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草燃える

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

草燃える(くさもえる)は、1979年(昭和54年)1月7日から12月23日まで放送されたNHK大河ドラマの第17作。

永井路子の「北条政子」「炎環」「つわものの賦」などを原作に、源氏三代による鎌倉幕府樹立を中心とした東国武士団の興亡を描いた一大叙事詩。それまでの源平ものが、どちらかといえば平家を中心とした物語なのにくらべて、この作品では平家方の描写は全くなく、源氏と東国武士団の動きに終始しているのが特徴で、歴史観も「源氏の旗揚げは、東国武士団の旗揚げでもあった」という視点で描かれている。原作の永井路子が「喜劇でやってほしい」との注文を脚本の中島丈博に出したため、曽我兄弟の仇討ちの場面など随所に喜劇風演出が見られるのも特徴である。

また、チーフ・ディレクター大原誠による力強く、カメラアングルを短く切り替え、ズーム・アップなど多角的な撮影手法はストーリー展開にメリハリを与え、御殿場で収録された合戦シーンと合わせて、ダイナミックな画面作りに寄与した。演技面では二代将軍頼家を演じた郷ひろみの鬼気迫る迫力が、母親政子役の岩下志麻をたじろがせ話題になった。また、後に大河の常連となる大型俳優滝田栄が、この作品で大河初出演、架空の人物・伊東祐之役でスケールの大きな演技を見せた。ストーリー展開では、義経の描写に司馬遼太郎の「義経」の影響が感じられ、それまで「新平家物語」などでスーパーヒーローとして描かれた義経が「軍事的天才であったが、政治的には無能」な存在として愚かしいまでに描かれ、と義経を離縁させようとした磯禅師の描写にも同作の影響が読みとれる。セリフ面では現代語が用いられ、視聴者から賛否両論が寄せられた。壇ノ浦合戦シーンでは、女性ダイバーに十二単を着せての実際の海没シーンが海中撮影も多用されて話題を集めた。

NHK大河ドラマ
通番 題名 放映期間
第16作 黄金の日日 1978年1月8日
~1978年12月24日
第17作 草燃える 1979年1月7日
~1979年12月23日
第18作 獅子の時代 1980年1月6日
~1980年12月21日

目次

[編集] スタッフ

  • 原作:永井路子「北条政子」「炎環」「つわものの賦」他より
  • 脚本:中島丈博
  • 音楽:湯浅譲二
  • 制作:斎藤暁
  • 演出:大原誠 江口浩之 伊予田静弘 渡辺紘史 東海林通 松橋隆 安斎宗紘

注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。


[編集] あらすじ

本作は、本放送終了後、1979年12月24日から28日にかけて、5回にわたり、総集編が放送された。以下の紹介では、その総集編の区切りに従って、全体的な物語の展開を記述する。一部、総集編では割愛されていた場面の紹介も含まれる。

[編集] 総集編第1話「頼朝起つ」(1979年12月24日放送)

平家が天下をとって20年余り。

京都へ大番役に出ていた父時政の留守を預かっていた北条宗時は、公家化した平家の堕落振りに失望し、三浦義村ら若き志士たちと語らい、東国武士団の決起による武家政権樹立という夢の実現へ向かって動いていた。その頭目として期待されたのが、伊豆蛭ヶ小島に流されていた源氏の嫡流・源頼朝。宗時らは、その頼朝と伊豆の豪族・北条家との縁をつなぐため、恋文のやりとりを画策する。北条政子は頼朝に恋心をいだくが、ちょうどその時、京都から、後妻牧の方を伴って帰ってきた父時政の反対は強く、政子は山木兼隆と結婚させられる事になる。そこで宗時らは政子に恋心をいだく伊東祐之を騙して伊豆権現への逃避行をさせるという手段で、頼朝の許へ駆け落ちする。この一件で辱めを受けた祐之は源氏への復讐を近い、その親友で政子の弟義時は、三島大社で出会った茜と恋に陥る。このときの北条義時は、武芸よりも学問が好きな、ややひ弱な青年だった。

