教育基本法
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通称・略称 | 教基法 |
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法令番号 | 平成18年法律第120号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 教育法 |
主な内容 | 教育の基本方針について |
関連法令 | 日本国憲法、学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律 |
条文リンク | 文部科学省の国会提出法律
総務省・法令データ提供システム(旧法へのリンク) |
教育基本法(きょういくきほんほう)は、教育についての原則を定めた日本の法律である。
目次 |
[編集] 概要
教育基本法は、その名のとおり、日本の教育に関する根本的・基礎的な法律である。教育に関するさまざまな法令の運用や解釈の基準となる性格を持つことから「教育憲法」「教育憲章」といわれることもある。
2006年(平成18年)12月22日に公布・施行された現行の教育基本法は、教育基本法(昭和22年法律第25号)(以後旧法という)の全部を改正したものである。
前文では、「たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願う」とした上で、この理想を実現するために教育を推進するとしている。
本則は18条ある。第1章から第4章までに分けられており、それぞれ「教育の目的及び理念」「教育の実施に関する基本」「教育行政」「法令の制定」について規定されている。
[編集] 旧法の概要
1948年(昭和23年)6月19日の「教育勅語等排除に関する決議」と「教育勅語等の失効確認に関する決議」より前に旧法が施行されていることから異論もあるものの、急激な教育改革の下で基本文書とされたこともあり、1890年(明治23年)10月30日に発布された教育勅語に代わるものと位置づけられることが多い。
旧法の前文では、約1月後に施行される日本国憲法との関連が強く意識されており、日本国憲法に示された理想の実現が基本的に教育の力によると記載されている。
本則は全部で11条からなる。現行法と異なり章はない。大きくは、実体を定めた第1条から第10条と、他の法令との関係を定めた第11条にわけられる。
[編集] 教育基本法の構成
前文
第一章 教育基本法の目的及び理念
- 第1条 教育の目的
- 第2条 教育の目標
- 第3条 生涯学習の理念
- 第4条 教育の機会均等
第二章 教育の実施に関する基本
- 第5条 義務教育
- 第6条 学校教育
- 第7条 大学
- 第8条 私立学校
- 第9条 教員
- 第10条 家庭教育
- 第11条 幼児期の教育
- 第12条 社会教育
- 第13条 学校、家庭及び地域住民等の連携協力
- 第14条 政治教育
- 第15条 宗教教育
第三章 教育行政
- 第16条 教育行政
- 第17条 教育振興基本計画
第四章 法令の制定
- 第18条
附則
[編集] 旧法の構成
- 上諭
- 前文
- 第1条 教育の目的
- 第2条 教育の方針
- 第3条 教育の機会均等
- 第4条 義務教育
- 第5条 男女共学
- 第6条 学校教育
- 第7条 社会教育
- 第8条 政治教育
- 第9条 宗教教育
- 第10条 教育行政
- 第11条 補則
- 附則
[編集] 各規定
条文の原文については、教育基本法の全文 (Wikisource)を参照。
[編集] 愛国心および道徳教育に関する規定
道徳教育については、前文に「公共の精神」を尊ぶことが掲げられ、第2条において「教育の目標」として「豊かな情操と道徳心を培う」ことなど、育成されるべき国民の姿が示されている。なお、旧法においては道徳教育に関する規定はなく、道徳教育については文部科学省の告示である学習指導要領に提示されるのみとなっていた。
愛国心については、教育の目標の一つとして「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」があげられる形で触れられている。なお、旧法においては「愛国(心)教育」に関しては触れられていなかった。
[編集] 現行法と旧法の違い
- 新法では上記「愛国心教育」が条文に盛り込まれた
- 旧法の第2条に規定された、「自発的精神を養う」という文が削除された。
- 現行法5条には、普通教育の年限は具体的に記載されず、「別に法律に定めるところにより」とされている。なお、旧法の第4条では、「九年の普通教育を受けさせる義務」があるとされていた。
