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小田原の役 - Wikipedia

小田原の役

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

[改名提案]   改名提案:この記事のタイトルに関して改名が提案されています。詳細はこの項目のノートを参照してください。
小田原の役
戦争: 小田原の役
年月日: 天正18年(1590年)2月~7月
場所: 相模国小田原、関東一帯
結果: 豊臣軍の勝利
交戦勢力
豊臣軍 北条軍
指揮官
豊臣秀吉 北条氏直
戦力
本隊 161,135
船手衆(水軍)20,630
北国衆 35,000
(諸説あり)
82,000(諸説あり)
損害
不明 不明

小田原の役(おだわらのえき)は、1590年(天正18年)に豊臣秀吉後北条氏の居城小田原城を包囲し、北条氏政北条氏直父子を降した戦役。小田原城の攻囲戦だけでなく、平行して行われた北条氏領土の攻略戦も、この戦役に含むものとする。かつては勝者である豊臣氏側の立場から小田原征伐という呼び方も多く使われたが、適切な用語でない。また、従来は「小田原評定」というに代表されるように後北条氏を低く見る傾向があったが、研究が進んで新しい事実も出てきている。

目次

[編集] 前史

武田信玄上杉謙信との度重なる同盟とその破棄を繰り返した後北条氏は、次第に関東の覇者として君臨するようになった。特に信玄の長征とその死、あるいは謙信の死以降は領土を脅かすような強敵は近隣には不在であり、後北条氏は全盛期を迎えていた。1580年(天正8年)、氏政は氏直に家督を譲って江戸城に隠居したあとも、北条氏照北条氏邦など有力一門に宗家に口を出させないよう実質的に当主として君臨していた。1582年(天正10年)、すでに武田氏と絶交していた後北条氏は織田信長武田征伐に参加するも、氏政の妹(武田勝頼の妻・桂林院)がいたせいであろうか、慎重になりすぎて実質何もしないまま終わった。その後、本能寺の変滝川一益を蹴散らした神流川の戦いを経て甲斐の支配を目論んでいた徳川家康との間に天正壬午の乱が勃発するが、徳川方のゲリラ戦術などに苦しめられた後北条氏は、家康の娘・督姫を氏直に嫁し、後北条氏が上野、徳川氏が甲斐・信濃を実質領有することで講和が成立した。もっとも、徳川傘下だった真田氏は勢力範囲の一つであった沼田が後北条氏の勢力と著しく近接することになった。

徳川氏との対決を一応収めた後北条氏は、転じて関東諸豪の制圧に全力を傾けることとなる。後北条氏の圧迫を受けた佐竹義重らは秀吉に近づき、豊臣氏サイドとしても、次第に後北条氏を警戒するようになる。そんな最中、真田氏との領土紛争を起こした後北条氏は一旦は秀吉の仲裁によって、後北条氏が沼田城を領有して紛争地域の大半を後北条領とする事で和解する事になった。その和解の条件として秀吉は氏政・氏直のどちらかの上洛を要求した(これは徳川家康や島津義久義弘兄弟が豊臣政権に従った時にも条件の一つとして行われており、上洛以後は過去の敵対行為は一切不問とされている)。だが、後北条・真田双方ともその内部には仲裁案に不満を抱く者もおり、北条父子の上洛の話は実現しなかった。代わりに板部岡江雪斎を使者として送り、一旦は氏政上洛という返事もあった。ところが、1589年(天正17年)11月、後北条方で沼田城将猪俣範直による(真田氏の墳墓があったため、特に真田側の領有とされていた)名胡桃城占領と言う事態を迎えたのである。これに対し秀吉は後北条氏の惣無事令違反を非難して、その討伐令を全国の諸大名に通知したのである。範直の名胡桃城占領に関しては、範直の独断ではなく暗に氏政の指示があったという説もあるが定かではない。同年12月13日、秀吉は宣戦布告の朱印状を以って陣触れを発した。

