TGV
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TGV(テジェヴェ(仏)、英語ではティー・ジー・ヴイと発音)は、フランス国鉄 (SNCF) が運行する高速鉄道の車両、およびそれの運行形態。「高速列車」を意味する 《Train à Grande Vitesse》の略。(trainは列車、grandeは大きい、vitesseは速度を意味する)日本の新幹線の営業速度を初めて塗り替えたことで世界の注目を浴びた。

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[編集] 歴史
TGVが最初に考案されたのは1960年代で、これは日本が1959年に新幹線の工事を始めた直後である。当時はフランス国内でエアロトレインのようなホバークラフトや磁気浮上式鉄道について研究が行われており、フランス政府はすぐさま計画を支持し、フランス国鉄は従来の軌道の上を走らせることが出来る高速鉄道車両について研究を開始した。
最初の計画では、ガスを燃料として内部で電力に変換して駆動する高速タービンを推進力とした電気式ガスタービン機関車が計画された。ガスタービンは小型であり、長時間にわたって高いパフォーマンスを発揮するために最適とされたために選ばれた。この電気式ガスタービン機関車は1967年に試作され、量産化もされてイランやエジプトにも輸出された。そしてこの技術をそのまま生かし、最初のTGV車両であるTGV001が試作された。これは4400KWの電力を使用する動力集中連接方式であった。TGV001の外装・内装は共にイギリス生まれのデザイナーであるジャック・クーパーによって設計された。これは以後のTGVのデザインの原型であり、車体前面の「鼻」が特徴的である。
TGV001は高速運行中の多量の動力を分散して列車を停止させるためのブレーキや、空気力学的な流動実験によって車体が設計され、時速318kmにまで達することが出来た。これは当時最速の列車であった日本の新幹線の速度を大きく上回っただけでなく、非電車車両として最速の記録を樹立した。
しかし1973年には石油ショックの影響を受けて燃料の価格が急激に上昇したため、ガスタービンによる駆動が非実用的なものとなり、ガスタービンを採用したTGVはTGV001が唯一のものとなった。計画は動力車内のガスタービンで発電する方式から架線から電力を得る電気機関車方式に変更され、その電力はフランス国内に新設された原子力発電所から供給された。
電気牽引方式を取り入れたTGVは1974年に完成した。革新的なモーターの取り付けや、サスペンション、動作制御装置などの試験を繰り返した結果、TGV001と比較して牽引車の重量を2.95トン削減することができた。この試作機は試験中に約1,000,000 km走行した。
1976年にはフランス政府のTGVプロジェクトによって最初のTGV線であるパリ - リヨン間(パリ - 南東線 (TGV Paris Sud-Est, TGV-PSE) )の建設が始まった。
後に2回の車両製作と厳しい試験によって、1980年4月25日に最初の量産型営業車両が完成した。パリ - リヨン間はその翌年の1981年9月27日に開業し、時速260kmでの営業運転が開始された。開業当時はこの2都市を飛行機よりも高速に結ぶ最速の交通手段であった。
- 1990年:大西洋線での走行試験において、鉄路を走る列車としては世界最速の515.3km/hを樹立。
- より効果的に速度を向上させるため、車両編成は営業運転時とは違い、連接付随車が3両(両端測定機器搭載車1両を含む)、両端の動力車を含んだ5両編成で行われた。500km/h域においても粘着と走行安定性はかなり余裕があり、この試験結果により320~350km/h営業運転の可能性が実証された。
- 1993年:TGV北線 (TGV Nord) がリールまで開業。
- 1993年:営業最高速度を300km/hにまで引き上げ。
- 1994年:ユーロトンネル開通に伴い、ユーロスターがロンドンまで乗り入れる。
- 1994年:ローヌ・アルプ線 (TGV RA (Rhône-Alpes) ) (リヨン (Lyon) 近郊 - ヴァランス (Valance) 間)が開業。
- 1994年:TGV 北線 (LGV Nord) と南東線 (LGV Paris Sud-Est, TGV-PSE) をパリ郊外で結ぶ TGVイル・ド・フランス連絡線が開通。