- 旧法第6条に規定された、「教員の身分は尊重され、その待遇の適正が期せられなければならない」という文言に、現行法第9条では、「養成と研修の充実が図られなければならない」という文言が追加された。
- 旧法の第10条に規定された、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」が、現行法第16条では「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」という表記に改定された。
- 旧法11条に規定された、「この法律に掲げる諸条件を実行するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない」という文言が、現行法第18条では「この法律に規定する諸条件を実施するため、必要な法令が制定されなければならない」となっている。
- 現行法には新たに、第3条(生涯学習の理念)、第7条(大学)、第8条(私立大学)、第10条(家庭教育)、第11条(幼児期の教育)、第13条(学校、家庭及び地域住民等の相互の連帯協力)、第17条(教育振興計画)の項目が追加されたが、旧法第5条(男女共学)の項目は削除された。
[編集] 旧法の各規定
旧法の各規定を解説する。
- 教育の目的・方針(前文、第1条、第2条)
- 前文、第1条、第2条には、教育そのものについて触れられている。前文では、日本国憲法の精神に則り教育基本法が制定されたこと、第1条では教育の目的は人格の完成をめざすこと、第2条ではあらゆる機会あらゆる場所で教育の目的を達成することを述べている。教育勅語の代わる働きがあるとされるのは主にこの部分であるが、現代では過渡期的な規定とする指摘もある。
- 教育の機会均等(第3条)
- 日本国憲法第14条の平等規定を受けて、教育上の差別を禁止し、また奨学金制度の根拠となる規定を定めている。
- 義務教育(第4条)
- 日本国憲法第26条の細目を定める形で、義務教育の年数を9年と規定し、義務教育の無償の具体化として、国立と公立の義務教育諸学校では授業料を徴収しないことを定めている。第2次世界大戦前は、義務教育年限が6年から8年に延ばす旨の法令が制定されたが施行が延期され、実質的には教育基本法のこの規定によって、期間が延長されることになった。
- 男女共学(第5条)
- 学校における男女共学について規定し、これにより、男女別学の多くの学校が共学に移行した。当初は、女子教育の振興という規定を構想していたが、連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ) の指導により、男女共学規定になった。
- 学校教育(第6条)
- 学校が公の性質を持つことを規定し、学校の設置者を国、地方公共団体、法律に定める法人に限定した。また教員についても「全体の奉仕者」と規定し、その身分の適正化を促している。この規定を受けて、学校教育法が制定された。
- 社会教育(第7条)
- 社会教育の推進を規定し、例示として図書館、博物館、公民館等の設置をあげている。この規定を受けて、社会教育法が制定された。
- 政治教育(第8条)
- 良識たる公民として必要な政治的教養の尊重を定めるとともに、学校における政治活動を一切禁止している。
- 宗教教育(第9条)
- 宗教に対しての寛容と社会生活における地位の尊重を規定し、国と地方公共団体が設置する学校においての宗教教育を一切禁止している。なお、私立学校の宗教教育については禁止されていない。
- 教育行政(第10条)
- 教育が不当な支配に服することなく国民全体に直接責任をもって行われることを規定し、教育行政の目標は、教育に必要な諸条件の整備確立とされている。なお、どのようなことが「不当な支配」に該当するのかについては、解釈が分かれ、しばしば議論になる。
- なお、ここでいわれる教育の直接責任制は、公選制教育委員会制度を想定したものであるといわれ、今日のように、任命制教育委員会制度が導入され、かつ、その存立が危うくなっている状況(たとえば、教育委員会制度廃止論の拡大など)では、教育行政制度の再構築とともに条文の見直しがなされるべき、あるいは直接責任制の解釈の変更が必要だとする指摘もある。一方、これに対し、教育委員会の活性化のため、教育委員の公選制の復活や公募制の導入を主張する考え方もある。
- 補則(第11条)
- 教育基本法を実施するため適切な法令が実施されなければならないことを規定している。この規定を根拠に、後に制定された教育関係法令は、教育基本法に照らして解釈されることもある。
[編集] 沿革
[編集] 旧法制定の経緯
連合国軍の占領統治の下、大日本帝国憲法下での最後の議会となった第90回帝国議会によって、日本国憲法や学校教育法などとともに制定された。
