アサ
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アサ | ||||||
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分類 | ||||||
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Cannabis L. | ||||||
和名 | ||||||
アサ | ||||||
英名 | ||||||
cannabis, hemp |
アサ(麻、大麻、大麻草 Cannabis)は アサ科の属で一年生の草本。 日本語でアサと呼ばれる植物にアマ科の亜麻があるが本項目とは全く別の種類の植物である。
目次 |
[編集] 種
- アサ Cannabis sativa L.
- インドアサ C. indica Lam. = C. sativa L. subsp. indica (Lam.) E.Small & Cronquist
- C. ruderalis Janisch. = C. sativa subsp. sativa var. spontanea Vav. = C. sativa L. subsp. sativa
[編集] 概要
雌雄異株。高さ2-3m、品種や生育状況によりさらに高く成長する。かつてはクワ科とされていたが、托葉が相互に合着しない、種子に胚乳がある等の理由でアサ科として分けられた。ヒマラヤ山脈の北西部山岳地帯が原産地といわれている。生育速度と環境順応性の高さから、熱帯から寒冷地まで世界中ほとんどの地域に分布している。日本にも古来より自生しており、神道との関係も深い。生育速度が速い事から、忍者が種を蒔いて飛び越える訓練をした逸話などが残っている。
古代から人類の暮らしに密接してきた植物で、世界各地で繊維利用と食用の目的で栽培、採集されてきた。種子(果実)は食用として利用され、種子から採取される油は食用、燃料など様々な用途で利用されてきた。20世紀初頭より、米国や日本を始めとしたほとんどの国で栽培、所持、利用について法律による厳しい規制を受けるようになる。近年この植物の茎から取れる丈夫な植物繊維がエコロジーの観点から再認識されつつある。繊維利用の研究が進んだ米国、欧州では、繊維利用を目的とし品種改良した麻をヘンプ(hemp)と呼称し、規制薬物および薬事利用を指し使用される事の多い植物名、カナビス(cannabis)と区別している。
葉や花にはテトラヒドロカンナビノール(THC)が含まれ、これをヒトが摂取すると陶酔する。植物を乾燥した物(通称マリファナ)や、植物から作られた樹脂(通称ハシシ)はTHCを含有しており、ロシア、アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパの一部を除く世界中で規制薬物の対象とされる。 医療目的としても価値があり、古くから果実は麻子仁(マシニン)という生薬として用いるほか、葉や花から抽出した成分を難病患者に投与する方法も研究されている。
[編集] 栽培の歴史
古くから栽培されていた植物の一つであり、元々は中東で栽培されていた物と考えられている。日本では紀元前から栽培され、『後漢書』の東夷伝や『三国志』のいわゆる魏志倭人伝に記述が見られる。日本では歌の題材になっているほか、風土記にも記されている。神道では神聖な植物として扱われ、日本の皇室にも麻の糸、麻の布として納められている。
中国では4500年前から栽培されていたようである。紀元前5世紀の歴史家・ヘロドトスは、スキタイ人が大麻を娯楽に使っている様を叙述している。
[編集] 植物としての特徴
栽培植物としては非常に急速に成長する。葉・花・果実には薬効がある。特に、葉や花に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)は人体に作用し、摂取すると陶酔する。
