鴉
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鴉(からす、烏とも表記する)は、カラス科・カラス属 Corvus の鳥類の総称。その多くは黒い羽色で知られる(羽色の白い部位もあるホシガラス等の例もあり、必ずしも黒いわけではない)。岩手県北上市で全身が白いカラスが目撃された(原因はアルビノとも突然変異とも言われている)。
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[編集] 東西の鴉
日本語でいう「鴉」は、普通は留鳥のハシブトガラスとハシボソガラスの2種をさす。 渡り鳥で冬飛来する鴉は、北海道にワタリガラス、西日本にミヤマガラスである。迷鳥を含めると、7種が記録されている。日常語ではこれら全身が黒い鴉を通常は区別することはない。
なおハシボソガラスの分布はユーラシアに広く生息するが、ハシブトガラスの分布は東アジアと南アジアに限られる。ヨーロッパでは、ハシボソガラス、ワタリガラス(raven)、ミヤマガラス(rook)が一般的である。
英語ではこのように、crow, raven, rook は日常語レベルで別の鳥とみなしていることが特徴である。文化的にもそれぞれが違うイメージを付与されている。
英語のそれらを和訳する際(特に文学作品)には、ハシボソガラス等を指す crow と区別して、raven を「大ガラス」と訳すことがある。エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」はその一例である。ただし、近年ではraven を「ワタリガラス」と訳したり、そのまま音読で記す場合も多い。
[編集] 生態
翼長は50~60センチ。雑食性でゴミや動物の死体をついばんでいるところがよく目撃される(都市部では、エサを得る為にごみ集積所を荒らすという行動が問題となっている)。脂身を好み、蝋燭や石鹸を持ち出す姿が目撃されている。繁殖期は春~夏で、一夫一妻制で協力して子育てを行う。巣は樹上に小枝を組んで作るが、最近では電信柱や看板などに営巣することもあり、また巣の材料も針金・プラスチックなどさまざまなものを新規採用するようになっている(電線に針金類で営巣した場合、しばしばショートの原因となり、問題となっている)。営巣期間中は縄張り意識が強く、不用意に巣に近づいた人間や動物を攻撃するといった行動が見られる。抱卵期間は20日前後、巣立ちまでの期間は30~40日程度。産卵数は2~5(ハシブト)ないし3~5(ハシボソ)程度。巣立ち後も2~3ヶ月程度は家族でグループを組んで生活し、その後ひとり立ちをする。繁殖期以外は大規模な群れを作る。群れも仲間が窮地に陥ると他のカラスが助けに入ることもあるらしく、事故死したカラスを仲間のカラスが助けようとしている姿が目撃されている。
鳥類では最も知能が発達しているとされ、その程度は原始時代の人類ほどの知能だとも言われる[要出典]。協力したり、鳴き声による意思の疎通を行っている事が知られ、遊戯行動をとる事も観察されている。仙台市の青葉山では、ハシボソガラスが道路にクルミを置き、自動車に轢かせて殻を割るという行動が報告されている。これはカラスの知能が非常に高い事の証左である。色が識別でき、人間と同じRGBの他にV(紫)も識別できる。1996年、神奈川県で鉄道のレールの上にカラスが石を置くという事件が頻発した。その後も同様の事件が全国各地で散発している為、鉄道各社は対策に苦慮している。電線にぶら下がって「ブランコ」のような遊びをしていた、神社の賽銭を盗み自動販売機でハトの餌を購入していると報道されたこともあった。
[編集] カラスの肉
カラスの肉は、食用には適さないと考えられがちだが、中には食用にする地域・文化もあり、鯨肉などに近い味という意見もある。
2003年8月8日付の読売新聞報道(「カラスの肉は栄養豊富?帯畜大の食用化研究:北海道」)によると、帯広畜産大学畜産科学科関川三男助教授らのグループが、カラスの食用化を探る研究を進めている。研究は、将来の食糧難対策と、有害鳥獣として処分されるカラスの有効活用にメドをつけるのが目的。カラスの胸肉は、鯨肉にも豊富に含まれるミオグロビンと呼ばれる色素が多く、赤みが強いのが特徴。食感や味は鶏の胸肉に似ており、学生に食べさせたところ、評判も上々だったという。
東京都は、カラス嫌いで有名な石原慎太郎知事(かつて、ゴルフのプレイ中にカラスに襲われた個人的なトラウマが原因)が、ミートパイにして東京名物にすべきだと提唱したことがある。これは実現しなかったが、後に東京MXテレビの番組企画で、テリー伊藤らが用意したカラス肉のミートパイを石原は食べる羽目になった。