[編集] 戦争準備

後北条氏側は関東諸豪制圧の頃から秀吉の影を感じ始めていたと言われ、その頃から万が一の時に備えて15歳から70歳の男子を対象にした徴兵や、大砲鋳造のために寺の鐘を供出させたりするなど戦闘体制を整えていた。また、ある程度豊臣軍の展開や戦略を予測しており、それに対応して小田原城の拡大修築や八王子城山中城韮山城などの築城を進めた。また、それらにつながる城砦の整備も箱根山方面を中心に進んでいった。

一方、豊臣側では傘下諸大名の領地石高に対応した人的負担を決定(分担や割合などは諸説ある)。また、陣触れ直後に長束正家に命じて米雑穀20万石あまりを徴発し、天正大判1万枚で馬畜や穀物などを集めた。長宗我部元親宇喜多秀家九鬼嘉隆らに命じて水軍を出動させ、徴発した米などの輸送に宛がわせた。毛利輝元には京都守護を命じて、後顧の憂いを絶った。豊臣軍は大きく2つの軍勢で構成されていた。東海道を進む豊臣本隊や徳川勢を主力と、東山道から進む北国勢を中心とする北方隊である。

豊臣側の主だった大名(秀吉を除く)

総計約21万(推定)

後北条側の主だった諸将(氏政・氏直父子を除く)

豊臣側の基本的戦略としては、北方隊で牽制をかけながら、主力は小田原への道を阻む山中、韮山、足柄の三城を突破し、同時に水軍で伊豆半島をめぐって小田原に迫らせる方針であった。計算どおり事が運べば、小田原城は強襲で攻め落とす手はずであった。一方、兵力で劣るとは言いながらも後北条氏側も5万余の精鋭部隊を小田原城に集め、そこから最精兵を抽出して山中、韮山、足柄の三城に配置した。主力を小田原に引き抜かれた部隊には徴兵した中年男子などを宛てた。各方面から豊臣側が押し寄せてくるのは明らかであったが、それ以上に主力が東海道を進撃するのが明らかだったため、箱根山中での決戦を想定した戦略を推し進めることになり、それ以外の地域は事実上見殺しされることになった。北関東担当と言うべき氏邦がこの戦略に異を唱え、手勢を率いて鉢形城に帰る事態となったが、最終的にこの戦略が採られる事となった。

[編集] 戦争開始

[編集] 前哨戦~小田原包囲

1590年(天正18年)春頃から豊臣軍主力が、かつて源頼朝平氏打倒の挙兵の際に兵を集めた黄瀬川周辺に集結。それを察知した後北条側はゲリラ戦法を以ってこれに対抗。兵糧を焼くなど一定の戦果があったらしく、豊臣軍の兵は忽ち食糧不足に陥り略奪や狩猟などで食糧を確保していたようである。3月27日には秀吉自身が沼津に到着。29日に進撃を開始。進撃を阻む山中城には秀次・徳川勢を、韮山城には織田信雄勢を宛てて攻撃を開始した。しかし、山中城と韮山城では後北条側の地形や火力を生かした頑強な抵抗に遭い、山中城では一柳直末が討ち死にするなど豊臣軍は思いもよらぬ大苦戦を強いられた。苦戦の報を聞いた秀吉は強襲の号令を発し、松田康長は北条氏勝を逃して手勢を率いて玉砕。韮山城でも攻撃側の10分の1しかいない城兵に苦しめられ、戦線がこう着状態となった。韮山城の存在が後顧の憂いになったため、秀吉はやむなく韮山城包囲の軍勢を残したまま小田原に向けて進撃した。徳川勢は山中城落城の同日に鷹之巣城を、翌日に井伊直政隊が攻城を開始した足柄城を4月1日に落とし、先鋒部隊は早くも4月3日には小田原に到着した。しかし、東海道の三城を難なく蹴散らし小田原城も強襲で落とす当初の構想は瓦解し、秀吉得意の包囲戦術に切り替えることとなった。秀吉は余裕を各方面に見せ付けるかのように、石垣山に石垣山一夜城を築き、千利休や、淀殿ら愛妾を呼んでの大茶会などを連日開いた。また、富と権力を誇示するためのパフォーマンスを小田原やそれ以外のところで繰り広げることとなった。