- シャルル・ド・ゴール国際空港の第 2 空港ターミナルビル直下に設置されたシャルル・ドゴール空港TGV駅とユーロディズニーランド(現:ディズニーランド・パリ)の最寄り駅のマルヌ・ラ・ヴァレTGV駅を経由する。
- 1994年:営業最高速度を320km/hまで引き上げ。『新幹線がわかる辞典』
- 大西洋線と地中海線において単独世界一の営業速度で運行されている。
- 1997年:ベルギー国内の専用線 (LGV-Oost) が開業。ブリュッセルとパリ・ロンドン間のスピードアップが実現した。同時に、タリスも運行を開始する(当初は、主としてパリ-ブリュッセル-アムステルダム間。後に、ケルン方面へも運行されるようになる)。
- 2001年:ヴァランス (Valance) からアヴィニョン (Avignon) ・ニーム (Nimes) ・マルセイユ (Marseille) を結ぶ地中海線 (LGV-Med) が開業。
- 2007年:TGV 東線 (LGV Est) における走行試験において非公式ながら、自らが1990年に大西洋線で記録した通常軌道列車の世界最高速度515.3km/hを更新し、2月13日に554.3km/hを記録した。又、同年4月3日に574.8km/hを記録。日本の「リニアモーターカー」が持つ581km/hには及ばなかったが、自身の持つ車両付きでレール上を走る列車としての世界最高記録を更新した。速度記録更新に使われた車輌は「TGV-POS」と呼ばれる「TGV東線」開業用の新車輌の4400形動力車を両端(合計出力9600KW)に配し、中間は「Duplex」用ダブルデッカー車3両(うち真ん中の車両は1階を電装機器室にあて、その車両の両端の台車を駆動)を挟んだ特別編成が使用された模様。これは、列車上部の凹凸を減らし、空力特性を向上させる目的とみられる。また架線電圧を25000Vから31000Vに昇圧して行われ、試験車両のV150型はトラクションを高めるために通常より大きな車輪を使用した。
高性能のインバータ装置と、小型軽量高出力の交流モーター全盛期であり、最高速度350km/h前後の営業運転を目指す、「TGV陣営を除く各国」では、「新幹線方式」とも言える動力分散方式が、圧倒的主流になっている。しかし、営業運転とはかけ離れたこの速度領域では、両端に重量級強力動力車を配した「TGV方式」が優位であることを示そうとする、フランスの意地が感じられる。
[編集] 線路
在来線の軌間が1067 mmとなっている日本に対し、フランスを含むヨーロッパの多くの国では在来線も軌間は1435 mmとなっている。そのためTGVはスピードを落とせば在来線をそのまま走ることができる。車両限界なども在来線とほぼ共通の設計になっているため、用地買収の難しい都心への新線建設の必要がないのが特徴である。
TGVがその性能を発揮し高速走行が可能な専用軌道はLGV(Ligne à Grande Vitesse:高速線の意)と呼ばれる。都心では既存の線路を走り、市街地を出ると連絡線から線形の良いLGVに入り高速走行することが多い。この様なことからターミナル駅の駅舎は在来線と共用しているケースが多い。
[編集] 車両
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レンヌ駅(在来線)に停車中のTGV
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- 2006年現在の営業最高速度は320km/h。同年9月から、営業速度を360km/hにするための試験運行を開始した。
- 編成の両端部に連結された電気機関車が牽引する方式で、日本の新幹線とは大きく異なる(動力集中方式を参照)。動力集中方式は製造コストが低い、客室部が静かなどのメリットがある反面、分割運転がしにくく、加減速性能が劣るというデメリットがある。
- TGVは基本的に10両固定編成(大西洋線に使用されるTGV-Atlantiqueは12両固定編成)とし、両端に運転席を設けているプッシュプル方式ため分割運転も可能である。
- 輸送力調整を容易にするため、機関車前頭部に分割併合装置が装備されており、最大2編成併結(合計20両)の重連運転を実施している。(重連の場合、駅やホームの案内表示に"double traction"と表示されることが多い)
