フリーエージェント
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フリーエージェント(Free Agent、FAと略す)とは、所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができるスポーツ選手のことである。広義には自由契約選手を指すが、近年は狭義として特別な移籍自由の権利を持つ選手を指す言葉として使われる。
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[編集] 日本プロ野球
日本プロ野球では、日本プロフェッショナル野球協約に定める内容に従い、NPBが定める条件を満たした選手でいずれの球団とも選手契約を締結する権利を持った選手をフリーエージェントと称し、その権利を与える制度を「フリーエージェント(FA)制」という。前所属球団も含めていずれの球団との契約も可能にする権利を与えるわけであり他球団への移籍を前提とする制度ではない。
[編集] 概要
出場選手登録145日を1年として換算し、累計9年で権利を取得できる。ただし、ドラフト逆指名制度(現在は適用停止中)を利用してプロ入りした選手は累計10年が必要である。途中で所属球団が変わっても引き継いで計算される。パシフィック・リーグではプレーオフでの登録日数もカウントされる。
権利を行使する場合は、日本シリーズ終了の翌日から、土・日・祝日を除く7日以内にコミッショナー宛に文書で申請する。8日目の午後3時にコミッショナーより「FA宣言選手」として公示され、翌日より国内外全ての球団と契約交渉を行うことが可能となる。
FA宣言選手として公示された選手のFA権利再取得は、残留・移籍を問わず4年後。FA宣言選手として公示されなければ権利は翌年以降に持ち越される。
[編集] FAにおける制約・補償
[編集] 年俸
FA宣言した選手の翌シーズンの年俸は現状維持が上限。減額は無制限であり、通常の減額制限を超えての減額も可能である。年俸調停の申請はできない。
年俸上限が現状維持であるのは複数球団による過度な獲得競争を防止するためであるが、契約年数や出来高払い(インセンティブ契約)、2年目以降の年俸の上昇に制約は無い。FA宣言した選手はほぼ例外なく複数年契約を結び、2年目以降に年俸が上昇する契約内容であることが多い。しかし、FA制度導入以後、これを使って移籍した選手が好成績を上げて成功した例は極めて少なく、ほとんどの場合は結果を残せずに終わっている。制度によって億単位に高騰した契約金や年俸に対して成績が全くつり合っていない点には経営者サイドやファンの間でも疑問の声が多く、プロ野球改革の議題の一つになっている。
[編集] 契約金
FA宣言した選手は年俸とは別に契約金を得ることが出来る。前球団に残留する場合は上限無し、移籍した場合は翌シーズンの年俸の半額が契約金の上限となる。契約内容によっては契約金無しの場合もある。
[編集] 獲得人数
1球団が獲得できるFA選手の人数は原則2人までであるが、特にFA宣言選手の数が多い年はその限りではない。
- FA選手21人以上30人以下 - 3人まで
- FA選手31人以上40人以下 - 4人まで
- FA選手41人以上 - 5人まで
[編集] 移籍に関わる補償
FA選手がFA権利を行使して他球団へ移籍した場合、移籍先球団は前球団に対して金銭、もしくは選手での補償をしなければならない。
- 金銭補償 - 移籍先球団は初めてFAを使用して移籍した選手ならば旧年俸の80%、2度目以降の場合は40%を前球団へ支払わなければならない。
- 選手補償 - 前球団は移籍先球団が保有する支配下選手のうちプロテクトした28名の選手+外国人選手を除いた中から選手1名獲得することが出来る、ただし前球団が選手による補償を求めない場合は前記金銭補償の50%(つまり初回40%、2回目以降20%)の金銭補償を持って選手補償にかえることが出来る。選手による補償が重複した場合(移籍先球団が複数名と契約した場合)は移籍先球団と同一連盟内、同一連盟内であれば同年度の勝率が低い順に前球団に優先順を設ける。
つまり実際の補償としては以下の2通りとなる。