最初、憲法改正議論の中で、憲法に教育規定を盛り込むべきとの意見が出されたが、当時文部大臣であった田中耕太郎により憲法とは別に法律で定めることが提案された。その後文部省に教育刷新委員会がおかれ旧法の内容が審議され、帝国議会で原案通り可決された。
[編集] 政府与党および中央教育審議会における改正論議
自民党は1997年、党教育改革推進会議において教育基本法見直しを含めた提言をまとめたが、教育の根幹にかかわる問題と判断し、具体的な改正論議は先送りした。1999年に教育改革実施本部(本部長=森山真弓)が河村建夫衆議院議員をトップとするチームを始動させ、改正議論を本格化させた。当初、公明党の支持母体である創価学会の池田大作名誉会長が「拙速は慎むべきだ」(『聖教新聞』2000.9.29付)と表明していた。また、公明党の神崎武法代表(当時)は、「教育問題の原因を基本法に求めたり、教育勅語の再評価を叫んだりするのは単純な思考で時代錯誤も甚だしい」として改正に慎重な姿勢を見せていた。小渕恵三-森喜朗内閣総理大臣(当時)の諮問機関であった教育改革国民会議の議論を踏まえて、2003年3月20日、中央教育審議会(会長=鳥居泰彦前慶応義塾長)が教育基本法の改正を遠山敦子文部科学相(当時)に答申した。戦後半世紀にわたって改定されたことのない教育基本法はここに来て大きく節目を迎えることになった。だが、与党内での調整も難航した。
答申によれば、教育の現状と課題と21世紀の教育の目標を踏まえて、旧法を貫く理念は今後とも大切にしていくこととともに、21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から今日極めて重要と考えられる以下のような教育の理念や原則を明確にするために改正が必要であるとした。
- 信頼される学校教育の確立
- 「知」の世紀をリードする大学改革の推進
- 家庭の教育力の回復,学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進
- 「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養
- 日本の伝統・文化の尊重,郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養
- 生涯学習社会の実現
- 教育振興基本計画の策定
2006年4月、自民・公明両党の教育基本法改正に関する与党検討会は、愛国心の直接的な表現を避け、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」とすることで合意、政府は改正案を国会に提出した。
改正案が国会に提出されるのは、旧法施行後初めてのことであった。 なお、国会答弁で安倍晋三首相は、愛国心に関する評価について、「心は評価することはできない」としながらも、「日本の伝統と文化を学ぶ姿勢や態度は評価の対象にする」との認識を示している。旧法の改定に反対する人びとからは、首相の発言について「一方的な価値観の押し付けはおかしい」「愛国心の強制につながり、内心の自由を侵害する」とする意見があった。
2006年11月16日、衆議院本会議において、政府提出の改正案について、野党欠席のまま与党単独で採決が行われ、可決された [1]。
教育改革国民会議は2000年12月に最終答申を出して解散するが、それがすぐに改定につながったわけではない。文部科学省が改定に必ずしも積極的でなかったからだ。しかしその後、文部科学省は教育基本法改正を積極的に推進する立場に転換。2001年11月、遠山文部科学大臣は教育基本法改正を中教審に諮問した。その理由として、基本法改正により、他の基本法と同様に、「教育振興基本計画」の策定・実施を盛り込めるとする文科省の判断があったのではないかという意見もある。
このような経緯の下、教育基本法は全部改正されることとなった。
[編集] 民主党提出の「日本国教育基本法」案
民主党提出の「日本国教育基本法」案では、旧法を廃止することとしていた。
愛国心教育については前文に「日本を愛する心を涵養し」と表現し、教育委員会制度は廃止した上で教育オンブズパーソン制度の設置を提言した。愛国心の明記を求めてきた人々は、よりはっきりと愛国心について法案に記載しているとして民主党案を評価する意見もあった。
さらに、「学ぶ権利の保障」や高等教育の漸進的無償化の推進、教育予算の確保等を盛り込んでいる点が政府与党案と異なるとされる。2006年11月17日、民主党は、参議院において同法案のほか、「地方教育行政の適正な運営の確保に関する法律(案)」と「学校教育の環境の整備による教育の振興に関する法律(案)」の関連2法案を提出した。
