円形章

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円形章（えんけいしょう）（英：cockade　仏：cocarde　独：Kokarde）は、軍隊などの制帽に用いる記章（帽章）の一種。国旗の色を同心円状に配して国籍の識別に用いる（他のパターンもあるが、詳細は下記参照）。20世紀にはいると、軍用機・軍用車両の国籍を示す塗装にも用いられるようになった（「国籍マーク」の項目参照）。花形帽章、コケード（英語から）、コカルデ（ドイツ語から）などともいう。

[編集] 起源・沿革　

18世紀ごろから、軍帽（三角帽・二角帽）に国旗と同じ配色のリボンを輪状にピン止めしたのが始まり。特にフランス革命時に、革命派が三色旗（トリコロール）と同じ配色の青・白・赤のリボンを帽子に止めた例が有名で、その後各国の制帽（シャコー帽、ついで各種のつばつき帽）に帽章の一部として取り入れられるようになった。（時代が下るともに、リボンにかわって表面を塗装あるいはエナメル加工した金属製のメダル、または刺繍が用いられるようになった）

1871年に統一したドイツ帝国では、軍帽の上部に帝国共通の黒・白・赤の円形章、その下に統一以前の領邦を示す各自の円形章を着け、国内だけでも多数の円形章が用いられるようになった。第一次世界大戦の敗戦によって帝政が解体した後も、現在に至るまでのドイツの軍帽においては、意味合いを変えながらも、円形章を含む上下2段の帽章というパターンがほぼ踏襲されている。

円形章を取り入れている国の陸軍・空軍の制帽においては、胴部（「鉢巻」ともいう）にその国の国章や軍種・兵科を象徴する意匠（陸軍を象徴する剣や小銃、空軍を象徴する翼やプロペラ等）をあしらった帽章（刺繍又は金属レリーフ）がつき、その上のクラウン部に円形章がつくことが多い。だがこの上下の位置関係が逆になっている例（第三帝国時代のドイツ国防軍や現在のロシア軍等）、胴部に円形章のみがつく例もある。胴部に円形章が付く場合、周囲が木の葉などをかたどった環状の刺繍や金属レリーフで囲まれる場合が多い。

また海軍の制帽（下士官以上）においては、世界各国のモデルになったイギリス海軍の帽章の錨の上の王冠にあたる部分（日本海軍および海上自衛隊の帽章では「桜花」を配する）に円形章がつく。陸軍・空軍の制帽に円形章を取り入れていない国でも、共和制であるため「王冠」の代わりに円形章を用いている国もある。これらの国々のうち、水兵用のつばなし帽にも円形章をつける国とそうでない国がある。

またギャリソンキャップ、ベレー帽などの略帽につく、略式の帽章としても用いられる。

上でのべたように、国旗の色を配した真円形の同心円が基本だが、以下のようなバリエーションも存在する。

周囲が金・銀の縁取りで囲まれる（光線をイメージした放射線状の刻みが入ったり、木の葉のレリーフが刻まれたりする）。
縦長の楕円形である。
配色が同心円でなく、国旗そのままの縦縞や横縞である。
その国を象徴する動植物その他の意匠などが描き込まれる（地色と意匠の色の組み合わせが国旗の配色と同じという場合もある）。

ヨーロッパにおいては、上に述べたドイツの他、ロシア帝国とオーストリア・ハンガリー帝国で円形章が用いられた関係で中・東欧諸国、またスカンジナビア諸国、ベルギー等の制帽で用いられている例が多い。これに対フランス、イタリア等では、礼装の二角帽・シャコー帽で本来のリボンタイプの円形章が用いられるものの、通常勤務に用いられる制帽には用いられない。

ヨーロッパ以外では、ラテンアメリカ諸国に円形章を取り入れている国が多い。このことの背景には、19世紀初頭の独立運動の際、独立派の将兵が将来国旗となるべき旗の色を配したリボンを服や帽子につけたものが独立後の軍服に取り入れられたという事情と、19世紀末～20世紀前半にかけて、この地域の多くの国で軍近代化の模範とされたドイツ軍の影響が考えられる。

またソビエト連邦の赤軍では、赤い星の内側に鎌とハンマーを描きこんだ徽章が帽章として用いられていたが、第二次世界大戦中の1943年にロシア帝国の軍服を思わせるデザインに改定されるにともない、帽章の赤い星も、ロシア帝国時代の円形章を連想させる、縦長楕円形の金の縁取りの内側に組み込まれるようになった。第二次世界大戦後成立した社会主義体制の諸国の軍服の中には、このソ連軍の帽章の影響を受け、円形又は楕円形のパターンの中に、国旗色や共産主義のイデオロギーを象徴する意匠が描きこまれた帽章が制定される例が現れた。これも円形章の一変型といえる。

