トランプ
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トランプは室内用の遊び道具。ただしこれは日本だけの名称であり、欧米ではプレイングカード(英:playing cards)などと呼び、これが本来の名称である。多種多様なゲームに用いられるほか、占いの道具としても、手品(マジック)の小道具としてもよく用いられる。
「トランプ」とは、本来「切り札」を意味する言葉(英:trump)であるが、明治時代にプレイングカードが日本に輸入されたとき、これが呼称として定着した。しかしコントラクトブリッジをはじめとするトリックテイキングゲームには切り札(トランプ)のあるものが多く、これらの愛好家は「トランプ」を切り札の意で使うため、遊具自体については「プレイングカード」と呼ぶことを好む。
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[編集] 概要
[編集] 世界標準タイプ
トランプ一組の構成は国によって異なるが、日本ではアメリカの影響により、いわゆる世界標準タイプが用いられる。これは世界で最も普及している一般的な構成である(ただし、特に「標準」と呼ぶだけの歴史的な意味などがあるわけではない)。
これは53~54枚の札からなり、そのうち1~2枚はジョーカーと呼ばれる札である。元々はドイツもしくはオランダ生まれのユーカー(en:Eucher)というゲームに使用するためのものであるが、ジョーカーが2枚含まれる場合は1枚はエキストラ・ジョーカー(準札)としてもう1枚よりも色を抑えて印刷されることが多い。また、英字の説明書が1枚つく場合もある。これをジョーカーと同じ扱いとする場合もある。
ただしジョーカーがトランプ一組に加わったのは19世紀の後半の事(当初はベストバウアー(Best bower)と呼ばれていた)であるので、ジョーカーを除いた52枚を世界標準タイプと呼ぶ事もある。
ジョーカー以外の52枚の札は、スペード(図の1)、ハート(2)、クラブ(クローバーとも呼ばれるが、間違い)(3)、ダイヤ(4)の4種のスート(絵柄マーク)に分かれており、各スートには13の「ランク」(番号)の札がある。
スートはヨーロッパにカードが現れた当初、剣、カップ、貨幣、杖(イタリア)棍棒(スペイン)であったが、これを簡略化して現在の形にしたのがフランスであった。これは印刷が容易かつ視認性に優れるところから広く普及した。
各スートはそれぞれ、騎士(剣)、僧職(聖杯)、農民(棍棒)、商人(貨幣)を表すとも言われる。ただしこれは特別な根拠はなく、俗説のひとつと見た方がよい。タロットの小アルカナに結びつけた、いわゆるこじ付けの一つと思われる。
13のランクは、A(エース)、2、3、4、5、6、7、8、9、10、J(ジャック)、Q(クイーン)、K(キング)となっている。2をデュースと呼ぶ事もある。
エースおよびデュースは元々それぞれダイスの1および2を表す言葉である。以前は3~6はそれに倣って順にトレイ、ケイト、シンク、サイスと呼んでいた事もある。
以上の1揃えで、デッキと呼ぶ。
[編集] 地方札
世界標準タイプ以外の札を地方札(Regional Card)と呼ぶ。これらはスートも一セットの数も様々である。しかし、この方が一般的であり、標準タイプの方がマイナーといった国、地方も少なくない。
スートについて言えば、イタリア、スペイン及びラテンアメリカ諸国には、剣、カップ、貨幣、杖(もしくは棍棒)の札があり、ドイツ、スイス等にもまた独自の紋表を持つ札がある(ドイツでは鈴・心臓・木の葉・団栗、スイスでは鈴・盾・野バラ・団栗)。
1デッキの枚数は20から108枚。ヨーロッパでは32枚や36枚というものが多く、ほとんどの日本人がトランプと言えば52枚を思い浮かべると同様にロシアでは36枚が常識であるという。特殊な例では、フィリピンで112枚というものが存在する。
[編集] サイズ
標準的なトランプのカードの大きさには、ブリッジサイズとポーカーサイズの二種類がある。
- ブリッジサイズ - 約89mm×約58mm。横幅が短いので、コントラクトブリッジのような、手に持つ枚数が多いゲームに適している。日本では一般的なサイズである。
- ポーカーサイズ - 約88mm×約63mm。横幅が広いので、ポーカーのような、手に持つ枚数が少ないゲームに適している。
ただし、この使い分けは慣習的なものであり、ブリッジサイズのトランプでボーカーをプレイしても、なんの問題もない。
トランプ以外のカードゲームやトレーディングカードでも、これらのサイズを踏襲しているものが多い。
[編集] 主なトランプ製造メーカー
- アメリカ
- U.Sプレイング・カード社 - ビー・デック、バイスクル
- イギリス
- ワディントン・プレイングカード・カンパニー
- スペイン
- エラクリオ・フルニエ社
- オーストリア