アサは生育が速い一年草であり、生育の際に多量の二酸化炭素を消費し、繊維質から様々な物が作れるため、地球規模での環境保護になるという意見もある。
産業用のアサと嗜好用のアサは品種が異なる。前者については、陶酔成分が生成されないよう改良された品種が用いられる。また、品種が同じでも用途に応じて栽培方式が違う。前者は縦に伸ばすために密集して露地に植えられる方式が主であるが、後者は枝を横に伸ばすために室内栽培が多い。そのため嗜好目的のためのアサを産業的栽培だと偽って栽培するのは困難である。
嗜好目的のアサは、露地栽培または水耕栽培で育てられる。露地栽培のものは「バイオ」と呼ばれ、水耕栽培のものは「ハイドロ」と呼ばれる。この両者は陶酔の質に差があるとされ、愛好者はそれぞれ好みのものを選んでいる。
日本に自生するアサには陶酔成分である1%以下のテトラヒドロカンナビノール(THC)が含まれている。他の品種は1.8から20%含有とされているため、確かに少ないが軽視できる量ではない。日本においてはアサの陶酔作用は麻酔いとして農家から嫌われたようであり、それを解消するために生み出されたのが改良品種トチギシロで、1982年から栽培が開始されている。
アサはその繁殖プロセスから、花粉が周囲2km程度に飛散する。このときに陶酔成分を多く含むアサの花粉を受粉した場合、これに関する遺伝子は優性遺伝するため、トチギシロも陶酔成分を含むことになる(つまり代返りする)。 このため、現在栽培されているトチギシロは、不法に持ち込まれたアサとの交配によって陶酔成分を含んでしまっているという説もある。このように交配されたアサはインドアサの水準までTHC含有量が上がるとは考えにくいが、実際北海道では自生するアサを採取してマリファナを生成する個人愛好家もいる。[1]。
[編集] 用途
一般的に麻は覚醒剤やコカインなどと同種の「麻薬」としての悪評のみが一人歩きしてしまった。しかし実際には食用、薬用、繊維、製紙などの素材として用いられる有用な植物である。
[編集] 茎
衣類・履き物・カバン・装身具・袋類・縄・容器・調度品など、様々な身の回り品が大麻から得た植物繊維で製造されている。 麻織物で作られた衣類は通気性に優れているので、日本を含め、暑い気候の地域で多く使用されている。綿・絹・レーヨンなどの布と比較して、大麻の布には独特のざらざらした触感や起伏があるため、その風合いを活かした夏服が販売されている。大麻の繊維で作った縄は、木綿の縄と比べて伸びにくいため、荷重をかけた状態でしっかり固定する時に優先的に用いられる。伸びにくい特性を生かして弓の弦に用いられる。また神聖な繊維とされ神社の鈴縄、注連縄や神事に使われる。横綱の注連縄にも使われている。繊維を取った後の余った茎(苧殻【おがら】)は、かつては懐炉用の灰の原料として日本国内で広く用いられ、お盆の際に迎え火・送り火を焚くのに用いられる。
現在も産業用(麻布等)栽培はあるが、減少傾向である[2]。
[編集] 果実
果実は生薬の麻子仁(ましにん)として調剤される。麻子仁には陶酔成分は無く穏やかな作用の便秘薬として使われる。 栄養学的にはたんぱく質が豊富であり、脂肪酸などの含有バランスも良いため食用可能である。 香辛料(七味唐辛子に含まれる麻の実)や鳥のえさになる。 果実を搾ることにより油を得ることができる。この油を含んだ線香がアロマテラピー用として市販されている。
[編集] 葉および花
[編集] 嗜好品として
葉及び花冠(かかん)には陶酔作用があり、嗜好品として用いられる。陶酔を引き起こす主成分は、テトラヒドロカンナビノール(THC)といわれる物質であるが、これ以外に含まれる成分のバランスによって効果に違いが生じる。
特に、ラマルクにより命名された亜種のインド麻(C.indica Lam)は2000年以上前から中央アジアで品種改良され、一般的な大麻より多くの陶酔成分を含むので一般に嗜好品としての大麻と言えばこのインド麻を指す。また、インドやジャマイカなどではガンジャ(神の草の意)と称される。
[編集] 医薬品として
