統合幕僚会議
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統合幕僚会議(とうごうばくりょうかいぎ)または略して統幕会議(とうばくかいぎ)は、防衛庁に置かれていた特別の機関の一。陸海空三自衛隊の統合運用に関して防衛庁長官を補佐した。1954年7月1日から2006年3月27日まで設置されていた。廃止後は、統合運用、一元指揮のため統合幕僚監部が設置されている。英訳は、"Joint Staff Council"。
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[編集] 概説
統合幕僚会議議長(専任の自衛官で、陸海空各幕僚長経験者から任じられる。)と陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊各隊のトップである3人の幕僚長、計4人で構成され、防衛庁長官の補佐機関として、隊の枠を超えた「統合運用」、具体的には「統合防衛計画の作成」、「出動時の自衛隊に対する指揮命令の調整」等を行う。議長は専任の自衛官で、「自衛官の最上位」である(防衛庁設置法第27条)。
なお、防衛庁において、長官を補佐する機関には2種類ある。一つは、「文官」として「政策的補佐」をする「内局」(長官官房と各局からなる内部部局)であり、もう一つは「自衛官」として「軍事専門的補佐」をする統合幕僚会議及び「各幕」(各幕僚監部)である。統幕会議及び「各幕」を併せて「各幕等」とも言う。
アメリカ軍におけるアメリカ統合参謀本部と比較されるが、規模・権能はアメリカのものが大きく、軍令についても、アメリカはそれを持たず、大統領の参謀業務に留まるなど、性格は異なっている。
なお、保安庁時代から、指揮権を統一する機関を創設するという動きはあったが、旧海軍関係者の猛烈な反発により頓挫した。
[編集] 沿革
- 1954年7月1日 - 統合幕僚会議および同事務局が新設。
- 1961年6月12日 - 統合幕僚会議の権限が強化される(防衛2法改正)。
- 1961年8月1日 - 統合幕僚学校を統合幕僚会議に附置新設。
- 1997年1月20日 - 第二幕僚室を廃止し、情報本部を統合幕僚会議に新設。
- 1998年 - 出動時以外でも、必要に応じて統合幕僚会議が長官を補佐できるように防衛庁設置法などが一部改正(1999年3月施行)。
- 2006年3月27日 - 統合幕僚会議を廃止し、統合幕僚監部を新設。
[編集] 組織
「統合幕僚会議」と言う時、「幕僚長+議長からなる会議(4名)」を指す場合と、事務局・情報本部・幕僚学校も含めた組織全体を指す場合とがある。
- 統合幕僚会議に関する法律
- 特別の部隊の編成:自衛隊法第22条
- 会議の所掌事務:防衛庁設置法第26条
- 議長の職務:防衛庁設置法第27条、安全保障会議設置法第7条、自衛隊法第22条の3
- 組織概要:防衛庁設置法第27条、防衛庁設置法第28条、防衛庁設置法第28条の2、防衛庁組織令第155条
[編集] 議長
- 詳細は統合幕僚会議議長を参照
[編集] 事務局長
代数 | 氏名 | 階級 | 在任期間 | 出身校・期 | 前職 | 後職 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
初代 | 井本熊男 | 陸将 | 1954.7.1 - 1956.8.15 | 陸士37期・陸大46期 | 第4管区総監 | 陸上幕僚監部第5部長 | 派遣勤務(陸上幕僚監部所属) |
第2代 | 高山信武 | 陸将 | 1956.8.16 - 1959.3.15 | 陸士39期・陸大47期 | 陸上幕僚監部第5部長 | 第1管区総監 | 派遣勤務(陸上幕僚監部所属) |
第3代 | 中山定義 | 海将 | 1959.3.16 - 1960.7.31 | 海兵54期・海大36期 | 海上幕僚監部総務部長 | 自衛艦隊司令 | 派遣勤務(海上幕僚監部所属) |
第4代 | 汾陽光文 | 空将 | 1960.8.1 - 1962.7.31 | 陸士42期・陸大54期 | 飛行教育集団司令 | 航空幕僚監部付 →1962.10.1術科教育本部長 |
航空幕僚監部付 1961.8.1統合幕僚学校長兼務 |