[編集] 支城攻略戦

一方、前田勢・上杉勢ら北国勢と、途中で合流した信州勢を主力とする北方隊は、3月に入るや否や松井田城攻略に取り掛かり、4月20日に大道寺政繁はあっさり降伏。道案内を申し出た。その後、厩橋城(4月19日)、箕輪城(4月23日)と上野の各城を開城勧告などで難なく攻め落とした。一方、小田原包囲勢から主に徳川勢から兵力を抽出して北方隊を助ける部隊を編成し、武蔵に進撃。玉縄城(4月21日)、江戸城(4月27日)と武蔵の諸城を次々に陥落させると、戦力を二手に分け、片方は下総方面に向かわせた。浅野長政内藤家長(徳川家臣)らによる下総方面軍は小金城(5月5日)、臼井城(5月10日)、本佐倉城(5月18日)と次々と落とし、逆に秀吉から浅野に対して敵である房総諸将の不甲斐無さを詰って房総諸城の攻略は戦功として認めないとする書状が送られたほどであったという(5月20日付、「浅野家文書」)。もう一方は川越城を陥落させ、岩槻城5月20日に徳川勢の働きもあって落城した。この房総・武蔵の諸城の異常な速さでの陥落は、兵の主力がほとんど小田原城の籠城戦のために引き抜かれたために最低限の守備兵を残したのみであったからと考えられている。しかし、氏邦が篭る鉢形城や湿地に囲まれた忍城館林城を攻め倦み、進撃のペースが一気に落ちた。

忍城攻めでは、石田三成を大将、長束正家を副将に佐竹義重宇都宮国綱結城晴朝などの上野・下野の諸将や真田昌幸を先鋒に押し立てて攻め寄せた。しかし、城方も城主成田氏長の正室を中心によく防備し、また湿地の多い地形に三成も戦略をなくし、膠着状態となった。岩槻城を抜いた徳川勢の後詰もあったが、戦況は全く変わらなかった。そこで、湿地が多いことを逆手に取り、水攻めを決行することとなった(一説には、秀吉が繰り広げたパフォーマンスの一環とも言われている。というより、そもそも水攻めは周辺地域に甚大な被害を与えるプロジェクトであり、当時の三成の身分で行動に移せるほど簡単なものではない。さらに、水攻めに批判的な三成自身の証言も残っていることを考慮に入れれば、発案者が彼でないことは明快であろう)。しかし、天候がよすぎて水が干上がり気味だった上に、火矢対策で城方がどんどん水を城に引き入れていたため失敗に終わり、最終的には城方が偶然堤防を切ったことによる出水で三成勢以下が大損害を蒙るという最悪の結末となった。(ただし、この話の出典は江戸期以降の軍記物であり、信憑性はない)この件により、三成は後年「戦下手」というレッテルを貼られてしまったが、三成の戦略が特に拙かったということもなく、運やツキがあまりにも三成に向いていなかったとも言える。忍城攻めは7月に入っても続いた。

[編集] 小田原開城へ

6月に入ると、小田原を囲む豊臣軍主力の中に乱暴狼藉を働く者や逃散が頻発するようになる(「家忠日記」)。包囲中、戦らしい戦と言えば、太田氏房が蒲生勢に夜襲をかけたのが後北条側唯一の攻勢であり、囲む方は、井伊直政が蓑曲輪に夜襲を仕掛けた作戦と、6月25日夜半に捨曲輪を巡る攻防があったぐらいであった(それ以外は、互いの陣から鉄砲を射掛けるぐらいのものであったという)。さらに、包囲中の5月27日には堀秀政が陣没するなど、優勢とはいえ暗いムードが漂い始めた。一方の後北条側でも外部との連絡が不通になり、士気の低下は避けられなくなった。

