重要なことは、必要なだけ回転できているか?ということである。
しかし実際、観客席やテレビ画面で見た場合は、「空中で3.6回り程度回転して着氷し、残り0.4回転分を着氷後にそれっぽく回転したもの」であっても、よほどそこに注目していなければ「空中で完全に四回転し、わずかに乱れた着氷をしたもの」とほとんど見分けがつかない。しかし技術審判がビデオでスロー再生すればその違いは明白である。この為、解説者でさえも、採点が発表されるまではジャンプが成功したかどうかを断言することは出来ない。
ここではこのようにジャンプの評価について、観客の印象と実際の採点で差異が生じやすい部分を説明する。
- 転倒と回転不足の得点
- 転倒よりも、見た目の印象としては分かりにくい回転不足のほうが得点は低くなることが多い、ここでは四回転トウループを例にその得点をみることとする。
- 回転しきってから転倒したジャンプの得点 [手順1で四回転と認定]
- 四回転トウループの基礎点は9.0点であり、仮に転倒してしまったとしても、四回転トウループと認定されれば、その得点は「9.0-3.0(GOEによる減点)-1.0(転倒による総得点からの減点)=5.0点」となり、三回転トウループの基礎点よりも1.0点高い評価を得る。もちろん非常に出来によい三回転トウループでGOEの加点を獲ればこの点を上回ることもあるが、三回転以上のジャンプで1.0点以上の加点を得ることは大変難しいことである。
- 回転不足とされたジャンプの得点 [手順1で三回転と認定]
- 四回転トウループが回転不足(およそ4分の1以上回転が足りていない)と判定されると、そのジャンプには三回転トウループの基礎点である4.0点が与えられる。さらに、仮に着氷が成功したように見えていても、所詮回転しすぎた質の悪い三回転トウループとなるので、その得点はそこからGOEの減点をうけた1.0~2.5点程度となる。その上で転倒した場合は、総得点からの1.0点の減点を考慮すると得点は0点となってしまう。
- このようなことは特に四回転や三回転半、コンビネーションジャンプのセカンドジャンプ、サードジャンプにおいて多いことである。四回転についての場合は後述する四回転に対する意識の変遷の項を参照。
- ザヤックルール
- 回転不足、転倒に次ぎ観客の印象と得点の乖離を生むのがこのザヤックルールである。これは「同じ種類の三回転以上のジャンプは2種類を2回までしか挑戦できない」というものである。具体的な例を挙げると、「三回転トウループに3回挑戦する」ことや「三回転ルッツ、三回転フリップ、三回転サルコウにそれぞれ2回挑戦する」ことはルール違反となり、最後に跳んだジャンプは得点にならない。また、2回跳ぶうち少なくとも1つはコンビネーションまたはシークエンスにしなければならない。2回とも単独ジャンプで跳んだ場合は、2回目のジャンプは強制的にシークエンスと数えられ、得点が0.8倍に減点される。
- このルールは、同じジャンプばかりを繰り返すことはフィギュアスケート競技としてはふさわしくない、との意見が大勢を占めたことで定められた制度である。ルール発足の直接の原因ではないが、この名称は80年代に活躍したアメリカのエレイン・ザヤックが、競技中に自分の得意な三回転トウループを多用していたことにちなんで付けられたものである。
回転不足とザヤックルールにおいて注意する点がある。それは、回転不足のジャンプには実質以下の2種類の判定が存在することである(トリプルアクセルを例にとっている)。
- トリプルアクセルに挑戦したが回転が足りなかったもの(ダウングレード)という判定
- トリプルアクセルに挑戦する予定だったが、気が変わってそもそもダブルアクセルに挑戦して回転しすぎてしまったものという判定
- 回転の不足分が2分の1回転を超えているような場合は後者のような判定となることが多い。