カラスの繁殖が著しい東京などでは、ホームレスがカラスを食糧にしているということが言われることはあるが、全くありえないとは言えないにせよ、一般的とは考えられず(コンビニや各種飲食店の残飯などが豊富であるため)、これに関しては、多くは都市伝説の域を出ないものと推測される。
[編集] イメージ
黒い姿から、『カラスが鳴くと人が死ぬ』、『カラスが集まる場所では死人が出る』等と言われ、不吉であると信じる人もあるが、カラスの実際の羽色は、「烏の濡羽色(からすのぬればいろ)」という表現もある通り、深みのあるつややかな濃紫色である(「烏の濡羽色」は、黒く青みのあるつややかな色の名前で、特に女性の美しい黒髪の形容に使われる事が多い。烏羽(からすば)色、烏羽とも)。
ファンタジー小説やゲームでは、黒猫などと並んで魔法使いの使い魔とされる事が多い。賢さと不吉なイメージからであろう。
アニメでは、「アーホーアーホー」とバカにしたように鳴くギャグが頻繁に用いられる。
[編集] 神話・伝説
[編集] 日本
日本において、カラスは古来、吉兆を示す鳥であった。神武天皇の東征の際には、3本足のカラス「八咫烏(やたがらす)」が松明を掲げ導いたという神話がある。日本サッカー協会のシンボルマークはこの八咫烏である。
但し、3本足のカラスという外形そのものは、中国起源の「日烏」である。中国では古来、太陽にはカラス、月にはウサギまたはヒキガエルが棲むとされてそれぞれの象徴となった。月日の事を「烏兎(うと)」と呼ぶ用例等にこれが現れている。足が3本あるのは、中国では奇数は陽・偶数は陰とされるので、太陽の象徴であるカラスが2本足では表象にずれが生じるからである。このカラスの外形の起源に付いては、黄土の土煙を通して観察された太陽黒点から来ているのではないかとする説がある。
カラスは熊野三山の御使いでもある。熊野神社等から出す牛王宝印(ごおうほういん)は、本来は護符であり、近世には起請文を起こす用紙ともされたが、その紙面では、カラスの群れが奇妙な文字を形作っている。これを使った起請を破ると、熊野でカラスが3羽死に、その人には天罰が下るという。なお、熊野は、神武天皇が東征の際に八咫烏と会った地である。「三千世界の烏を殺し、主(ぬし)と朝寝がしてみたい」とは、高杉晋作が唄ったとされるざれ唄で、この伝説に由来している(うるさく鳴くカラスを皆殺しにしてゆっくり眠りたい、と解釈される事もあるが、上記の伝説を知らない為の誤解である)。また、「誓紙書くたび三羽づつ、熊野で烏が死んだげな」という小唄もある。
また神話・伝説上では通常、私達が見慣れているカラスとは色違い・特徴違いのカラスが存在する。それらは、吉祥と霊格の高い順に八咫烏、赤烏、青烏、蒼烏と白烏が同等とされている。
民話のひとつには次のようなものがある。 カラスは元々白い鳥だったが、フクロウの染物屋に綺麗な色に塗り替えを頼んだところ、黒地に金や銀で模様を描けば上品で美しく仕上がると考えたフクロウはいきなりカラスの全身を真っ黒に塗ってしまい、怒ったカラスに追い掛け回され、今ではカラスが飛ばない夜にしか表に出られなくなった。カラスはいまだにガアガアと抗議の声を上げている、という。 似たような話に、欲張りなカラスの注文に応じて様々な模様を重ね塗りしていくうちに、ついに真っ黒になってしまった、というものもある。
元は違う色だったものが何らかのアクシデントで真っ黒になってしまった、という伝承は世界各地に見られる。
[編集] イギリス
イギリスに於いては、アーサー王が魔法をかけられてワタリガラス(大ガラス)に姿を変えられたと伝えられる。この事から、ワタリガラスを傷付ける事は、アーサー王(さらには英国王室)に対する反逆とも言われ、不吉な事を招くとされている。また、ロンドン塔に於いては、ロンドンの大火の際に大量に繁殖したワタリガラスが時の権力者に保護され、ワタリガラスとロンドン塔は現在に至るまで密接な関係にある。尚、J.R.R.トルーキンのホビットの冒険作中に、ワタリガラス(訳書によってはオオガラスと訳されている物もあるが、どちらも英語では Raven である)の一族が登場するが、これも英国王室に少なからぬ関係を持つワタリガラスを尊重しての登場だと言われている。ただし、指輪物語にも登場するクレバインと呼ばれる大鴉たちはむしろ邪悪の陣営の走駆としての役どころである。
[編集] 北欧神話
