スバル・レックス
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レックス (Rex) は、富士重工業で生産されていたスバル360、R-2に続く軽自動車である。
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[編集] 歴史
[編集] 初代(1972年~1981年)
初代は1972年7月に登場。1971年に追加された水冷R-2をベースとした。駆動方式はRRを採用し、当初は2ドアセダンのみの展開。このため、R-2は空冷セダンとバンを残して併売された。エンジンは2サイクルで、キャブレターの仕様により3種が設定されていた。デザインはR-2の反省を踏まえ、前年発売のレオーネに似た、ウェッジシェイプを強調したもので、当時の若者層に受け入れられるデザインにしたようなのであったが、好き嫌いの分かれるものとなっていた。2ドアモデルのアウタードアハンドルは独特のグリップ形状をしている。
翌年の1973年2月に4ドアセダンを追加し、10月には伝統の2サイクルエンジンを捨て4サイクルエンジンに換装。このときスポーツエンジン搭載車種はカタログ落ちした。さらに1974年には5速MT車やワゴン、バンを追加している。ワゴン・バンは乗用車のシルエットそのままのモデルで、2ドアセダンを大改造せざるを得ない富士重工の苦しい台所事情が伺える。また、RRというエンジン搭載方法はそのままだったため、荷室高が足りないという欠点があったが、フロントのトランクが残されたため、荷室を有効活用できるというメリットもあった。荷室高の足りなさは、後にハイルーフとすることで解消されたが、それでも他車と比べれば足りなかった。
1976年に500ccに排気量をアップするとともにボディも拡幅し安全性が向上。1977年にはフルスケールの550ccになった。また、ハッチバックモデルの「スイングバック」や、クラッチレスミッションの「オートクラッチ」が追加された。1979年にはスズキ・アルトのライバルとして、バンに「ファミリーレックス」を追加。乗用車スタイルの商用車として先駆的存在だったため当初は善戦したものの、1980年にダイハツ・ミラ(デビュー当時は「ミラ・クオーレ」)が発売されるに及んで基本設計の古さが目立ったために販売台数は頭打ちとなり、翌年にFFへと180°転換した2代目にスイッチされる。
[編集] 2代目(1981年~1986年)
1981年秋に『ザ・ビック・ミニ』というキャッチコピーで登場。初代と較べ最大の変更点は、スバル360時代から続いていた駆動方式・RR方式(リア・エンジン、リアドライブ)からFF方式(フロントエンジン、フロントドライブ)への変更であった。これにより、室内空間は画期的に広くなった。スズキ・アルト等で当時流行の4ナンバー・バン型はレックス・コンビというネーミングとなった。デビュー当初のCMキャラクターは読売巨人軍の原辰徳。
1982年にはフジサンケイグループの通信販売部門「ディノス」と提携して、業界初の通販モデル「ディノス・レックス」が登場した。
1983年秋には4WD仕様が追加された。それはパートタイム4WDであったが、走行中でも低速ならばシフトノブ内にある赤いスイッチをワンプッシュするだけでFF⇔4WDの切り替えが可能であった。また、ほぼ同時期に、FF仕様にターボモデルも追加された。コーナーリング中にアクセルオフするとタックイン現象がおこるという、FFのクセが強く残った面白みのあるグレードであった。1984年夏にマイナーチェンジ。愛らしい丸目2灯ヘッドランプから角目2灯ヘッドランプに変更された。同時に4WDターボ仕様も設定された。
[編集] 3代目(1986年~1992年)
1986年秋に登場。エンジンは先代と同様のSOHC直列2気筒だが、1気筒あたり3バルブ仕様(吸気2バルブ、排気1バルブ)エンジン搭載の上級グレードも存在した。4ナンバーバンの「コンビ」には「VIKI(ヴィキ)」グレードが設定された。登場時のTVCMは、あまりにもインパクトが強いものであり、(ジェットコースターに乗ったモデルがひたすら『VIKI! VIKI! VIKI!(ヴィキ!ヴィキ!ヴィキ!)』と連呼で叫び続ける、という突飛なCMでそのCMコピーは『キャーな乗り物、VIKI(ヴィキ)。スバルから新登場』というCMコピーだった)何のCMか判明出来なかったという意見が多くあったようだ。
翌1987年にはECVT車を追加し更に1988年にスーパーチャージャーを追加。1989年のマイナーチェンジでエンジンを直列4気筒化し、翌1990年には660ccに拡大された。この時、バンの「コンビ」の商標が廃止されている。1992年に後継車種であるヴィヴィオが登場したため生産終了、絶版モデルとなった。CMキャラクターは古手川祐子(ECVT車追加時、CMコピーは『しっかりさんのしっかりレックス』)および岡安由美子&秘密結社G(コンビNaNa)→松田聖子(4気筒)→山田邦子(660cc化以降。ちなみにCMコピーは『レックスにしよう!!』で、CM中の山田邦子の振り付けを担当していたのはラッキィ池田である)であった。
