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新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論 - Wikipedia

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論しんごーまにずむせんげんすぺしゃる せんそうろん)は、小林よしのり漫画作品のひとつ。1995年9月より雑誌『SAPIO』に連載されている『新・ゴーマニズム宣言』の別冊版という体裁を取っている。

3巻構成で、いずれも世代を超えて大きな反響・論争を呼んだベストセラー。 内容は主に太平洋戦争。戦争とは何か、国家とは何か。上杉聰宮台真司吉本隆明と学会、さらにはニューヨークタイムズ紙やル・モンド紙等海外メディアにいたるまで、数多くのいわゆるリベラル陣営からは「歴史の書き換え」として批判された。 内容を巡って田原総一朗と論戦したものが別に本(『戦争論争戦』)となって刊行されている。 なお背表紙には大きく『戦争論』と書かれているが、クラウゼヴィッツ著の戦争論と内容は全く異なり関連性はない。

目次

書籍内容

大東亜戦争太平洋戦争)を巡る歴史観を独自の視点でとりあげた。発行した時期にあっては、日本では従軍慰安婦問題や南京大虐殺論争、さらには教科書問題などを巡って右翼勢力と左翼勢力が激しく争っていた。著者は当時新しい歴史教科書をつくる会の幹事の一人であり、第1巻は「つくる会」の教科書をアシストする意図も大きかった。
この巻にあっては著者は大東亜戦争までと、その後の日本人の価値観の断絶についてを主題とした。戦前の極端な愛国心と武力行使の否定のために、戦後の日本人が大東亜戦争について否定的な認識しかできなくなっており、愛国心の下勇敢に戦った兵士たちや、アジア解放の理念のもとにあった戦争であったことを忘れてはいけないと強く主張した。
しかし、歴史記述の明らかな誤りや資料改竄、論理的におかしい記述などが見られ。歴史的な予備知識が無いとかえって間違いを犯すこととなる。他の『ゴーマニズム宣言』と同じく、論理の緻密さより、絵の迫力にて、扇情的に訴えかけてくる。
2巻は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の影響を色濃く受けている。ここで著者はアルカーイダのテロに対して“その手があったか”と驚いて見せ、経済力・軍事力を用いた国家のエゴイズム(特にアメリカを強く批判)とテロリズムを相対化し、戦争における理念と道義性の重要性を主張した。この流れから太平洋戦争肯定論に結び付けている。アングロ・サクソン憎悪から、戦後民主主義批判とも、牽強付会させている。
完結篇と称しているように1巻と2巻の総括的内容であり、戦争における理念と道義性の重要性を新しい知見を加えつつ繰り返し主張し、大東亜戦争の肯定的観点の見直しや、イラク戦争におけるアメリカの軍事行動を横暴であると批判を行うと共に、妄信的な親米主義を非難している。『ポチ保守』と産経新聞正論諸君!を嘲笑う。

歴史的な記述の問題点

上に書いてあるように、本書の内容はその記載法その他に疑問が残る物である。その問題点を簡略に記す。なお、南京大虐殺に関する事実誤認が多数あるが、南京大虐殺論争での議論と重複するためそちらを参照されたい。

