山陽電気鉄道250形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

山陽電気鉄道250形電車（さんようでんきてつどう250がたでんしゃ）は、過去に存在した山陽電気鉄道の電車で、1951年から1954年にかけて100形の台車や電気部品と新造の車体を組み合わせて建造された車両である。広義の250形には後に登場した270形も含まれるが、登場時期や車体のスタイルが大きく異なることから、この項では250~257のグループについて紹介する。

[編集] 車両規格の向上

戦後の山陽電鉄は、63系の割当車である700形（入線当時は800形）の導入や特急用ロマンスカーの820・850形の新造によって、車体の大型化を達成した。しかし、これらの車両は主に特急・急行といった優等列車に使用されており、普通車（山陽電鉄内における各駅停車の案内呼称）には戦前の宇治川電気時代に製造された神戸姫路電気鉄道系の機器を搭載する複電圧車である100形と、山陽電鉄になってから製造された、兵庫電気軌道系の機器を搭載する流線型の200形が主として使用されていたが、どちらの車両も車体幅2.4m、車体長14~15mの小型車で、大型車の登場後はドアに大きなステップを取り付けて使用していた。

中でも100形は、宇治川電気が昭和初期に神戸姫路電気鉄道1形のゼネラル・エレクトリック社製電装品に電圧転換機を付加して600V/1500Vの複電圧仕様に改造し、鋼製の新造車体に取り付けた車両（初代76形76~90）に加えて新造車が1931年までに20両が追加で製造されており、特急に使用されるなど、このグループは戦前の兵庫～姫路直通運転の主役であった。このグループには1942年になって、電装品供出後明石工場構内に保管されていた神戸姫路電気鉄道1形の木造車体を中央部で唐竹割りにして、車体幅を2.4mに縮めて手持ちの電装品を取り付けた76形（2代目）6両が加わったが、太平洋戦争末期の空襲で被災した車両も多く、7両が廃車され、一部は制御車の1000形として復旧した。これらの車両は戦時中から戦後の混乱期にかけての酷使によって老朽化が急速に進行していたほか、車両定規の拡大によって小型車の場合はステップ付きとはいえ乗降に危険が伴うことと大型車と小型車が混在することで車両運用にも制約が生じることから、車両規格の向上が急がれていた。しかしながら阪神が1950年代後半から実施したような、大型の新車を大量投入して従来の小型車を置き換えるという手法は、輸送規模の小さい山陽の財務状況では困難であった。このため、小型車の台車や電装品を活用して大型車並みの車体幅を持った車両を導入するという、阪急610系と類似したコンセプトの車両を導入することととなり、木造車も混在して老朽化の著しい100形の更新車として、250形が登場した。

[編集] 概要

250形は総勢8両であるものの、仕様の違いなどによって3タイプに分かれることから、この項では各タイプごとに紹介する。また、全車電動車として竣工した。

[編集] タイプI(250~253)

このグループは、1951年に川崎車輌において100形1001,1003,1004,1008を種車に改造された。当初は同じ100形でも114,115,116,1000を種車とする予定であったが、同年9月に発生した西代車庫の火災において先の4両が被災したことからこちらを種車とし、あとの4両を114→1003,115→1004,116→1008,1000→1001に改番して対応した。車体は850形をベースとした軽量構造の半鋼製車体であるが、種車の主電動機出力や台車の荷重負担力に配慮して車体長を1.8m短い約15.8mとし、側面窓配置も車体長に合わせてd2D6D3と850形に比べると扉間の窓を2個分減らした配置となっている。普通車に使用する目的で設計されたため、座席はロングシートとされたほか、山陽の新車では最後の室内灯に白熱灯を使用した車両でもあった。前面は850形同様非貫通平妻の3枚窓で裾部のアンチクライマーは省略されており、尾灯は従来通り左右の窓上に取り付けられていた。塗色は820・850形と区別するためか、窓周りクリームイエロー、幕板及び腰板がネービーブルーのツートンカラーで登場した。足回りは種車のものを再利用しており、台車は弓形イコライザのボールドウィンBW78-275AAとそのコピー品であるBW-1で、電装品は主電動機が東芝SE-107BS（端子電圧750V時定格出力52kw）、制御器は同じく東芝製のRPC-101であった。

[編集] タイプII(254,255)

この2両は、1952年に川崎車輌において西代車庫火災被災車の101,103を種車に登場した。車体のデザインや寸法、台車や電装品などの基本的な構成は250~253と同じであるが、側窓が2段とも上昇するようになったほか、制御器を電空カム軸式の国鉄標準品であるCS5に換装した。

