ラストサムライ
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『ラストサムライ』(The Last Samurai) は、2003年のアメリカ・ニュージーランド・日本合作映画。2003年12月6日日本公開。
ハリウッド映画ながら、日本を舞台に日本人と武士道を偏見なく描こうとした意欲作で、多数の日本人俳優が起用されたことも話題を呼ぶ。その中でも「勝元」役を演じた渡辺謙は、ゴールデングローブ賞・ならびにアカデミー助演男優賞にノミネートされた。(結果はともに落選)
主なロケ地は姫路市にある古刹、書寫山圓教寺。戦闘場面や村のシーンなどはニュージーランドで、街中のシーンはハリウッドのスタジオで撮影された。このほか、冒頭で10秒ほどであるが、佐世保市の九十九島の遠景が使われている。
日本での興行収入は137億円、観客動員数は1410万人と2004年度の日本で公開された映画の興行成績では一位となった。一方、本国のアメリカでは2004年12月1日にプレミア上映されたのち、12月5日に2908館で公開され、週末興行成績で初登場1位になった。その後も最大で2938館で公開され、トップ10内に7週間いた。興行収入は1億ドルを突破し、2003年公開作品の中で20位。渡辺謙や真田広之・小雪などを含め、日本の俳優が海外に進出する一つの契機を築く作品となった。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 概要
トム・クルーズが演じる主人公ネイサン・オールグレンのモデルは、江戸幕府のフランス軍事顧問団として来日し、榎本武揚率いる旧幕府軍に参加して箱館戦争(戊辰戦争(1868年 - 1869年))を戦ったジュール・ブリュネ。物語のモデルとしては西郷隆盛らが明治新政府に対して蜂起した西南戦争(1877年)が挙げられる。
この映画で、オールグレンが勝元(渡辺謙)の村へ迎え入れられた後のシーンでは、日本の武士道の良い側面ばかりを描く傾向が見られたため、日本人が醜悪・無知に見えるように事実を捻じ曲げ描かれたパール・ハーバーを引き合いに出し、この点だけで前者はよい映画で後者は悪い映画とする者も一部に存在した。しかし、仇であるはずのオールグレンとたか(小雪)のキスシーンなどは、その時代の日本人女性の貞操観念を愚弄するものであると見ることも出来る。だがこの映画は、外国人主導で作られたこれまでの海外映画に見受けられるような、日本人に対する偏見や誤認識や無知とは一線を画す作品であることは間違いないであろう。これについては、渡辺謙や真田広之らが、俳優という枠に縛られず日本人から見ておかしいと思えるシーンについては、納得がいくまでスタッフや監督たちと議論を詰めていたことが要因として挙げられる。
また、内容が「ケビン・コスナー監督の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』に酷似している」という見方がある。これは、侵略する立場とされる立場の狭間に立つ者が主人公、という構図が共通するためである。しかし本作品は、日本の明治維新を舞台に武士道を描く事による、21世紀初頭の実用主義や利己主義(の拡大)へのレジスタンスである。オールグレンは、勝元のいまわの際に、「お前は名誉を取り戻した」と言ってもらうことで救われるのである。
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ロケ現場(書寫山圓教寺)
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[編集] あらすじ
まず、日本の国柄の紹介を、古事記の一説より紹介した。イザナミとイザナギの神が剣で日本の国土を生成したと信じている人々のすむ国であると。その長く深い伝統の空気を打ち破る幕末の近代化が始まりだした。建国以来の剣を信じるものと新たな洋式鉄砲と軍隊に希望をかけるものの思いに国論は分断されていったのだ。