- ピアトニク社
- ベルギー
- カルタムンディ社
[編集] 歴史
[編集] 起源
起源は諸説あり、はっきりとはわかっていないが、現在中国説が最も有力であり、また、全て東方に発生したものが欧州に移入されたとする点では一致している。これら東方に発生したものを西アジア方面から復員した十字軍やサラセン人などの手によって欧州に伝えられた可能性が高い。
- 古代エジプト起源説
- 1816年にイギリスのサミュエル・ウェラー・シンガーが自著「プレイングカードの歴史」にて紹介した古代エジプトの神秘哲学がタロットというトランプに表象されていることから非常に古くからエジプトにトランプがあったとする説。しかし、近年の研究で現存する最古のタロットカードよりも古いトランプの現物や記録が存在することなどから、この説に関しては現在は否定的な意見が多い。
[編集] 欧州への伝来
起源が定まっていないことから欧州への伝来についても諸説あるが少なくとも14世紀には欧州各地に記録が見られることから相当数広まっていたと考えられる。欧州に最初にトランプが出現したのは14世紀前半のイタリアとされているが、スペイン説も有力。当時のアラブのカードは、スートは貨幣、刀剣、カップ、ポロ競技用バットであったが、このうちバットはポロ競技になじみの薄い欧州において、イタリアでは儀式用の杖、スペインでは棍棒に変化する。またフランスでの流行の火付け役となったジャック・クールの功績を称え、カップの図柄はクール(ハート)と名を変え、図柄もハートに変化し、現在に至っている。
14世紀も後半になると、フランスではスートがダイヤ、スペード、ハート、クラブに変わり、絵札の騎士が女王と差し替えられた。現在広く普及しているイギリスのスタイルは、このフランスの形式を発展させたもの。なお52枚組が世界標準タイプと呼ばれるのは、19世紀にホイスト、20世紀にブリッジという52枚を使用するゲームの流行、カードにインデックスを付け、角を丸くし、上下を対称にした双頭カードの考案等々の改良を加えたのがイギリス及びアメリカのメーカーであったこと、加えてこの当時の国々の国際的な力関係による。
[編集] 日本への伝来
日本に伝来したのは16世紀頃と言われる。1597年に長宗我部元親が「博多かるた諸勝負」を禁止していることから、この頃には既にトランプが相当流行したものと考えられる。 また1634年の角倉船の絵馬にはトランプをしている男女の絵がある。
日本における最古のトランプは48枚の札からなる天正かるたと呼ばれるもので、ポルトガル語のカルタ(carta)がそのまま日本語となり、漢字では賀留多、歌留多、紙牌などと書かれた。西洋のカルタにならい、うんすんカルタ、株札、がら札、花札などが生まれた。天正かるたはその最初の札に「天正金入極上仕上」と記してあったことから、別名を「きんご」と言い、壇之浦兜軍記などの書物にその記載を見ることができる。うんすんカルタ(宇牟須牟加留多)もそのままポルトガル語の「umsum carta」の読みがあてがわれ、その記述は雍州府志、半日閑話などに見ることができる。枚数は48枚(後に75枚)ではじめの5枚を「ウン」、次を「スン」と呼び、「うんともすんとも言わない」という言葉はここから来ている。札の絵には布袋、達磨、異国人などが書かれていた。これら西洋カルタ系統のものは早くから賭け事に使われ、江戸幕府でもかるたの賭け事の禁制をしばしば触れた。
江戸後期からは四季12ヶ月の花を描いた花札が流行するなど、多種多様のかるたが民族娯楽として作り出される。様々なかるたが流行していくとともに正統であるいわゆるトランプは日本では影を潜める形となっていった。
また、日本古来より存在した歌貝(貝あわせ)などを発展させ、札を西洋かるたの様式にして作られた百人一首などのカルタは「よみかるた」と称され、西洋カルタ(めくりかるた)とは系統が異なるものである。
トランプが再び盛んに行われるようになるのは明治時代になってからである。トランプの名は1886年に出た桜城酔士の「西洋遊戯かるた使用」に見られ、トランプのゲームと奇術(マジック)が紹介されている。最初はアメリカ、イギリスからの輸入であったが、やがて国産品もつくられるようになり、1953年に任天堂がプラスチック素材を取り入れたトランプを開発・販売。それが世界に広がり、今現在ではプラスチック素材が取り入れられたトランプが大きく普及している。現在普通に見られるのは、一部有名メーカーの品、欧州、アメリカからの輸入品を除いて、ほとんどが中国もしくは台湾製である。
[編集] デザイン
フランスではトランプの絵札に実在もしくは伝説の人物を当てはめることがしばしばあった。現在の絵札のデザインの元となっているのは、16世紀にフランスのパリで作られたものであるが、その当時は以下の通りの人物に当てはめられていた。
- キング
- スペード:ダビデ王(ソロモン王の父、古代イスラエル国王)
