国鉄EF65形電気機関車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
国鉄EF65形電気機関車(こくてついーえふ65がたでんききかんしゃ)は、旧・日本国有鉄道(国鉄)が1964年に開発した、平坦路線向け直流電気機関車である。
国鉄における近代型機関車の一つの完成形というべき存在であり、1970年代末期までに国鉄の直流電気機関車としては最多の308両が製造された。現在でも多数が主に貨物列車の牽引に充当されている。しかし後継のEF210形の登場で近年廃車が進んでいる。
なお、かつては寝台列車牽引の主力機であったが、2006年3月、「出雲」の廃止により特急運用が消滅、現在は東京駅~大阪駅間での急行「銀河」牽引の運用が残るのみである。ただ下関所属のEF66の検査時に「なは」・「あかつき」牽引機として代走することもある。
目次 |
[編集] 概要
抵抗制御方式の直流電気機関車である。今のように高速道路がなかった当時、日本の著しい経済成長の中、国鉄に求められる輸送力の増強はかなり逼迫していた。これを補う為、電化工事の促進・主要区間の複線化・列車運転速度の向上・1列車当たりの輸送量の増強・物流システムの効率化を早急に進める必要があった。
電化工事が山陽本線まで及び、コンテナによる輸送方法が確立されると、重い列車を安定した高い運転速度で長距離運転できる機関車が必要となった。従来のEF60形機関車はその新性能ぶりには定評があったが、その定格速度は比較的低く(39.0km/h)、旅客列車・貨物列車の高速化に応じるには難があったことから、EF60形をベースとして新型電気機関車の開発・導入に踏み切った。こうした経緯の下で登場したのが本形式である。
通常、新型電気機関車の開発・導入時は試作車(901号機という番号が付与されることが多い)を作りテストを繰り返すか、1・2号機を先行落成させて、試作機代わりに長期テストをするのが一般的であるが、本形式は新型標準主電動機MT52を採用して速度向上の余地があったEF60形後期型を基本として設計されていることもあっていきなり量産が開始された。この事実からも輸送力増強の要求が逼迫していた事が伺える。
本形式は自動進段形のCS29型抵抗バーニア制御器(超多段制御器)を導入し運転操作の向上を図ると共に、歯車比を変更して高速仕様にシフトし、弱め界磁領域の拡大を行って定格速度の向上を図った(45.0km/h)。自動進段の採用により主幹制御器の刻みノッチはEF60形の28ノッチから15ノッチ(捨てノッチ4、Sノッチ、SPノッチ、SP弱界磁段4ノッチ、Pノッチ、P弱界磁段4ノッチ)と大幅に減少したため、運転席の主幹制御器を従来タイプから電車類似の物への変更も検討されたが、従来の機関車との共通運用や取り扱いの互換性も考慮して従来タイプの主幹制御器となった(新型制御器はEF66形で本格採用)。
空転時の対策としては、各車軸に取り付けられた車軸発電機の発生電圧により回転数を随時計測、回転異常時(空転時)には進段を中止し自動ノッチ戻しを行う機構が採用されている。 電機子電流の釣り合いを監視する空転検知方式は、検知装置を搭載するスペースが機械室に無いため、EF65形式には使用されていない。
これらにより運転操作、高速運転時の安定性能は飛躍的に向上し、現場でも優秀な機関車として受け入れられたが、試作による性能評価を行っていないため、当時最新技術であった自動進段機構にトラブルが相次いだと言われている。
その後、一般機の他、20系固定編成を牽引する装置・機器を搭載してブルートレイン牽引用として登場した500番台P型や、重量貨物列車を高速で牽引する為の重連総括制御用機器・装置をP型の持つ機能に更に追加搭載した500番台F型、貫通扉を付け耐雪耐寒装備を施した1000番台PF型など、数々のバリエーションを持つに至った。
[編集] 基本番台
1964年より1970年までに1~135号機が貨物用として製作された。EF60形後期形に類似する正面非貫通式・シールドビーム2灯で、外観上の相違点は屋上モニタ屋根の形状と、前面の通風孔がスカート部分から前面窓下に移った程度。国鉄時代の塗色は、直流機標準の青に前面下部クリーム色であった。
分割民営化後、JR貨物所属機の(後述の各区分番台を含む)一部は機器取替などの更新工事を受け、あわせて塗色も変更されている(例:写真の114号機)。なお、岡山機関区所属機(広島車両所で更新工事施工)と高崎機関区所属機(大宮車両所で更新工事施工)とでは裾帯と上半分の青の明るさが若干違い、岡山機関区所属機の方が僅かに明るい。
