教育職員免許状
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教育職員免許状(きょういくしょくいん めんきょじょう)とは就学前教育・初等教育・中等教育などにかかわる教育職員に就くための資格要件とされている免許状のことである。
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[編集] 概要
現代の日本においては、学校教員の職に必要な免許状のみがあり、学校教員の免許状は、教員免許状(きょういんめんきょじょう)とも呼ばれる。なお、以前の教育職員免許状には、校長の免許状や、教育委員会の指導主事の免許状もあった。
日本では、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)に基づいて、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校の教諭・助教諭・講師・養護教諭・養護助教諭・栄養教諭の職に就いている者は、職に応じた各種の免許状の授与を受けていなければならないとされている。ただし、教科の領域の一部に係る事項などを担任する非常勤講師については、免許状を有していなくても都道府県の教育委員会に届け出ることにより特別非常勤講師として勤務することができる。また、実習助手については、免許状を必要とされていない。
一般的に教職課程のある大学で所定の教育を受けることにより、教員の免許状が取得できることがよく知られている。このようにして取得する免許状は、普通免許状という形態の免許状であり、この他にも免許状には様々な種類・形態・区分などがある。
教育職員免許状を有する者は、教育に関する基礎的な資質を有するものとされることもある。小学校・中学校・高等学校の教諭の免許状を有する者は、同時に児童指導員や児童の遊びを指導する者(児童厚生員)の任用資格を有するなど、社会福祉・児童福祉分野における教育職員免許状の活用もある。
[編集] 各々の免許状の概要
免許状の種類には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校それぞれの校種ごとの教諭の免許状、助教諭の免許状と、校種を問わない免許状である、養護教諭の免許状、栄養教諭の免許状がある。ただし、中等教育学校の教諭・助教諭の免許状はなく、中等教育学校の教員は、中学校と高等学校の教諭または助教諭双方の校種の免許状を原則として有しなければならないことになっている。また、講師の免許状は存在せず、特別非常勤講師を除いて、教諭か助教諭の免許状を有している者が務めることになっている。
さらに取得方法や効力の違いにより、普通免許状(さらに専修免許状、一種免許状、二種免許状に区分)、特別免許状、臨時免許状の3種類の形態がある。ただし、幼稚園、養護教諭、栄養教諭の免許状には特別免許状はなく、栄養教諭の免許状には臨時免許状もない。
なお、中学校と高等学校は普通免許状、特別免許状、臨時免許状のすべての形態で、小学校は特別免状で、特別支援学校は自立活動等に係わる免許状で、教科や分野ごとに授与される。
- 免許状の例
- 高等学校教諭一種免許状(公民)
- 小学校助教諭臨時免許状
[編集] 免許状の種類(校種・職種)
[編集] 原則
教諭、助教諭、講師という一般的な教員を務めるには、校種・職種に応じた免許状を有していなければならない。また、養護教諭、養護助教諭、栄養教諭という専門的な教員を務めるには、職種に応じた免許状を有していなければならない。(専門的な教員の校種に応じた免許状は存在しない。)
免許状は、次の校種・職種ごとに存在している。
校種 | 職種・職階 | |
幼稚園 | 教諭 | 助教諭 |
小学校 | 教諭 | 助教諭 |
中学校 | 教諭 | 助教諭 |
高等学校 | 教諭 | 助教諭 |
特別支援学校 | 教諭 | 助教諭 |
(校種区分なし) | 養護教諭 | 養護助教諭 |
(校種区分なし) | 栄養教諭 | (栄養助教諭という職種はない) |
※これまでの盲学校、聾学校、養護学校の各免許状を有する者は、2007年4月1日施行の改正教育職員免許法により障害種の領域を定めた特別支援学校免許状の授与を受けたものとみなされる。
盲学校教諭免許状→視覚障害者に関する教育の領域を定めた特別支援学校教諭免許状
聾学校教諭免許状→ 聴覚障害者に関する教育の領域を定めた特別支援学校教諭免許状
養護学校教諭免許状→知的障害者、肢体不自由者及び病弱者に関する教育の領域を定めた特別支援学校教諭免許状
[編集] 例外
以上で述べた原則には、次の通り、例外が存在している。
