JR北海道721系電車
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721系電車(721けいでんしゃ)は、北海道旅客鉄道(JR北海道)の交流近郊形電車。
目次 |
[編集] 概要
従来から711系や50系(51形)客車を使用してきた札幌近郊において、通勤・通学等の輸送需要の増加に対応するべく開発された車両で、1988年(昭和63年)11月3日に営業運転を開始した。
サイリスタ位相制御を用いた3両編成を基本単位としたが、空港アクセス輸送(新千歳空港駅乗り入れ)対応で6両固定編成が1992年(平成4年)に投入(5次車)され、翌1993年からはVVVFインバータ制御の1000番台が1994年まで増備(6・7次車)された。
2000年には指定席の内装を改装した「uシート」を一部の車両に設定、2002年3月からの130km/h運転に伴い、一部の車両は改造を受け3000番台とされた。
2003年の快速「エアポート」編成増強の際には中間車が製作され(8次車)、編成を組み替えた車両は4000番台・5000番台とされている。
製造元は川崎重工業、日立製作所、東急車輛製造の車両メーカーの他、JR北海道苗穂工場でノックダウン生産された車両もある。
[編集] 構造
車体は軽量ステンレス製で、上部に灯火類を設けた貫通式の前面形状はキハ183系500番台に類似する。客用扉は片開き式を片側3箇所に設ける。車体の帯色は、一般車は萌黄色(ライトグリーン)、uシート車は側窓下部のみ濃青+赤である。北海道の普通列車用車両として初めて冷房装置を搭載した。側窓は大型の固定窓で、2003年製の8次車以外は冷房故障時の換気のため一部が開閉できるようになっている。
運転席にはプラズマディスプレイ単色表示のモニター装置を装備し、JRグループの車両としては初めて、ワンハンドルマスコンを採用した。
台車は211系などのDT50系ボルスタレス台車を基本に、基礎ブレーキ装置を鋳鉄制輪子両抱き方式としたN-DT721系を装備する。1000番台(6次車)以降は軸梁式のN-DT721A系とされた。
室内は寒冷対策として両開き式の仕切り扉を設けたデッキがあり、客室は前後2室に分かれる。座席は2+2列の転換クロスシートで、デッキ隣接部のみは1+1列となる。指定席「uシート」として使用される車両にはフリーストップ式のリクライニングシートを設置する。8次車はデッキ扉を廃止し、扉隣接部の座席を2人掛けロングシートとしている。
制御方式は、5次車まではサイリスタ位相制御、1000番台(6次車)以降はVVVFインバータ制御を採用している。パンタグラフは中間のモハ721形に下枠交差式を装備したが、全車がシングルアーム式に交換された。
その他、製造年次や改造などによる仕様の相違を以下に示す。
[編集] 製造年次による区分
721系は製造年次ごとにグループ分けがなされ、製造初年の1988年から1年毎に「~次車」と呼ばれる。
- 1~4次車(1~22)
- 1988~1992年に製造された。制御方式はサイリスタ位相制御で、屋根上に発電ブレーキ用の抵抗器を設置する。クモハ721+モハ721+クハ721の3両編成。最高速度120km/h。
- 製造年次ごとに細部の仕様が異なり、詳細は下表のとおり。
製造年次 番号 |
表記文字色 | 座席配色 | デッキ仕切配色 | 抵抗器カバー 形状 |
現況 |
---|---|---|---|---|---|
1次車 1~8 |
黒 | 赤 手掛は黄色 |
青+白スズラン | 台形 | |
2・3次車 9~18 |
黄緑 縁は白 |
茶 | 水色+青スズラン | 台形 | 15以降は 3000番台化 |
4次車 19~22 |
白 | 茶 | 水色+青スズラン | クーラーと同形状 | 全車 3000番台化 |
- 15以降の車両は2002年に130km/h対応改造を受け、車両番号は3000番台(3015~3022)に変更された。17(現3017)は本系列で唯一、JR北海道苗穂工場でノックダウン生産された編成である。
- 5次車(23, 101~103, 201~203)
- 新千歳空港乗り入れ対応用として1992年に製造された、6両固定編成用の車両。基本仕様は4次車と同一で、新たに中間車モハ720形・サハ721形が設定された。
- 23は4次車の22(F-22編成)を6両化するため中間車のみが製作された。これ以外は100番台に区分され、100番台は新千歳空港側、200番台は小樽側の車両である。