その頃、京都では「義経」を名乗る盗賊が出没するが、彼らの前へ本物の義経が登場。平家への復讐に燃える義経と盗賊・苔丸らとの間に奇妙な友情が芽生える。

平家打倒を目指して以仁王源頼政が挙兵。この二人は間もなく敗死するが、これをきっかけに諸国源氏に向けて平家追討が令せられる。先に初めての子、大姫が生まれ、政子と幸せな日々を送っていた頼朝ではあったがついに北条の後ろ盾を恃みに決起、山木兼隆への襲撃は成功するものの、大庭景親と戦った石橋山の合戦では敗北。三浦へ援軍要請に出た宗時は復讐に燃える祐之に虐殺される。頼朝や時政は、退却し物陰に潜んでいるところを大庭軍に加わっていた梶原景時に発見されるが、景時はわざと見逃し、その命を救う。再起を図った頼朝は安房で、先着していた北条時政・義時父子と合流する。宗時の討ち死ににより、北条の総領息子にならねばならないと、義時は父に諭される。

やがて頼朝のもとには有力な坂東武者軍団が続々と参集、歴史の大きな転換が始まった。

[編集] 総集編第2話「平家滅亡」(1979年12月25日放送)

頼朝は総州・武蔵を経て、鎌倉に入り、富士川で平家と対戦、これを敗る。黄瀬川で奥州から駆けつけてきた義経との「兄弟対面」を演出した頼朝は東国経営に着手するが、この間、頼朝の浮気に怒った政子が、その相手の家を焼き討ちする事件が発生。北条一門が鎌倉を去る中、ただひとり残った義時を頼朝はいたく信頼するのであった。 政子は頼朝の跡継ぎとなる男子万寿(後の源頼家)を出産するが、その妊娠途中に、またも頼朝は浮気に奔る。今回言い寄ったのは、義時の妻である茜であった。茜はやがて妊娠したことが判明するが、義時の子供なのか、頼朝の子供なのか、自分でも判断がつかなかった。茜はこれを恥じ、義時に真相を語らないまま鎌倉を去り、京の平家に身を寄せ、やがて男子を出産した。

信濃で決起した木曽義仲は、頼朝との和睦の証に嫡子・木曽義高を鎌倉へ送ってきた。表向きは頼朝・政子夫妻の長女・大姫の婿ということであり、まだ幼い大姫はこの婿殿と戯れるのであった。京都へ入った義仲は、後白河法皇を武力で幽閉、法皇からの救援要請に応えた頼朝は、義経を派遣してこれを討たしめ、勢いに乗った義経は、さらに義仲によって都落ちし、その後一の谷まで戻ってきていた平家を攻撃、これを西海に走らせ、その功により法皇より官位を得るが、このことが頼朝との亀裂を生むことになる。

鎌倉では、大姫の努力も虚しく、義高は殺され、大姫はこのことにより父・頼朝に心を閉ざす。京都の義経は静という白拍子に魅かれ、やがて恋に落ちてゆく。源範頼の指揮下、滞っていた平家討伐に業を煮やした頼朝は再び義経を起用する。義経はこれに応え、屋島の合戦で瀬戸内の制海権を握り、壇ノ浦の戦いに臨み、遂に平家を滅亡に追い込んだ。この戦いに従軍していた義時の目の前で茜は海へ飛び込む。その義時の許へは、既に茜が生んだ男の子が届けられていた。後の北条泰時である。

[編集] 総集編第3話「征夷大将軍」(1979年12月26日放送)

京都へ華やかに凱旋した義経だったが、御家人としての立場をわきまえない勝手な振る舞いに、頼朝の心証は悪くなる一方だった。それを知る由もない義経は、意気揚々と鎌倉へ赴くが、思いがけず腰越で追い返され、兄への反撥を強める。さらに刺客に襲われたこともあって、叔父の源行家とともに法皇に逼り頼朝追討の院宣を貰うが、兵は集まらず挙兵に失敗。態勢を立て直そうと西海へ出帆するが、大嵐で難破、四散する。頼朝はこの好機に乗じて、朝廷に対し強硬に迫り、守護地頭の設置を認めさせる。