テトラヒドロカンナビノールをはじめとしたカンナビノイドには医薬品としての効能があるという。エビデンスはないが、多発性硬化症などの神経性難病や緑内障に対し、アメリカの一部の州やイギリスやカナダ[3]、オランダといった国で処方箋薬として認可され、治療薬として試みられている。
合成テトラヒドロカンナビノールのドロナビノールはアメリカ合衆国でマリノールという商品名で販売され、末期エイズ患者の食欲増進、ガンの化学療法に伴う吐き気の緩和のために処方されている。[4] また、ドロナビノールはドイツにて、大麻抽出成分を含有するSativexはカナダにて[3]処方されている。日本では医薬品としての臨床試験は禁止されている。また、他にもうつ病、不眠症、てんかん、気管支喘息等の疾患にも効果があるといわれている。
[編集] 緑内障への治療薬として
幾つかの研究により、マリファナの摂取が眼圧の低下をもたらすことが示されている。緑内障の原因として眼圧の上昇による視神経の損傷が挙げられており、これらの研究発表により多くの人がマリファナ摂取を用いた眼圧の低下が緑内障の治療法になると考えた。1970年代にアメリカ合衆国で行われた研究は、マリファナの喫煙時に眼圧が低下することを示した。[5]マリファナもしくはマリファナから抽出された薬物が緑内障治療としての効果を持つか否かを解明する試みの一環として、1978年から1984年にかけてアメリカ国立眼科研究所は調査研究を助成した。それらの研究において経口的もしくは経静脈的に投与された時、もしくは、喫煙をした時に、マリファナの派生物は眼圧を低下させることが証明された。[6]しかし、目への局部投与ではそれは証明されず、また、市場で流通するその他の治療薬に比べて安全にかつ有効的に眼圧を低下させるかについても証明されなかった。2003年、アメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology)は「現在利用でき得る薬物に比べて、緑内障治療の為にマリファナ使用することによる軽減されるリスク、及び、増大する恩恵の証明を科学的な証拠は示さなかった」との声明をだしている。[5]医薬品は治験において、既存の医薬品と比較して何らかの有用性が認められなければ認可されることはないため、現時点ではこのマリファナの派生物質が緑内障治療薬として認可される可能性は限りなく低い。
[編集] 嗜好品としての大麻
この節(下位の節を含む)において、「大麻」は植物そのものに加えて陶酔成分を持つ各種の加工品を含む。
[編集] 種類
嗜好品としての大麻は以下の3つの種類に分類されている。なお、この種類の節では『2006年世界薬物報告』の統計データを用いている。
[編集] 乾燥大麻/マリファナ
花穂や葉を乾燥させた大麻加工品を乾燥大麻という。大麻の葉をリーフ、花穂をバッズ、無受精の雌花の花穂をシンセミアという。乾燥大麻は、嗜好品としての大麻の最も一般的な加工方法であり、世界で押収された大麻の内79%が乾燥大麻である[7]。バッズのTHC及びカンナビジオール含有率は、他の部位に比べて高く、シンセミアにおける含有率は更に高い。市場で流通する乾燥大麻のTHC含有率は大麻の品種改良や栽培技法の確立により年々上昇している。
また、良質のシンセミアを確実に得たいという思う愛好者の要望に応じるため、栽培業者は巧妙な交配を行って雌株の発芽率を高めた種子を販売している。このような種子をフェミナイズド・シード(feminised seeds)といい、種子製造メーカーによっては雌株発芽率が100%だと標榜している品もある。
[編集] 大麻樹脂/ハシシ
花穂や葉から取れる樹液を圧縮して固形状の樹脂にした大麻加工品を大麻樹脂と言う。ハッシッシ、ハシシ、ハシシュ(hashish)、チョコ、チャラスとも呼ばれる。世界における消費地は主に西ヨーロッパであり、世界における大麻樹脂の74%はここで押収されている[7]。また、モロッコが大麻樹脂の最大生産国である[7]。
[編集] 液体大麻/ハシシオイル