この車両の大きな特徴としては、山陽初の全鋼製車体となったほか、室内灯にこれまた山陽初の蛍光灯を採用したことと、メーカーの川崎車輌の勧めによって、座席や壁面、吊革などといった内装や屋根布、貫通幌、配管資材に当時登場して間がない塩化ビニールを試験的に幅広く使用したことが挙げられる。この中には透明ビニール製の貫通幌やビニールを張り詰めた壁面などのように実用化に至らなかったものもあったが、電気配管のビニール被覆やビニール製屋根布による絶縁など、後の鉄道車両で一般化したビニール製品使用の基礎を築くこととなったことから、登場後「ビニール電車」の異名をとったこの2両は、目立たないながらも鉄道車両の進歩に寄与した車両であった。また、蛍光灯導入時には補助電源装置として回転式100VのAC-DCインバータを使用したが、容量不足などの問題があったことから、この2両のみの試用に終わった。

[編集] タイプIII(256,257)

この2両は、1954年に川崎車輌において107,1007を種車に登場した。それまでの6両とは異なり、車体長が17mに延伸されたほか、屋根が張り上げ屋根になったことから、前面・側面の窓配置が全く同じ850形をスマートにした外観になった。塗り分けも820形と同じ上半クリームイエロー、下半ネービーブルーに変更された。内装は座席こそロングシートであったが、蛍光灯の採用をはじめ化粧板にメラミン樹脂の焼き付けを使用するなどして近代的な車両のイメージを出すことに努めた。しかし、車体は軽量化に努めたとはいえ車体長が伸びたことから、種車のBW-1では車体重量を支えることが困難になったため、もと営団地下鉄銀座線 1000形の日本車輌製造製D-18と伝えられるBW-3に換装された。電装品は254,255同様に主電動機はSE-107BS、制御器はCS5を搭載した。この車体デザインは、1956年登場の2000系が19mに大型化された全金属製の軽量車体となって引き継いだほか、後に登場する270形もこの2両と同系のデザイン、寸法で全金属製の軽量車体となって登場した。

250形はたった8両であるにもかかわらずバラエティ豊かな形式ではあるが、それだけに戦後復興期の車両技術の進歩と新機軸の導入がいかに急速だったことがうかがえる好事例であるといえる。

[編集] 運用

250形は登場後普通運用を主体に使われることとなったが、軽量で主電動機特性の良さから均衡速度も高く、ロングシート車で詰め込みもきくことから、しばしば特急運用にも充当されることがあった。また、256-257の編成は17mロングシート車の2連で、当時の山陽では700形に次いで詰め込みのきく車両であったことから、ラッシュ時には重宝された。また、1950年代半ばには250~255の塗り分けも820形と同一のものに変更されている。その後、1968年の神戸高速鉄道開業までは250~253の制御器をCS5に換装した程度で大きな変化はないままに推移した。

1968年の事故（資料によっては1969年）によって253が1969年に廃車されたほか、3連化の進展に伴って250形は同じ車体長の300形か270形と3連を組むこととなり、1970年に250~252,254,256が運転台の撤去改造を実施されて、250~252は300形2連の中間車に編入され、254,256の神戸寄りに300,270形を増結して、300形-254-255,270形-256-257で3連を編成した。その際に257のパンタグラフを撤去した。この他、1970年代前半には257の前面に行先方向幕及び種別表示幕の取付改造を実施したが、前面貫通化改造は行われなかった。

250形のうち250~255の15m車グループは、1970年代に入ると老朽化してきたことと、ドア数が300形と異なり2扉であることから乗車位置にばらつきが出るために置き換えの対象となり、3050系の増備によって1973年に252を除いて廃車され、252も1979年に廃車となった。しかし、256-257の編成は17m車であったことと、編成を組んでいる270形が2扉であったことから、他の17m2扉車グループと共通で普通列車運用に充当されていたが、1980年にこの2両が廃車されたことで250形は全車廃車された。廃車後、255が東二見車庫の構内入換車として2000年に内燃式の構内入替車が導入されるまで使われ、256-257の履いていたBW-3のうち1両分が廃車後交通博物館に寄贈され、東京地下鉄道（後の帝都高速度交通営団→東京地下鉄）1000形電車の復元に役立てられた。また、飾磨車庫の構内では251の廃車体が現在も倉庫として使用されている。

[編集] 参考文献

『私鉄電車のアルバム』各号（『1B　戦前・戦後の古豪』、『別冊A　荷物電車と電動貨車』）　慶應義塾大学鉄道研究会編　1981年　交友社
『鉄道ピクトリアル』各号（1976年11月臨時増刊号　No.327　特集『山陽電気鉄道/神戸電鉄』、1990年5月臨時増刊号　No.528　特集『山陽電気鉄道/神戸電鉄』、2001年12月臨時増刊号　No.711　特集『山陽電気鉄道/神戸電鉄』）
『関西の鉄道』　No.49　特集　『阪神電気鉄道　山陽電気鉄道　兵庫県の私鉄PartII』