北欧神話では、主神であり、戦争と死を司る神、オーディンの斥候として、2羽のワタリガラス「フギン(=思考)とムニン(=記憶)」が登場する。このワタリガラスは世界中を飛び回り、オーディンに様々な情報を伝えているとされる。
[編集] ギリシア神話
ギリシア神話では太陽神アポロンに仕えていた。色は白く言葉も話す事が出来る非常に賢い鳥だった。 しかしある時、アポロンの元を去ったコロニスがイスキュスと結婚した事をアポロンに密告したカラスは、悪戯好きな性格から、あること無い事を脚色して話したため、アポロンは必要以上に怒り、コロニスを焼き殺してしまった。 しかし、我に返ったアポロンは後悔し、きっかけを作ったカラスに行き場の無い怒りをぶつけた。 真っ白だったカラスは炎に焼かれて黒コゲに。声も潰れて、言葉を話すどころか、醜い鳴き声を発する事しか出来なくなった。 カラスは天界を追放されたが、今も反省はしていないようだ。
[編集] 旧約聖書
旧約聖書では、大洪水の間、カラスは禁を破って箱舟の中で交尾を行った為、全身を黒色にされてしまったとされている。また、洪水の後初めて外に放たれた動物でもある。
[編集] エジプト
古代エジプトでは太陽の鳥とされた。
[編集] 慣用句・名文句
烏を用いた慣用句や名文句は次のようなものがある。
- 烏の行水(すぐに風呂から上がってしまうこと)
- 烏の足跡(目じりのしわが足跡のように見えることから)
- 烏の髪(黒髪のこと)
- 烏の鳴かぬ日はあっても(語尾に毎日何かが行われる様子を書く 物事を強調するために用いる)
- 烏の濡れ羽色(しっとりと濡れたような黒色 烏の髪と同様に黒髪を指す場合が多い)
- 闇夜に烏(見分けがつかないことの例え)
- ねぐらへ帰る烏が二羽、三羽(昭和時代の名アナウンサーである松内則三が、1929年(昭和4年)秋の東京六大学野球早慶3回戦の実況の際、夕暮れの神宮球場の情景をラジオで伝え、これがレコード化されたため著名になった文句[1])
[編集] 飛行機
二宮忠八は、カラスが翼を広げて滑空する姿から、この翼の原理を応用すれば空を飛ぶ機械が作れると発想。1891年(明治24年)にゴム動力模型飛行機(カラス号)の初飛行を成功させた。
また、ナチス・ドイツの戦闘機は全体的に黒色だったためカラスに例えられた。
[編集] 鴉が登場する作品
- 『七つの子』 - 野口雨情の詩。本居長世作曲の童謡、志村けんの替え歌の元として広く知られている。子を思う親の心情を山に帰る鴉に託して歌う。
- 『ダンボ』 - ディズニー作品。
- 『ヘッケルとジャッケル』 - ヘッケルとジャッケルは本来カササギであるが、日本の放送ではカラスとされたことがある。
- 『からすのパンやさん』 - 加古里子の絵本。
- "The Raven" - ポーの詩の中でも特に有名である。愛する女性を亡くした男の部屋に鴉が舞い込み"Nevermore"(もう二度とない)という鳴き声を繰り返すという暗鬱な内容。
- 『鴉』 - 清水重道の詩。氷の上を飄々と歩く大鴉を印象的に歌う。信時潔は歌曲集「沙羅」の中でこれをとりあげ、狂言を思わせる曲を付けた。
- GARNET CROW - 日本語訳すると『深紅のカラス』の名を持つバンド。ファンクラブの紋章にはカラスが用いられている。
[編集] カラスをモチーフとしたキャラクター
- 「東映太秦映画村」のシンボルキャラクター「かちん太」と「うじゅ」(公式設定では「鴉天狗」の兄妹となっている)
- 森永製菓のチョコボールのキャラクター「キョロちゃん」(但しキョロちゃんは公式設定では単に「架空の鳥」とされており、種は設定されていない)
- RPG『バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海』の主人公「カラス」
- テレビアニメ『パンツぱんくろう』の主人公「ぱんくろう」
- 特撮番組『魔弾戦記リュウケンドー』に登場するメカ「獣王デルタシャドウ」
- OVA『鴉 -KARAS-』の主人公が変身するヒーロー「鴉」
- 任天堂のゲーム『ポケットモンスター』のポケモン「ヤミカラス」、「ドンカラス」
- 荻野真の漫画作品『夜叉鴉』の主人公「夜叉鴉」
[編集] カラスを使った楽器
[編集] 関連項目
- 鳥の一般名の記事
- 一般名の記事では、種の記事と違った側面(文化的、人との関わりなど)の記述がなされる。
[編集] 参考文献・出典
- ^ 松井高志編「野球“きまり文句”小辞典」 ココログ、2005年12月8日。
[編集] 外部リンク
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