どちらにとられても得点はダブルアクセルの基礎点から減点を受けたものとなる、しかし、前者の場合はザヤックルールの適用を受けるが、後者の場合は適用を受けず、演技中に構成を変えもう1度トリプルアクセルに挑戦することもできる。なお採点表では前者のような評価を受けた場合は『3A<』と書かれ、後者のような評価を受けた場合は『2A』と書かれる。
また、ザヤックルールと回転不足は同時に採点に影響を与えることがある、たとえば四回転トウループを1回、三回転トウループを2回組み込んだプログラムの場合、四回転トウループが回転不足で『三回転トウループへの挑戦』と判定されると、そもそも他に2回の三回転トウループが構成に入っているので、そのままの演技をしてしまうと三回転トウループを3回跳んだことになり、ザヤックルールにより最後のジャンプは0点となる。この3つのジャンプの合計点は、四回転が認定された場合は、「9+4+4=17点前後」、三回転とされた場合は、「2+4+0=6点前後」となり約10点の差がつくが、観客には全てのジャンプが成功したように見えているので点数に納得がいかず観客にとって不可解な点数となる。
[編集] スピンとステップの場合
現行の採点方式では、スピンやステップには1から4までのレベルという概念が取り入れられ、レベルが高いほど高い点が与えられるようになっている。このレベル獲得にはいくつかの要件が存在し、レベル判定は手順1で技術審判が行う。ステップのレベルは見た目の印象とほぼ一致することが多い。しかしスピンの場合、レベル獲得要件のうち、「難しい体勢で回転している」などというものは素人目にも分かりやすいものであるが、「チェンジエッジをしている」などというものは素人目には若干分かりづらいものとなっている。また、ある体勢でスピンを実地したと認められるには、完全にその体勢に入って二回転以上回転することが必須であり、回転数が二回に達していないと判定されると、どんなに難しい体勢で回転していてもレベル獲得にはつながらない。さらに、その判定はジャンプの回転数以上にシビアであるため強化部長であった城田憲子は三回回るように指示していたという。
スパイラルステップにおいて、現行の採点方式ではスパイラルポジションで3秒以上それを維持することが明言されている。このルール改正によって見ごたえのある中身の充実したスパイラルが表現される反面、女子シングルの選手にとっては似たような形のスパイラルシークエンスが多々見受けられる。その代表的な形としては、レベルを上げるために、ビールマンのポジションを取る選手が多く、レベル4を獲得するために没個性化しているとも見られている。
上記にあるように、日本の村主はジャンプで大きな失敗を犯さなかったにも関わらず、点数は伸び悩んだ。この原因はスピンとステップにある。上位3人はビールマンスピンが出来た。スパイラルステップシークエンスでも、例えば荒川静香は途中で支えている手を離す(これがレベル4)という工夫を行い、少しずつであるが点数を伸ばしていった。荒川はオリンピックシーズンの前に「いかにしてレベル4を取るか」という点を大変考慮しており、実際さまざまな工夫を試みて、最終的にレベル4の評価を得ることに成功した。コーエンやイリーナ・スルツカヤもジャンプでは転倒するも、スピン,スパイラルでは多くの工夫を取り入れ高い点を獲得し、最終的に村主より高い評価を得た。一方村主はミスが少なく流れの良い演技で好評を得たが、各要素のレベルが獲得できず得点が伸びなかった。そのような意味でトリノオリンピックは現在の採点システムの客観的評価に対応できた選手と、細かいところまで対応しきれなかった選手との明暗がわかれた大会であった。
[編集] 構成点
構成点は、演技審判が「スケート技術(SS)」,「要素のつなぎ(MO)」,「演技力(PF)」,「振り付け(CH)」,「曲の解釈(IN)」の5項目(アイスダンスCDは「SS、」,「PF」,「IN」,「タイミング(TI)」の4項目)をそれぞれ10点満点で評価し、各項目の平均点に荷重を与え、それらを合計した点で決められる。荷重が与えられるのは、女子シングルやペアの技術点は、三回転半や四回転を取り入れる選手が多い男子シングルより低くでることが一般的であり、アイスダンスでは求められるものに若干の差異があるため、単純に足し合わせただけでは総合点を見たとき偏りが生じるからである。それぞれの種目での項目への荷重は下の表の通り。