[編集] 各国における円形章の使用例

特記のない場合は陸軍の制帽における着用法を紹介する。配色は、同心円の場合外側→内側、横縞（●）の場合は上→下、縦じま（■）の場合は左→右の順に記す。

[編集] アジア州

中国
- 中華民国　青天白日章
  - 1949年に台湾に拠点を移して以降の制帽では、青天白日章は帽章の意匠に組み込まれ、単独の円形章としては用いられなくなる[1]
- 中華人民共和国（中国人民解放軍）青（海軍は黒、空軍はライトブルー）地に、金色の1対の稲穂（農業・農民）・歯車（工業・労働者）、中央に縦書きで「八一」（南昌起義の日付）と書き込まれた赤い星（海軍は星の背後に錨、空軍は翼が金色で描きこまれる）
  - 建国初期の1949年～1955年、文化大革命をはさんだ1965年～1985年は、赤い星のみの帽章が用いられる
  - 1987年以降の帽章は、稲穂・歯車に天安門と松葉のリースを加えた意匠が赤い星を囲むデザインとなり、円形の中に収まらない形になった。[2]
朝鮮民主主義人民共和国　金の縁取り（稲穂のレリーフ入り）・青・白・赤（以上3色は細線）・白地に赤い星
ベトナム
- ベトナム民主共和国（1945年～1976年）、ベトナム社会主義共和国（1976年～）赤地に、金色の1対の稲穂（農業・農民）・歯車（工業・労働者）・星 [3]
- 南ベトナム解放民族戦線（1960年～1975年）、南ベトナム共和国（1975年～1976年）●赤・青の地に、金色の1対の稲穂（農業・農民）・歯車（工業・労働者）・星[4]

[編集] ヨーロッパ州

オーストリア　赤・白・赤 [5]
スウェーデン　胴部が金（縁取り）・青（青の中に3つの金色の王冠を逆三角状に配する）、クラウン部が黄・青・黄[6]
デンマーク　赤・白・赤[7]
ドイツ
- ドイツ帝国時代（1871年～1918年）　クラウン部が帝国共通の黒・白・赤、胴部が各領邦ごとに異なる（例：プロイセン－黒・白・黒、バイエルン－白・青・白等）。[8]
- ヴァイマール共和国時代（1918年～1933年）胴部が金地に黒い鷲のシルエット（嘴と脚が赤）、クラウン部が各州を表す配色[9]
- 第三帝国時代（1933年～1945年）　黒・白・赤
- ドイツ連邦共和国（1949年～）　金（または黄）・赤・黒[10]
- ドイツ民主共和国（1949年～1990年）　1対の麦穂（農業・農民）の意匠による縁取り・赤、中央にハンマー（工業・労働者）とコンパス（科学技術・知識人）を重ねた意匠（意匠・縁取りの部分は陸軍・空軍の佐官までは銀色、海軍および陸軍・空軍の将官は金色）[11]
ノルウェー　赤・白・青
ハンガリー　●赤・白・緑 [12]
フィンランド　胴部が赤地に剣を持つライオンの意匠（金色）、クラウン部が白・青・白[13][14]
ブルガリア　●白・緑・赤 [15]
ベルギー　赤・黄・黒 [16]
ロシア　
- ロシア帝国　オレンジ・黒・オレンジ・黒[17]
- ロシア連邦　白・青・赤 [18]
ウクライナ　青地に金色の「三叉の鉾」の意匠

[編集] アメリカ州

メキシコ　赤・白・緑[19][20]
ベネズエラ　黄・青・赤
ペルー　赤・白・赤 [21]
ボリビア　赤・黄・緑
パラグアイ　赤・白・青 [22]
アルゼンチン　空色・白・空色 [23]
ウルグアイ　青・白・赤
チリ　赤・白・青（青の内側に白い星）[24]
世界各国の警察制帽コレクションサイト（フランス語）から、中南米の警察制帽を紹介したページ。うちベネズエラ、ペルー、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイが円形章を使用。[25]

[編集] 軍服以外の使用例

ウィーン少年合唱団の制帽（セーラー服の制服に合わせた水兵帽スタイル）は、クラウン部に金地に黒で鷲の絵が描かれた円形章が着けられている。[26]

三色旗のリボンを帽子につけたサン・キュロット	イタリア	ドイツ（１）	ドイツ（２）
オーストリア	ロシア帝国	ソビエト連邦	フィンランド
スウェーデン	メキシコ	アルゼンチン（右）	チリ
中華民国	北朝鮮	ベトナム（1976年までは「北ベトナム」）	中華民国軍の円形章として使用された青天白日章
ドイツ民主共和国の国章（国家人民軍の円形章としても用いられる）	スウェーデン軍の円形章の配色（国籍マークと同一）	フィンランド軍（クラウン部）の円形章の配色（国籍マークと同一）	アルゼンチン軍の円形章の配色（国籍マークと同一）