[編集] タウンミーティングでの「やらせ質問」
青森県で行われた、教育基本法改正も含む教育改革に関する政府のタウンミーティングで、改正賛成の質問をするよう参加者に依頼し、その方針に沿って発言者も指名されていた問題。(→詳細はタウンミーティング 小泉内閣の国民対話を参照)
2006年11月7日に内閣府はこの問題に関して関与を認め謝罪し、安倍首相をはじめ閣僚が給料を自主返納するなどの処分を行った。与党は教育基本法改正自体には問題がないとして衆院では単独採決を行った。野党はこの問題を「やらせではないのか」と指摘し、政府の動きに反発した。
[編集] 現行法制定の経緯
政府は、2006年4月28日、改正案を閣議決定し、第164回通常国会(2006年1月 - 2006年6月)に提出した。これを受けて文部科学省は、2006年5月2日、「教育基本法改正推進本部」(本部長・小坂憲次文科相)を設置すると発表し、初会合を8日に開催した。同本部には、プロジェクトチームも設置し、国会審議に関する調整のほか、国民に対する改定案の説明、教育振興基本計画の策定などに関する取り組みを進めていた。一方、民主党は、旧法の廃止によって新たに「日本国教育基本法」を制定することをめざし、2006年5月23日に法案を国会に提出した。
現行法は、2006年12月15日午後には参議院の本会議で成立した。これにより、旧法は施行以来59年で初めて改定された。採決では、自民党、公明党が賛成し、民主党、共産党、社民党、国民新党などが反対した[2]。
[編集] 現行法施行後の状況
現行法成立に反対した立場の人びとは、現行法を「改悪教育基本法」と呼称する場合がある。
教育の正常化に向けた一歩として教育基本法改正を評価する人々もいるが、憲法改正への布石として行われたとして改正を問題視する人々もいる。
[編集] 旧法の改正論に対する賛否
旧法は、制定直後から何度も改正論及びそれに対する反対論が起こった。「愛国心」や「伝統の尊重」といった考え方が欠けているとする賛成派と、「復古的なナショナリズムや国家への奉仕の強要につながりかねない。」とする反対派の対立が繰り返されてきた。
[編集] 主な論点
- 旧法は、約60年前というリベラリズムの全盛期に制定された法律であり、その後のリベラル-コミュニタリアン論争の成果を反映していない。したがって、保守主義はもちろん、コミュニタリアニズム(共同体主義)やリパブリカニズム(共和主義)といった、中間的な新しい思想の立場からも批判され得る点を含んでいる。
- 「能力に応じて」「ひとしく」教育を受けるといった場合、前者に重点を置くか、後者を強調するかで、解釈が分かれている。教育の自由と平等をめぐる議論は、今日のスピーディな改革の流れにより、いっそう複雑化し、両者の緊張関係は増すばかりであるとされる。また、義務教育における無償は授業料無償に限られているが、教科書代、給食費、通学費などは含まれないのかという問題もある。
- 政治的中立の確保に関しては、何をもって党派的な政治教育と判断するのかという議論がある。また、旧法第10条をめぐっては、「教育行政は、(略)教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」と第2項にあることから、国の関与は教育の内容などの内的事項は含まず、外的事項に限るという見解と、内的事項への関与も含まれるという見解に分かれている。
- そもそも、教育の目的や役割を法で規定することが果たして妥当なのかという観点から、旧法を批判的に検証する動きもある。こうした動きには、例えば、第1条の「人格の完成」が何を意味するのか不明であることを問題視する意見も含まれている。
[編集] 賛成意見
- 旧法施行後、保守的な人々の中には、教育勅語において「親への孝行」「忠君愛国」などの道徳的な項目があったことと比較しており、旧法の改正を求めていた。
これについては、教育勅語が法令としての性格を持たず道徳的な記述であることに対して、教育基本法は法令として教育制度の根幹を定めているものであり、その性質が大きく違うことから教育勅語と教育基本法を比較することの難しさが指摘されている。さらに、教育基本法が直接に教育勅語を廃止したものでもないこともあり、教育基本法と教育勅語は厳密には接続していないとされることもある。
[編集] 反対意見
