東急6000系電車
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6000系電車(6000けいでんしゃ)は、東京急行電鉄に在籍していた通勤形電車である。
1960年(昭和35年)に、東急が5000系に代わる高性能車として開発し、電力回生ブレーキを装備した省エネ電車として4両編成5本(20両)が製造された。また、エコノミカルカーという愛称でも呼ばれていた。
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[編集] 概要
[編集] 主要機器
1台車1モーター装備という日本の電車としては非常に珍しい特徴を持つ。
電機品メーカーとその構造により、A編成・B編成・C編成と3つに大別できる。
- A編成…東洋電機製造製の電装品・駆動装置(平行カルダン方式)を装備。後に6001と6002の両先頭車がVVVFインバータ制御の実用試験車へと改造されている。4両編成1本(4両)が製造された。
- B編成…東京芝浦電気製の電装品・駆動装置(直角カルダン方式)を装備。「6200系」と呼称されている。回生ブレーキは故障が多かったため、1973年(昭和48年)頃に回生ブレーキ機能が外された。また、機器類の故障も多く出力も低すぎたため、度重なる改造を経てVVVFインバータ制御の実用試験車へと変貌していった。4両編成1本(4両)が製造された。
- C編成…A編成の量産車格の編成。東洋電機製造製の電装品・駆動装置(平行カルダン方式)を装備(2代)。4両編成3本(12両)が製造された。
いずれも台車中央にモーターを1個置くが、A・C編成は枕木方向の片軸モーターに複数のスパーギヤと撓み継ぎ手を組み合わせた方式であるのに対し、B編成はレール方向に設置された両軸モーターを使用した方式で直角カルダン駆動式である。
両者を比較させた結果、比較的安定した性能を見せたA編成をベースに、C編成が量産車として製造された。なお、B編成は出力過少である上、撓み継ぎ手・回生ブレーキの不具合と故障が多発したため、度重なる改造の末、最終的にはVVVFインバータ制御試験車(後述)となった。
台車構造も昨今のボルスタレス台車を思わせる軽量台車が採用された。軸バネは円筒ゴムを使用した現行の2000系のそれに近い構造である。常用ブレーキにドラムブレーキを用いていたのも特徴である。いずれも具合は芳しくなく、軸バネはコイルスプリングに、ブレーキは両抱きの踏面ブレーキに改造されている。
なお、1台車1主電動機全軸駆動の実例として、B編成に見られるレール方向に主電動機を置くものは、台車寸法の小型化から主電動機などに制約の大きい路面電車において、アメリカ合衆国のPCCカーを発祥として、旧・西ドイツデュワグカーや旧・チェコスロバキアで量産され旧東欧共産圏標準車とされたタトラカーなどで広く普及し、日本においても東京都交通局(都電)5500形5501号や広島電鉄3500形、長崎電気軌道2000形、熊本市交通局8200形などの実例はあるが、高速鉄道ではアメリカ合衆国のシカゴ・Lなどで採用された程度で多くはない。一方で台車中央枕木方向に主電動機をおく方式は、電車用としては日本国外においても類例を見ない方式である。なお、この方式を採用したA・C編成は、高音かつ音量の大きい非常に特徴的な駆動音を発していた。
ほぼ同時期に電気機関車においても日本国有鉄道(国鉄)EF80形などに1台車1主電動機方式が採用されたが、主電動機個数を減らして得る軽量化や保守軽減の効果よりも機械的な特殊さ・複雑さによる欠点の方が大きく、しばらくの間特に日本国内の高速鉄道では後に採用されることがなかった。
[編集] 編成表(製造当時のもの)
- この書体は後にVVVFインバータ制御装置実用試験のためVVVFインバータ制御装置改造を施された車両
- エメラルドグリーン色は後にVVVFインバータ制御装置実用試験のため付随車代用に変更とされた車両(制御付随車/付随車代用・電動車・遅れ込め制御改造)
- 赤色の編成は東洋電機製造の電装品を採用している車両(東洋車A編成・初代、主電動機の出力は100kW×2)
- 青色の編成は東京芝浦電気の電装品を採用している車両(東芝車B編成、主電動機の出力は85kW×2)
- 緑色の編成は東洋電機製造の電装品を採用している車両(東洋車C編成・2代、主電動機の出力は120kW×2)
- ピンク色(H)の車両は日立製作所のVVVF電装品に改造された車両
- 黄色(T)の車両は東京芝浦電気のVVVF電装品に改造された車両
- 茶色(H)の車両は東洋電機製造のVVVF電装品に改造された車両
- オレンジ色(K)の車両は弘南鉄道譲渡車(中間車の2両〈スカイブルー色〉は部品取り用)
- Mc1は営業用運転台付き電動車(制御車)
- Mc2は営業用運転台・補助機器(電動発電機・空気圧縮機他)付き電動車(制御車)
- M1は制御装置付電動車
- M2は補助機器(電動発電機・空気圧縮機など)付き中間電動車