義経の探索が続き、間もなく愛妾の静が捕らわれ、鎌倉へ護送。身重ながら、敵の眼前で義経を恋い慕う舞を披露し頼朝と政子を感激させるのだった。

大姫は静に逃亡をすすめるが、静は、生まれてくる赤ん坊が女の子であるよう祈ってほしいと哀願する、しかし、生まれたのは男の子であったたため、由比ヶ浜の砂に埋められるのだった。大姫は父の非情ぶりを激しく詰った。

間もなく義経は奥州で戦死。これを口実に、頼朝は奥州を平定する。平泉入りした頼朝は、義経の名前が入った矢を拾い、弟の哀れな最期に涙を流す。残った唯一の難敵は後白河法皇だったが、その崩御を待って、兼ねてより懇意にしていた九条兼実の尽力により、ついに征夷大将軍となる。同年には、二人目の男子となる千幡(後の源実朝)が生まれた。 が、その栄光の影で、大姫はしだいに心を病み、後鳥羽天皇との婚儀をめぐって、ついに錯乱、自ら髪を切り「小さな女の子に戻って、義高さまと」といいながら、その短い生涯を閉じる。順風満帆だった頼朝・政子夫婦に最初の影が差したのだった。大姫の入内に連動した朝廷内の暗闘の結果、兼実は失脚、反頼朝勢力が実権を握り、頼朝の対朝廷戦略にも狂いが生じ始めていた。

これに先だつ富士の巻き狩りでは、曾我兄弟の仇討ちに便乗した頼朝暗殺計画が祐之の野望によって進行したが失敗。事件は単なる仇討ちとして処理された。祐之はまたも鎌倉から姿を消す。

しばらく鎌倉には平穏な日々が訪れるが、頼朝の次女三幡の入内の話が持ち上がる中、頼朝は突然落馬してそのまま死去、政子は直ちに落飾する。

[編集] 総集編第4話「頼家無惨」(1979年12月27日放送)

二代将軍となった頼家は、その杜撰な政務と側近の重用などで御家人の信頼を失い、頼朝の分身として御家人から慕われる政子が政務に関わらざるを得なくなる。やがて頼家は将軍としての決裁権を取り上げられ、北条を中心とする評定衆が幕政を運営することとなる。その憤懣から頼家は、安達景盛の妻・瑠璃葉を略奪、政子が自ら乗り込んで叱るが聞く耳をもたず女と関係するのだった。鎌倉が不穏な空気に包まれる中、三幡が毒殺される。

揺れる鎌倉で、以前から讒訴などで御家人たちの憎しみをかっていた梶原景時が弾劾状を受けて失脚、救済を求める景時に対して頼家は、「これだけの御家人がおまえを嫌っている。これをどう思う」といい放って突き放すのだった。その結果、鎌倉を追放され京都を目指した景時の一族は、頼家の差し向けた軍勢に殺される。

景時亡き後、浮上してきたのは頼家の弟千幡を擁する北条と、頼家の乳母であり、その長子一幡を擁する比企氏との暗闘であった。やがて北条方にあった頼家の叔父、阿野全成が一幡を調伏した謀反の廉で斬られる。その影には、双方共倒れを狙う三浦義村の策謀も絡んでいた。

間もなく頼家が発病、人事不省に陥ったとき、ついに北条は決起、仏事にかこつけて呼んだ比企能員を暗殺。比企邸を襲撃し、一族を虐殺。頼家と若狭局との間の子である一幡も焼死する。回復した頼家は、政子に迫って妻子の末路を知り、仁田忠常をして北条打倒の兵を上げさせるが失敗。強制的に出家させられ伊豆修善寺に幽閉、やがて、義時の圧力によってやってきた三浦胤義らに斬られる。

これを止められなかった政子は、三浦家に預けられていた頼家の子、善哉を「せめてこの子だけはなんとしても守り抜く」と固く誓う。

この頃、祐之は久方ぶりに義時と再会する。政敵を力をもって排除する義時を祐之は諌めようとするが、義時は、「反平家の旗揚げは、源氏の旗揚げではなかった。源氏は借り物で、我々坂東武者の旗揚げだったのだ。今の鎌倉を治めるのは、坂東武者の中で最も強い者がふさわしい」と語る。祐之は、かつてひ弱な青年だった義時が、老獪な政治家へ変貌しつつあることに眼を見張る。

