ホンダ・インスパイア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インスパイア(INSPIRE)は、本田技研工業のセダン型自動車。 アコード(日本製)とレジェンドの間に位置する。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 初代(1989-1995年 CB5/CC3/2型)
1989年10月12日に5ナンバーサイズの「アコード・インスパイア」誕生。形式名はCB5。後に3ナンバーの「インスパイア」CC2(2,500cc)とCC3(2,000cc)が追加される。姉妹車はビガー。
ホンダはこの4年前に英国のブリティシュ・レイランド(のちのBLカーズ、現:MGローバー)とレジェンドを共同開発し登場させていたが、これによりラインナップ上アコードとの間にギャップが生じ、それを埋めるための上級車種投入が望まれていた。さらに、当時のバブル期に、莫大な販売台数が見込めるトヨタ・マークII・日産・ローレルクラスに当たるモデルがなかったこともあり、これに合わせて直列5気筒エンジンを縦置きにした独特のFFミッドシップレイアウトを採ったモデルを開発し、4代目アコードの登場から一ヶ月遅れて発売された。
いざ蓋を開けてみると、マークIIやローレルに迫る販売セールスを記録。後に3ナンバーシリーズが登場すると、その人気に拍車がかかり、惨敗に終わった本家のアコードとは対照的に大成功をおさめることとなった。以降 登場するホンダの高級車は、しばらくの間このFFミッドシップ・レイアウトが採用されていった。
ボディは4ドアピラードハードトップのみで、都会的で洒落たスポーティーなスタイルのビガーに対し、よりラクシュリーな方に躾けられていた(それは1992年に登場した3ナンバーシリーズにもそのまま受け継がれた。)。
バブル期に作られた車だけあり、内装には本木目や本革を使って巧みにあしらわれたインテリアは素晴らしいもので、それはあたかも英国のジャガーを思わせる程の出来映えだった。また、本木目パネルはユーザーの好みに応じて3種類{ミルトル、マドローナ(ビガーのみ)またはゼブラ}を選択することができた。
エンジンは当初SOHC 直列5気筒 2,000cc G20Aのみでスタート。後に3ナンバー仕様の登場に伴い、2,500ccのG25Aと5psアップした改良版のG20Aが追加された(5ナンバーは160psのまま)。これらはこのクルマの大きな特徴ともいえるもので、高級車に載るものとは思えない高回転、高出力を実現。それは当時のライバル達の直列6気筒並か、またはそれをも凌駕すると評され、トップエンドまで回りながらも、比類のないスムーズネスとレスポンスの良さを備えていた。その評は、後に排気量が大きいG25Aが登場しても変わらず、低速からの太いトルクが魅力であるG25Aに対し、レスポンスの良さとトップエンドまで気持ちよく拭けるG20Aと、そのキャラクターはハッキリしていた。
しかし、そのエンジンに対して、このクルマのもうひとつの特徴ともいえるFFミッドシップが足枷となり、タイヤの切れ角を多く取れ、FFの弱点のひとつであるターニングサークルを抑えられるという唯一の利点を除き、縦置きゆえに飛び出したギアボックスによる室内スペースの制約や、フロントの荷重軽減による滑りやすい路面や坂道でのトラクション不足など、この弱点はこのレイアウトを採用する間、終始ついてまわる。後年、この奇形なレイアウトに対しジャーナリストらは、当時の売れ線であったライバル達FRラージカーの影響をたぶんに受けて採用されているのではと評した。その後、トランスミッションの仕様変更を受けたが、三菱・ディアマンテに引き起こされた3ナンバー車旋風もあり、1992年に3ナンバー仕様のインスパイア/ビガーが登場した。これによって、主力は3ナンバー仕様へとシフトされ、5ナンバーのアコードインスパイアは1グレードのみに整理される。
登場から18年目を迎える現在でも、フロントミッドシップレイアウトとしたユニークかつスタイリッシュなフォルムは好評で、特にVIP系ドレスアップを好むユーザーにとっては、10系セルシオやY31/32系シーマと比肩する素材として今なお若者達に愛されている。
キャッチコピーは「高級車異説」。
[編集] 2代目(1995-1998年 UA3/2型)
1995年2月23日、初代の誕生から数えて7年目に初めてのフルモデルチェンジを迎える。先代で好評を得たワイド&ローのシルエットはこのモデルにも踏襲されたものの、居住性アップが求められたアメリカマーケットからの要望に応えるべく、先代よりも一回りサイズアップされた。
エンジンは先代から引き継がれた2,000ccと2,500ccのG型エンジンを踏襲。主力の2,500ccは、レギュラー仕様の180psとハイオク仕様の190psの2種類があった。後にレジェンドに搭載されていたC32A型のV型6気筒 SOHC 4Valve 3,200ccが追加される。