第1巻

  • 作品冒頭での一タクシー運転手の発言を、「若者の平均的考え」として、現在の日本人の総意と受け取られかねないように書いている。
  • 日中戦争中での日本軍が行った誤爆を、相手の不当な行為として描いている。
  • 杉原千畝の行為を、八紘一宇の一環とし、まるで日本政府の命令であったと取りかねない書き方をしているが、実際はナチス同盟国だった日本政府はビザの発行を厳しく制限し、杉原は外務省の命令を無視する形でユダヤ人のビザを発行している。
  • 便衣兵を不当な物として、「その場で処刑しても良い」と発言している。実際は、便衣兵ゲリラ)が正当かどうかにかかわらず、ハーグ陸戦条約第23条により、助命しないことや裁判の不受理の宣言を行うことは禁止されている。
  • 満州は今の中国人の土地ではなく、日本がとったことを正当としているが、当時の日本の土地(領土)でもなく、論理的に矛盾。
  • 満州国独立国家と言っているが、政府中枢は日本から来た官僚でしめられるなど、実質は日本の強い影響下にあり、殆ど独立性は無かった。
  • 漢民族の地であり、華北の地域であるはずの熱河省を満州国に軍事転入させたことに、一切触れていない。
  • 白人からの解放や自国防衛を謳いながら、中国侵略には無批判である。ビシー政権仏印植民地解放しなかったことには一切触れていない
  • 原爆投下や東京大空襲米国を責めるが、それ以前に行われた南京や重慶の爆撃に関して日本側への批判が全くなく、歴史としての中立性が無い(重慶については全く触れておらず、南京については完全否定している。後の作品で重慶について否定している)。
  • アジア解放をことさら強調し「反人種差別主義国家日本」を謳うが、ユダヤ人を迫害したナチスドイツと連携した事実には触れておらず、日本が反人種差別主義国家だったという論法に意識的欠損がみられる。
  • 中国人朝鮮人や交戦国の人物を醜く描く一方、日本の味方や友好的な人物は普通の顔として描かれており、平等性にかける。
  • ネルーが大東亜共栄圏に賛同したかのような記述になっているが、彼を始めとしたインド国民会議派は、日本の膨脹主義、覇権主義に一貫して反対していた。国民会議派を外れたチャンドラ・ボース日本軍と行動を共にし、インド仮政府として、1943年大東亜会議に参加したのである。
  • 東アジア全土が欧米の植民地だったなか日本だけが独立国」とあるが、タイ中華民国モンゴルも独立国であったし、朝鮮半島及び台湾は日本の植民地だった。(「東アジア全土」といっているが、描かれている図にはほぼアジア全域が書かれている)
  • 東南アジアの一般民衆の被害を全く描いていない。とりわけフィリピン戦の激戦地であるルソン島でのことは数行で書き流している。

第2巻

  • 国策映画である東映作の南京広報映画をそのまま真実として描いている。微笑ましい姿で中国人が手を振る姿が描かれているが、それはすべて日本軍部検閲処理済みのものである。プロパガンダと彼は盛んに反論する際言うが、日本側も自国民に不利な情報が流れないように、また中国人を懐柔するために工作を盛んにしていたのである。
  • 南京大虐殺否定の根拠としていくつかの書籍を上げているが、一次資料松井石根陣中日誌の改竄者田中正明氏の本を無批判に根拠にしてたり、国際的に認知されているジョン・ラーベの「南京の真実」を南京政府から献金されていたなど。資料の偏見的な見方が多々ある。
  • 蒋介石政権には、外交能力がなかったと近衛文麿の不拡大方針変更を支持するが。次のコマで、中国国民党米国が同盟していることを卑劣な手段と責めており。これは、蒋介石政権に外交能力があると発言しているものであり矛盾している。
  • イラク戦争の時にあれほどこだわった大義が、日中戦争では一切語られていない。
  • 五四運動を卑劣な反日運動としているが、近代化に目覚めた魯迅始めとする民族的覚醒の運動である。
  • 三・一独立運動を極めて少数の数十人単位の運動としているが、最初はそうであったが独立運動自体は全朝鮮規模に拡がった。
  • 蒋介石毛沢東国共合作を国民的に不人気な政権であり、汪兆銘こそ正当であると小林は言うが、実際はむしろ逆であり、蒋介石には国共合作しか手段がなく、反日、抗日が全中国国民的希求であった。
  • 日本支配下の朝鮮事大主義に根ざし、日本をむくようになったとされているが、独立を求める芽も一部で吹き出していた。
  • ナチス・ドイツに対する批判は全くと言っていいほどないが。ナチス党員のジョン・ラーベを、ひたすら日本に不利な証言をしたとして攻撃対象にする。