南北戦争時代のアメリカ。北軍の士官として参軍したネイサン・オールグレン大尉(役:トム・クルーズ)は、南軍やインディアンと戦う。その戦争の渦中では、関係の無いインディアンの部族に攻撃を仕掛けたり、インディアンの子供たちを撃ち続けたりした(ウンデット・ニーの虐殺に参加したと思われる)。良心の呵責に悩まされたオールグレンはウイスキー浸りの生活に陥る。
そんな中、日本の実業家にして大臣の大村(役:原田眞人)が、バグリー大佐を介して「戦場の英雄」をお雇い外国人として軍隊の教授職に雇いに来た。その頃の日本は明治維新が成り、近代国家建設のため急速な近代的軍備の増強が必須であった。大金のオファーに魅せられたオールグレンは僚友ガントとともに日本へ行き、軍隊の訓練を指揮する。
やがて、不平士族の領袖である勝元(役:渡辺謙)が鉄道を襲ったという報が入った。まだ訓練は出来ておらずこの軍隊は闘えない、と抵抗するも、やむなく出動するオールグレン。案の定、隊の練度はまだで、部隊はバラバラになり、ガントは命を落とし、オールグレンは捕えられる。しかし勝元は彼を殺さず、妹のたか(役:小雪)に手当てをさせる。回復してきて村を歩き回り、東洋の人々の生活の風景を垣間見る中で、オールグレンは彼ら反乱軍の精神世界に魅せられるようになる。そして勝元もまた、オールグレンに不思議な魅力を感じ始めていた。
村での生活を深めるにつれ、オールグレンは村の人々に急速に心を開いていくが、世話をしてくれる女性、たかはオールグレンに不信感を抱き続ける。それは、彼女の夫がオールグレンにより殺されたからであった。だが村の生活に敬意を表すようになったオールグレンに対し、たかは心を開き始め、やがてたかはオールグレンを許すようになる。
訓練と談笑と生活のなかでオールグレンは心の中に静けさを取り戻し、ひとつところに長くとどまるのは故郷を出て以来はじめてだと今を思い、村の生活に神聖なものを感じ始める。また、オールグレンは、氏尾(役:真田広之)との剣合わせで、はじめて引き分ける。これを機に、氏尾と村の男たちの信頼を急速に勝ち取る。
そんな中、村の祭りが行われ、普段は恐くて厳しい村の首領勝元が道化を演じる舞台を見て皆が笑いあっているとき、政府が差し向けた間諜が密かに村に近づく。オールグレンと勝元・村人は、心を一にして間諜と戦い、彼らはついに味方になった。
春になり雪は溶け道は開き、政府に呼び出されて勝元一行は東京へ出向く。疑いと警戒の目で一団の行進を見つめる大村。一行の中にオールグレンが居ることを見つけて、ほっと笑顔をもらす通訳・写真家・著述家のグレアム。東京でオールグレンが見たものは、立派に訓練され、軍備も充実した政府軍の姿であった。
街に出たオールグレンは、銃を掲げ不遜な態度で振る舞う警察官が、勝元の息子の剣を奪い、髷を切り落とす場面に出くわす。そんなオールグレンに、大村は刺客を差し向ける。一方の勝元は、廃刀令にしたがって刀を捨てるよう大村に迫られる。勝元は判断を明治天皇(役:中村七之助)に仰ぐが、天皇は気弱さから目をそむけてしまう。刀を捨てない勝元は、東京にて謹慎に。
オールグレンは大村の申し出を断り、日本での職・役割を終わらせアメリカへ帰ろうとするが、謹慎先で勝元が政府の刺客に襲撃を受けた事を知り、氏尾ら村の一軍と共に勝元を助け出す。勝元の息子はそこで撃たれ、命を落とす。勝元一行は、村へ敗走する事になった。もはや政府軍と勝元達反乱軍との対決は免れぬものとなった。意を決したオールグレンも反乱軍の仲間として、政府軍に一矢報いる事を決めた。激しい戦闘の結果、オールグレン一人を残し、反乱軍は全滅した。政府軍に囲まれ傷ついた勝元は、信頼するオールグレンにとどめを刺すよう頼み、「すべてパーフェクトだ」という言葉を遺して事切れる。だが、彼の闘いは無駄ではなかった。政府軍の兵士たちが、勝元の死に様に涙したばかりか、敬意を表し跪いて頭を垂れたのである。維新以降、失われて久しかった「武士道精神」を、軍人たちが取り戻した瞬間であった。