- 中等教育学校の教員
- 中等教育学校には、中学校と同等である前期課程と高等学校と同等である後期課程の2つが存在する。このため、中等教育学校の免許状は存在せず、一般的な教員(教諭、助教諭、講師)は、中学校と高等学校の2つの免許状を持つことになっている。
- ただし、教育職員免許法の附則第17項により、中学校か高等学校の一方の教諭の免許状を有する者は、当分の間、中等教育学校のそれぞれ前期課程または後期課程のみの教科を担任する教諭または講師になることができる。
- 特別支援学校の教員
- 特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部があり、それぞれ幼稚園、小学校、中学校、高等学校に相当している。特別支援学校の教員として勤務するには、各校種の免許状に加えて、これらの学校の各部に相当する、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の免許状も有することになっている。なお、養護教諭、養護助教諭、栄養教諭、自立活動等の教授を担任する教員は有していなくてもよいことになっている。例をあげると、特別支援学校幼稚部の教諭だったら、幼稚園と特別支援学校の免許状を持つことになり、特別支援学校の養護教諭だったら、養護教諭の免許状のみで構わないことになる。
- ただし、教育職員免許法の附則第16項により、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教諭の免許状を有する者は、当分の間、特別支援学校の免許状を特に有していなくても各部のみの教諭または講師になることができる。
- 「学校教育法等の一部を改正する法律(平成18年法律第80号)」が平成18年6月21日に交付、平成19年4月1日から施行される事に伴い、従来の盲・聾・養護学校は特別支援学校に一本化された文部科学省
- 講師
- 講師の免許状は存在せず、教科の領域の一部に係る事項などを担任する特別非常勤講師を除いて、当該校種の教諭か助教諭の免許状を有している者が務めることになっている。助教諭の免許状と教諭の免許状のどちらの免許状を有していても職名は「講師」となるが、厳密には「教諭に準ずる職務に従事する」講師と「助教諭に準ずる職務に従事する」講師に分けられるとされている。
- 教諭と講師で免許の種類が分けられているのではなく、職名の違いは「正規採用されているか否か」による。
[編集] 免許状の形態・区分(取得方法・効力・期間・要件)
以前は、正規教員のための普通免許状と臨時教員のための臨時免許状だけが存在したが、教員免許状を有しない社会人などを教員として採用するために特別免許状が創設された。
[編集] 普通免許状
普通免許状は、日本国内のすべてで効力を有し、特に有効期間は設けられていない免許状である。一般に教育学部などの大学の学部に設けられる教職課程、文部科学大臣が指定する教員養成機関などで必要な教育を受けることで、都道府県の教育委員会から授与される代表的な免許状である。また、文部科学省やその委嘱を受けた大学が実施する教員資格認定試験に合格するか、都道府県の教育委員会が実施する教育職員検定に合格することでも授与を受けることができる。普通免許状は、授与を受ける者の学歴などに応じて、専修免許状、二種免許状、一種免許状の3つに区分されている。(「1990年から「種」となるまでは「級」であった。)
- 専修免許状
- 修士の学位を有することを基礎資格とする。一種免許状の要件に加え、大学院で教科又は教職に関する科目などの単位を一定数以上取得する必要がある。
- なお、この種別の免許は、教員資格認定試験では受けることが出来ない。
- 他にも、教諭が採用から一定年数の勤務期間を経て、校長を通じて許可が出された場合において、大学院に在籍し取得することが出来る。この場合、教諭の地位は保持されるが学業に専念するため、その期間の職務を代行すべく、当該期間に限り常勤講師が新たに任用されることがある。
- 採用から一定年数の勤務期間を経た教諭が現職のままで専修免許状を取得したい場合は、放送大学大学院等大学院での通信教育や、通学生大学院の科目生となり長期休業中、夜間、土曜日、日曜日の講義で単位を取得し、教育職員検定を得て取得する方法もある。高等学校の場合、管理職になるためには専修免許状が必要であるため、この方法で専修免許状を取得するものも多い。
- 一種免許状
- 学士の学位を有することを基礎資格とする。一般的に教科に関する科目と教職に関する科目などの単位をそれぞれ一定数以上取得する必要がある。