そんな中、後北条側から離反の動きが見えるようになった。氏長は忍城守備を家臣に任せて小田原につめていたが、かねてから親しかった連歌の達人を通じ、里村紹巴を介して豊臣側に内通する内約を取り付けたが、未然に発覚し氏長は素蔵に押し込められる結果となった。また、6月16日に松田憲秀の長子であった笠原政晴が数人の同士とともに豊臣側に内通していたことが発覚。政晴一味の計画では忠興、輝政の両軍勢を引き入れる手はずであったが、一味の一人が江雪斎に計画を白状したため、政晴は氏直により成敗され、憲秀も押し込めと相成った。この成敗事件と6月23日に北方隊によって陥落させられた八王子城から首多数が送られ、また将兵の妻子が城外で晒し者にされたことが後北条側の士気低下に拍車をかけ、6月26日には石垣山一夜城が完成したことが後北条側に決定的な打撃をもたらした。俗に北条氏の一族・重臣が豊臣軍と徹底抗戦するか降伏するかで揉め、一向に結論がでなかった故事から「小田原評定」という言葉が生まれたが、これがどの時期の出来事を指すのかは不明である。

7月に入ると、氏房、氏規がそれぞれ滝川雄利と家康を窓口として和平交渉に当たった。そして7月5日、氏直は徳川勢の陣に向かい、己の切腹と引き換えに城兵を助けるよう申し出た。家康は氏直を雄利、次いで信雄の元まで護送し、秀吉に氏直の降伏を伝えた。

[編集] 小田原陥落後

戦後、7月7日から9日にかけて片桐且元脇坂安治榊原康政を検使とし、小田原城受け取りに当たらせた。7月9日、主戦派であった前当主の氏政とその弟の北条氏照は最後に小田原城を出て番所に移動。7月11日、康政以下の検視役が見守る中、氏規の介錯により自害した。これとは別に、内通の手引きをした松田憲秀と早々に降伏して主家を裏切った大道寺政繁に切腹を命じた。氏政・氏照兄弟の介錯役だった氏規は、兄弟の自刃後追い腹を切ろうとしたが、検視役に止められ果たせなかった。その氏規と当主氏直は家康と昵懇の仲(氏直は家康の娘婿、氏規は家康の駿府人質時代の旧知)が故に助命され、紀伊国高野山に追放された。

一方、小田原城陥落と相前後して鉢形城は6月14日に氏邦が突如出家するに及んで開城となり、韮山城も6月24日に開城。忍城は氏長の降伏を受けて使者が送られた。使者が到着するまでの間に浅野長政との間でゴタゴタがあったものの、7月16日に開城した。これにより戦国大名としての後北条氏は滅亡し、秀吉はその後奥州を帰服させ天下を統一した。戦後、後北条の旧領はそのまま家康に宛がわれることとなった。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 河野 収「天下掌握の大長征-小田原城包囲」 『羽柴秀吉 怒濤の天下取り』(学習研究社、1987年)
  • 小和田哲男「天下人秀吉実力者家康の虚々実々」 『徳川家康 四海統一への大武略』(学習研究社、1989年)
  • 工藤章興「三河軍団、北条の支城を席捲す」 『徳川家康 四海統一への大武略』(学習研究社、1989年)
  • 下山治久『小田原合戦 豊臣秀吉の天下統一』(角川選書、1996年) ISBN 4047032794
  • 江西逸志子(いつしし)原著・岸正尚訳『小田原北条記(下)』(ニュートンプレス<原本現代訳>、1980年・2004年) ISBN 4315401056
  • 斎藤慎一『戦国時代の終焉 「北条の夢」と秀吉の天下統一』(中公新書、2005年) ISBN 4121018095
  • 西股総生「後北条氏の本土決戦」 学習研究社『歴史群像』2006年6月号

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