乾燥大麻や樹脂を溶剤で溶かし抽出した大麻加工品を液体大麻と言う。ハシシオイル、ハッシュオイル、ハニーオイルとも呼ばれる。溶剤には、アルコールや油、石油エーテル、ブタンなどが用いられる。THCを抽出するためTHC含有率が高く、溶剤にもよるが50%を超える場合もある。日本の行政は一般に液体大麻と呼称するが、形状は溶剤により様々ある。
[編集] 摂取方法
大麻は主に次の方法で摂取する。
- パイプ(煙管様の喫煙具)で吸う
- ジョイント(乾燥大麻を煙草の巻紙に巻いたもの)をに点火してて吸う。
- ボング(水パイプ)と呼ぶ喫煙具で吸う
- ボングを使うと、煙をいったん水に通すことで喉あたりが緩和され、有害な成分を減少させることができる。また、煙の流れを管の中に集中させることができるため、ジョイントよりも効率よく有効成分を摂取することができる。ボングには様々な形状のものがあり、好みのものを買い求めたり自作するなど副次的な趣味を形成している。手のひらに乗るくらいコンパクトなものから、一輪差しの花瓶や理科の実験で使うフラスコに似た形状のもの、それよりも大きくビアジョッキ程度の大きさのもの、さらに大きなものでボングの高さが80cmに及ぶものがある。小さなボングは携帯性を重視しており、ハンドバッグに入れて持ち歩くことができるようになっている。大きなボングは吸引時に勢いよく煙を立てることができ、迫力を楽しむことができる。大きなボングには複数の吸い口が取り付けられ、複数人で一つの大麻を摂取することができるようになっているものがあり、親近感を深める意味合いで用いられる。
- ヴェポライザーと呼ぶ喫煙具で吸う
- ヴェポライザーは、大麻を燃やさず、有効成分のみ気化させる器具である。大麻に点火するのではなく、大麻を間接的に加熱させるようになっている。その結果、煙に含まれる有害成分を発生させずTHCだけを吸引することが可能となる。この方法は、タバコの吸えない愛好者にとって好まれる摂取方法であり、医療目的で使用する場合もこの方法が用いられる。
- 大麻樹脂を小さく砕いて煙草等に混ぜ、煙草の巻紙で巻いて吸う
- 大麻樹脂を溶剤で溶かして、煙草に混ぜたり、煙草の紙に塗りつけたりして吸う。この方法に用いられる大麻樹脂の抽出物はハニー、オイルと呼ばれる。
- テトラヒドロカンナビノールは油やアルコールに溶けるので、菓子の材料に加えるほか、バターや食用油やアルコールに溶かし、それを使った料理を食べる。インドには大麻の搾り汁をヨーグルトで割ったバング・ラッシーという飲み物がある。
花、樹脂を加えてケーキやビスケットの材料に混ぜ、調理して食べる。このような菓子はスペースケーキと呼ばれ喫煙と同様の酩酊作用を持つ。
[編集] 大麻と人体
- 詳細は大麻による健康問題を参照
[編集] 人体への影響(社会的意見)
科学的証拠を別として、大麻の有害・無害については、社会の中に様々な考えがある。 大麻の有害性が酒やタバコより低いと主張する人々がいる。この主張に対し、WHOは、主張の根拠になっている論文「健康および心理に対するアルコール、インド麻、ニコチン、麻薬摂取の結果の相対的な評価(A comparative appraisal of the health and psychological consequences of alcohol, cannabis, nicotine and opiate use)」を「矛盾に満ち」「非科学的である」としている。 一方で、イギリス政府の調査では、大麻の社会的損害、身体・精神的損害は、タバコ、アルコールよりも遙かに低いと結論づけている。[8]
[編集] 人体への影響(医学的見地)
THCは脳内の海馬・小脳・延髄腹内側部などに影響する。 大麻の致死量は、カンナビノイドの含有量が品種によって違うため断定出来ないが、過剰摂取による死亡例の報告は無く、急性中毒による死亡はまずないと言われている。
ニューヨーク州立バッファロー大学(Buffalo State College)の研究者は、大麻を煙草に巻いて吸う場合、ヒトの生殖機能に悪影響を及ぼす化学成分が摂取されるとしている。また普通のタバコと同量以上のタールや一酸化炭素、シアン化物といった発癌性物質が煙に含まれているとする研究者もいる。