- 旧法第一条には「教育の目的 平和な国家及び社会の形成者として真理と正義を愛し個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」とある。これは個人の価値すなわち多様性を尊重して自主精神に充ちた心身ともに健康な人間を育てることである。旧法は憲法の基本的な人権の趣旨を社会に実現するための簡潔な良い表現であり普遍的な価値をもつものである。政府案は人格の形成を目指し、国家及び社会の形成者としての必要な資質を備えた・・とある。これは国家及び社会という概念が後述の第二条教育の目標で我が国と郷土を愛するという表現(公明党案を受け入れたもので国を愛する心と自民党案はあった)で示すように我が国のあり方と深く係わってくる内容を含みこれまでの教育行政の経過から考慮しても旧法は非常にその時々の政権にとって自由度のある基本的法律でありあえて改定する根拠はないと思われる。
- 現行法第二条は「教育の方針は政府案では一条の教育の目的にそった教育の目標」とされ具体的な項目が挙げられている。国家の方針にそった教育がなされるのは、その時々の政権により教育が大きな影響を受けることになり教育の独立性を損なうものである。
先の大戦の反省に基づいて世界の規範となる日本人の育成に何ら旧法が問題になることはないと思われる。
リベラル派の教育学者などからは、次のような意見もある。
- 「国を愛する心」「伝統の尊重」「新しい「公共」」などが盛り込まれた上、さまざまな内容が「理念」や「徳目」の形式で挿入されている。答申は、現行の教育基本法の「真理と正義」「個人の価値」「勤労と責任」「自主的精神」と称しているが、その用例に従うと、改定された教育基本法は少なくとも20、多ければ30もの「徳目」を列挙したことになる。また、「新しい時代」に対応することが改定の主たる根拠になっているが、答申の内容と概念は、いずれも「復古主義」を特徴としているのではないか。「個性の尊重」「平和主義」「民主主義」の原理で基礎付けられた旧法は、この改定によって「国家戦略の基本法」へと転換してしまいかねない。
- 答申の内容が目指す道徳教育は、すでに1958年の「道徳」特設以来、学習指導要領によって企図されてきた。いわば、改定の既成事実化である(たとえば、日の丸・君が代の問題について言えば、国旗国歌法が成立する以前から指導は行われていた)。この実態をどう見るのかについて研究者の間で検証がなされている。たとえば、こうした指摘が事実であれば、答申の目標とする人材の育成が旧法でも可能なら改定する必要はないし、また、こうした既成事実化こそが旧法を空洞化させ、教育の危機を深刻にしたのではないか。
- こうした改定の流れは現在の教育をめぐる状況を改善することには繋がらないのではないか。それどころか、今以上に、国や自分の身近な地域、社会、学校に対する無関心と不信感を招き、子どもや若者が「居場所」を失う可能性がある。折出健二(教育方法論 愛知教育大学教授)は、学会報告の中で次のように述べている。
「はじめに「日本人の育成」ありきでは、子どもたちが閉塞感をいっそう強め、答申が言う「公共」は彼らには巨大な権力としてのイメージと映っても、自分たちの生きられる(居場所)あるいは公共空間とはならないであろう。
こうした関係性の基本問題の広範な立て直しを見過ごして、「改正」を行い、法的拘束性を持たせるのは、子どもの自立への願いに逆行するものといわざるを得ない。」
- 教育振興基本計画と教育基本法の関係性についての問題。中田康彦(教育法学 一橋大学助教授)は、「教育振興基本計画を策定する必要性と教育基本法内に根拠規定をおく必要性は別である」との主張を学会報告で展開した。しかし、この主張に対して出席者から異論として、「明確な根拠がないのに計画を策定することのほうが却って教育基本法の空洞化を招く」という指摘だった。中田は、「教育振興基本計画基本法のようなものを制定することで防げる」と述べたが、「教育基本法との整合性が問題となる」との反対の声が挙がった。
- 現行法の成立に反対の立場からも、旧法を一字一句見直そうともしない―というのは、ナンセンスであるし、そのことが旧法をめぐる議論が盛り上がらない一因にもなりかねないとする指摘もあり、よりリベラルで反国家主義的な方向から旧法を見直すべきだと言う意見もあった。一方、文部省・文部科学省のもとで旧法の理念が本当に実現されたことは一度もなかったという主張から、旧法の内容の実現が先決という意見もあった。
[編集] 脚注
- ^ 「衆議院TV」2006年11月16日 (木)本会議 教育基本法案(164国会閣89)11:41~
- ^ 「参議院インターネット審議中継 -ビデオライブラリ」2006年12月15日 (金)本会議 教育基本法案(第164回国会閣法第89号)59:10~1:26:40
[編集] 関連項目・一群
[編集] 関連項目・二群
[編集] 関連項目・三群
[編集] 関連項目・四群
[編集] 外部リンク
- 教育基本法資料室 - 文部科学省
- 現行法に賛成の意見
- 旧法を廃止の上別の法律を制定する意見
- 旧法改定に反対した意見