新交通システム
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新交通システム(しんこうつうシステム)とは、従来の鉄道とは異なった方式による軌条式輸送システムのこと。
広義ではモノレール・ライトレール・案内軌条式鉄道・ガイドウェイバス・磁気浮上式鉄道・スカイレール・IMTSなどを指すこともあるが、そのなかでも特に案内軌条式鉄道(AGT(Automated Guideway Transit)とも略称される)による中量輸送システムを(狭義の)「新交通システム」と呼称することが一般的である。
本項では主にこの案内軌条式鉄道による新交通システムについて著述する。
これは、走行にはバス同様のゴムタイヤを使い、騒音や振動などが少なく、地形の厳しい場所にも建設可能とされる。従来の鉄道とバスの中間程度の輸送力を持ち、主に都市近郊で建設されている。
目次 |
[編集] 概要
日本で初めて導入されたのは1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会の観客輸送用のKRT(沖縄の鉄道の項目も参照)で、初めて実用化されたのは、1981年に開業した神戸市のポートライナーと大阪市のニュートラムである。
案内軌条式鉄道の方式には走行路中央に案内軌条(ガイドウェイ)がある中央案内軌条方式と、側方にある側方案内軌条式がある。中央案内軌条式が採用されたのは山万ユーカリが丘線と桃花台新交通桃花台線(2006年10月1日付で廃止)だけで、それ以外は側方案内軌条式を採用している。 初期には方式が乱立していたが、1983年に当時の建設省・運輸省の指導で「標準型新交通システム」として統一規格が作られ、それ以降に計画された新交通システムは、この規格に基づいて建設されている。統一規格では、車両は自動制御で、ゴムタイヤを使用し、側方に設けられた案内軌条に沿って走行することとしている。
事業者としては、補助金交付などの関係から、第三セクター会社あるいは地方公営企業(交通局)といった公的組織が多い。
法規上は、鉄道事業法に基づく「鉄道(案内軌条式鉄道)」と軌道法に基づく「軌道(案内軌条式)」の両方が存在する。いずれか一方によるケースのほか、道路占用や開発事業に係る補助金等の関係で両方が混在しているケースも少なくない。また、都市計画法の定める都市施設では、新交通システムは都市計画道路のうちの「特殊街路」に分類される。
ガイドウェイバスも新交通システムの一種であるが、ガイドウェイで案内されて走行する専用軌道区間についてのみ軌道法が適用され、バスとして一般道路を走行する区間は道路運送法や道路交通法などが適用される。スカイレールも広義の新交通システムの一つといえるが、軌道(懸垂式モノレール)として軌道法による特許を受けている。また、札幌市交通局が運営する地下鉄もゴムタイヤ・案内軌条式鉄道だが、新幹線を除く日本の鉄道車両では最大寸法車両のため新交通システムの中には含めないのが一般的。
車両は全ての事業者が、車体の中間に一つないしは二つのドアを持つ小型車両で、ゴムタイヤによる走行音の小ささや、建設費の安さ、何よりその近未来的なイメージが、鉄道よりも手軽な公共交通機関を求める大都市の近郊自治体などの目にとまり、郊外に造成したいわゆるニュータウンの足として、幾つかの新交通システムが建設された。
しかし、劣化しやすいゴムタイヤは予想以上に維持費を必要とし、また建設費も当初の期待ほど安くはならなかった。また、既存の普通鉄道とは互換性が無いというのも弱点と見られる(直通運転を行うには双方のシステムが同一の新交通システムでなければならない[1])。1990年代前半にはいくつもの路線が開業したが、その後は他の交通モード(ガイドウェイバスやHSSTなど広義の新交通システム)に対する助成制度も整いつつあることから、様子を見る自治体が増え始めている。
[編集] 日本の新交通システム
[編集] 日本の新交通システム一覧
事業者名 | 路線名(愛称) | 鉄軌道 の別 |
営業キロ | 開業年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
埼玉新都市交通 | 伊奈線(ニューシャトル) | 鉄道 | 12.7km | 1983年 | |
東京都地下鉄建設 | 日暮里・舎人ライナー | 軌道 | 9.8km | 2007年(予定) | |
ゆりかもめ | 東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ) | 鉄道 | 6.8km | 1995年 | |
軌道 | 7.9km | ||||
横浜新都市交通 | 金沢シーサイド線(金沢シーサイドライン) | 軌道 | 10.6km | 1989年 | |
西武鉄道 | 山口線(レオライナー) | 鉄道 | 2.8km | 1985年 | |
山万 | ユーカリが丘線 | 鉄道 | 4.1km | 1982年 | |
愛知高速交通 | 東部丘陵線(リニモ) | 鉄道 | 8.9km | 2005年 | 磁気浮上式鉄道(HSST) |
名古屋ガイドウェイバス | ガイドウェイバス志段味線(ゆとりーとライン) | 軌道 | 6.5km | 2001年 | ガイドウェイバス |
桃花台新交通 | 桃花台線(ピーチライナー) | 軌道 | 7.4km | 1991年 | 2006年廃止 |