[編集] 障害の診断
大麻中毒の救急外来での一次スクリーニング検査は、THCを尿検体で測定する。 大麻による障害は、WHO国際疾病分類第10版ICD-10の「大麻類使用による精神および行動の障害」(F-12)で診断される。 2004年に行われた全国調査では、大麻を主要乱用薬物として精神科的治療を受けている日本の患者は、6割が精神病(ICD-10 F-12.5、F12.7など)、3割が依存症(ICD-10 F-12.2)と診断され、1割が入院治療を受けている。
[編集] 急性期
リラックス・多幸感、視覚・聴覚変化などがもたらされる。 肉体に現れる変化としては、頻脈、不整脈、血圧の変化、眼球内の余分な圧力の緩和、気管支拡張、嘔吐反応の抑制、目の充血、食欲の増加、幻覚などの精神病症状などがある。特に大麻によって起こる精神病症状は大麻精神病と呼ばれることがあり、治療の対象となりうる。
[編集] 離脱期
離脱期には体重減少・睡眠障害・異常な夢などがおこる。精神面では、イライラ・易刺激性・易怒性が見られ、攻撃性の亢進も見られる。 オーストラリアの研究では、暴行事件で警察に拘留された者の46.4%が検査で大麻陽性であった。しかし大麻だけ陽性だったというデータは公表されていない。
[編集] 慢性期
- 慢性的な影響の中で最も顕著なのは、精神面に対するものである。
- 2003年秋までの253本の論文をまとめたスウェーデン政府の報告書では、大麻は麻薬の中では精神疾患との関連が強く、様々な精神疾患を発症するリスクは、ヘロインよりもはるかに高いとしている[9]。日本では、主として大麻乱用で精神科有床医療施設で治療を受けている者の半数以上は、精神病との診断を受けている[10]。器質的には、若年からの大麻曝露で、大脳は灰白質の割合が小さくなることが報告されている[11]。
- 行われた7つの疫学研究を総合することで、大麻常用者は精神病発症リスクが2.9倍と見積もられている[12]。また、若年者の大麻摂取は精神病発症のリスクを増大させると指摘されている。[13]。現在知られる害の中では、依存症をはじめとする精神疾患の発病・悪化が最大と思われ、大麻乱用の多い英国の精神科集中治療室の患者の多くは、大麻使用者である[14]。そして大麻が社会に蔓延すれば精神病が増加することが予想されるが、ロンドンでの調査では統合失調症が着実に増え、33年間で2倍近くになっていることが示された[15]。
- うつ病に関しては、大麻がうつ病のリスクを増さないという報告[16]と増すという報告[17]がある。後者では、若い女性に対し、大麻は用量反応関係をもって後のうつ発症リスクを有意に高めたというが、前者では追認されなかった。(詳しくは大麻による健康問題を参照)
- 大麻と精神障害の関係性は社会的な要因と密接に絡み合っており、サンプリングによる調査の結果は、対象がそもそも何らかの精神障害を持っていながら大麻を使用しているのか、大麻がその原因になっているのか、慎重な背景精査を必要とする。が、2005年のニュージーランドの研究は、精神病症状のため大麻が使用されているのではなく、大麻使用が精神病症状を起こしていることを示した[18]。しかし、大麻を時折のみ使用する人の大多数は、永続的な身体的・精神的障害を受けることはない[19]ということに関しては、ほぼ異論は出されない。大麻乱用者の統合失調症のリスクが2~3倍だとしても、100人中97~98人は統合失調症を発症しないからである。
[編集] 依存形成
2000年代以前では、大麻の身体依存性は確立していなかった[7][20]。WHO分類(1963)では、依存性薬物の特性を以下のように報告している。
依存薬物 | 精神依存 | 身体依存 | 耐性獲得 |
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ヘロイン | 強 | 強 | 強 |