第3巻

  • 沖縄、集団自決の証拠資料が無いと即断しているが。そのような非合法な書類そもそも残せないし、口頭で済ましてしまえば文書として残らず。証言者は数多くいるので、証拠資料の不在は集団自決否定の根拠にはならない。
  • 自身の少年時の福岡の記憶、また山本夏彦氏の東京を描いた文章から、戦争直前にも日本は豊かであったと言い放つが、それは山本や首都東京が豊かであったというだけであり、日本自体は人口過剰を抱え、その対策に苦慮していた。だからこそ満州を生命線として、国は拘泥していたのであった。満蒙開拓団は、その苦肉の策であった。
  • 黒船来航以来、日米戦争は避けがたかったと一種の宿命論をいうが、戦争また植民地支配は、日本政府が選んだ自らの選択であった。
  • アメリカの占領支配を屈辱と思わない日本人を嘆くが、日本植民地支配の恥をいいつづけている韓国・朝鮮人を罵倒しており、論理的に矛盾している。
  • 白人種を狩猟民族と蔑むが、日本よりも遥か昔から農耕していたローマギリシャの末裔でもある。
  • 白人を狩猟民族、有色人種を農耕民族と彼はきっぱりと分けるが、あまりに短絡的であり、ノルマン人の移動以降ほとんどのヨーロッパ人が定着し、農耕の文化をすべてのヨーロッパ人が1000年以上持っている。また有色人種の中にも、近代近くまで遊牧性を持ち続けた種族があり(アフリカ黒人の種、モンゴル系、トルコ系など)一概に農耕民族とも言えない。かつ遊牧民を蔑むのは、人種差別的である。
  • 彼の言う通り、大航海時代以来、ヨーロッパ人がこぞって植民地経営に乗り出し、他民族を馴化していったのも事実であるが、日本も近代以来は植民地支配に乗り出していった。
  • 日露戦争の勝利が、有色人種に希望を与えたのも事実であり、同盟国であった英国が落胆したのも本当であるが、まるで日露戦争が最初からアジア開放のための戦争であったかのように書くのは間違いである。
  • 独立を約束されていたフィリピン人が、米国と共に日本と戦ったことを、意図的に書き落としている。
  • 中国人を征服王朝の血の混じった劣った民族と描いているが、それはつまりウイグル系、モンゴル系、女真系を劣った民族とする人種差別である。有色人種対白人と言う構図自体矛盾をきたしている。

シリーズ

平和をサービスと思う個人
空気に逆らえぬだけの個のない論調
若者のためにスケールのでかい日本の戦争の説明
東京裁判洗脳されっ子の個人主義
南の島に雪が降る
倫理ある個の芽生え
特攻精神
公から離脱した個は人でなない
承認された暴力、されない暴力
他国の軍と残虐度を比較する
反戦平和のニセ写真を見抜け
「証言」というもの
洗脳されている自覚はない
置き去りにされた祖父
痛快な戦争体験
自己犠牲の戦争体験と正義
クニを護ための物語
軍部にだまされていたのか?
悪魔の戦争
個と公
個を超える勇気と誇り
自由と束縛
負ける戦いにも道義はある
覚悟なき卑怯者の米国「支持」
日米同盟がなくなった日
戦前と戦後を切り離すアメリカへの恐れ
戦争において勝者が敗者を裁くのは野蛮である
日本の豊かさはアメリカが「開放」してくれたおかげではない
「自由」と「民主」のサヨク・ネオコン
「解放軍」の幻想
リヴァイアサンは道徳(国際法)から自由になれない
沖縄戦神話の真実
破壊された公
侵略と虐殺の世界史
解放と逆転の日本史
生命より尊い価値
国益と道徳

小林『戦争論』をめぐる書籍

関連項目

外部リンク

他の言語

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