- また、高等学校・特殊教育諸学校の場合、教員資格認定試験に合格すると、この種別の免許を受けることが出来る。
- 一般的に「教員免許」と言えば、この種別を指すことが多い。
- 二種免許状
- 短期大学士の学位を有することを基礎資格とする。高等専門学校で授与された準学士の称号は不可である。一般的に教科に関する科目と教職に関する科目の単位などをそれぞれ一定数以上取得する必要がある。高等学校の免許状にはない区分である。
- また、幼稚園・小学校の場合、教員資格認定試験に合格すると、この種別の免許を受けることが出来る。
- この種別の免許状を受けて採用されている場合、将来一種免許状を取得することを奨励される場合が多い。教育職員免許法第9条の2には、二種免許状のみを有する現職教員に対して、一種免許状を取得するように努める義務を課している。
これら免許状を申請するにあたり、各自治体の教育委員会が用意する様式のほか、教員免許状の取得に必要な課程を修得した教育機関が発行する証明書(卒業証明書、単位修得証明書)、教員資格認定試験を経て申請する場合はその合格証書を、あわせて申請先の教育委員会へ提出する。また、申請書類に申請先自治体が発行する収入証紙を貼付けることで、申請料を支払う。
[編集] 特別免許状
特別免許状は、各都道府県内のみで効力を有し、現在は特に有効期間は設けられていない免許状である。以前は、5年間の有効期限が存在した。特別免許状は、教員に雇用しようとする者の推薦を受けた社会人などに対して実施される、各都道府県教育委員会による教育職員検定に合格すると授与される。
[編集] 臨時免許状
臨時免許状は、各都道府県内のみで効力を有し、原則として3年間の有効期間が設けられている免許状である。ただし暫定処置として、条件的に都道府県の教育委員会規則で、その有効期間が6年間とされることもある。臨時免許状は、普通免許状を有する者を採用することができない場合に限って実施される都道府県の教育委員会の教育職員検定に合格すると授与される。
[編集] 教科・分野ごとの授与
中学校と高等学校の免許状、小学校の特別免許状、特別支援学校の自立活動等に係わる免許状は、教科や分野毎に授与される。
- 幼稚園(教科・分野ごとの授与は無し)
- 小学校(教科・分野ごとの授与は特別免許状のみ)
- 中学校
- 高等学校
- 視覚障害者に関する領域を定めた特別支援学校
- 聴覚障害者に関する領域を定めた特別支援学校
- 知的障害者、肢体不自由者及び病弱者に関する領域を定めた特別支援学校
[編集] 教員免許状制度に関する事項
[編集] 教職課程における履修科目など
大学などの教員養成機関で普通免許状に必要な単位を取得するために、教職課程が設置される。「教職に関する科目」、「教科に関する科目」、「養護に関する科目」、「栄養に係わる教育に関する科目」、「特殊教育に関する科目」が開講され、授与を受ける免許状によって履修する科目が異なる。
詳しくは教職課程を参照のこと。
[編集] 関係法令
現在の教員免許状制度を定めている法令は、戦後の学制改革に合わせて作られた。代表的な法律は、「教育職員免許法」であり、「教育職員免許法施行法」とともに、1949年(昭和24年)に制定された。また、1997年(平成9年)には、「小学校及び中学校の教諭の普通免許状授与に係る教育職員免許法の特例等に関する法律」が制定されて、義務教育学校の普通免許状を取得する際に、介護等の体験が必要とされることになった。
詳しくは教育職員免許法を参照のこと。
[編集] 民間企業における評価
民間企業では、従業員の能力向上・自己啓発のため資格取得を奨励し、有資格者への資格手当を給与に加算する所が多いが、一般的に教育職員免許状については対象外となることが多い。
教育職員免許状は、学校に限定せず教育の基礎知識を保障するものとして評価できる。但し、教科に関する科目については「学校で教えるレベル」を保障するものであり、企業の実務に対応しうる深い知識を証明するものとはならないと認識されることが、免許の取得を能力の評価に結びつけず、資格手当を適用しない理由と考えることができる。
[編集] 教員免許更新制
2006年7月11日、中央教育審議会は小坂憲次文部科学大臣に教員免許更新制の答申を提出した。現職の他、ペーパー教師も対象になっており、来年の通常国会での教育基本法改正を目指すものとし、最も早くて2008年には改正される見通しである。現在は終身有効であるが、この改正案が通れば、10年の期限を有し、満了前に30時間の講習を受け、教師として必要な資質や能力があるかを評価される。修了と認められない場合は、失効となるが、その後の回復講習で受講・修了すれば、再取得も可能になる。