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全学共闘会議

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

全学共闘会議(ぜんがくきょうとうかいぎ)は、1968年昭和43年)ごろの大学闘争・大学紛争の時期に日本各地の大学に作られた学生運動組織あるいは運動体である。通常は略して全共闘(ぜんきょうとう)と呼ばれ、全共闘による1960年代末の一連の学生運動は全共闘運動と総称される。

目次

[編集] 展開と終息

全共闘運動の展開は、日本大学東京大学に象徴される。日大では、20億円の使途不明金問題をきっかけに、古田重二郎会頭を頂点とした権威主義的な体制への不満が爆発し、1968年5月23日に日大初めてのデモとなる「二百メートル・デモ」が行われ、5月27日には秋田明大を議長として日大全共闘が結成された。日大全共闘は大学内の建物をバリケード封鎖し、両国講堂で3万5千人の学生による当局との「大衆団交」を行った。東大では、医学部インターン問題をめぐる学生への不当処分を発端として、大学当局に対する抗議活動が高まり、安田講堂を一時占拠するなどしたあと、1968年7月5日には山本義隆を議長として東大全共闘が結成された(詳細は東大紛争を参照)。東大全共闘も日大と同様に大学内の建物をバリケード封鎖し、当局との「大衆団交」を要求した。

全共闘は、はじめは各大学個別の問題を扱う組織・運動として結成されたが、その後大学当局の硬直した対応や政府や機動隊の介入を経験する中で、既存の政治・国家の体制全体を否定するようになり、最終的には大学解体をスローガンに、学生が大学を超えて連帯し日本帝国主義体制の打倒を目指す革命運動へと性質が変わっていった。1969年1月18日・19日の安田講堂攻防戦はそうした革命闘争の象徴となり、これ以後全共闘運動は全国の大学に波及したのであった。

しかし、運動が大学を超えた革命闘争となり、その手法も過激化していくにつれ、それについていけない一般学生は徐々に脱落してゆき、全共闘は新左翼各党派のセクト色が強くなっていった。1969年9月5日に日比谷野外音楽堂において結成された全国全共闘において、新左翼の献身で東大全共闘の山本義隆は議長、日大全共闘の秋田明大は副議長に就いた。この頃にはもはや当初のような自然発生的な組織・運動体としての全共闘運動の精神は失われていた。

1970年代に入ると、新左翼党派間で内ゲバが頻発したほか、赤軍派によるよど号ハイジャック事件や、連合赤軍によるリンチ事件および浅間山荘事件などの過激な運動によって急進的な学生運動は急速に支持を失い、全共闘は事実上崩壊した。内ゲバについては公安警察が左翼運動の自滅を図って裡で手引きしたものも少なくない。1980年の時点において全共闘が存在し、学生会館を自主管理していた法政大学の場合などは、当時しばしば「学生運動のガラパコス」「全共闘の生きた化石」と言われていた。「自派主導」ではない運動には一貫して消極的だった革マル派も全共闘運動には当初は積極的に関与したが、「安田講堂攻防戦」において革マル派が担当した建物を機動隊が来る直前に突然退去してしまったことから、全国の全共闘運動から革マル派は排除されることになる。

[編集] 戦後最大の学生運動

全共闘の最大の特徴は、その組織・運動の大きさである。全共闘は、それまでの全学連のように各学部の学生自治会を基盤にするのではなく、学部や政治的党派(セクト)の垣根を越える組織として作られた。これにより、5流13派とも言われた新左翼各党派だけでなく、組織や党派に属さないノンセクト・ラジカルと呼ばれる一般学生たちが広く連帯し、特定党派の指導やイデオロギーに制約されないアナーキー的な反逆あるいは一揆的爆発のような雰囲気の中で、大規模な運動が展開された。

実際、全共闘運動には、60年安保闘争からの流れを汲むブント(第二次ブント)をはじめ、反スターリン主義派の革共同中核派革マル派、レーニン主義批判を掲げる社青同解放派トロツキズム第四インター、ソ連派の民学同毛沢東主義のML派-学生解放戦線や日共左派、構造改革派のプロ学同やフロント、反マルクス主義のアナキスト革命連合無政府共産主義者同盟アナーキストの各グループ、さらにベ平連など(東大においては創価学会系の新学生同盟も)、また反体制的な右翼の青年民族派など、方針を異にするさまざまな組織・党派が参加しており、一部で各党派による組織化と指導争いが激しく展開されたものの、その多様性、多元性から、一元的な指導や特定のイデオロギーはほとんど存在しえず実存的活動と見なされ、ベトナム反戦と各大学の管理体制への反発の高まりの中で、全共闘は外部から見ればあたかも自然発生的に生まれたもののように見えた。

