岸田森
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岸田 森(きしだ しん、1939年10月17日 - 1982年12月28日)は俳優、声優。東京都出身。海城高校卒業。法政大学英文科中退。女優・岸田今日子、童話作家・岸田衿子は彼の従姉妹に当たる。千代田区の麹町中学校に在籍していた当時、山形県から転校してきた政治家の加藤紘一とも友人であった。
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[編集] 来歴・人物
1961年に文学座附属演劇研究所に入所。翌年、研究生として文学座に入団し、1964年に同期である女優・悠木千帆(後に樹木希林)と結婚する。1965年に文学座座員に昇格するが、1966年年頭に退団。悠木、村松克己らと劇団「六月劇場」を結成し、以降は主に映画・テレビに活躍の舞台を移す。代表作は和製ドラキュラを演じた東宝『血を吸う』シリーズ。
岡本喜八、実相寺昭雄、神代辰巳監督作品の常連で、萩原健一、水谷豊、松田優作ら岸田を慕った俳優も多かった。草野大悟とは文学座以来、生涯の親友であり、盟友。勝新太郎も岸田を気に入り、共演作が多数あり、勝が主催した俳優学校「勝アカデミー」の講師も務めた(教え子に小堺一機、ルー大柴らがいる)。一時期役作りのため坊主頭にしておりカツラを着用。これを意図的に『傷だらけの天使』『探偵物語』で活用(悪用?)している。
- 『傷だらけの天使』第5話において、暴力団の組長に詫びを入れるよう強要されるシーンで、岸田は唐突にカツラを外し土下座してみせた。当時の番組スタッフの証言によると、このときの岸田の行為は完全なアドリブでスタッフ全員が仰天したそうである。
- 怪盗103号役としてゲスト出演した『探偵物語』第13話では、終盤での松田優作とのフェンシングでの格闘シーンにおいて、優作の攻撃が岸田の頭髪を直撃、ここでもカツラを取って坊主頭を披露した。しかも頭にはご丁寧に「103」と書かれていたというオチまでついた。
数々の円谷プロ作品にも出演し、「僕は円谷育ち」と公言していた。また朱川 審の名で脚本も手がけている(『帰ってきたウルトラマン』第35話のプリズ魔の回など)。岸田が光をモチーフにしたというプリズ魔のイメージから作られた造型は、ウルトラ怪獣随一の美しさと名高く、多くの関連本に登場する。『残酷!光怪獣プリズ魔』は、書籍『不死蝶 岸田森』にて原文を読むことが可能。
他には実名で『ファイヤーマン』12話において、30分の児童対象の番組において極めて異色な、実験的演出等を数多く取り入れた作品の脚本を手がける。岸田はほとんど台詞を話さず、その動作と口の微かな動きだけで感情や意思を観る者に伝えるという点等、演技の分野だけに絞っても、他の追随を許さぬ傑作となった。放映当時は理解を得にくかったが、再放送やソフト化により再評価され、多くの役者や制作者を脱帽させている。どこか舞台作品調に進む作風でありながらマクロな演技というのは、舞台ではほぼ不可能な、フィルム作品でのみ成せるもので、かなり斬新な手法だった。また、ヒーロー=ファイヤーマンも、スーツアクターの演技がメインで敵怪獣を倒さない。主人公と異星人の闘いが実はイデオロギー戦であるという点もかなり異色である。
六本木でバーを経営し、学生野球ファンということあり、映画評論家の田山力哉が連れ立って岡田彰布、松本匡史など当時の東京六大学野球や、東都大学野球リーグの高木豊など各選手が時折店を訪れ、顔なじみであった。
1982年12月28日、食道ガンのため、43歳の若さで死去した。1968年に悠木(樹木)と離婚後、再婚するが再び離婚。その後は女優・三田和代と交際し、内縁の妻として、岸田の最期を看取っている。最後の特撮レギュラー『太陽戦隊サンバルカン』で共演した小林朝夫は岸田の死にショックを受け、俳優業を休業、数年後に芸能界から去った。
[編集] 出演作品
[編集] 映画
- 座頭市と用心棒(1970年)
- 曼陀羅(1971年)
- 呪いの館 血を吸う眼(1971年)
- 哥(うた)(1972年)