- ◇は長津田・二子玉川園・桜木町方に菱形パンタグラフを搭載
- ■は制御装置を搭載
- 偶数番号→制御装置・パンタグラフ搭載
- 奇数番号→補助機器(電動発電機・空気圧縮機など)搭載
- 東芝車は、車両番号に+200される
←長津田・二子玉川園・桜木町 大井町・渋谷→
電動車 | Mc2 | M1 | M2 | Mc1 |
---|---|---|---|---|
編成 | デハ6000形 | デハ6100形 | デハ6100形 | デハ6000形 |
機器類 | CP・MG | ◇■ | CP・MG | ◇■ |
6002 | 6001 | 6102 | 6101 | 6002 |
6202 | 6201 | 6302 | 6301 | 6202 |
6004 | 6003 | 6104 | 6103 | 6004 |
6006 | 6005 | 6106 | 6105 | 6006 |
6008 | 6007 | 6108 | 6107 | 6008 |
[編集] 車体
5200系のセミステンレス構造を基本に客用扉を両開きとし、前面は貫通扉を設けた。また、「く」の字形の側面形状の下半分は垂直構造とされた。地下鉄日比谷線乗り入れを構想に入れていたが(「回想の東京急行Ⅱ」参照)、当系列での地下鉄乗り入れは実現されず、7000系が乗り入れた。
[編集] 運用
新製時は東横線に配置され、その後は田園都市線にも配置された。晩年には大井町線で運用されたが、1990年(平成2年)頃までに全車両が8090系と9000系に置き換えられて廃車になった。なお、東横線での急行運用時には先頭車の前面に7000系・7200系・8000系と同様に「急行」の種別札を装着していた。
[編集] VVVFインバータ制御の実用化試験
1983年(昭和58年)に日立製作所製の試作ユニットを使用し、B編成の先頭車デハ6202が改造された。この際、デハ6202とユニットを組むデハ6201は制御付随車代用として使用され、デハ6202の回生ブレーキと連動し、常用制動で空気ブレーキを停止寸前まで使用しない“遅れ込め制御”に対応する改造がなされた。
東横・田園都市線・目蒲の各線で試運転を行った後、1984年(昭和59年)7月25日から9月18日まで大井町線で営業運転が行われた。これは直流1,500V区間の高速電車としては日本初の営業運転であった。
当時、4,500V耐圧のGTO素子は未だ開発途上であり、2,500V耐圧のものを2個直列に使用し理論上の定格電圧を5000Vまで上げるなど、未だ開発途上を伺わせる機器構成である。まだ安定性を欠くシステムゆえ、営業運転時は乗務員とは別に技術者が添乗したり、期間中不具合により長期に渡って営業を離脱したこともあった。台車は東急車輛製造製試作ボルスタレス試験台車に交換され、編成は6両すべてが先頭車であった。
翌1985年(昭和60年)には6302に東芝製の、6002には東洋製の制御器が搭載され、同時に6202のGTO素子も4,500V耐圧のものに交換されている。なお、この際交換された6302と6002の台車は8000系と同等のものとなっており、ボルスタレスではない。また、いずれもユニットを組む6301と6001は6201同様付随車扱いとされ、ブレーキ遅れ込め制御も同様に対応する仕様となった。この現車試験中に6000系VVVFインバータ制御車は度重なる編成変更(その間も営業運転を行っていた)を経て全車両をVVVFインバータ制御とした編成に組み直され、同年7月1日から11月頃まで再び大井町線で営業運転が実施された。この現車試験結果は早速新製車9000系(日立製主制御器)と改造車7600系・7700系(ともに東洋製主制御器)に反映され、以後の新規製造車は8590系など一部を除きすべてVVVFインバータ制御・交流モーター車となった。ただし、東芝製の制御装置は、東急においては2000年(平成12年)に落成した新3000系偶数編成以降で本格採用が開始された。
これらは、試験終了後東横線から8090系後期型の投入の影響により玉突きで転属されてきた7000系に置き換えられてそのまま廃車された。
[編集] 廃車後の動き
VVVFインバータ制御の実用試験車のB編成の車体は、大手ホームセンター企業であるジョイフル本田の茨城県下の店舗を通じて一般に売却された。その一部は土浦市内に現存する。
一方、C編成の一部は日立製作所と弘南鉄道に譲渡された。前者は同社水戸工場で試験用と通勤客車として使用された後に廃車された。後者は4両が大鰐線で運用されていたが、2006年(平成18年)10月31日の快速列車廃止に伴い運用から離脱した。
[編集] 参考文献
- 荻原二郎・宮田道一・関田克孝 『回想の東京急行Ⅱ』 大正出版、2002年。
[編集] 外部リンク
- 東急6000系電車インバータ試験車 - 6000系インバータ試験車のページ 6000系インバータ試験車の6202の走行音もある
- 東急6000系電車 - 6000系電車のページ
- 東急電車アーカイブス - 6000系電車の解説と6000系の走行音がある