大阪市交通局 | 南港ポートタウン線(ニュートラム) | 鉄道 | 3.3km | 1981年 | |
軌道 | 4.6km | ||||
神戸新交通 | ポートアイランド線(ポートライナー) | 鉄道 | 3.0km | 1981年 | |
軌道 | 7.8km | ||||
六甲アイランド線(六甲ライナー) | 鉄道 | 1.5km | 1990年 | ||
軌道 | 3.0km | ||||
広島高速交通 | 広島新交通1号線(アストラムライン) | 鉄道 | 0.3km | 1994年 | |
軌道 | 18.1km |
[編集] 日本の新交通の経営状況
日本全国の新交通の赤字額及び黒字額を示すと以下のようになる。▲は赤字を示す。山万、西武は除く。
事業者名 | 会計年度 | 純損益 | 累積欠損金 | 出典 |
---|---|---|---|---|
埼玉新都市交通 | 2005年度 | 約 8400万円 | 約 11億3600万円 | [1] |
ゆりかもめ | 約 1億7800万円 | 約443億6600万円 | [2] | |
横浜新都市交通 | 約 7億5027万円 | 約171億5851万円 | [3] (PDF) | |
愛知高速交通 | 約 3億4011万円 | 約289億4286万円 | [4] | |
名古屋ガイドウェイバス | ▲約18億5212万円 | 約 18億1217万円 | [5] | |
桃花台新交通 | ▲約 2億3212万円 | 約 65億8452万円 | [6] (PDF) | |
大阪市交通局 | 2004年度 | ▲約11億6200万円 | 約198億8800万円 | [7] (PDF) |
神戸新交通 | 2005年度 | ▲約 2億2400万円 | 約351億7300万円 | [8] (PDF) |
広島高速交通 | ▲約 5億5444万円 | 約102億1380万円 | [9] |
[編集] 世界の新交通システム一覧
日本以外の国の新交通システムは以下の通りである(建設中の物を含む)。
国名 | 都市名 事業者名 |
愛称 | 営業キロ | 開業年 |
---|---|---|---|---|
シンガポール | シンガポール (SMRT) |
Bukit-Panjang LRT | 7.8km | 1999年 |
Sengkang LRT | 不明 | 不明 | ||
Punggol LRT | 不明 | 不明 | ||
台湾 | 台北 (台北捷運) |
木柵線 | 10.5km | 1996年 |
内湖線 | 14.8km | 建設中 | ||
フランス | リール | VAL | 29km | 1984年 |
レンヌ | VAL | 9.4km | 2002年 | |
トゥールーズ | VAL | 12.3km | 1993年 | |
ドイツ | ドルトムント | Einschienenbahn | 不明 | 不明 |
イタリア | トリノ | VAL | 不明 | 建設中 |
カナダ | トロント (トロント交通局) |
Scarborough RT | 6.4km | 1985年 |
アメリカ合衆国 | デトロイト | Detroit People Mover | 4.8km | 1987年 |
マイアミ | Miami Metromover | 不明 | 1986年 | |
モーガンタウン | Morgantown Personal Rapid Transit | 不明 | 1975年 |
[編集] 空港内軌道
上記の他、大規模な空港ではターミナル間などの移動用に新交通システムを導入する例が近年増えている。関西国際空港の「ウイングシャトル」もこの一例であるが、日本の鉄道事業法や軌道法による鉄道・軌道には含まれない。あくまでも、エレベーター、エスカレーター、動く歩道、と同様の構内の移動手段であるため、料金は掛からない場合が多い。
- アジア
- ヨーロッパ
- アメリカ
- アトランタ - ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港
- シカゴ - オヘア国際空港
- シンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港
- ダラス・フォートワース国際空港
- デンバー国際空港
- デトロイト・メトロポリタン国際空港
- ヒューストン - ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港
- ラスベガス - マッカラン国際空港
- マイアミ国際空港
- ミネアポリス・セントポール国際空港
- ニューアーク国際空港(AirTrain Newark)
- ニューヨーク - ジョン・F・ケネディ国際空港(AirTrain JFK)
- オーランド国際空港
- ピッツバーグ国際空港
- サンフランシスコ国際空港(AirTrain SFO)
- シアトル・タコマ国際空港
- タンパ国際空港
[編集] 註
- ^ 新交通システム同士の相互乗り入れの例は、OTSニュートラムテクノポート線が大阪市交通局ニュートラムと行っていたのが日本では唯一のものであったが、2005年7月にOTSニュートラムテクノポート線が大阪市交通局に吸収され相互乗り入れではなくなった。ただしニュートラムテクノポート線のうちコスモスクエア~トレードセンター前間の線路はOTSが第三種鉄道事業者として保有している。