東急9000系電車
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9000系電車(9000けいでんしゃ)は、1986年(昭和61年)3月9日に営業運転を開始した東京急行電鉄の通勤形電車。
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東横線を走る9000系。車体に特別な装飾のない一般的なもの(2005年12月、多摩川駅にて撮影)
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目次 |
[編集] 概要
東急では、1983年(昭和58年)に6000系の一部にVVVFインバータ制御装置を搭載し試運転を実施し、翌1984年(昭和59年)には1500V区間でVVVFインバータ制御装置を搭載した車両では日本初の営業運転での実用試験を行った。当系列はこの結果を踏まえて設計・製造された。
1986年から1991年(平成3年)にかけて117両すべてが東急車輛製造で製造された。これにより東横線で運用していた8500系を田園都市線・旧新玉川線へ転籍させ同線の増発用に充てた。又8090系を後に組み換えにより新製電動制御車「8590・8690形」に組み込む中間車30両を残して大井町線へ5両化の上転籍させ同線で運用されていた7000系や7200系を目蒲線や池上線に転配し、両線で運用していた旧3000系や旧5000系を置き換えた。また、東急の車両で初の自動放送装置を搭載し、以後東急の車両における標準装備品となった。
[編集] 概説
[編集] 外観
- 軽量ステンレス鋼製の20m級4扉車で、地下線乗り入れを考慮した前面貫通構造である。
- 前面は従来車と同様の切妻スタイルであるが、非常用貫通扉を助士席側にオフセットさせ、運転士側のスペースと視野の拡大を図っている。この前面スタイルは1000系や2000系でも採用された。
- 台車は軽量ボルスタレス台車(TS-1004形(電動車)・TS-1005形(付随車))を採用した。
- 9001Fは試作車の意味合いもあり、車側灯にカバーが付いていることなど、細部に違いが見られる。
- 東横線・横浜高速鉄道みなとみらい線用の編成は前面に補助排障器(スカート)を装着する(大井町線用の第7編成は未設置)。また、大井町線用の編成はパンタグラフをシングルアーム式に変更している。当初、東横線・みなとみらい線所属の9000系におけるスカート設置は限られた編成のみ施工される予定であり、公式ホームページ上にもそのように表示されていたが、結局、同線に所属する全編成に対し施工された。
- 2007年2月頃から東横線・みなとみらい線用の一部編成に車外スピーカーの設置工事を施工している。[1]
[編集] 内装
- 東急の鉄道線(軌道線である世田谷線を除く)で運行する自社保有車両では、唯一各車両の車端部にクロスシートを設置している。
- ロングシート部は乗客1人分の幅を440mmに拡大し、7人掛けの座席を4人掛けと3人掛けに色分けすると共に、中間には新たに仕切りを設置して着席定員を守りやすくしている。
- 9001Fはほかの編成とは冷房吹き出し口の形状が異なる。
- 9004Fを除く全編成が室内を更新している。座席はピンク系の表地に統一し、仕切りを廃止した。1~3、5~13編成については更新時に、14・15編成は更新完了後にその代わりに手摺りを新設した。このうち東横線・みなとみらい線用の第3・5・6・11~13編成と大井町線用の第7編成は化粧板を木目調に、つり革を三角形のものに、号車・車両銘板をシールのもの(9003Fは銘板のまま)にそれぞれ変更した。第12・13編成に限り、この室内更新に加え前面に補助排障器(スカート)を設置する予定だったが、計画の変更によって東横線・みなとみらい線所属の全編成に補助排障器が取り付けられた。つり革は大井町線用は3000系と同じ形状なのに対し、東横線・みなとみらい線用は他に類のない形状となっている。
- 東横線・みなとみらい線用の全車両にはドア上部にLED式車内案内表示器を千鳥配置に、ドアチャイムを各ドアの上部に設置している(これも大井町線用の第7編成は未設置)。なお、9001Fでは先頭車両のクハ9001・9101の車端部に日本の鉄道車両で初めてLED式を搭載した。これは赤とオレンジの2色表示で、ドットはクハ9001が四角、クハ9101が丸形であったが、ともに2000年(平成12年)8月6日のダイヤ改正で多摩川駅に急行が停車することになったため装置の使用を中止した。その後、この車端部LED表示器は冷房装置などの機器を更新する際に撤去し、他の車両と同様に広告掲示スペースとなっている。