- ハート:カール大帝(シャルルマーニュ、フランク国王)
- ダイヤ:カエサル(シーザー、古代ローマ)
- クラブ:アレキサンダー大王(マケドニア国王)
- クイーン
- スペード:パラス・アテナ(ギリシャ神話の戦いの女神、ローマ神話ではミネルウァ)
- ハート:ユディト(ジュティスとも読む。ユダヤの女戦士、もしくはカール大帝の子ルートヴィヒ1世の妻)
- ダイヤ:ラケル(旧約聖書のヤコブの妻)
- クラブ:アルジーヌ(アージンとも読む。名前はラテン語の女王を意味する単語・レジーナのアナグラムから(Regina→Argine)。シャルル7世の妻(アンジュー公女・アラゴンの)マリー、若しくは愛人のアニェ・ソレルとされている)
- ジャック
- スペード:オジェ・ル・ダノワ(オジュール・ラ・ダンとも読む。カール大帝の騎士で、デンマークでは「ホルガー・ダンスク」の名で愛されている)
- ハート:ラ・イル(ラハイアとも読む。ジャンヌ・ダルクの戦友)
- ダイヤ:ヘクトル(トロイの王子)
- クラブ:ランスロット(アーサー王に仕えた円卓の騎士の一人)
- クラブのジャックはユダヤの英雄ユダ・マカベアという説もある
これに対して、ルーアンではスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に、キングをダビデ、アレキサンダー、カエサル、カールと、クイーンをパラス、ユディト、ラケル、アルジーヌと、ジャックをヘクトル、ラ・イル、オジェ、ランスロットとされているが、歴史的にはパリのほうが巷間に広まって現在に至っている。またダイヤ(もしくはスペード)のジャックのヘクトルは実はローラン(カール大帝の騎士)ではないかという説もある。奇しくも彼が持つ名剣デュランダルは実はヘクトルが愛用していたとされている。因みに、現在アメリカや日本で広まっているデザインは、ルーアンカードを発展させたイギリスのカードに由来し、特定のモデルはいない。
尚、後述の通り、一般に「占いに使われるタロットカードの小アルカナに愚者(フール)の札を加えてトランプが発生した」という説があるが、これは間違いで、タロットはもともとは遊戯用のカードで、占いに転用されるようになったのはかなり後世になってからである。また、タロットとトランプとの関連性は現在、疑われている。
[編集] トランプの税金
1628年、イギリス政府はスペードのエースに税金をかけ、それに捺す納税証明印のデザインを複雑にすることで偽造を防止した。現在、スペードのエースが他と比べて大きくデザインされ、中央にマークが入れられたりしているのは、その名残である。
日本では、1902年に施行された骨牌税(かるたぜい)が、1957年にはトランプ類税となり、パッケージに証紙を貼る事が義務化されていた(ただし、いわゆる「児童用トランプ」は非課税)が、1989年の消費税導入時に、個別の税はなくなった。
[編集] 代表的なトランプゲーム
- 主として三人で遊ぶもの
- スカート
- (パーラットの)ナインティ・ナイン
- 主として四人で遊ぶもの
- ホイスト
- コントラクトブリッジ
- スペード
- ハーツ(ブラック・レディ、ブラック・マリアとも呼ばれる)
- ピノクル
- 複数のプレイヤーで遊ぶもの、もしくは人数不定のもの
[編集] その他のトランプゲーム
- 日本特有のトランプゲーム
- (日本の)ナポレオン、ツー・テン・ジャック、絵取り(絵札取り)、点取り、ゴニンカン
[編集] トランプに関わる作品
- スペードの女王(アレクサンドル・プーシキン)
- 不思議の国のアリス(ルイス・キャロル)
- ガルガンチュア物語(アントニ・クラベ)
- バッツル夫人のホイスト小論
- ひらいたトランプ(アガサ・クリスティ)
- ジャッカー電撃隊(東映のスーパー戦隊シリーズ作品)
- 機動武闘伝Gガンダム(ガンダムシリーズ作品)
- 仮面ライダー剣(東映の平成仮面ライダーシリーズ作品)
[編集] トランプに関する俗説
トランプに限らず、ゲームに関する歴史は一般的に記録されにくい。また、トランプは手品や占いの小道具として用いられることが多く、それらは神秘性を求めるため多くの俗説が生まれた。
以下は、歴史的に関連していないため間違いとされている。
- トランプはタロットから生まれた。ジョーカーはタロットのフール。
- 1人遊び(ソリティア)は占いがゲームとして発展したものである。
- カードの4つのスートは四季を示し、カードが52枚あるのは1年が52週であることから来ている。
- エースを1、ジャックを11、クイーンを12、キングを13として52枚の数を合計すると364になり、これにジョーカーを足すと365(一年の日数)になる。エキストラジョーカーは閏年(一年が366日)のため。
[編集] 関連項目
- カードゲーム
- シャッフル (カード)
- フラリッシュ
- 任天堂 - 日本で代表的なトランプ製造業者