第5代 | 田中義男 | 陸将 | 1962.8.1 - 1964.8.13 | 陸士40期・陸大51期 | 第12師団長 | 陸上幕僚監部付 →1964.12.15退職 |
統合幕僚学校長兼務 |
第6代 | 吉江誠一 | 陸将 | 1964.8.14 - 1966.4.29 | 陸士43期・陸大50期 | 第13師団長 | 陸上幕僚長 | 統合幕僚学校長兼務 |
第7代 | 緒方景俊 | 空将 | 1966.4.30 - 1967.11.14 | 陸士46期・陸大55期 | 幹部候補生学校長 | 術科教育本部長 | 統合幕僚学校長兼務 |
第8代 | 星野清三郎 | 海将 | 1967.11.15 - 1969.6.30 | 海兵63期 | 練習艦隊司令官 | 舞鶴地方総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第9代 | 谷村弘 | 陸将 | 1969.7.1 - 1971.6.30 | 陸士49期・陸大59期 | 第8師団長 | 中部方面総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第10代 | 白川元春 | 空将 | 1971.7.1 - 1971.8.9 | 陸士51期・陸大58期 | 西部航空方面隊司令官 | 航空幕僚副長 | 統合幕僚学校長兼務 |
代理 | 岩下徳治 | 陸将補 | 1971.8.10 - 1971.8.19 | 統合幕僚会議事務局第4幕僚室長として統合幕僚会議事務局長代理 | |||
第11代 | 舞敏方 | 陸将 | 1971.8.20 - 1972.3.15 | 陸士50期・陸大57期 | 陸上幕僚監部第5部長 | 北部方面総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第12代 | 寺本光 | 空将 | 1972.3.16 - 1973.6.30 | 陸士52期・陸大59期 | 航空総隊司令部幕僚長 | 術科教育本部長 | 統合幕僚学校長兼務 |
第13代 | 井上龍昇 | 海将 | 1973.7.1 - 1974.6.30 | 海兵68期 | 海上自衛隊第1術科学校長 | 呉地方総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第14代 | 栗栖弘臣 | 陸将 | 1974.7.1 - 1975.3.16 | 東京帝国大 | 第13師団長 | 東部方面総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第15代 | 村木杉太郎 | 陸将 | 1975.3.17 - 1976.7.1 | 第10師団長 | 退職 | 統合幕僚学校長兼務 | |
第16代 | 松尾繁 | 空将 | 1976.7.1 - 1977.6.30 | 輸送航空団司令 | 飛行教育集団司令 | 統合幕僚学校長兼務 | |
第17代 | 常廣栄一 | 海将 | 1977.7.1 - 1978.6.30 | 海兵71期 | 海上訓練指導隊群司令 →1977.6.1海上幕僚監部付 |
横須賀地方総監 | 統合幕僚学校長兼務 |
第18代 | 左近允尚敏 | 海将 | 1978.7.1 - 1979.11.20 | 海兵72期 | 防衛大学校訓練部長 | 退職 | 統合幕僚学校長兼務 |
第19代 | 冨澤松司 | 陸将 | 1979.11.20 - 1981.1.5 | 陸士57期 | 第11師団長 | 死亡 | 統合幕僚学校長兼務 |
代理 | 濱屋孝哉 | 空将 | 1981.1.5 - 1981.1.26 | 統合幕僚会議事務局第5幕僚室長として統合幕僚会議事務局長代理 | |||
第20代 | 片尾伸夫 | 空将 | 1981.1.27 - 1982.7.1 | 航空自衛隊第1術科学校長 | 退職 | 統合幕僚学校長兼務 →1981.4.10兼務解除 |
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第21代 | 一宮眞之 | 空将 | 1982.7.1 - 1983.12.20 | 術科教育本部長 | 退職 | ||
第22代 | 井ノ山隆也 | 海将 | 1983.12.20 - 1984.12.17 | 海兵75期 | 舞鶴地方総監 | 退職 | |