- 高校生無頼控(1972年)
- 御用牙かみそり半蔵地獄責め(1973年)
- あさき夢みし(1974年)
- ゴジラ対メカゴジラ(1974年)
- 修羅雪姫 怨み恋歌(1974年)
- 血を吸う薔薇(1974年)
- 黒薔薇昇天(1975年)
- ひとごろし(1976年、加納平兵衛役)
- 歌磨 夢と知りせば(1977年)
- ダイナマイトどんどん(1978年)
- ブルークリスマス(1978年)
- 蘇える金狼(1979年、石井役)
- 総長の首(1979年)
- 金田一耕助の冒険(1979年)
- 乱れからくり(1979年、馬割鉄馬役)
- 戦国自衛隊(1979年)
- 近頃なぜかチャールストン(1981年)
- 制覇(1982年10月30日公開、東映)
- 南極物語(1983年)
[編集] テレビドラマ
- 氷点(1966年)辻口役
- 真田幸村(1967年)
- 怪奇大作戦(1968年、円谷プロダクション・TBS)牧史郎役
- 柔道一直線(1969年、TBS)香川先生役
- 帰ってきたウルトラマン(1971年、円谷プロダクション)坂田健役
- シルバー仮面(1972年、TBS)津山博士役
- ファイヤーマン(1973年、円谷プロダクション)水島三郎役
- 天下堂々(1973年)鳥居耀蔵役
- 傷だらけの天使(1974年、日本テレビ・東宝)辰巳五郎役
- 斬り抜ける(1974年、斬り抜ける 俊平ひとり旅)森伝八郎役
- 太陽にほえろ!(1976年、日本テレビ・東宝)188話 弁護士役
- 必殺からくり人(1976年、朝日放送) - 12話「鳩に豆鉄砲をどうぞ」 鳥居耀蔵役
- 森村誠一シリーズ 腐蝕の構造(1977年)中橋正文役
- 新・必殺からくり人・東海道五十三次殺し旅(1977年、朝日放送)お助け紋三郎役
- 横溝正史シリーズ 夜歩く(1978年、TBS)蜂谷小市役
- 特捜最前線(1977年、テレビ朝日)桜井検事(桜井刑事の兄)役
- 華麗なる刑事(1977年、フジテレビ)神来課長役
- 新・座頭市 第2シリーズ(1978年、フジテレビ) - 13話「忠治を売った女」
- 大追跡(1978年、日本テレビ)神山役
- 草燃える(1979年)大江広元役
- 探偵物語(1979年、日本テレビ) - 13話「或る夜の出来事」 高村竜太郎/怪盗103号役
- 江戸の牙(1979年、テレビ朝日) - 1話「炎上!赤馬を斬れ」 堀田監物役
- 新・座頭市 第3シリーズ(1979年、フジテレビ) - 3話「市の耳に子守唄」
- 俺たちは天使だ!(1979年、日本テレビ)
- 恐竜戦隊コセイドン(1979年)博士役
- ピーマン白書(1980年)幸田教頭役
- 猿飛佐助(1980年)大久保長安役
- 警視-K(1980年、日本テレビ)
- もんもんドラエティ(1981年、最後のドラキュラ役)
- 太陽戦隊サンバルカン(1981年、テレビ朝日)嵐山大三郎役
- 水戸黄門第13部(1982年)平岩新兵衛役・・・この作品が氏の遺作となった。
[編集] 吹き替え
- エンデバー号の探検
- おしゃれスパイ・危機連発(リチャード・ハリス役)
- コロネット・ブルーの謎
- 地上最強の美女 バイオニック・ジェミー
- アラビアのロレンス(ロレンス役)
- コレクター
- エクソシスト
- 死の追跡
- 狼たちの午後
- ルーツ2
- ドラキュラ都へ行く
[編集] ラジオドラマ
[編集] 人形劇
- 真田十勇士(高野小天狗、徳川秀忠、ほか)
[編集] ナレーション
- ウルトラマンA(1972年)
- 真夜中の警視(1973年)
- スーパーロボット マッハバロン(1974年)
- 荒野の素浪人
- 燃えよ!ダルマ大臣 高橋是清伝
[編集] 参考文献
- 東大特撮映像研究会雑誌・第6号「特集岸田森」自費出版(1989年)
- 東大特撮映像研究会雑誌・第6号改訂版「特集岸田森」自費出版(1990年)
- 武井崇『岸田森全仕事 1962-1983』(1999年・自費出版)
- 小幡貴一・小幡友貴『不死蝶 岸田森』(2000年・ワイズ出版・ISBN 9784898300299)