生き残ったオールグレンは天皇に拝謁。そこで勝元の遺刀を渡す。それは日本が真に近代国家に生まれ変わるための、勝元からのメッセージであった。
[編集] キャスト
- トム・クルーズ(ネイサン・オールグレン)
- ティモシー・スポール(サイモン・グレアム)
- ビリー・コノリー(ゼブロン・ガント)
- トニー・ゴールドウィン(バグリー大佐)
- 渡辺謙(勝元盛次)
- 真田広之(氏尾)
- 小雪(たか)
- 小山田真(信忠)
- 原田眞人(大村松江)
- 中村七之助(明治天皇)
- 福本清三(寡黙なサムライ)
- 高良隆志(サムライ)
- 菅田俊(中尾)
- (大村の秘書)
- (長谷川総大将)
- 二階堂智(政府軍指揮官)
[編集] 備考
- 真田広之は過去に岡本喜八監督の「EAST MEETS WEST」の主人公を演じ、幕末に渡米する武士という本作品と逆のパターンを演じている。内容も役柄も正反対である。
- 日本での劇場公開時は、英語部分には日本語字幕が・日本語部分には英語字幕が乗る形となっていた。
- 戦闘シーンの苛烈さや、一部に介錯シーンなどを含むため、アメリカ公開時はR指定となっている。(日本では全年齢指定)
- DVDのリリースに当たっては、日本語吹き替え音声部分に「ボイスオーバー方式」を採用している。これは、時にトム・クルーズやティモシー・スポールが日本語のセリフを話したり、逆に日本人役者が英語で話したりするシーンなどが入り混じる映画であることを反映しての判断である。
- DVDの予約特典は、劇中で引用される語句が記された「箸」であった。
- 「勝元」役の選考に当たっては、渡辺謙以外に役所広司も有力候補であったという。
- 本作品においては、「勝元」は英語も話せる立場である事がキーとなっている。オーディションが行なわれた時点では、渡辺謙は英語が満足に話せなかった。そのため渡辺はオーディションに合格してから英会話を特訓した。その甲斐あって、現在では英会話に関しては通訳無しで意思疎通ができるレベルに到達し、それ以降の作品(SAYURIや硫黄島からの手紙など)でも英語力を生かした演技をこなしている。なお、真田広之は撮影開始時点ですでに英語が話せた事を生かし、微細な部分(演出面で、日本人から見ておかしく感じる部分が無いかどうか)に関してほとんどの撮影現場に立会って意見を述べ、結果的にスーパーバイザー的役割もこなしている。
- 配役のうち「寡黙なサムライ」である福本清三の起用に関しては、コーディネーターである奈良橋陽子の推薦によるところが大きい。
- 里の武士たち・政府軍の兵士たちを務めるエキストラはすべて、オーディションで集められた日本人である(エキストラを務めた者の記すブログに拠れば、幕府軍を演じたグループが別のシーンでは里の武士を演じる事もあったという)。当初、製作陣はこれらエキストラの起用に関して、兵器の取り扱いに慣れている韓国人や日系アメリカ人などを使うことを考えていたようだが、トム・クルーズらの反対によって、日本から500名ほどの若者がニュージーランドに集められ、軍隊さながらの練成教育が行なわれたという。(参考文献・「おちおち死んでられまへん」福本清三・談)
- 劇中で描かれる兵器の改良(先込め式の銃から後込め式銃・ガトリング砲)に関しては、年号としては正確ではない。しかし、兵器がこの順番で改良されていったことに関しては事実である。
- この映画の音楽担当はハンス・ジマーで、彼にとってはこの「ラストサムライ」が担当したサントラのちょうど100作目。
- 劇中で引き合いに出される「テルモピュライの戦い」は、後日「300」としてハリウッド映画化された。