- 構成点の判定は演技審判が行うが、GOE同様に全ての審判の評価が反映されるわけではない。
実際のところISU公式戦では構成点のどの項目でも9点以上を得ることは不可能と言っても過言ではなく、オリンピックや世界選手権、ヨーロッパ選手権の優勝者ですら8点前後である。たまにエフゲニー・プルシェンコや申雪・趙宏博組に9点をつける審判もいるが極々少数。
種目 | SS | MO | PF | CH | IN | TI |
---|---|---|---|---|---|---|
男子SP | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | NON |
男子FS | 2.00 | 2.00 | 2.00 | 2.00 | 2.00 | NON |
ペアSP | 0.80 | 0.80 | 0.80 | 0.80 | 0.80 | NON |
ペアFS | 1.60 | 1.60 | 1.60 | 1.60 | 1.60 | NON |
女子SP | 0.80 | 0.80 | 0.80 | 0.80 | 0.80 | NON |
女子FS | 1.60 | 1.60 | 1.60 | 1.60 | 1.60 | NON |
アイスダンスCD | 0.75 | NON | 0.50 | NON | 0.50 | 0.75 |
アイスダンスOD | 0.80 | 0.80 | 0.60 | 0.60 | 1.00 | NON |
アイスダンスFD | 1.25 | 1.75 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | NON |
[編集] ジャンプをめぐる意識の変遷
[編集] 四回転に対する意識の変遷
現在の採点システムでは旧採点システムに比べて四回転の価値がさほど高くない。旧採点システムでは四回転を成功させることが勝敗を大きく左右した。そのはしりとなったのが現役時代のエルビス・ストイコであり、やがて『空中戦』といわれる時代が到来し、ショートプログラム、フリープログラムの両方で四回転を跳ばなければ勝負にならないとまで言われた。事実2002年前後は四回転時代と呼ばれたほどに、多くの選手が四回転、そして四回転からのコンビネーションジャンプをプログラムに取り入れ、四回転ジャンプが偏重された時期があった。また、プログラムの前半に難度の高いジャンプを集めて後半は簡単なジャンプのみで逃げ切りを図る傾向が顕著にみられた(例えばアレクセイ・ヤグディンやプルシェンコはプログラムの前半に四回転を1回あるいは2回跳び、次に三回転アクセルを2回決め勝敗の大勢を決してしまった)。
しかし、現在の採点システムにおいてジャンプの基礎点は(後半は1.1倍)
- 三回転アクセル:7.5
- 四回転トウループ:9.0
- 四回転サルコウ:9.5
となっており、三回転アクセルと四回転トウループの点差はわずか1.5点しかない。さらに、上述したジャンプの場合にあるように、回転不足で三回転と判定されてしまうと点数は5点以上落ち、ザヤックルールへの配慮も必要となるため、四回転はハイリスクローリターンなものとなっている。
もちろん四回転と認定されれば転倒してもそれなりの点が与えられるが、これは四回転という認定が与えられた場合であることを忘れてはならない。大抵の場合、転倒するのは回転不足が原因であり、ほとんど点にならない。
現在の採点では、手順1:それが厳密に四回転であるか、手順2:精度の高い四回転であるか否か、という手順を踏んだ評価で客観性を高めている。このためプログラムに無理に四回転トウループを組んで失敗するよりも安全に三回転アクセルを美しくまとめて、確実性、完成度の高さで勝負する選手も多い。練習では四回転を飛べていても戦術上、あえて試合で挑戦しない場合も多々ある。しかし、Quad-Jumperと呼ばれるような四回転を高い確率で成功させる選手は当然積極的に四回転を構成に入れている。