アルコール | 強 | 中 | 中 |
アンフェタミン | 強 | 無 | 強~中 |
コカイン | 強 | 無 | 無 |
幻覚薬 | 弱 | 無 | 中 |
たばこ | 強 | 無 | 強 |
大麻 | 中 | 無 | 弱 |
しかし疫学的には、ECA Study(Epidemiologic Catchment Area Study、1994)で米国北部で調査された2万人のうち4.4%が大麻を乱用し、その約5分の3が大麻依存状態であることが示された。
そして同1994年に改定された精神医学の診断指針である 『精神障害の診断と統計の手引き』第四版により、大麻の依存症の概念は変革を迎えた[7]。第四版における薬物依存の診断には、身体依存を必要とせず、既存の依存の考え方を改定する物だった。これにもとづく新たな依存の考え方のもとで大麻の依存は研究されることとなった。
大麻の依存症は他の薬物に比べて高くはなくタバコ、アルコール、ヘロインより弱い[21]。
大麻が依存を起こすことの実験的証明は、2000年代に入ってなされた。 2001年の大麻常用者12人に大麻摂取を断たせた研究では、全員が食欲が落ち、眠れず、そわそわ・いらいら、攻撃性亢進が見られたが、大麻摂取でそれらは消失した[22](禁断症状発症率は、95%信頼区間で78%以上)。これらのことや他の複数の研究[23][24][25]から、大麻常用者は実験的に高率に禁断症状を発症しうると考えられている。
[編集] 法規制
[編集] 日本での概況
日本では大麻の所持や栽培は大麻取締法で規制されていて、免許が無いと所持・栽培はできない。無許可で行うと、覚醒剤や麻薬の蔓延の原因として厳しく罰せられる。大麻の所持や栽培はG8各国で唯一、少量所持であっても最低刑を懲役刑と定めている。
日本の大麻取締法はカンナビス・サティヴァ(Cannabis sativa)の品種にのみ適用される法であるが、実際はサティヴァ種のみならずインディカ種やルデラリス種でも許可なき所持・栽培・研究等が発覚すれば厳罰に処せられるという拡大解釈がなされている。
日本国内で栽培される大麻のほとんどが栃木県で用途は主に麻布であり、トチギシロ(栃木白)という改良品種である。この品種はTHCをほとんど含んでいないとされている。栃木県はトチギシロの種子の県外持ち出しを禁止している。
大麻に対する規制に賛成し、より強化することを求める人々と、規制の緩和を求める人々がいる。前者は行政機関や教育関係者、海外の精神病院等での大麻の害を知る医療関係者、就学児童の保護者らが加わっている。後者はボーダーレスな文化を受け入れている人々や外国に渡航し実際に大麻を摂取し、その結果をよいものととらえた人々が含まれている。かつてのヒッピー文化やある種のアンダーグラウンドなサブカルチャーに属する人も関連している。
[編集] 規制強化を求める人々
規制強化を求める人々は、大麻と覚醒剤などのハードドラッグを統合した形で取り扱っている。彼らは大麻が生産国の反政府ゲリラやテロ組織、暴力団の資金源となること、大麻自体に重大な保健衛生上の問題があり、覚醒剤などのハードドラッグの使用へとつながると主張している。この主張を踏み石理論またはゲートウェイ理論と呼ぶ。ただ、この理論に統計的な根拠はない。
各自治体では、警察が主となり使用を戒めるポスターの配布や学校への巡回講演を行って、特にドラッグの誘惑を受けやすい児童に対して、この危険性を訴えている。ポスターは学校に限らず、住居地区の掲示板、駅、公共施設、娯楽施設、商業施設など人目に付く所の多くに掲示されている。この種の資料や講演においては、他のハードドラッグと統合して危険性を訴えていることもあり、大麻に関して科学的見地からは導き得ない症状も書き連ねているという問題点がある。もっとも、大麻の摂取禁止を徹底するに当たっては科学的に正確な資料を提示するよりも、一種の恐怖感をただよわせる方が効果的だといえるからである。
[編集] 規制緩和・撤廃を求める人々
