複々線
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複々線(ふくふくせん)とは、鉄道の軌道を単一方向に対して2線ずつ、上下計4線敷くことを指す。
同様に、単一方向に対して3線ずつ、上下計6線敷く場合は三複線、単一方向に対して4線ずつ、上下計8線敷く場合は四複線のように言う。
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[編集] 概要
鉄道の軌道を道路の概念で考えると、複線の場合では両側2車線、つまり片側1車線となり、複々線の場合には、片側2車線となる。複線の場合に比べ、最大で2倍の輸送量を持つことが可能になると単純に考えがちであるが、実際には下で述べる方式に左右され1.5倍程度になることが多い。
[編集] 線路の敷き方で分類
複々線線路の敷き方には、方向別複々線と線路別複々線(系統別複々線)の2つの分類がある。
[編集] 方向別複々線
方向を揃えて線路を敷く複々線。
同じ方向への乗り換えはそれぞれ同じホームで出来て、乗客に便利な構造である。また同じ方向の線路が隣り合っているため、各駅停車の列車と快速や急行列車あるいは貨物列車などいろいろな列車種別の列車を効率よく捌く事ができる。しかし末端駅で2方向への分岐を行う場合には、その部分で路線を交差させなければならず(末端部分では方向別→線路別にするため。京阪本線の京橋~天満橋、近鉄の上本町~鶴橋など)、立体交差のために建設費が高くなったり、あるいは平面交差ではダイヤの構成に制約が生じるなど、問題がある。
ダイヤなどの関係上、輸送力は複線の1.5倍程度しか活用できていない例もあるが、東海道線の芦屋~灘信号場間のように本来内側線を走行する快速を外側線に転線させるなどの工夫を行なうことで、輸送力は理論上、複線の1.8倍程度になる。単純に後述の線路別複々線には本数・輸送力ともに及ばない。
- JR北海道函館本線・千歳線:札幌駅~平和駅間
- JR東日本東海道本線~東北本線の電車線(京浜東北線と山手線):田端駅~田町駅間
- JR東日本山手線・中央緩行線:代々木駅~新宿駅間(中央快速線・山手貨物線は線路別で計4複線)
- JR西日本東海道本線・山陽本線(琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線):草津駅~新長田駅間(新長田駅は線路別)
- JR西日本大阪環状線・関西本線(大和路線):今宮駅~天王寺駅間(天王寺駅は線路別。今宮駅は環状線内回りのみ高々架)
- JR西日本山陽本線:海田市駅~広島駅間(海田市駅は線路別)
- 東武鉄道伊勢崎線:業平橋駅・押上駅~曳舟駅間、北千住駅~北越谷駅間(北千住駅は上下2層の線路別)
- 東武鉄道東上本線:和光市駅~志木駅間
- 西武鉄道池袋線:練馬駅~練馬高野台駅間
- 京成電鉄本線:青砥駅~京成高砂駅間
- 東京急行電鉄(東横線と目黒線):田園調布駅~武蔵小杉駅間(武蔵小杉駅~日吉駅間事業中)
- 京浜急行電鉄本線:金沢文庫駅~金沢八景駅間
- 小田急電鉄小田原線:代々木上原駅~東北沢駅間(複々線化工事中のため、現在は撤去され複線。)・世田谷代田駅~和泉多摩川駅間(東北沢駅~世田谷代田駅間事業中)
- 名古屋鉄道名古屋本線:金山駅~神宮前駅間
- 近畿日本鉄道(大阪線と奈良線):上本町駅~布施駅間(上本町駅・布施駅のホームは上下2層の線路別)
- 京阪電気鉄道京阪本線:寝屋川信号所~天満橋駅間(大阪市中央区の寝屋川橋付近~天満橋駅は線路別。同駅から京阪本線と現在建設中の中之島線(天満橋~中之島)に分岐予定。この部分は現在、方向別複々線区間の外側(B線)が淀屋橋行き、方向別複々線区間の内側(A線)が天満橋行きとなっている。)
- 南海電気鉄道南海本線:岸里玉出駅~住ノ江駅間
[編集] 線路別複々線
路線別に揃えて線路を敷く複々線。
建設費を安く抑え、急行線を極力直線に作ることができる点で評価される。同じ方向への乗り換えは、いったん別のホームへ移動しなければならないが、ホームや乗降時の混雑を回避することで安全かつ遅延を確保できる点が利点として大きい。違う方向の線路が隣り合うことになるために系統分離運転になることが多く、連絡性が悪くなることもある(それ故、複々線化の際、急行線通過予定駅で通過反対運動が多々生じた)が、輸送力を単純に2倍にすることができる。
特に地価の高い東京圏のJRに多い。東京圏のJRでは地方と比べ桁違いの輸送力を要求されることから優れた方式と判断される。系統分離運転となる点は、運行本数が多く長編成である路線ではおおむね問題は生じない。ただし、運行本数の少ない路線(例:常磐線の日中・夜間)では、接続の悪さ等が暗い影を落としている。
- 旅客線同士の分離(緩急分離・系統分離)
- JR東日本東海道本線(東海道線と京浜東北線):東京駅~横浜駅間
- JR東日本東海道本線(東海道線と横須賀線):東京駅~大船駅間(品川駅~鶴見駅間は経由地が異なり、戸塚駅付近は方向別になる)
- JR東日本東北本線(宇都宮・高崎線):上野駅~大宮駅間(日暮里駅~赤羽駅間は経由地が異なる。上野駅~日暮里駅間は常磐線・山手線を含め5複線になる。ただし、上野駅~尾久信号所間は東北本線(宇都宮・高崎線と京浜東北線)自体が方向別複々線である)