上記の通り、四回転を1回成功させただけでは一発逆転の要素が減じた反面、コーチ・振付師・選手ともスケート全体の良質な構成を考える傾向になり、スピンやステップにも余念の無い演技が見られるようになった。
しかし選手やスタッフが採点システムの仕組みを熟知し、スピン、ステップのレベル獲得の研究、対応が進んだ06-07シーズンからは男子選手の四回転への挑戦回数が増している。これは上位の選手がスピン、ステップのレベルを獲得し、四回転まで成功させると、いくら四回転の評価が低いとはいえ、それに次ぐ選手達たちも四回転を成功させなければ逆転のしようがないからである。特に、フランスのブライアン・ジュベール選手が1つのフリースケーティングで3度の四回転を成功させた(これは上記の四回転時代ですらティモシー・ゲーブル,張民,本田武史のわずか3人しかなし得なかったことである)ことをうけ、男子シングルは再び四回転時代に突入すると予想する声もある。
[編集] 3連続ジャンプと後半のジャンプの基礎点1.1倍
現在の採点システムではプログラムの後半のジャンプには基礎点の1.1倍が加点されるシステムになっている。そのため、かつては余り見られなかった3連続コンビネーションジャンプを演技後半に行うことが顕著となっている。これは演技後半であれば、コンビネーションジャンプの3番目のジャンプが二回転であっても、基礎点が1.1倍されるため、わずかではあるが点数を多く獲ることが出来るからである。
採点システム変更後初のオリンピックであるトリノオリンピックではプルシェンコとステファン・ランビエールが演技冒頭に四回転-三回転-二回転のコンビネーションジャンプを試み成功させた。しかし、例えば
- 演技前半に『四回転トウループ - 三回転トウループ - 二回転ループ コンビネーション』を行い、演技後半に『三回転フリップ - 二回転トウループ コンビネーション』を行う
- 演技前半に『四回転トウループ - 三回転トウループ コンビネーション』を行い、演技後半に『三回転フリップ - 二回転トウループ - 二回転ループ コンビネーション』を行う
上記2つの場合を比較すると、前者のほうが難度は高いにもかかわらず、ルール上、後者の方が多く点を稼げるため、あえて超高難度の4-3-2コンビネーションや、さらに難度の高い4-3-3コンビネーションに挑戦する必要がなくなり、男子トップ選手による大味なジャンプはあまり見られなくなった。
[編集] かつての競技と採点の方法(旧採点法)と問題点
競技種目としてのフィギュアスケートは現在、ショートプログラムとフリースケーティングの2種目が行なわれているが、かつては最初に、決められた図形を氷上に3回描く、規定演技(compulsory)が行われていた。
1980年までは、この規定演技の比重が重く、ショートプログラムや自由演技を得意とする選手たちが、集客性に乏しい規定演技の時点で優勝候補から外れることがあった。
1981年以来、規定演技、ショートプログラム、フリープログラムの3種目を6.0満点で採点し、その順位点(factored placement scores)に基づいた競技が行われ、規定演技の比重が軽くなった。そしてついに、大会の規模を縮小したいなどの理由から1991年に規定演技は廃止された。
技術点と芸術点の2つの採点がなされていたが、技術点にすら採点の明確な基準が存在せず、採点は審判の主観に任せられていた。このため、ソルトレークシティオリンピックのペア競技では採点の不正疑惑により、当初2位とされたカナダのペアが同点1位に繰り上げられるという事件が起こった。また女子シングル競技でもスルツカヤに対する審査が北米選手に比べ厳しすぎるといった批判がでるなど多くの問題が続出した。詳細はソルトレイクシティオリンピックにおけるフィギュアスケート・スキャンダルを参照のこと。