大麻に対する規制緩和を主張する者の多くは、大麻と覚醒剤などのハードドラッグを明確に分けて取り扱う。彼らの中には覚醒剤などのドラッグ類についての規制については反対することなく認めている者もいる。一方、ハードドラッグも非犯罪化することを求める者もいる。
彼らはすでに規制を緩和させた諸外国の法令や各種研究を引用し、大麻を合法化することが暴力団の資金源の意味を失わせ、ハードドラッグの蔓延を防ぐと主張している。しかし嗜好品としてのアプローチでは状況を打開しにくいため、大麻の医療的有効性も併せて主張している。その有効性を示す証拠はまだひとつも存在しないものの、現在では幾つかの国において大麻及び合成THC製剤が治療薬として認可・処方されている。
彼らは草の根的なネットワークを通じ、印刷物の配布・学習会・メールマガジン・イベントの開催などを行い、大麻と他のドラッグが違うこと、処罰の軽減や制限付きでの所持許可を求めている。しかし、上述の規制強化を求める人々が非科学的な論理で大麻の有害性を誇張しているのと同様に、規制緩和を求める人々においても科学的に充分立証されていない有用性を主張したり、既知の悪影響を過小評価して表現するといった問題を抱えている。
[編集] 各国・地域の大麻政策
欧米では条件付で厳罰に処さない国や、個人使用の為の所持ならば罰金程度の軽犯罪とする国が多い。 実際、オランダでは大麻の条件付非厳罰化をしてからハードドラッグの使用者が減ったという。また、欧米の先進国では、大麻を医療目的に使用することに関して様々な研究をしており、医療目的での大麻使用に関しては寛大な態度を取っている事が多い。
他の地域にも古くから世界中で宗教儀式などの文化に深く根付いていたこともあり、現在でも法律に関わらず大麻を摂取することを肯定的に捉えるインドやジャマイカなどの国や地域もある。また飲酒は、イスラム教では戒律で禁止、ヒンドゥー教でも不道徳な行為とみなしており、そのぶん大麻への指向が強い。
- EU
- 陶酔成分が0.2%以下ならば栽培可能とし、少量の大麻所持は非犯罪化、又は一部合法化されている。
- オランダ
- 大麻が合法という紹介がされることがあるが、法的には一定量の個人所持が非刑罰化されただけで、売買などは正確には禁じられている。ただし、法令上は違法なのに取り締まりを実施しなかったり、売買が違法なのに大麻の購入や喫煙が出来るコーヒーショップの許認可は正式に各自治体が決めているといった矛盾が大きいため、数年前から合法化の検討が国会で実施されている(参照:オランダの薬物政策)。
- イギリス
- 大麻は違法とされているが、2004年に大麻の違法薬物としての分類が下げられ個人使用量相当の所持は取り締まりの対象外である。イギリスにおいて大麻は、1971年薬物乱用法(Misuse of Drugs Act 1971)の基でクラスBに分類されていた。薬物乱用法において指定されている薬物の所持及び供給は、犯罪であり、刑罰の対象であった。1984年警察及び犯罪証拠法(Police and Criminal Evidence Act 1984)において警察の捜査権限は制限され、警察の無令状での逮捕を制限する概念「逮捕できる罪状(Arrestable offence)」が導入された。これにより、クラスC薬物の所持は「逮捕できる罪状」ではなくなったが、クラスB薬物である大麻の所持は依然「逮捕できる罪状」であった。2001年、トニー・ブレアの労働党政権下で内務大臣であったデヴィッド・ブランケットは、大麻をクラスBからクラスCに変更するかもしれない事を、発表した。この活動は、当時、保守党の政治家デービッド・キャメロンにより支持された。2004年に大麻はクラスC薬物となり、所持は「逮捕できる罪状」ではなくなり、大麻の所持は違法ではあるものの非刑罰化された。この変更は、警察当局がその他の犯罪に人的資源を注力できるように計画されていた。オランダ式のコーヒーショップを確立する為の幾つかの案などが、この変更に際して提案されていたが、それらの大部分は廃案となった。
