日系アメリカ人
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日系アメリカ人(にっけいアメリカじん 英:Japanese American)とはアメリカ合衆国市民の中で、日本にルーツがある人々のこと。主に19世紀末の移民によってアメリカ合衆国に渡った人々とその子孫のことを指す。
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[編集] 概説
日系アメリカ人は、アメリカ合衆国(以下アメリカ)在住のアジア系住民の中ではフィリピン系、中国系についで第3位の規模を持っている。日系人コミュニティーはカリフォルニア、ハワイ、オレゴン州、ワシントンにあるものが大きい。現代でも年に7000人近い日本人が市民権を取得してアメリカに移住している。
日系アメリカ人は初めてアメリカにわたった第一世代のことを一世、その子供たちの世代を二世、三世、四世と呼んでいるが、イッセイ(Issei)やニセイ(Nisei)といった言葉は英語でも通用する言葉になっている。
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一世や二世の時代に第一言語として用いられた日本語も、世代が進むごとに徐々に現地語である英語にとって変わられ、自然な流れとして日本語を理解しない日系人が増えていった。三世や四世の世代で日本語を話すことが出来る人々は主に外国語として日本語を学んだ人々である。それでもハワイやロサンゼルス、サンフランシスコの日本人街では今でも多くの日本語の看板を目にすることができる。
日系アメリカ人は当初から偏見と差別に苦しむことが多く、生活も苦しかったが、汗水流して働き、教育熱心で、よきアメリカ市民になろうと努力していた。特に一世の世代は過酷な労働をこなしながら、稼いだお金を自分たちのためには使わず、子供たちの教育のために注いだ。第二次世界大戦中における日系人の強制収容など人種差別をもとにしたいくつもの障害があったものの、このことがやがて世代が変わるごとに、ゆっくりとではあっても確実に、日系人がアメリカ社会での地位を向上させていくことにつながっていった。
また、日系アメリカ人がアメリカ社会の中に築いた日系人、すなわち日本に対する信頼が、第二次世界大戦後の高度経済成長期前後における日本企業のアメリカ市場への進出の際に、日本企業に対する信頼感の醸成に大きく役立つことになる。
近年行われたアメリカの国勢調査によると、日系人の特徴として「高所得」、「高学歴」、「低失業率」、「低貧困率」が挙げられる。
[編集] 歴史
日系アメリカ人の歴史は19世紀末の移民に始まる。最初の移民たちは沖縄からハワイのサトウキビやパイナップル畑の労働者として入植した。しかし低賃金で働く勤勉さと利発さゆえに疎まれ、カリフォルニアなどでは日系移民の排斥運動が起こった。そして第二次世界大戦時の日系人の強制収容という悲劇を乗り越え、1960年代以降のアメリカ社会における地位向上の時代を経て現代に至っている。
- 1868年 「元年者」と呼ばれる149人の移民がハワイに到着。明治政府からは非公認であった。
- 1885年 ハワイへの最初の政府公認の組織的移民が農園労働者として渡航。
- 1900年代 日系移民による土地の開墾と入植が始まる。
- 1907年 日米紳士協定によって日本人の移民を制限。
- 1908年 写真だけのお見合いをしてアメリカの日系人男性のもとへ嫁ぐ女性(いわゆる写真花嫁)の渡航が始まる。
- 1913年 カリフォルニアで対外国人土地法1913により日系人の土地の購入が禁じられる。
- 1924年 合衆国移民法1924 (排日移民法)により日本人の移民が全面的に禁止される。
- 1930年代 このころカリフォルニアとハワイの日系人たちがようやく経済的に安定した生活を送れるようになる。
- 1941年 真珠湾攻撃による日米開戦。日系人社会の主だった人々が逮捕される。
- 1942年 フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領による大統領令9066号の発令。「保護」の名目で西海岸地域に住む日系人全員、およびハワイの日系人のうち主だった人々計約11万人が収容所に送られる。(日系人の強制収容)
- 1943年 ハワイ出身の日系人兵士によって編成されたアメリカ陸軍第100歩兵大隊が欧州戦線に投入される。(イタリアやフランスを転戦し、モンテ・カッシーノの戦いなど各地での激闘ぶりを賞賛された。)
- 1944年 第100歩兵大隊が日系人志願兵によって組織された第442連隊戦闘団に統合される。
- 1945年 第442連隊が18143個の武勲章および9476個の名誉戦傷章を受章してアメリカ軍史上、もっとも多くの勲章を授与された部隊の栄誉に輝く。同時に累積戦死傷率314%を記録し、全米軍部隊中、最も損害を受けた部隊としても記憶されることとなる。
- 1959年 ダニエル・イノウエが初のアジア系下院議員となる。
- 1974年 ジョージ・アリヨシが初の日系州知事となる。
- 1978年 エリソン・オニヅカが初の日系人宇宙飛行士に。
- 1980年 連邦議会で初めて戦時中の日系人の強制収容に関する調査委員会が設置される。
- 1983年 調査委員会が戦時中の日系人収容は機密上必要ではなかったとする結論を発表。
- 1988年 ロナルド・レーガン大統領が『市民自由法』に署名し、人種差別に基づく日系人強制収容の事実の謝罪と一人につき20,000ドルの補償をおこなうことを決定。
- 1994年 メイジー・ヒロノが日系人として初めて副知事に選ばれる。
- 1999年 エリック・シンセキ将軍がアジア系として初めて陸軍参謀総長に就任。