また審判が会場の空気を読むという言語道断なこともあった。その最たる例が1995年の世界選手権での、エルビス・ストイコ,トッド・エルドリッジ,フィリップ・キャンデロロの争いで見られた。この時優勝を狙うエルドリッジは2回のトリプルアクセルに失敗していたため、最後にもう一度トリプルアクセルに挑戦し、観客はこの挑戦を称え大いに盛り上がった。しかしこれは「同じジャンプに3回以上挑戦してはならない」という明確なルール違反であったため、キャンデロロのコーチは減点されるべきだと抗議したが、審判はこの抗議を受け付けなかった。
2003年のグランプリシリーズ、そして2005年の世界選手権より客観性を高めた「ISUジャッジング・システム」が採用され、技術点と構成点の2つの合計得点で競われるようになった。
[編集] 旧採点システムの最大の欠点
旧採点システムの最大の欠点は「順位点」にある。本来であれば選手間の実力は等間隔に配置されるものではなく、僅差の場合もあれば、遠く離れた評価の場合もある。しかし、旧採点方式では、その順位に応じ等間隔に順位点を与え(ショートなら 1位 0.5点,2位 1.0点,3位 1.5点,…、フリーであれば 1位 1.0点,2位 2.0点,3位 3.0点,…)、その合計点によって最終順位を決定していた。これが大きな問題であり失敗でもあった。
この問題が顕在化したのは2002年のソルトレイクオリンピック、女子シングル競技におけるサラ・ヒューズ,イリーナ・スルツカヤ,ミシェル・クワンの3人の順位点争いである。ショート4位であったヒューズは、フリーで1位をとっても順位点の合計が2.0+1.0=3.0点となり、ショート1位のクワンがフリーで2位をとれば順位点の合計が0.5+2.0=2.5となるので、自力優勝は絶対に出来ない。ヒューズが優勝するには、フリーでヒューズが1位、2位にはクワン以外の選手、3位以下にクワンとなる組み合わせしかなかった。偶然にもフリーではクワンが不調で暫定フリー2位。さらに最終滑走者のスルツカヤがフリー2位に食い込み、クワンはフリー3位に落ちた。その結果、ヒューズが2.0+1.0=3.0で総合1位、スルツカヤが1.0+2.0=3.0で総合2位(同数の場合はフリー優先)、クワンは0.5+3.0=3.5で総合3位となり、スルツカヤ滑走前は総合2位だったヒューズが、スルツカヤ滑走後に大逆転優勝するという予想外の展開となった。実際、金メダルを獲れるとは思いもしなかったヒューズとヒューズのコーチの、2人揃って驚きの表情は繰り返し放送された(下表参照)。
順位 | 選手名 | ショート順位 | フリー順位 | 順位点 |
---|---|---|---|---|
1位 | ミシェル・クワン | 1位(0.5) | 2位(2.0) | 2.5 |
2位 | サラ・ヒューズ | 4位(2.0) | 1位(1.0) | 3.0 |
3位 | サーシャ・コーエン | 3位(1.5) | 3位(3.0) | 4.5 |
順位 | 選手名 | ショート順位 | フリー順位 | 順位点 |
---|---|---|---|---|
1位 | サラ・ヒューズ | 4位(2.0) | 1位(1.0) | 3.0 |
2位 | イリーナ・スルツカヤ | 2位(1.0) | 2位(2.0) | 3.0 |
3位 | ミシェル・クワン | 1位(0.5) | 3位(3.0) | 3.5 |
4位 | サーシャ・コーエン | 3位(1.5) | 4位(4.0) | 5.5 |
最終的に、フリープログラムで1位を最も多く取ったヒューズが優勝するのは妥当であったという声もある一方で、このフリーでも獲得点の合計ではスルツカヤがヒューズを上回っており、釈然としない幕切れだったと言う向きも多い。またスルツカヤとクワンの順位のあやに助けられた他力優勝でもあった。