- 移籍したFA選手の旧年俸の1.2倍(2度目以降のFAでは旧年俸の0.6倍)
- 移籍先球団がプロテクトした選手(28人+外国人選手)以外の選手1人と、FA選手の旧年俸の0.8倍の金銭(2度目以降のFAではプロテクト外選手1人+旧年俸の0.4倍の金銭)。
補償に関する日程はまずFA選手と移籍先球団との選手契約締結がコミッショナーより公示された日が起点となり、2週間以内にまず移籍先球団がプロテクト28名と外国人選手を除いた選手名簿を提示する。この後起点より40日以内に全ての補償を完了しなければならないが、金銭補償に限り前球団の同意があれば40日を延長することができる。
FA宣言した年の翌々年の11月30日まで日本のプロ野球球団と契約を交わさなかった選手のうち、翌12月1日以降に日本のプロ野球球団と選手契約を交わした場合は、前球団への補償を必要としない。FA宣言により他国のプロ野球球団へ移籍し、1年後に日本のプロ野球球団へ移籍する場合は、最後に在籍した日本の前球団への補償が確実に必要となる。2002年にFA宣言してアメリカメジャーリーグのニューヨーク・メッツに移籍し、同シーズン限りで退団した小宮山悟がこの規定に該当したために日本のプロ野球球団から敬遠され、2003年シーズンを棒に振るという事例が起きている。
海外プロ野球球団への移籍に対する補償は未整備状態であり、問題点の1つとなっている。
[編集] FA権を行使し他球団へ移籍した選手
※太字は現役選手
年 | 選手 | 移籍元 | 移籍先 | 補償 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1993年 | 松永浩美 | 阪神タイガース | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | 初の権利行使選手 |
駒田徳広 | 読売ジャイアンツ | 横浜ベイスターズ | 金銭 | ||
落合博満 | 中日ドラゴンズ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
石嶺和彦 | オリックス・ブルーウェーブ | 阪神タイガース | 金銭 | ||
1994年 | 工藤公康 | 西武ライオンズ | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | |
川口和久 | 広島東洋カープ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
山沖之彦 | オリックス・ブルーウェーブ | 阪神タイガース | 金銭 | ||
広沢克己 | ヤクルトスワローズ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
石毛宏典 | 西武ライオンズ | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | ||
金村義明 | 近鉄バファローズ | 中日ドラゴンズ | 金銭 | ||
1995年 | 河野博文 | 日本ハムファイターズ | 読売ジャイアンツ | 川邉忠義 | |
仲田幸司 | 阪神タイガース | 千葉ロッテマリーンズ | 金銭 | ||
1996年 | 田村藤夫 | 千葉ロッテマリーンズ | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | |
清原和博 | 西武ライオンズ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
1997年 | 吉井理人 | ヤクルトスワローズ | ニューヨーク・メッツ | 金銭 | 初のFA権行使によるアメリカメジャーリーグへの移籍 |
中嶋聡 | オリックス・ブルーウェーブ | 西武ライオンズ | 金銭 | ||
山崎慎太郎 | 近鉄バファローズ | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | ||
1998年 | 木田優夫 | オリックス・ブルーウェーブ | デトロイト・タイガース | 金銭 | |
武田一浩 | 福岡ダイエーホークス | 中日ドラゴンズ | 金銭 | ||