- 小樽←クモハ721-200+モハ721-200+サハ721-200+モハ720-100+モハ721-100+クハ721-100→空港
- 2002年に全車が130km/h対応改造を受け、車両番号は3000番台(3023,3101~3103,3201~3203)に変更された。
- 6~7次車(1001~1009)
- 1993年から製造された。785系の制御システムを採用し、GTO素子式VVVFインバータで主電動機N-MT785形(215kW)を制御する。出力増大のため電動車は1M方式となり、番号は1000番台に区別された。クハ721-1000+モハ721-1000+クハ721-2000の3両編成を基本単位とする。最高速度130km/h。
- 1001~1008は2003年の編成変更で8次車を組み込んだ6両固定編成に変更され、車両番号は4000番台(ブレーキ遅れ込め制御なし)5000番台(ブレーキ遅れ込め制御付)に変更された。
- 1994年製造の最終番号1009は次期通勤形電車(→731系)のシステム試験に供され、VVVFインバータの半導体素子をIGBTに変更した他、発電ブレーキから電力回生ブレーキとしたため屋根上のブレーキ用抵抗器が廃止された。2003年の編成組替を受けず、1000番台として残存する唯一の編成である。
- 8次車
- 快速「エアポート」編成変更のため2003年に製造された車両。731系の制御システムを採用し、IGBT素子式VVVFインバータで主電動機N-MT731形(230kW)を制御する。抑速装置は電力回生ブレーキを装備し、屋根上にブレーキ用抵抗器は設置しない。最高速度130km/h。パンタグラフは当初よりシングルアーム式。
- 製造はモハ721形・サハ721形の中間車のみで、先頭車は既存の編成を組み替えて充当した。車両番号は4000番台(ブレーキ遅れ込め制御なし)5000番台(ブレーキ遅れ込め制御付)。
- 戸袋窓(uシート用サハは存置)・非常窓が廃止されたため窓配置が変わっている。側面窓は当初からポリカーボネート製である。防雪および氷塊落下事故防止のため、床下には789系などと同様の、全体を覆う機器カバーを設置。
- 室内はデッキ扉を廃止し大型の袖仕切を設け、扉隣接の座席はロングシートに変更された。座席の配色は青を基調とする。扉周辺の配置や配色は731系に類似する。トイレは車椅子対応の大型のものが設置された。uシート車両はデッキ扉を片開き式自動ドアとし、座席等の内装も大幅に変更された。
- モハ721-5001の1両のみは編成組替で捻出された先頭車と組成し3両編成とするため、室内配置は他の8次車と同一であるが、デッキ扉が設けられている。
[編集] 改造
- 「uシート」設置改造
- 快速「エアポート」に運用される編成を対象に、「uシート」として、指定席部分のリクライニングシート化・座席間隔の拡大などの改装を2000年から実施した。当初は半室のみの設定で、6両固定編成の4号車(サハ721形)および、一部の3両編成(新千歳空港方先頭車)に設置し、該当車室部の車体帯は赤+青として識別を容易にした。
- 2003年の編成変更でuシートは1両全車に拡大され、内装設備を一新した車両が投入されたほか、エアポート運用から外れた編成では普通席への復元が行われた。現在、uシートは6両固定編成の4号車(サハ721形)全車と、F-1009編成の先頭車(クハ721-1009)に設置される。
- 130km/h運転対応改造
- 2002年3月からの快速「エアポート」130km/h運転に対応するため、同列車に運用する2~5次車について以下の改造を行った。
- ブレーキ装置を130km/h運転対応のものに強化、前照灯をHIDに交換したほか、冬季の石跳ねによる破損防止のため、客室窓をすべてポリカーボネート板に交換した。運転席のモニター装置はカラー液晶ディスプレイに更新し、自動放送装置を取り付けている。
- 改造車は車両番号に3000をプラスし、3000番台として区別している。
- その他改造
- 冬季の着雪による離線を防ぐため、モハ721形のパンタグラフを下枠交差式からシングルアーム式に換装した。8次車以外の全車が対象で、785系と同形のN-PS785形を装備した。2006年に全車の換装を完了している。
- 運転室助士席側の前面窓を客室窓同様のポリカーボネート製に交換する改造、および、快速「エアポート」に運用される車両を中心に、8次車に標準装備された床下機器カバーを在来車に追設する改造が順次実施されている。
[編集] 編成・運用