また旧採点システムは相対評価であったため、試技が後ろの選手ほど高得点が出やすい傾向もあった。これは滑走順の早い選手に高い得点を与えてしまうと、後の滑走者がさらに良い演技をした場合得点が飽和してしまうためである。例えば96年世界選手権でフィリップ・キャンデロロがショートで失敗しつつも、早い滑走順のフリーでは良い演技をしたが、彼の得点は抑えられてしまった。
現在のISUジャッジングシステムは絶対評価になっており、僅差であればどんな順位からでも大逆転優勝が可能になっている。例えば、2006年スケートカナダでショート7位だったランビエールがフリー1位で、総合1位の大逆転をしたことがある。
[編集] 技術とその得点
[編集] 選手一覧
[編集] 著名な大会
- オリンピックにおけるフィギュアスケート競技
- 世界フィギュアスケート選手権
- ヨーロッパフィギュアスケート選手権
- 四大陸フィギュアスケート選手権
- ISUグランプリシリーズ
- 世界ジュニアフィギュアスケート選手権
- 全日本フィギュアスケート選手権
[編集] その他
- エキシビション
- 競技会で各種目の上位の成績を収めた選手や、特別に推薦を受けた選手のみが出場できる、模範演技である。アイスショー的な色合いが強く、採点は行われず、要素の制約もない。
- 世界選手権などのISUが主催する国際大会は、特別な理由もなくエキシビジョンを棄権した場合、罰則金として約50万円を支払わなければならない。
- 団体戦
- 複数人の選手の合計得点や順位で競うISU非公式の大会。日本での最初の大会は2006年に北米チームと欧州チームを招いてさいたまスーパーアリーナで行われた。日本チームは、安藤美姫・浅田真央・本田武史・高橋大輔の4人が出場、初優勝を飾った。
- 服装・化粧
- 技術と同時に美を競う競技でもあるため、ラメ、スパンコール等を多用した妖艶な衣装の場合が多く、又、女子(稀に男子)の場合はアイシャドーや口紅を濃く入れる等、厚化粧する場合が多い。エキシビジョンにおいてはフェイスペイントをする場合もある。
- 女子選手はレオタードに短いスカート(厳密にはフリル)を着用することが多いが、2005-2006シーズン以降は女子選手のスカート着用義務が廃止され、レオタードのみで演技をする選手も増えている。露出度に制限がある為、特に女子において肌色の生地を用いて見掛け上ワンショルダーや開口量の大きな服装に見えるように工夫している例が多い。
- 花束投げ
- 素晴らしい演技を見せてくれたことに敬意を表して、観客からたくさんの花束やプレゼントがリンクに投げ込まれることがある。リンクに投げられる花束は、花びらや花粉が飛び散って次の滑走者に影響が出ないよう、花全体がラッピングされ、投げる際には先端についているリボンをつまんで、振り子のようにして勢いをつけて投げる。
- キスアンドクライ
- 試技を終えた選手が、採点結果発表を待つ場を「キスアンドクライ(Kiss and cry)」と称する。高得点を得た時の喜びのキスや、逆に低得点に甘んじた時の哀しみの涙など、悲喜こもごもなドラマが展開されることが由来とされる。大規模な大会では、テレビカメラも入り、選手本人のほか、指導に当たるコーチや肉親などが並んで採点を待つこともある。
- 撮影規制
- 日本では、演技中の撮影規制が行われている。2005年度から日本スケート連盟主催・主管の大会、アイスショーなどでは、一般入場者での写真・ビデオ撮影等は禁止されており、カメラを許されるのは申し込んで報道ゼッケンの貸与を受けた記者だけである。これは、出場選手の写真が許可なくインターネットオークションに出品されるなど、選手や競技の尊厳に傷をつけることから規制となった。新体操や体操競技においても同様の規制が引かれている。
[編集] フィギュアスケートを題材とした作品
- 小説
- 「銀盤カレイドスコープ」(海原零、集英社スーパーダッシュ文庫、本作を原作とした、漫画・アニメ作品もあり)
- 漫画
- スポーツ漫画を参照のこと。
- テレビドラマ
- 「てるてる家族」(NHK連続テレビ小説 2003-2004年)