1999年 | 工藤公康 | 福岡ダイエーホークス | 読売ジャイアンツ | 金銭 | 初の2度目のFA移籍 |
佐々木主浩 | 横浜ベイスターズ | シアトル・マリナーズ | 金銭 | ||
星野伸之 | オリックス・ブルーウェーブ | 阪神タイガース | 金銭 | ||
江藤智 | 広島東洋カープ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
2000年 | 川崎憲次郎 | ヤクルトスワローズ | 中日ドラゴンズ | 金銭 | |
新庄剛志 | 阪神タイガース | ニューヨーク・メッツ | 金銭 | ||
2001年 | 前田幸長 | 中日ドラゴンズ | 読売ジャイアンツ | 平松一宏 | |
加藤伸一 | オリックス・ブルーウェーブ | 大阪近鉄バファローズ | ユウキ | ||
小宮山悟 | 横浜ベイスターズ | ニューヨーク・メッツ | 金銭 | ||
谷繁元信 | 横浜ベイスターズ | 中日ドラゴンズ | 金銭 | ||
片岡篤史 | 日本ハムファイターズ | 阪神タイガース | 金銭 | ||
田口壮 | オリックス・ブルーウェーブ | セントルイス・カージナルス | 金銭 | ||
2002年 | 若田部健一 | 福岡ダイエーホークス | 横浜ベイスターズ | 金銭 | |
松井秀喜 | 読売ジャイアンツ | ニューヨーク・ヤンキース | 金銭 | ||
金本知憲 | 広島東洋カープ | 阪神タイガース | 金銭 | ||
2003年 | 高津臣吾 | ヤクルトスワローズ | シカゴ・ホワイトソックス | 金銭 | |
村松有人 | 福岡ダイエーホークス | オリックス・ブルーウェーブ | 金銭 | ||
松井稼頭央 | 西武ライオンズ | ニューヨーク・メッツ | 金銭 | ||
2004年 | 藪恵壹 | 阪神タイガース | オークランド・アスレチックス | 金銭 | |
大村直之 | 大阪近鉄バファローズ | 福岡ダイエーホークス | 金銭 | ||
稲葉篤紀 | ヤクルトスワローズ | 北海道日本ハムファイターズ | 金銭 | ||
2005年 | 城島健司 | 福岡ソフトバンクホークス | シアトル・マリナーズ | 金銭 | |
野口茂樹 | 中日ドラゴンズ | 読売ジャイアンツ | 小田幸平 | ||
豊田清 | 西武ライオンズ | 読売ジャイアンツ | 江藤智 | ||
2006年 | 小久保裕紀 | 読売ジャイアンツ | 福岡ソフトバンクホークス | 吉武真太郎 | 過去所属していた球団へFA移籍した初の選手 |
小笠原道大 | 北海道日本ハムファイターズ | 読売ジャイアンツ | 金銭 | ||
岡島秀樹 | 北海道日本ハムファイターズ | ボストン・レッドソックス | 金銭 | ||
門倉健 | 横浜ベイスターズ | 読売ジャイアンツ | 工藤公康 |
[編集] 10年選手制度
FA制度の前身にあたる制度。1947年4月14日に連盟・経営者側と選手会の合意により導入。1952年12月24日発行の野球協約により抜本改正され、1975年限りで全廃された。
[編集] 概要
プロ入りから10シーズン以上現役選手として同一球団に在籍した者は「自由選手」として表彰され、所属球団を自由に移籍する権利が与えられた。
1952年の改正後は、10シーズン以上現役選手として球団に在籍した者に対しコミッショナーが10年選手に指名した。A級とB級に大別され、A級は10年間同一球団でプレーした選手に「ボーナス受給の権利」か「自由移籍の権利」のどちらか任意の権利を与え、B級は複数球団で10年間プレーした選手に「ボーナス受給の権利」を与えた。また、A・B級双方とも引退試合の主催権利が与えられた。再取得は3年後。
[編集] 10年選手の権利
1952年改正以前は表彰と移籍権利のみ。以下は1952年改正後の権利。
- 引退試合
- 現役時代に顕著な功績を残した10年選手は、所属球団との合意の下、希望する地域において毎年11月15日以降に引退試合を主催することができた。非公式試合であり、試合開催による収益金を得ることも認められた。引退選手2人以上で共同で催すこともできたが、2人共同で2試合(3人共同で2、3試合)等は不可。