- 2000年 ノーマン・ミネタがアジア系アメリカ人として初めて閣僚に選ばれる。
[編集] 有名な日系アメリカ人
[編集] 政治家・法曹家
- ダニエル・イノウエ:現ハワイ州選出上院議員。元下院議員、アジア系として初めて連邦議員に当選。民主党。
- スパーク・マツナガ:元ハワイ州選出上院議員。民主党。
- サミュエル・ハヤカワ:元カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校学長。元カリフォルニア州選出下院議員。元カリフォルニア州選出上院議員。一般意味論の主唱者。民主党。
- マイク・ホンダ:カリフォルニア州選出下院議員。民主党。
- ランス・イトウ 判事。O.J.シンプソン裁判で有名。
- スタン・マツナカ:コロラド州選出上院議員。民主党。
- ノーマン・ミネタ:運輸長官。政治家として実績を重ね、アジア系として初めて閣僚に選ばれる。民主党。
- パッツイー・ミンク:Assistant Secretary of State (1977-197?)、 アジア系女性を含む「有色人種」女性初の下院議員。Title IX Amendmentに関与。ハワイ州初の女性弁護士。
- ジョージ・アリヨシ1974年-1986年ハワイ州知事
- ドリス・マツイ:下院議員。民主党。
[編集] 軍人
- サダオ・ムネモリ:第二次世界大戦中、第442連隊戦闘団に所属。功績により日系人初の名誉勲章を受章。
- エリソン・オニヅカ:空軍将校。アジア系アメリカ人初の宇宙飛行士。チャレンジャー号の爆発事故で殉職。
- エリック・シンセキ:アメリカ陸軍参謀総長。アジア系として初めて軍制服組のトップに登る。
[編集] 学者・芸術家
- ミノル・ヤマサキ 建築家。ニューヨーク世界貿易センタービルの設計者。
- イサム・ノグチ 彫刻家、画家。近代アメリカ美術史に不朽の業績を残す。
- マイク・モチヅキ 国際政治学者。クリントン政権の対日政策のブレーンの一人。
- フランシス・フクヤマ 政治経済学者。
- C.J. ピーダーセン 化学者 1987年ノーベル化学賞受賞。母は日本人、父はノルウェー人。
- ミチオ・カク 物理学者、超弦理論の研究者。
[編集] 実業家・著述家
[編集] スポーツ選手
- クリスティー・ヤマグチ フィギュア・スケートの全米、オリンピック及び世界選手権金メダリスト。
- アポロ・アントン・オーノ ショートトラック・スピードスケートの全米、オリンピック及び世界選手権金メダリスト。1500m世界記録保持者。
- ブライアン・クレイ 陸上十種競技選手。日系三世。アテネオリンピックにおける銀メダリスト、および世界陸上選手権、全米選手権王者。
- 井上怜奈 フィギュア・スケートの全米チャンピオン(ペア・スケーティング/2004年)。アメリカ市民権取得前は、日本チャンピオンとしてオリンピックにも二度出場している。
- エリック・サトウ - バレーボール元アメリカ代表。ジャンピングサーブの名手。
- ケビン・アサノ - ソウルオリンピック柔道軽量級銀メダリスト。
- コーリー・サトシ・ナカタニ - 日系三世の騎手。ブリーダーズカップ・スプリント3連覇を達成。
[編集] ミュージシャン
- 宇多田ヒカル 歌手。アメリカ合衆国と日本国の二重国籍である。
- ジェームス・イハ ロックミュージシャン。元スマッシング・パンプキンズのギタリスト。
- ジェイク・E・リー ロックミュージシャン。元オジー・オズボーンのギタリスト。
- 伊藤由奈 アメリカ国籍だが主に日本で活動。
- ティーブ・カマヤツ ジャズミュージシャン。
- マイク・シノダ ロックバンド、リンキン・パークの中心メンバー。
- ヒロシマ (バンド) 日系三世のメンバーによるバンド。
- Hiroshima ヒップホップ音楽プロデューサー
- ダグラス・ロブ ロックバンド・フーバスタンクのボーカル。
- レイチェル・ヤマガタ 歌手。父は日系三世、母はドイツ=イタリア系。
- ジェイク・シマブクロ ハワイ在住のウクレレ奏者。
- melody. 歌手。
- KenTyla 歌手。
[編集] 俳優・モデル
- デヴォン・アオキ パリコレなどで活躍するトップモデル、女優。
- ディーン・ケイン 俳優。本名ディーン・タナカ。テレビドラマ「新スーパーマン」でスーパーマンを演じる。他「ビバリーヒルズ青春白書」などにも出演。
- タムリン・トミタ 女優。日系アメリカ人の父と日系フィリピン人の母を持つ。
- マコ 俳優。日本ではマコ岩松の名で知られた。1966年、映画『砲艦サンパブロ』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。
- パット・モリタ 俳優。1984年、映画『ベスト・キッド』の空手の達人ミスター・ミヤギ役でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。
- ケリー・ヒロユキ・タガワ 俳優
- ジョージ・タケイ 俳優
- ハロルド・サカタ 俳優・レスラー
- ケイン・コスギ 俳優
[編集] その他
[編集] 関連作品
- 『ノー・ノー・ボーイ』ジョン・オカダ著。第二次世界大戦中の日系アメリカ人青年の苦悩を描く。
- 『二つの祖国』 山崎豊子著。第二次世界大戦中の日系アメリカ人の悲劇と苦悩を描いた小説。
- 『山河燃ゆ』
- 『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999年)アメリカ映画。1950年代の日系人裁判を描く。
- 『ピクチャーブライド』(1994年)ハワイ日系アメリカ人の一世、二世世代の厳しい生活を日本から写真花嫁として渡米した女性を通して描くアメリカ映画。