現在はJR貨物岡山機関区と、同高崎機関区に配属されている。国鉄時代の塗色を保っている車両は、岡山機関区に87、100、103、116号機の4両が残る。 最終増備車の131~135号機は、1990年に広島車両所にてEF67 100番台へ改造工事が行われた。
[編集] 500番台(P形)
1965年より製造。「P形」は、「旅客」を表す"passenger"の頭文字に由来。
EF60形には20系寝台特急列車牽引用の500番台車が存在したが、前述のとおり定格速度の面で不利であるため、EF65形基本番台の設計を元に20系客車牽引用の装備を追加したもの。最高110km/h運転のため増圧ブレーキ装置、電磁指令ブレーキ回路等を増設している。塗色は直流機標準の青15号とクリーム1号ながら、特急色と呼ばれる20系客車と意匠を合わせた塗り分けを採用。両端面の窓周りを含んだ上部とそれを結ぶように上下にクリーム色の細帯があしらわれている。
新造された501~531号機(除く513~526号機)の他、1967年に基本番台(77~84号機)を同仕様に改造した535~542号機がある。 東海道・山陽本線における寝台特急列車の牽引機として長く充当された。しかし当時では前代未聞ともいえる連日片道1,000km以上の高速走行は走行装置へ大きな負担となり、不具合も目立ってきたため、1978年秋までに運用を後述の1000番台後期製造分と交代し、その後は一般貨物列車の牽引にあたった。この連日長距離運用の経験が、その後の機関車の部品改良や信頼性向上にフィードバックされている。
2006年2月現在、製造時の特急色で稼動状態にあるのはJR東日本高崎車両センター所属の501号機およびJR貨物高崎機関区所属の535号機のみである。
[編集] 500番台(F形)
500番台(P形)に準ずる性能を持つがこちらは高速貨物列車牽引用である。P形の仕様に、更に重連総括制御装置や後述の10000系貨車に対応する為にEF66形同様の空気管付き密着自動連結器等を追加したもので、車号は500番台の501~542までの42両の内、513~526号機、532~534号機が該当する。「F形」の呼称は、「貨物列車」を表す"freight"の頭文字に由来。
EF66形の登場までの間、輸送力増強を迫られていた東海道・山陽本線で、レサ10000形冷蔵車等の「とびうお」「ぎんりん」・コキ10000形等のコンテナ列車などの高速貨物列車を当時の大型電気機関車には珍しい重連運転で牽引した。また、P形と互して20系寝台列車の牽引にも充当された時期がある。
本機重連による高速貨物列車牽引は、単機牽引では出力不足で所定の運転時分確保ができなかったことに対する苦肉の策であるが、列車として過剰となった出力による消費電力の増大は、変電所への過負荷増大につながるという問題も同時に抱えていた。また、その当時新型高速高出力機関車(EF66形)が計画・開発中であったため、本機による高速貨物列車牽引はそれらが登場するまでの暫定的な措置とされており、事実EF66形の量産化により新製から2年で高速貨物列車の運用を交代した。「悲運の高速貨物機」と言われる由縁である。
当初の運用終了後は新鶴見機関区に転属、東北・上越方面の高速貨物列車牽引に充てられ、EF15形など旧型電機を淘汰した。積雪地区での使用に際し、一部の車両につらら切り、ホイッスルカバーといった簡単な耐雪耐寒装備が施されたが、現場担当者からは冬場、積雪の多い地域での重連運用の折り返し時、貫通扉がない為に一旦車外に出なくてはならないことや、ジャンパ栓受がエプロンの片側にしか搭載されておらず、エンドの向きが変わる運用に充当できなかった点で煙たがられていた。 なお、これらの問題点は後の1000番台(PF型)で改善されている。
本格的な耐雪耐寒装備を持つ1000番台の登場後は再度東海道・山陽本線に復帰し、一般貨物列車の牽引に充当された。JR移行の前後に高崎機関区に集結。晩年は首都圏の貨物輸送に充てられた。2005年6月現在、F形として在籍するのは日本貨物鉄道(JR貨物)高崎機関区所属の515号機だけである。同機は更新工事・塗色変更を受け、外観は基本番台の114号機と同様である。
[編集] 1000番台(PF形)