- トレード拒否
- 10年選手をトレードに出す場合は、事前に本人の同意(書面)が無ければ不可とされた。
- ボーナス受給
- A級選手の移籍
- A級10年選手に指名された選手はその年の12月16日以降、自由に球団を移籍することができた。この権利は1度のみで再取得は不可。移籍した場合、新球団は旧球団に対し、新年俸の半額を譲渡金として支払った。
[編集] 10年選手制度により他球団へ移籍した選手
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- この年、A級10年選手の権利を得た田宮はボーナスを貰うつもりでいたが、当時のコミッショナー機関が「A級権利でボーナスを得て残留すればその選手はA級のままであり、移籍自由の権利は残る」との見解を示した。本来、A級権利のどちらを行使しても再取得時にはB級になり、権利もボーナス受給だけになるはずだったが、当時はこの部分が明文化されておらず前述のコミッショナー見解が正式とされてしまった。近い将来移籍してしまう可能性のある選手にボーナスは出せないと考えたタイガースのフロントはボーナスの金額交渉に消極的になり、最終的に田宮側に契約意思が無いことを通知、田宮はやむなく移籍権利を行使して移籍した。
- 1960年オフ
- 箱田淳 国鉄スワローズ→大洋ホエールズ
-
- 田宮の一件以後規約が一部改正され、「A級10年権利でボーナスを得た場合、3年後の再取得時にはB級となるが移籍権利は残る。ただし、移籍交渉の順番はシーズンの順位によるウェーバー方式。交渉拒否は2度まで」とされた。金田は1959年にA級10年選手の権利を行使してボーナスを貰っており、1963年にB級13年選手として移籍権利を含めて再取得した。この年は行使せず保留して迎えた1964年シーズンオフ、国鉄がサンケイに球団を譲渡。監督問題でサンケイ新フロントと対立した金田は前年保留したB級選手制度の移籍権利を行使した。この年の順位は下から中日、国鉄、広島、巨人、大洋、阪神であり、金田は拒否権を2度使って巨人へ移籍した。
[編集] 外部リンク
[編集] メジャーリーグベースボール
そもそものフリーエージェントの起こりは、メジャーリーグベースボールにおいてデーブ・マクナリー投手(エクスポズ)やアンディ・メサースミス投手(ドジャース)が契約書にサインせず1975年のシーズンに一年間プレーしたのち、契約から自由であると主張。機構側と選手会との話し合いの結果、フリーエージェント制は生まれた。 メジャーリーグベースボールのFA権は、日本のプロ野球と言葉の指す意味合いはほぼ同じだが、取得年数に違いがある。日本の最短9年に対して、メジャーリーグでは最短6年で取得できる。そのため、日本よりもFAによる移籍が盛んである。
シーズンオフにFAとなる選手を抱えている球団は、オフに他球団との獲得競争にさらされ、選手を失うリスクを背負う。その対策としてFAになる前に優勝争いでさらなる戦力補強を必要としている球団にトレードし、見返りに金銭や若手選手をもらう場合もある。 特に、優勝争いから脱落した球団では、交換要員としていかに有望な若手選手を引っ張ってこれるかがGMの腕の見せ所となる。 優勝争いをしている球団にとっては即戦力を手に入れられるメリットはあるが、オフにFA権を行使して移籍される可能性があり、また、交換要員に若手有望株(プロスペクト)を要求される可能性が高く、中長期的にみれば大きなデメリットを抱える可能性もある。
また、解雇などにより自由契約となった選手もフリーエージェントとなる。
[編集] 日本プロバスケットボール
日本プロバスケットボールではbjリーグで導入されている。権利取得にはbjリーグには最低3年以上の登録が必要。
[編集] 概要
あるシーズンのレギュラーシーズンにおいて80%以上の試合にベンチ登録され、そのシーズンの数が累積で3シーズンに達すると選手はフリーエージェントの権利が発生する。公式サイト等ではこれ以上の説明は無く、この権利を獲得・行使したケースも無いため、ベンチ登録が80%に満たなかったシーズンの扱いやフリーエージェント権行使後の再取得期間など、詳しい内容は明らかになっていない。