- 冷房装置は集約分散式で、能力10,000kcal/hのものを各車4台搭載している。
[編集] 制御装置など
- 東急で初めて量産車としてVVVFインバータ制御とかご形三相誘導電動機を採用した。日本国内における直流1,500V用車両では、東急6000系(前述)、近畿日本鉄道1250系(現・1420系)、新京成電鉄8800形、近鉄3200系に続く5例目となる。
- GTO素子による日立製作所製制御装置(VF-HR-107形およびVF-HR-112形)を各電動車に搭載し、1台の制御器で4台の電動機を制御する(1C4M方式)。
- VVVFインバータ制御の特性を活用して定速運転機能を付加した。
- 制動装置は一般的な回生ブレーキ付きの電気指令式ブレーキである。回生ブレーキの動作範囲は停止直前(5km/h)までと広い。そのため起動時のみならず停止時も「ブーン」というVVVFインバータ独特の非同期音を電動機および制御装置から発する。
- SIVは東芝製の容量120kVA、出力電圧440V、GTO素子を使用している。
[編集] 詳細
- 主電動機:TKM-86形かご形三相誘導電動機、出力170kW、歯車比85:14=6.07
- 駆動方式:中空軸たわみ継手式平行カルダン
- 制動方式:回生制動併用全電気指令式電磁直通制動(HRA、付随車遅れ込め制御)
- 起動加速度:3.1km/h/s
- 減速度:3.5km/h/s(常用最大4.0km/h/s)・4.5km/h/s(非常)
[編集] 編成・運用
東横線・みなとみらい線用は8両編成(MT比4M4T)14本(112両)を元住吉検車区に、大井町線用は5両編成(MT比3M2T)1本(5両)を長津田検車区にそれぞれ配置されている。東横線・みなとみらい線用は各駅停車から特急まですべての列車種別に運用されている。大井町線の9007Fは8500系・8590系よりMT比が低いため、土休日の田園都市線との直通急行には充当されず、各駅停車のみの運用である。9001Fは1991年春頃まで一時的に大井町線で使用されたこともあったが、9007Fは1988年(昭和63年)2月の落成以降東横線・みなとみらい線で使用されたことは一度もないが、車輪のきしり音対策の試験のため数日間3両化されこどもの国線で運用されたことがあった。
←渋谷 | 1 (Tc2) | 2 (M1) | 3 (T2) | 4 (M2) | 5 (T1) | 6 (M3) | 7 (M0) | 8 (Tc1) | 製造年 |
形式 | クハ9000 | デハ9200 | サハ9700 | デハ9300 | サハ9800 | デハ9400 | デハ9600 | クハ9100 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
機器類 | CP | CONT,SIV | CONT,SIV | CP | CONT,SIV | CONT | CP | ||
車号 | 9001 | 9201 | 9701 | 9301 | 9801 | 9401 | 9601 | 9101 | 1986年 |
9002 : 9006 |
9202 : 9206 |
9702 : 9706 |
9302 : 9306 |
9802 : 9806 |
9402 : 9406 |
9602 : 9606 |
9102 : 9106 |
1987年 | |
9008 : 9013 |
9208 : 9213 |
9708 : 9713 |
9308 : 9313 |
9808 : 9813 |
9408 : 9413 |
9608 : 9613 |
9108 : 9113 |
1988年 | |
9014 | 9214 | 9714 | 9314 | 9814 | 9414 | 9614 | 9114 | 1989年 | |
9015 | 9215 | 9715 | 9315 | 9815 | 9415 | 9615 | 9115 | 1991年 |
←大井町 | 1 (Tc2) | 2 (M) | 3 (M) | 4 (M0) | 5 (Tc1) | 製造年 |
形式 | クハ9000 | デハ9200 | デハ9400 | デハ9600 | クハ9100 | |
