阿川弘之
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阿川 弘之(あがわ ひろゆき、1920年12月24日-)は日本の小説家、評論家。学歴は東京帝国大学文学部国文学科卒業。学位は文学士(東京帝国大学)。称号は広島県名誉県民。日本芸術院会員。栄典は文化勲章受章。賞歴は野間文芸賞、毎日出版文化賞、読売文学賞など。役職は日本李登輝友の会名誉会長。阿川尚之、阿川佐和子の父。
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[編集] 来歴・人物
広島市白島九軒町(現中区白島九軒町)に阿川甲一・きみの長男として生まれる(本籍地は山口県美祢市)。2.26事件のときに「だから陸軍は駄目なんだ」と叫び周囲を驚かせる。旧制広島高等学校に入学。本人は広島の学校への進学は気がすすまなかったが、周囲が薦めるので仕方なく従った。ここで広島を訪れた山本五十六に出会い、その陸軍批判を聞きさらに海軍への憧れを強くする。東京帝国大学文学部国文学科を繰り上げ卒業後は、通信科予備士官として海軍に勤務する。本人は軍艦乗り組みを希望したが、なまじ中国語が出来ることをアピールしたのが裏目に出て希望はかなえられず、米中間の通信傍受と暗号解読を担当する通信科特信C班に配属される。終戦時海軍中尉。1945年の終戦を中国漢口で迎えたのちに捕虜待遇のまま海軍大尉昇進し、いわゆるポツダム大尉となる。1946年春、大陸から引き揚げ、原子爆弾により焼き尽くされてしまった故郷広島の街を見る。戦友も多くを亡くした。「自分は生き残ってしまった、と言う無常感が根付いてしまった」。その後志賀直哉に師事して小説を書く。志賀直哉の葬儀を取り仕切ったのは彼である。1953年、一作でいいから、自分達同期生の戦時中の海軍生活をありのまま描いたものを残したい、と亡き友らの鎮魂の思いで描いた『春の城』で読売文学賞を受賞。
海軍予備士官当時、呉港の沖合いに停泊中の戦艦大和を見た経験から、それを小説に書こうとしたが、新潮社の担当編集者に「そんな陰気くさい話を書いても売れません」と拒否される。しかし、吉田満『戦艦大和』がベストセラーになると新潮社の担当は態度を変えて阿川に軍艦ものの執筆を依頼する。これで生まれたのが『軍艦長門の生涯』である。この作品を阿川は武蔵の乗員として戦死した同期二人に奉げる思いで執筆した。以後、原爆や海軍などの自らの戦争体験を通して、戦争の悲惨さや、生きる意味を人間の内面の実感を通して暖かい視線で描いている。また、保守派の論客として評論活動も活発に行っている。ただし、保守が単純なナショナリズムに転化する事に関しては警鐘を鳴らしている。
文部省臨時大学問題審議会委員、文化功労者選考審査会委員を歴任。1999年、文化勲章受章。また、日本芸術院会員。2001年12月から2004年4月まで、日本李登輝友の会・初代会長を務める(現在は名誉会長)。
代表作に、『雲の墓標』のほか、3部作『山本五十六』『米内光政』『井上成美』など。
なお、2006年3月現在、新潮社が『阿川弘之全集(全20巻)』を順次刊行中である。
評論家の半藤一利は「阿川さんは敗亡した祖国日本の葬式をたった一人でやってきたのである」と全集に言葉を寄せている。
[編集] エピソード
狐狸庵こと遠藤周作や北杜夫、吉行淳之介、三浦朱門、開高健らとは親友である。また、大の乗り物ファンとしても知られ、鉄道・航空・船舶に関してなど、乗り物についての著書も多い。このため鉄道紀行作家の宮脇俊三とは、宮脇が中央公論社の編集者であったころから親交が深く、阿川の鉄道関連の本の幾つかは宮脇の勧めによるものである。内田百閒の『阿房列車』シリーズへのオマージュとなる作品も書いている。
大江健三郎とは犬猿の仲で、互いの著作で批判しあっている。
なお当人は東海道新幹線の計画が発表された際、当時欧米では自動車と航空機に押されて鉄道は衰退する物という見解が強まっていたため、日本でもそうなると考えて新幹線に高額な投資を行うのは「世界三大馬鹿」の一つになるといって批判した。後に新幹線が成功を収め、逆に国際的な鉄道斜陽論を覆すに至ると、その見る目のなさを悔いたといわれる。
1970年の映画『トラ・トラ・トラ!』の脚本を当初監督する予定だった黒澤明は阿川の『山本五十六』を下敷きにして書いた。20世紀フォックスは原作料を阿川に支払ったと記録しているが、本人は記憶にないという。
長女の阿川佐和子も文壇で活躍している。
[編集] 受賞歴
- 1953年 『春の城』で読売文学賞
- 1966年 『山本五十六』で新潮社文学賞
- 1987年 『井上成美』で日本文学大賞
- 1994年 『志賀直哉』で野間文芸賞、毎日出版文化賞
- 1999年 文化勲章
- 2002年 『食味風々録』で読売文学賞
[編集] 主な著書
- 年年歳歳
- 魔の遺産
- 春の城
- 雲の墓標
- 暗い波濤
- 軍艦長門の生涯
- 山本五十六
- 米内光政
- 井上成美
- 志賀直哉
- 国を思うて何が悪い ―一自由主義者の憤慨録―
- 国を思えば腹が立つ
- 南蛮阿房列車
- 南蛮阿房第二列車
- お早く御乗車願います
- ぽんこつ
- きかんしゃ やえもん(岡部冬彦画)
- 雪の進軍
- 葭の髄から
- 亡き母や
- いるかの学校
- 女王陛下の阿房船
- 故園黄葉
- 食味風々録
- 論語知らずの論語読み
- 酔生夢死か、起死回生か。(北杜夫との共著)