第23代 | 木暮丞一 | 空将 | 1984.12.17 - 1986.3.17 | 北部航空方面隊司令官 | 退職 | ||
第24代 | 鈴木英樹 | 陸将 | 1986.3.17 - 1987.12.11 | 第8師団長 | 退職 | ||
第25代 | 末貞臣 | 海将 | 1987.12.11 - 1990.3.16 | 潜水艦隊司令官 | 退職 | ||
第26代 | 伊藤達二 | 海将 | 1990.3.16 - 1991.6.30 | 海上自衛隊幹部学校長 | 自衛艦隊司令官 | ||
第27代 | 宮下裕 | 空将 | 1991.7.1 - 1992.6.15 | 防大3期 | 統合幕僚学校長 | 航空総隊司令官 | |
第28代 | 横澤彰夫 | 空将 | 1992.6.16 - 1994.6.30 | 防大5期 | 南西航空混成団司令 | 航空自衛隊補給本部長 | |
第29代 | 山本安正 | 海将 | 1994.7.1 - 1996.3.24 | 防大7期 | 統合幕僚学校長 | 横須賀地方総監 | |
第30代 | 古澤忠彦 | 海将 | 1996.3.25 - 1997.10.12 | 防大8期 | 舞鶴地方総監 | 横須賀地方総監 | |
第31代 | 酒巻尚生 | 陸将 | 1997.10.13 - 1999.3.30 | 防大10期 | 第9師団長 | 北部方面総監 | |
第32代 | 岡本智博 | 空将 | 1999.3.31 - 2001.3.27 | 防大11期 | 航空開発実験集団司令官 | 退職 | |
第33代 | 松川正昭 | 陸将 | 2001.3.27 - 2002.3.21 | 防大13期 | 第3師団長 | 西部方面総監 | |
第34代 | 渡邊元旦 | 陸将 | 2002.3.22 - 2003.3.26 | 防大14期 | 第1師団長 | 中部方面総監 | |
第35代 | 得田憲司 | 陸将 | 2003.3.27 - 2004.8.29 | 防大15期 | 第8師団長 | 北部方面総監 | |
第36代 | 香田洋二 | 海将 | 2004.8.30 - 2005.7.27 | 防大16期 | 護衛艦隊司令官 | 佐世保地方総監 | |
第37代 | 加藤保 | 海将 | 2005.7.28 - 2006.3.26 | 防大17期 | 舞鶴地方総監 | 統合幕僚副長 |
[編集] 統合運用
「統合運用」とは、特定の目的のために異なる軍種(同一国家における陸・海・空)の部隊を組み合わせて動員すること。またはそのような動員において成立する部隊間の協力関係。
運用例としては、個別の運用では対応に限界のある場合、すなわち防衛出動時、治安出動時、警護出動時、災害派遣時、地震防災派遣時、訓練時、海外派遣時など。 統合運用時、特別編制の部隊に対する防衛庁長官の指揮・命令は、統合幕僚会議議長を通じて行うことになる。
自衛隊の統合運用は2006年3月27日に本格導入され、陸海空自衛隊の運用を一元化し、一括して指揮する統合幕僚長が創設された。従来、防衛庁長官は統合運用の場面以外では3自衛隊の幕僚長に直接指揮・命令をしてきたが、以後は統合幕僚長を通じて命令を発することになる。また、統合幕僚会議は廃止され統合幕僚監部が設置された。
[編集] 幕僚と参謀
この二つの語は軍事用語でそれぞれ別の意味をもつのだが、同義語として使っている国も多い。アメリカでは幕僚と言う代わりに参謀の語を使い、自衛隊の場合は参謀と言う代わりに幕僚という語を使う。参謀とは司令官の作戦補佐を担当するいわゆる「軍師」の役割を持つが、幕僚も同じ役割を持つ。この為、言い方が違うだけで指している役割は同じであるが、これは日本の場合で、アメリカやロシアでは両方で別々の意味を持っていたりする。
戦前の日本でも幕僚という語が使われたが、軍師の意味で使われたのは参謀。戦後の日本では自衛隊の参謀にあたる役割を持つ自衛官は存在するが、参謀という語が軍事的なニュアンスを含むので、その名称を全部幕僚と言い替えた。よって今の自衛隊に参謀という職名は存在しない。ただし、海上自衛隊においては、通信時の簡略名称において、幕僚長を「サチ(サンボウチョウ)」首席幕僚を「セサ(センニンサンボウ)」と旧海軍時代の伝統に則って定めており、幕僚を参謀と逆に言い換えているという事例もある。