先代のネガをリファインして、アメリカ市場のニーズに応える一方、国内市場を考慮し、サイズアップを最小限に留めて発売したものの、時はバブル崩壊による不景気。先代よりもコストダウンを図り、リーズナブルな価格に抑えて発売されたトヨタ・カムリやマツダ・カペラに代表されるように、マーケットの主力はより低い価格帯のモデルへと移っており、初代程の成功を収めることはなかった。また、乗り遅れたRVブームに投入された初代オデッセイの爆発的なヒットが、もともと低調な販売成績にさらに追い討ちをかけるカタチとなり、今日に至るホンダのセダン群の存在の希薄さが明確に表れたモデルでもあった。 一部、捜査用覆面パトカーの幹部車両として採用された。
[編集] 3代目(1998-2003年 UA4/5型)
1998年10月15日に、先代登場から異例に早いフルモデルチェンジを迎える。アメリカではホンダの高級車ブランドにて、アキュラ・TLとして販売される。
先代に引き続いてアメリカでの販売も継続されたが、このモデルからは販売に加え生産も、アメリカのオハイオ州にあるHAM(ホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチャリング)に切り換わる。この決定には様々な見方があるが、その一つとして、国内のアッパーミドルクラスのマーケットが、RVブームに端を発し、今日に至るミニバンのヒットで、年々シュリンクしてどのモデルも軒並み販売成績を落としていることと、アメリカ市場に最も比重を置いているホンダにとって、国内専売車を開発するよりも有益につながるとの判断が大きいと見られる。事実、エンジンを含む、このクルマの主要なコンポーネンツもアメリカ、またはカナダで生産されたものを使用していた。
先代よりもパーソナルカーの色合いが濃くなったボディは、アメリカの衝突安全基準に対応するため、サッシュ式ドアを持つ4ドアセダンとなった。また、必ずしも優れているとはいえなかった居住性もアップされ、先代まで採用されてきた伝統の縦置きFFミッドシップレイアウトは廃された。エンジンは先代にあった5気筒が廃止され、新たに開発されたバンク角60度 V型6気筒のJ型のみとなる。ラインナップはSOHC 4Valve 2,500ccのJ25Aと3,200ccのJ32Aの2種類。後に3,200ccモデルは30psアップした仕様に変更したが、これは元々アキュラブランドで発売されているクーペモデル(アキュラ・CL)に載せられていたものだった。
[編集] 4代目(2003年- UC1型)
2003年6月18日に、新たなスタイルを纏ったセダンに生まれ変わった。形式名はUC1。先代に引き続いてサッシュ式ドアを持つセダンボディを踏襲するものの、ボディは北米仕様のアコードのものをベースに開発された。そのため、2代続いてきたアキュラブランドとの連携はこの代からは消滅し、アキュラ・TL共々、それぞれ違ったスタイルを持つボディが与えられた。それに伴い、生産もHAMから国内の埼玉県狭山市にある埼玉製作所に移された。
コンセプトは先代から大きく変わらないものの、よりラクシュアリーな方へ向けられており、乗り心地も若干柔らかくセッティングされている。最大の目玉は、エンジンの「可変シリンダーシステム(VCM)」や「ドライバー支援装置(HiDS)」などの新機構が採用されていることにある。グレードは、アヴァンツァーレ,30TL及び30TEの3種に整理され、最上グレードのアヴァンツァーレに各種新機構が搭載されている。
エンジンは先代にあった2,500ccが廃止され、SOHC i-VTEC 3,000ccのJ30Aのみとなったが、低負荷時に片方のバンク(3気筒)を休止する可変シリンダーシステムを採用し、250psの高出力と低燃費とを両立した。
また、7代目アコードにも採用されたHiDSは、フロントに設けられたレーダーで自動的に前方の車両との車間距離を保つIHCC(メルセデス Sクラスに搭載したディストロニックとほぼ同機能)、前方の車両との衝突を自動に回避するCMBS及び、フロントに設けられたC-MOSカメラ画像を基に車線を認識し車線維持をアシストするLKASを統合したシステムである。この機能は、アコードやインスパイアを皮切りに、その後登場する4代目レジェンドやミニバンのオデッセイ、エリシオンやSUVのCR-Vなど、ホンダの上級車に随時搭載されていった。
2005年11月4日にマイナーチェンジを実施し、フロントグリルの変更とリアを大幅に変更し、テールランプをLED化とした。リアデザインに関しては、ベース車両である北米仕様アコードのそれに競合車であるヒュンダイ・ソナタのリアデザインがあまりにも酷似していることが原因なのではないかと囁かれているが、ホンダの韓国法人は「韓国市場だけを考慮したものではない」と説明している。
[編集] 車名の由来
- inspireは英語で「奮い立たせる・刺激して~する気にさせる」という意味。