後継の将軍宣下がなされた千幡は北条時政の館で元服、名を実朝と改めた。やがて実朝と音羽との婚礼が華やかに行われた。時政はその執権として、実権を握る。

[編集] 総集編第5話「尼将軍・政子」(1979年12月28日放送)

三代将軍実朝は、血で血を洗う武家に嫌気がさし、京都から迎えた公家娘の妻・音羽に「子はつくらぬ」と宣言し、自らは和歌に親しみ、官位の昇進のみを望む日を過ごしていた。そうした実朝の心とは裏腹に、鎌倉では建国の功臣・畠山重忠が北条によって謀殺され、これをきっかけに義時が時政を追放、二代執権に就任。続けて、和田義盛を挑発によって挙兵させ自滅させることに成功。義時は、これを諌めようとした祐之を監禁するが、赦免を願い出た養女、小夜菊が最初の妻、茜に酷似していたため心を奪われ、釈放した。しかし、義時は祐之の言動に立腹し、眼を潰させたため、小夜菊は義時を恨み、父子とも鎌倉を後にする。やがて京都で、後鳥羽上皇の愛妾となる。

善哉は、都で僧侶としての修行を積み、公暁と名を改めて鎌倉に帰ってきた。孫の成長を政子は大いに慶ぶが、頼家の血筋を嫌う北条のもとでは、将軍後継者になる可能性はなく、鶴岡八幡宮別当の役目をあてがわれる。公暁はこれに不満を持つが、いずれ自らを押し立てて打倒北条を果たす事を狙っていた三浦義村の薦めにより一旦同意する。

源氏の血筋を奪い合い、権力闘争が続く鎌倉内部の動きに幻滅した実朝は、人・陳和卿に舟をつくらせ、宋へ渡ることを夢見るが舟は浮かばず、失望の中、朝廷から右大臣に任命される。三浦はこの拝賀の儀式を、北条打倒の絶好の機会と考え、公暁に実朝と義時を親の敵と吹き込み、その首を取らせて幕府の主導権を奪おうとする。公暁が実朝の命を狙っている事は北条や実朝も知るところとなったが、既に現世に望みを失っていた実朝はそれに構わず拝賀の式を続行し、鶴岡八幡宮の石段で暗殺される。しかし、義時の暗殺には失敗したため、三浦は反北条の兵を挙げるのを諦め、公暁を裏切り、館に入れず、その門外で誅殺した。義時と義村は、お互いすべての事情を熟知していたが、それでも両者の宥和を演出する。その一方、またも御家人同士の争いに巻き込まれ、一夜にして子と孫を奪われた政子は悲嘆にくれる。

実朝暗殺を知った後鳥羽上皇は、小夜菊、胤義らの意見により義時追討の院宣を出す。これに動揺した東国武士団を政子の演説が奮い立たせ、結束が固まった幕府軍は上皇方を一蹴、武家政権は盤石なものとなった。

幕府の危機は去り、鎌倉に平穏な日々が訪れた。ある日、開かれた幕府の宴に招かれたのは、祐之に瓜二つの琵琶法師であった。法師が平家哀歌の物語を奏でる中、政子は、次々に血縁者に先立たれ、結局何も残されていないと嘆き、虚しい気持ちで自分の人生を振り返る。

[編集] キャスト

[編集] 映像の保存状況

前年の大河ドラマ『黄金の日日』は全放送回が現存しているが、本作は一部、映像が残っていない放送回がある。マスターテープを外部に貸し出した際に紛失または破損されたか、一部の俳優の肖像権の問題(当時は放送終了後の映像販売等の契約はなされていない)、あるいは(当時は許容されたが現在では問題がある)放送禁止用語ないし映像表現の問題などで公開できないものと考えられる。
そのため、総集編のみが市販されており、完全版は発売されていない。現存している放送回はNHKアーカイブスで視聴することが可能。

仮にNHKには欠落した放送回が現存していなくても、当時はVHSベータマックスといった家庭用ビデオデッキがかなり一般家庭に普及しており、テレビ関係者や視聴者が録画して現在まで保管している可能性は高い。

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