全135両が札幌運転所に配置され、快速「エアポート」、区間快速「いしかりライナー」に充当される他、普通列車として以下の区間で運用される。
※夏季には「北海道デスティネーションキャンペーン」の一環として「はなたび北海道」のラッピングを施した快速「エアポート」編成を運行している。
編成番号は中間電動車の番号に識別記号「F」を付加した番号で、3両単位で付番される。6両固定編成は前後の3両が各々別の編成番号をもつ。
[編集] 3両編成
- F-1~F-14
- 3両編成14本(42両)が在籍。初期の1・2次車の編成である。区間快速「いしかりライナー」と普通列車に運用されている。
- F-3015~F-3021
- 3両編成7本(21両)が在籍。2~4次車を2002年に130km/h対応改造した3000番台の編成である。現在ではF-1~F-14編成と共通に区間快速「いしかりライナー」や普通列車に運用されている。
- 2003年までは快速「エアポート」の運用があり、F-3015・F-3017・F-3019編成は新千歳空港方先頭車の半室をuシートとしていた。2003年の運用変更で「uシート」は普通席に戻されたが、当該車両は床の模様が他の車両と異なるため識別は容易である。
- F-1009
- 3両編成1本(3両)が在籍する。2003年に編成変更されず残存した唯一の1000番台編成である。新千歳空港方先頭車の全室がuシートに改造されている。
- F-5001編成と混成し、6両編成での運用が多い。快速「エアポート」の予備編成的存在で、現在は区間快速「いしかりライナー」や普通列車で運用されるが、他の「エアポート」編成の検査などがある場合は、快速エアポートにも運用される。
- F-5001
- 3両編成1本(3両)のみ在籍。2003年の編成組替で捻出された1000番台の先頭車2両に、新製した電動車モハ721-5001を組成し3両編成としたもの。F-1009編成と混成し、6両編成での運用が多い。
[編集] 6両編成
全編成とも、普通車指定席「uシート」を4号車の全車に設定する。主に快速「エアポート」として運用される。
- F-3023+F-3022
- 6両編成1本(6両)が在籍。
- 1992年、3両編成であった4次車F-22編成に中間車3両(5次車)を組み込み、6両固定とした編成である。2002年の130km/h対応改造で3000番台となった。4号車に「uシート」を設定する。
- F-3022編成は6両編成の小樽方3両、F-3023編成は新千歳空港方3両を指す。
- F-3100番台+F-3200番台
- F-3101~3103+F-3201~3203編成の6両編成3本(18両)が在籍。
- 1992年に6両固定編成で製造された5次車を2002年に130km/h対応改造し、3000番台化した編成である。4号車に「uシート」を設定する。
- F-3100番台は6両編成の新千歳空港方3両、F-3200番台は小樽方3両を指す。
- F-4100番台+F-4200番台
- F-4101~4104+F-4201~4204編成の6両編成4本(24両)が在籍。
- 2003年の編成変更で、1000番台の6両(3+3両)編成3・4両目の先頭車を新製した中間車(付随車2両)に組み替え、6両固定とした編成である。4号車に「uシート」(新型)を設定する。
- 電動車は従来の1000番台仕様で、ブレーキ遅れ込め制御を持たないため編成の全車を4000番台として区別する。
- F-4100番台は6両編成の新千歳空港方3両、F-4200番台は小樽方3両を指す。
- F-5100番台+F-5200番台
- F-5101~5103+F-5201~5203編成の6両編成3本(18両)が在籍。
- 2003年の編成変更で、4000番台編成の組成で捻出された1000番台先頭車2両に、新製した中間車4両(電動車2両+付随車2両)を組み込み6両固定とした編成である。4号車に「uシート」(新型)を設定する。
- 新製した電動車の制御システムが従来車と異なり、ブレーキ遅れ込め制御を行うため編成の全車を5000番台として区別する。
- F-5100番台は6両編成の新千歳空港方3両、F-5200番台は小樽方3両を指す。
[編集] その他
Nゲージ鉄道模型として、マイクロエースが0番台と1000番台を製品化(2002年以前の仕様)している。
[編集] 参考文献
- 交友社『鉄道ファン』1992年9月号 No.377 p65
- 交友社『鉄道ファン』2003年12月号 No.512 p64~69