- パリ南東線での輸送力不足を解消するため、1995年から客車部分をダブルデッカーにしたTGV-Duplex(デュプレックス)が登場した。まず初めに客車が登場しRéseauの機関車に牽引されて暫定運用についたが、その後専用の機関車が新製されている。
- 機関車以外は連接台車とし、台車数を減らし、転がり抵抗を減じている。
- 新幹線は動力分散方式で、すべて専用新線で線形もよいため、台車が多い=モーター配置可能箇所が多い方が有利。小田急「SE」車は線形の悪い既存路線で高速を出すために連接化している。
- 車体幅は、日本の新幹線規格(3.38m)や在来線規格(2.95m)に比べ狭く約2.8mで、一等車では横3列シート(通路を挟み1列と2列)、二等車では横4列シート(通路を挟み左右とも2列)だが、二等車座席は日本の新幹線普通車のみならず、在来線特急普通車のそれと比較してもかなり狭く感じられる。集団見合い式のシート配列となっている他、二等車の座席にはリクライニング機構のないものもある。
- フランスの複合企業アルストムにより、開発された。
- 走行地域・乗り入れ国に応じた多種多様な車両が存在する。大別すると、開業当時からのPSE(Paris-Sud-Est)、大西洋線開業時に新製されたAtlantique、既存のTGV走行路線全線(イル・ド・フランス連絡線を含む)、ならびにベルギー・イタリア等他国への乗り入れに対応した汎用型のRéseau(レゾ)、オール2階建てのDuplex(デュプレックス)などがある。
- 更にPSEには、スイス乗り入れに対応した編成や郵便輸送専用の編成(車体塗色が黄色)、あるいはビュッフェ車や一部1等車まで2等車に改造した編成など、マイナーバージョンが多数存在する。
- イギリスへ直通するユーロスター、オランダやドイツへ向かうタリスもTGVの設計思想を踏襲して製造されている。
- シリコン整流方式、及び多電源の機構は、日本の国鉄401系・421系電車で世界で初めて量産化された技術である。
- 車体塗色は、開業当初のPSEは全体がオレンジ色に近い朱色で、窓周りがブラックのラインとなっていた。現在は他のTGV同様、写真のようなシルバーボディーにブルーのラインが入ったモノに変更されている。この塗色変更は、最高速度の引き上げ改造(270km/h→300km/h)と同時に実施された。
[編集] 路線網
[編集] 開業済みの路線
ここでは高速運転のできる新線 LGV(Ligne à Grand Vittesse:高速線の意) について挙げることにする。
- 南東線: パリ - リヨン
- ローヌ・アルプス線: リヨン近郊 - バランス
- 地中海線: バランス - アヴィニョン・ニーム 及び マルセイユ
- 大西洋線: パリ - ル・マン 及び トゥール
- 北線: パリ - リール - ユーロトンネル
- イル・ド・フランス連絡線: パリの中心部を経由しないで、郊外で南東線と北線とを直結・直通する高速連絡線。途中には、シャルル・ドゴール空港と直結しているシャルル・ドゴール空港TGV駅、ユーロディズニーランド(現:ディズニーランド・パリ)の最寄り駅であるマルヌ=ラ=ヴァレTGV駅の 2 駅がある。
- ベルギー国内線: リール - ブリュッセル -
[編集] 今後建設予定のもの
また、リヨンからイタリア・トリノまでの高速新線建設も計画されている。
さらに、パリ北駅とパリ・リヨン駅との間を、パリの中心部の地下を通る地下高速新線で結び、北線(北ヨーロッパ線)と南東線(地中海線)とを直結する連絡線の建設も計画されている。
[編集] フランス国外への進出
国外への延伸であるユーロスター・タリスのみならず、スペイン国鉄AVEや韓国KTXなど、線路の繋がっていない国へも輸出している。またアメリカへもアセラ・エクスプレスとして輸出された例もある。ドイツとの連合で臨んだ台湾高速鉄道では日本の新幹線に敗れたものの、中国本土では官民一体となった売り込みの結果北京・上海間高速鉄道計画での採用の可能性が高い。
[編集] 外部サイトへのリンク
- record2007
- Video of a speed record : 557 km/h
- Video of the TGV world speed record at 574.8kmh - 357.16mph on 2007-04-03
- TGV.com
- TGV Web
- SNCF(フランス国鉄)
- AlstomTransport(アルストム社鉄道車輌部門)
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