---|---|---|---|---|---|---|
機器類 | CP | CONT,SIV | CONT,SIV | CONT | CP | |
車号 | 9007 | 9207 | 9407 | 9607 | 9107 | 1988年 |
[編集] 特記事項
- 新機軸を採用した車両だけに新製投入直後はトラブルも多かった。空転の多発や台車の空気バネの圧力調整不具合から、横浜駅付近(地上線時代)のカーブ区間の勾配(カント)に馴染まず脱線事故を起こすなどしているが、これらも徐々に克服していった。また初期のVVVFインバータ制御車の例に漏れず、発車・停止時に電動機および制御器から発生するパルス変調音を不快に感じる乗客も少なくなかったようである。
- 9000系は地下鉄7号線(南北線)との相互直通運転への対応も想定して設計した。その名残りとして目黒線に乗り入れている東京都交通局(都営地下鉄)の6300形および帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)の9000系の初期車には9000系と同様にクロスシートを設置するなど共通点が見受けられ、9000系には乗降促進放送スピーカーが設置可能なスペースを確保している。また、9000系は目黒線(当時は目蒲線)や営団南北線(当時)などでの使用を想定していたため、方向幕には[田園調布]や[目黒]の表示も用意したが、後に字幕を交換した際に消滅した。さらに運転台のマスコンキーやATC/ATS切替スイッチが営団対応のものになっているほか、一部中間車には誘導無線アンテナの取り付け準備もなされている。実際には急勾配の多い南北線では9000系は出力不足であったといわれ、また当初計画のホームセンサー方式からホームドア方式への計画変更によりモニタ装置を装備させる必要が生じたこと、また乗務員の安全確認上の面から、地下鉄乗り入れ開始に際しては新系列の3000系を設計・製造した。現在目黒線では3000系と5080系を使用している。
[編集] 車体装飾
- 9006FはTOQ-BOXで虹と楽器・音符をモチーフにした装飾が各車両に、9013Fは両端先頭車にシャボン玉をモチーフにした装飾をそれぞれ施している。ともに車内の中吊り広告は1社(商品・サービス)のものに統一している。9013Fは2005年(平成17年)度の夏期と冬期に開催したスタンプラリーのキャンペーン編成となり、夏期は「きかんしゃトーマス」を、冬期は「ふたりはプリキュア Max Heart」(右写真)をそれぞれラッピングした。また、翌2006年(平成18年)7月15日~8月31日には9015Fがスタンプラリーのキャンペーン編成となり、「ウルトラマントレイン」として運用していた。
- 2004年(平成16年)1月30日の東横線高島町駅・桜木町駅廃止の日には、上りの最終列車(桜木町発各停元住吉行)に9013Fが、下りの最終列車(渋谷発各停桜木町行、後に回送)に9001Fをそれぞれ充当した。このうち前者には惜別のヘッドマークステッカーを前後の貫通扉に貼付し、さながら路面電車の「花電車」的演出がなされた。
- 2005年11月前後から、東横線・みなとみらい線に配属した編成の8号車(クハ9100形)にTBSのテレビドラマの広告を掲載するようになった。この8号車は翌2006年7月14日まで特急・通勤特急・急行に限り女性専用車両に指定されていた。ただし、前述の9006Fと9013Fでは当該広告を掲載していない。
- 9005Fは2006年5月7日に臨時列車「ハッピーアイスクリーム号」に運用した。なお同年4月26日~5月6日にも東横線・みなとみらい線内の定期運用に使用した。
- 2006年10月は、自由が丘駅開業77周年を記念して、9002Fが3日~26日に、9007Fが2日~25日に特製ステッカーを車体に貼付していた。
- みなとみらい線沿線で開催するマッスルミュージカル本公演の前後には、ラッピングを施した編成を運行する。ただしラッピング施工編成は開催時期により異なる。
[編集] 鉄道模型
グリーンマックスからNゲージ塗装済組立てキットが商品化されている。
[編集] 参考文献
- 荻原俊夫 「9000系デビュー」『鉄道ファン』1986年5月号(通巻301号)、交友社。
- 山口雄二 「東京急行電鉄9000系」『鉄道ピクトリアル』1986年5月号(通巻463号)、鉄道図書刊行会。