1969年より製造。500番台は寝台特急列車牽引用と高速貨物牽引用に区分されていたが、両方の機能を1形式でこなす目的で開発されたのが本番台である。当初から重連総括制御機能を備える。基本構造は500番台に準じるが、重連運転を考慮して前面には貫通扉が付き、印象が変化した。P形・F形両方の機能を兼ね備えるため、PF形と呼ばれる。塗色は500番台と同様の「特急色」であるが前面のステンレス製飾り帯は取り付けていない。
総数139両の製造は長期に渡り、細かい仕様変更が生じている。初期製造の車両は東北本線・上越線での運用を考慮した耐寒耐雪装備を有する。1056号機以降は下枠交差式パンタグラフのPS22Bを搭載。1097号機以降はP型500番代置き換えのため、寝台特急牽引用として東京機関区(当時)に新製配置された。重連や寒冷地での使用が殆ど無かった事から配置直後にスノープラウやホース類が外された。宮原機関区や下関運転所に配置された最終ロットは、これら装備が省略済みで落成した(後に広域運用に備え復活装備した車両もある)。近年、定期の寝台特急列車が減少した事もあり、JR東日本とJR西日本の余剰車がJR貨物へ10数両が売却されている。
JR貨物のPF型は、コキ50000形改造の100km/h運転対応コキ250000形、110km/h運転対応のコキ350000形を牽引する為に、一部の車両は制動時の空走距離を短縮させる目的で、常用減圧促進改造を受けた。この改造はツリアイ空気ダメの容量を縮小した上での、膨張ダメ及びJB中継弁の設置である。改造当初は被牽引車のコキ250000形に合わせた淡緑色地のナンバーだったが非改造機との識別が困難な為に後にナンバーは赤地へ、非改造機は青地に変更された。CLEブレーキを装備した110km/h運転可能のコキ100系貨車の使用開始後は、促進改造施工機の限定仕業を解除され非改造機と共通で運用に就いている。
[編集] 塗装変更機
- 「ぶどう色2号(茶色)」
- 9号機(廃車)・56号機(廃車)・57号機
- 「ユーロライナー」専用機
- 105号機(廃車)・106号機(廃車)・112号機
- 「ゆうゆうサロン岡山」専用機
- 123号機(廃車)
- 「スーパーエクスプレスレインボー」専用機
- 1019号機(廃車)・1118号機
- 「貨物試験色」116号機(現在は原色)・1059号機・1065号機(現在は更新塗装)
- 「広島車両所 異色更新車」1089号機(現在は塗装修正により、他の更新機との違いは屋根のブルー塗装のみ)
[編集] 主要諸元
(基本番台)
- 全長:16500mm
- 全幅:2800mm
- 全高:3819mm
- 軸配置:Bo-Bo-Bo
- 動力伝達方式:1段歯車減速吊り掛け式 歯車比:18:69(1:3.83)
- 電動機形式:MT52A形 6基
- 1時間定格出力:2550kW
- 最大運転速度:110km/h(最大許容運転速度:115km/h)
- 全界磁定格速度:45km/h
- 弱界磁定格速度:72km/h
- 1時間定格引張力(全界磁):20,350kg
[編集] 関連項目
- 旧型機関車
- B・D型機(貨物用) - EB10 / AB10 - ED10 - ED11 - ED12 - ED13 - ED14 - ED15 - ED16 - ED17 - ED18 - ED19 - ED23 - ED24
- D型機(旅客用)- ED50 - ED51 - ED52 - ED53 - ED54 - ED55(計画のみ) - ED56 - ED57
- F型機(貨物用)- EF10 - EF11 - EF12 - EF13 - EF14 - EF15 - EF16 - EF18
- F型機(旅客用)- EF50 - EF51 - EF52 - EF53 - EF54 - EF55 - EF56 - EF57 - EF58 - EF59
- H型機 - EH10
- アプト式 - EC40 - ED40 - ED41 - ED42
- 私鉄買収機
- ED20 - ED21 - ED22 - ED25 - ED26 - ED27 - ED28 - ED29 - ED30 / ED25II - ED31 - ED32- ED33 / ED26II - ED34 / ED27II - ED35 / ED28II - ED36 - ED37 / ED29II - ED38 - ケED10 - デキ1(旧宇部) - ロコ1(旧富山地鉄) - デキ501(旧三信) - ロコ1100(旧南海)
- 開発史 - 日本の電気機関車史