1969年(昭和44年)ごろには、東京大学京都大学をはじめ、北海道大学東北大学一橋大学東京外国語大学東京教育大学静岡大学信州大学金沢大学名古屋大学大阪大学大阪教育大学大阪市立大学岡山大学広島大学九州大学早稲田大学慶應義塾大学法政大学明治大学日本大学東洋大学中央大学同志社大学立命館大学関西大学関西学院大学、など、日本の主要な国公立大学や私立大学の8割に該当する165校が全共闘による闘争状態にあるか全学バリケード封鎖をしており、きわめて短い期間であるとはいえ、全共闘はその広がりや高まりの点で、戦後最大の学生運動であった。

[編集] 学生たちのその後

全共闘運動を担った者たちは、1970年代において大学院や大学を卒業するか、あるいは中退や除籍により大学を去り、それぞれ社会人となっていった。一部には保守政治家や企業家、大学教授として成功した者もおり、そうした身勝手な変わり身はしばしばかつての転向と重ねられ批判されることがあるが、それは一部であり、大半はそれぞれに紆余曲折があり、安易な「転向」というレッテルでは語りえないだろう。

ただ、このように学生運動が盛り上がっていたのは結局のところ、当時娯楽に飢えていた多くの若者達の間に、一見して格好の良い「革命」や「闘争」といったキーワードとその概念が一種のファッションとして流行したというだけのことだった、という意見は、かつて運動に加わった人々の中にも多く見られる。

実際、親の金で就学する学生らが「労働者の連帯を」などと口にしたところで、彼らが言うところのプロレタリアートであるはずの現実としての労働者達が、まともにそれをとりあうことはなかった。

東大全共闘議長の山本義隆は運動終息後、大学院を中退して駿台予備校で物理の講師となり、2003年には著書『磁力と重力の発見』で大佛次郎賞を受賞した。全共闘に関しては運動後一切発言せず、マスコミによる取材も断っているが、1992年には運動当時の資料を纏めた『東大闘争資料集』を国立国会図書館に寄贈している。

[編集] 全共闘内部の世代格差

千坂恭二の全共闘論(『月刊VIEUS』講談社1993年、その他)によれば、全学共闘会議の構成者には、大学院生から学部の下級生までがみられ、学生運動に対する意識や視点には、大学院生や学部の3、4年生と入学間もない教養部の1年生との間にかなり差違がみられた。千坂は、大学院生や学部の上級生は、ある程度自我を確立した年齢で学生運動を行い、運動もまた反戦平和志向の最盛期だったが、教養部の下級生は、それより若い年齢で学生運動を行い、運動は革命戦争の軍事的志向となり、その中で自我の形成をしていったと言う。このことから、大学院生や学部の上級生を「理想主義的でヘーゲル主義的、反戦青年的」とすれば、1年生などの学部下級生は「ニヒリズム的でニーチェ主義的、軍国少年的」であったとも考えることができるとのこと。
院生や学部上級生は運動が終わると古巣へ戻り、たとえば大学教員へと処世していったが、学部下級生は学籍抹消(除籍)などで路頭に迷い、各種の半ヤクザ稼業に従事するしかなかったと聞く。そこに院生・学部上級生の「昨日の世界の市民」性と、学部下級・高校生の「今日のフライコール(義勇軍)」性の深淵があるとも言われる。

現在、マスメディア出版物などで諸般の「全共闘論」などを展開しているのは、主に大学院生や学部の上級生の世代であり、そこには学部の1年生など下級生の世代のニヒリズムはあまり盛り込まれていない。前記の千坂によれば、俗に「全共闘世代」といわれるものに該当するのは主に前者、つまり当時の大学院生や学部の上級生であり、それに対して当時の学部の下級生や浪人、高校生は、全共闘の中でも運動の最前線におり、全共闘の上級世代とは内部的に区別され「バリケード世代」(突撃隊世代、前線世代とも)と表せるとのことである。