[編集] 車名の由来
- 「Rex」はラテン語で王様の意味。
[編集] レックスの時代
[編集] 外観は凡庸
レックスは、その前任者であるスバル360やR-2、あるいは後継のヴィヴィオに比べて、よく言えば落ち着いた、悪く言えば凡庸なデザインのクルマであった。初代こそ若干のアクがありスバルらしさを残していたと言えるが、2代目、3代目はアルトやミラといった強力なライバルと対抗するため基本コンポーネントの部分で大きな冒険は出来なくなってしまったのである。しかし、皮肉なことに、この2代目、3代目は、スズキやダイハツには及ばなかったものの、一定のシェアを確保し続けた、スバルの軽乗用車最良の存在だった。
この頃、日本はオイルショックの影響で高度成長期からやや後退し、ゆっくりとした成長へと転換していた。とは言え、団塊の世代をはじめとしてサラリーマンはがむしゃらに働き、企業戦士と呼ばれた。そういった集団の中では特異な個は否定され、均等な集団が望まれがちであり、学校教育もそうしたカリキュラムであった。歴代のスバル軽セダンの中でもっともアクの少ないレックスが、もっとも安定した時代を築いた背景とは、そういうものであった。
[編集] タフネス・スバル
デザイン面では個性の少なくなったレックスだったが、内面的な評価では、ファンの評価は低くはない。レックスでは本格的なコイルサスペンションが採用され、トーションバーは補助的な役割に後退したものの、なお四輪独立懸架を貫き、乗り心地に優れていた。エンジンは他社が3気筒へと切り替えていく中、2気筒を堅持したが、トランスミッションとともに壊れにくく扱い易いものであった(ただし初期のECVTは電磁クラッチ動作不良が多発した)。特に、この頃「軽の代表」格となっていたスズキが550cc化後まで2ストロークエンジンに固執した為、このイメージは決定的となった。ボディも一世代前の小型車並みの質感を持っており、他社車よりワンランク上であった。これらの特徴は同時期のサンバーと他社同車種の関係にも当てはまる。市場の中心であるボンネットバンでは苦戦したが、乗用のセダン、特に5ドアは好調で、「他社の軽5ドアはドアの蝶番が腐ってドアが落ちてしまうが、スバルだけは別」と言われていた。製造終了後も、同時期の他社車が老朽廃車となっていく中、長くに渡って生き残った。他社もフルモデルチェンジの度に質の向上を図ったが、結局、物品税廃止によるボンバンブームの終焉まで格差が埋まることはなかった。
[編集] 4気筒は災い転じて福となる
レックスの打ちたてたエポックの中に、550ccへの規格変更以降では軽自動車初となる直列4気筒SOHC4ストロークエンジンの採用(EN05型)がある(規格が360ccの時代にはマツダのキャロルが採用していた)。当初このエンジンは2気筒のEK23をベースに4気筒化したもので、ボディの設計を大幅に変更することなくエンジンルームに納められるようになっていた。ところが、直後に運輸省(現・国土交通省)から軽新規格(660cc旧)が発表された。スバルの技術陣には寝耳に水の事態であった。車体も多少大きくなるものの、他社の直列3気筒エンジンとは異なりボア(シリンダー径)アップのみでは有効容積を超えてしまう。苦肉の策として、上下方向へも拡大、すなわちストローク(ピストンの最上時と最下時の位置差)を拡大してこれに対応した。
ところが、これは結果的に吉とでた。通常、マルチシリンダー化(気筒数を増やすこと)を行うと、トルクの配分は広い回転域に均一化され扱いやすくなる反面、スロットル開放度に対して回転数の上がり方が鈍くなり、体感的にはもたもたするように感じる。一方、ロングストローク化するとトルクの最大値が増加し回転数が上がりやすくなる傾向にある。その為、スバルの660cc4気筒エンジン「EN07」は、4気筒の静粛性と他社3気筒のトルクを兼ね備えたエンジンへと成長する事が出来た。
後に他社も軽4気筒を開発するが、いずれも3気筒と同程度のボア×ストローク比としてしまい、市街地での発進、停止を繰り返す事が多い軽自動車用としては、不適切なエンジンとなってしまった。スズキはいわゆる「660cc新」の規格に移行した際、オールアルミ製の3気筒エンジンに統一し軽4気筒からは撤退した。ダイハツは乗用車ではしばらく3気筒と並行ラインアップしていたが、トルク不足からターボチャージャー車(2007年2月現在新車で購入可能なのはコペンのみ)のみの設定へと移行して行った。三菱はWRCでのスバルとのライバル関係もあり、地道に改良を続け2007年2月現在では唯一、パジェロミニに搭載している(以前はミニカやトッポBJなどに搭載されたことがある。かつては軽自動車唯一となるDOHC20バルブ【1気筒あたり5バルブ×4気筒】エンジンが搭載されていたグレードも存在していた)。