- JR東日本中央本線(中央快速線と中央緩行線):御茶ノ水駅~三鷹駅間(御茶ノ水駅は方向別。代々木駅~新宿駅間は山手線・山手貨物線を含め4複線となる)
- JR東日本総武本線(総武快速線と総武緩行線):両国駅~千葉駅間(両国駅には総武快速線のホームは無い。運賃計算では考慮される。)
- JR東日本常磐線(常磐快速線と常磐緩行線):北千住駅~取手駅間(ただし、北千住~綾瀬間は、JR常磐緩行線と東京メトロ千代田線の共用)
- JR東海東海道本線・中央本線:金山駅~名古屋駅間
- JR西日本山陽本線(JR神戸線、電車線と列車線):新長田駅~西明石駅間
- 阪急電鉄(宝塚本線複々線(京都本線の当該区間は宝塚本線の東側複線を使用し、中津駅はホームがないため通過する)と神戸本線):梅田駅~十三駅間(3複線)
- 阪神電気鉄道(本線と西大阪線):大物駅~尼崎駅間(西大阪線は2003年7月26日から工事のため単線運転)
- 近畿日本鉄道(奈良線とけいはんな線):生駒駅~東生駒駅間(東生駒駅にはけいはんな線のホームは造られず、東生駒信号場が設けられる)
- 南海電気鉄道 (南海本線と高野線):難波駅~岸里玉出駅間
- 京王電鉄(京王線と京王新線) 笹塚駅~新宿駅:笹塚駅では方向別の路線配置になっている。
- 旅客線と貨物線の分離(貨客分離)
- JR東日本東海道本線(貨物線は湘南ライナーなど走行):鶴見駅~小田原駅間(新子安駅付近~戸塚駅付近は、貨物線は横浜羽沢駅経由の別線路となる東海道貨物線)
- JR東日本山手線(貨物線は埼京線・湘南新宿ラインの電車や成田エクスプレスなど走行):品川駅~池袋駅間(代々木駅~新宿駅間は中央快速線・中央緩行線を含め4複線となる)
- JR東日本東北本線(電車線(京浜東北線)と列車線(宇都宮・高崎線)と貨物線(湘南新宿ラインの電車走行)):王子駅付近~大宮駅間
- JR東海東海道本線:名古屋駅~稲沢駅間
- JR九州鹿児島本線:門司駅~折尾駅(門司駅~東小倉駅は方向別。陣原駅~折尾駅は筑豊本線への短絡線-旅客のみ)東小倉駅~小倉駅間は3複線。戸畑駅~枝光駅間は別線。
[編集] 運転方法で分類
複々線の分類は、緩急分離運転と系統分離運転の2つの分類がある。
[編集] 緩急分離運転
急行線と緩行線とに運転系統を分け、緩行線で各駅停車を運転し、急行線で優等列車を運転する分離方法。これにより、優等列車の速度を落とすことなく、列車を増発できる。また、長距離列車を運行する列車線と短距離電車を運行する電車線の分離は本質的には系統分離運転に属するが、分離した結果、実質的に緩急分離になる場合も多い。
[編集] 系統分離運転
本線と支線とに運転系統を分け、支線では複々線の末端区間で分岐する支線の列車を運転し、本線に本線の列車を運転する分類方法。また、旅客列車と貨物列車を分離する貨客分離(かきゃくぶんり)についても貨物駅と旅客駅とが分離している場合、複々線で建設した旅客線と貨物線との関係にはこの図式が成り立つ。また、長距離列車を運行する列車線と短距離列車を運行する電車線とに分離する方法もある。
[編集] 三線
複線に線路を1本追加して3本にしたものを、三線(さんせん)または複単線(ふくたんせん)という。
[編集] 系統分離運転の場合
系統分離運転の場合、別路線に直通する線路を引く場合に分岐点(この場合、駅だけではなく信号場なども含む)より、駅までの間に引かれる。なお、引き込み線などをこれに充当することもある。
- 例
[編集] 緩急分離運転の場合
緩急分離運転の場合、複々線の場合では上下線両方で緩急分離をしていたのを、単に上りまたは下りの一方が緩急分離していると考えられる。
三線は、輸送需要が時間帯によって偏りが出るケース、すなわち、都市中心部と郊外を結ぶ路線で、朝に都心方向、夕に郊外方向への輸送需要が増大する時などに、輸送力の増強手段、途中駅を通過する列車の速度向上手段などとして活用できる可能性を持っている。複々線に比べ、必要とする用地が4分の3であることが最大の利点であるが、双方向に運行可能とするための信号・保安設備の扱いの難しさや、車両運用の問題などから日本で実現した例は存在しない。
- 例
- 京急本線:神奈川新町駅~子安駅間(上りが2線)
- 小田急小田原線:登戸駅~向ヶ丘遊園駅間(建設中)(上りが2線。土地区画整理事業が複々線化工事に間に合わなかったための暫定措置。将来的には下りも2線化し方向別複々線となる予定。)
- 鹿児島本線:春日駅~南福岡駅(春日駅を出て上りが2線となる)
日本国外に目を向けると、アメリカのニューヨークの地下鉄路線や、シカゴの高架鉄道線、通勤鉄道線(メトラ)などで3線が敷設・活用されたケースが存在する。シカゴの高架鉄道線の3線区間は、ビルの谷間を走るために複々線への線増困難な地域に設けられ、限られた用地における線増の事例としては画期的なものであったが、その後撤去されてしまった。通勤鉄道やニューヨークの地下鉄においては現在でも3線区間が残り、ラッシュ時限定の急行運転(Express Service)で活用されている。