[編集] エピソード

  • 「全共闘」ではなく「全学闘(ぜんがくとう)」という言い方もあった。また、個別の組織ごとに独自の呼称があることもあり、中央大学のものは「全中闘」と称した。
  • 全共闘は戦う部隊=闘争委員会が直接結合してゆく組織・運動形態であったことから、日本共産党とその青年組織日本民主青年同盟が主張するような、学生自治会中心の代表制民主主義の方針を革命主義の立場から「ポツダム民主主義」あるいは「ポツダム自治会」として全面的に否定した。日本共産党=民青は「民主的教官や民主的当局者も含めた大学民主化」を掲げ、全共闘の「帝大解体」路線とは相容れる部分はまったくなかった。むしろ、民青はバリストを快く思わない学生を組織し、大学での支持者を増やしていったといえる。東大では全共闘と民青との対立が特に激しく、両者が武装し、襲撃や衝突がたびたび起こった。武装のための角材を全共闘は「ゲバ棒」、民青は長さ太さが一律に決められた樫の棍棒を「民主化棒」と名付けていた。
  • 大学の建物を占拠した際、運動の精神に理解ある進歩派やマルクス経済学者の教官さえも体制側とされ、多くの教官の研究室はことごとく荒らされた。「安田講堂攻防戦」において自らの研究室を破壊された東大法学部教授(当時)の丸山眞男は、「ナチスもやらなかった蛮行」と全共闘を非難した。のちに第四インターは「たまたま自分たちが担当した建物に丸山の研究室があったのであって、ただ単に寒かったから書類やフィルムを手当たりしだい燃やして暖を取っただけ。丸山の感情的な物言いは、『日本の進歩派はこんな程度なのか』と当時こちらが驚いた」と当時の第四インター部隊の指揮者が機関紙で明かしている。
  • 関東の大学だけでなく、関西でも学生運動の長い歴史を持つ京都大学の全共闘などが百万遍解放区闘争を行い、龍谷大学では本願寺解体闘争が展開された。また、立命館大学の全共闘は「わだつみの像」を破壊し、「形式的」として戦後秩序を批判した。
  • 皇室所縁の学習院大学にも全共闘があり、キャンパスでの集会の後、散らかったビラなどをきれいに片付けたことから、「さすがは学習院の全共闘は育ちが良い」と冗談に言われた。
  • 体育会系右翼の牙城とされた国士舘大学でも学生による運動が形成され、元憲兵下士官の教官や当局側の体育会系学生と対立する全共闘に、陸軍士官学校出身で元陸軍将校の退職教員が与するという光景が見られた。
  • 運動の広がりは一部の民族派右翼の学生たちにも影響を及ぼし、駒沢大学の全共闘には、元日学同国際部長で北方領土に日の丸を立てに行った者が合流し、早稲田大学の全共闘には、全共闘"昭和維新派"と称する早大尚史会関係の者が極一部だが参加していた。早大全共闘は、解放派=反帝学評、ブント、黒ヘルが主流であり、それに中核派、アナキストが続き、さらにはべ平連から社青同協会派=反独占(赤松広隆)などが参加し取り巻くというのが実態であった。民族派右翼は、早大ではせいぜい数十人のごく少数派であったが、斉藤、森田必勝などの日学同、日本学生会議などを中心として生息しており、運動の高揚を受けて、正門前で右翼同士が日本刀と木銃で渡り合うというという小事件などを展開している。少数とはいえ早大の民族派右翼は反体制派の右翼の中では人員が多いほうであった。
  • 保守派の牙城を自負していた京都産業大学では、全共闘阻止のために所謂「白色バリケード」を展開した。
  • 学生の立場から大学解体を主張するという矛盾の中で、運動主体の「自己変革」「自己否定」「自己批判」の必要性が説かれた。「自己批判」の概念は、その後連合赤軍の組織内部では主観的でモデルのない「兵士一人ひとりの革命主体形成=共産主義化」の論理へと昇華し、「共産主義化できない弱者」を指導部が抑圧し集団リンチ殺人事件にまで発展する力学として作用した。逆に「自己否定」「自己批判」を裏返し、自己を肯定することから生まれたのがウーマンリブ運動や反差別運動である。
  • 韓国の民主化・学生運動においては「チョンゴントゥ(全共闘の朝鮮語読み)のように闘おう」が合言葉になったと言われている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク・参考文献

など

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