- 大麻の有害性の知識を国民に広めるキャンペーン(“率直”戦略)が始められた。イギリスでは大麻の蔓延が大きな社会問題であるため、2006年に政府の専門委員会が大麻に関する科学的論文を総覧し、その影響について結論した。その結論は、「大麻は有害である。大麻を摂取すれば、広範囲な肉体的・精神的危険にさらされる。」という一文で始まる。しかし「大麻は疑いなく有害だが、クラスBの薬物(非注射のアンフェタミン等)に匹敵する危険はない」とも明言している。大麻の有害性を教育現場や一般向けに周知させる政策が2006年からとられることとなった。
- ドイツ
- 大麻の不法所持は違法であり罰金及び禁固刑で罰せられ得るものの、個人使用における少量所持は起訴されない[26]。これは連邦憲法裁判所の見識にそったものであり、ドイツでは大麻に限らず麻薬の少量所持は制限に沿えば起訴されていない[27]。合成THCを含有する医薬品ドロナビノールは1998年から認可されている。
- ベルギー
- 少量所持を許容する法案が可決されたものの、運用方法の曖昧さにより裁判所で却下され、現在国会で条文が再検討されている。条文が再可決されるまでの暫定的なガイドラインとして、少量所持が発覚した場合は口頭注意にとどめ、大麻そのものの没収はしないよう通達されている。
- アメリカ合衆国
- 連邦法、州法、市法に細かく分類され、それら法律の運用の複雑さや矛盾があるが、連邦法では少量であっても違法となるものの州単位では実験栽培を開始している。連邦法である規制物質法の基では、大麻はスケジュールIに分類され厳しく管理されている。一方、マリノールは規制物質法の基スケジュールIIIに分類され、医師による処方が許容されている。医療用大麻においては12州では非犯罪化されている。最近ではコロラド州デンバー市が世界に先駆けて21才以上の成人による1オンス(約28グラム)以下の所持については一切の規制を排除し合法化した事で注目された。州法では違法なので、所持したままデンバー市から出た場合は処罰対象になる。また、カリフォルニア州をはじめとして、医療用大麻が非犯罪化されている州には、医療用大麻を必要とする患者のためのマリファナ・クラブという物があり、医療用に大麻を販売してくれる。
- カナダ
- 医療目的の大麻栽培、所持、使用は合法化されており、カナダ保健省では処方箋のある患者への販売も実施している。また、世界で初めて医療大麻使用者に対する医療費控除制度も導入した。
- オーストラリア
- 西オーストラリア州をはじめとした一部地域では少量所持や栽培が非犯罪化されている。
- シンガポール
- 大麻を含む禁制薬物(麻薬・覚醒剤など)の所持に対しては厳罰を以って臨んでおり、死刑の判例がある。
- インドネシア、マレーシアなどの東南アジア島嶼部
- イスラム教圏であるもののシンガポール同様の厳罰政策をとっている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 大麻取締法被害者センター
- 医療大麻裁判
- CANNABIST Internet - カンナビスト 大麻非犯罪化人権運動
- en:Hemp - 文化的観点から見た麻・大麻。
- カンナビス・メド - 医学的観点から見た大麻。
- 産業用大麻で土壌改良を試行するニュース
- 大麻堂 - 麻関係グッズのショップ。
- マリファナ青春旅行 麻枝光一的日常 - 大麻堂店主のブログ。
[編集] 脚注
- ^ 北海道警察本部編 『平成17年版 北斗の安全』(PDF) 北海道警察、30頁、2006年7月。
- ^ 国際連合食糧農業機関の統計サイトFAOSTAT Classicによれば、世界における麻の生産量は1960年代は毎年30万トン前後あったものの、1990年代からは6万トン前後となり、20年間で5分の1程度には減少している。ただし、この数値にはインド麻の他にサンヘンプなども含まれている。
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