007は二度死ぬ
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『007は二度死ぬ』(ぜろぜろせぶんはにどしぬ[1]、You Only Live Twice)は、イアン・フレミングの長編小説。また映画007シリーズ第5作、1967年公開のアメリカ映画。ユナイテッド・アーティスツ提供。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 概要
[編集] 原作と脚本
1964年に発刊されたイギリス人作家イアン・フレミングの小説「You Only Live Twice」をもとに、アルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンの共同製作、ルイス・ギルバートの監督で、1967年に製作された。原題はフレミングが来日した際に「松尾芭蕉の俳句にならって」[2]詠んでみたという俳句調の詩[3]、「人は二度しか生きることがない、この世に生を受けた時、そしてその顔に死を見た時」に由来する。脚本はイギリス人作家のロアルド・ダール。
[編集] 日本が舞台
007シリーズ映画の第5作で、イギリス北部と香港でのオープニングのシーンを除いて、舞台は全て日本国内である。全編の舞台が一つの国という007作品は他にない。そのため当時としては大掛りなロケ撮影が日本各地の観光名所で行われ、当時日本で高まっていたボンド人気はいやがうえにも高まった。
東京オリンピック開催直後の高度経済成長期真っ只中の東京を中心にロケが行われたため、開業したばかりの地下鉄丸ノ内線や千代田区紀尾井町のホテルニューオータニ、蔵前国技館、東京タワー、銀座4丁目交差点などの現在の東京でもおなじみの風景が随所に出てくる。
また特殊部隊の訓練場が姫路城となっている他、鹿児島県坊津の漁村や霧島山・新燃岳などの同県ならびに宮崎県でも小型オートジャイロとヘリコプターの空中撮影を含む大規模なロケを行った。またボンドカー(実際はボンドは助手席に座っていたが)として、コンバーチブルに改造された特注のトヨタ・2000GTが登場する。
[編集] 多彩な登場人物
丹波哲郎が日本の情報機関(原作「007は二度死ぬ」ハヤカワ・ミステリ文庫では公安調査庁)のボスとしてほぼ全編に渡り登場する他、初の日本人ボンドガールとして若林映子と浜美枝が登場し、日本人に化けたボンドと結婚したり、第50代大相撲横綱の佐田の山が本人役で登場したり、丹波演じる日本の諜報機関のボスの移動手段がなぜか丸ノ内線の専用車両だったり、さらに特殊部隊が忍者だったりと、(特に日本人にとっては)ストーリーはともかくいろいろな意味で楽しめる作品である。
[編集] 個性的な作品
その天衣無縫なストーリーと(振返って見れば)時代相応な特撮、日本文化の表現が「別の意味で素晴らしい」などの理由で、日本の007マニアには「シリーズ有数の傑作」とする人もいる。逆にアメリカやイギリスでは「荒唐無稽」という評価が一般的である。いずれにしても本作品には独自のファンが多く、アメリカのコメディ映画『オースティン・パワーズ』シリーズでは多くのシーンが引用された。
[編集] 事故
また、映画の撮影中(1966年3月5日)に、イギリスに帰国する途中の関係者が英国海外航空機空中分解事故(英国海外航空のボーイング707型機が富士山山麓に墜落した事故)で死亡したり、小型オートジャイロとヘリコプターの空中戦の撮影シーンで、イギリス人カメラマンが片足を切断する事故に遭うなど、歴代の007作品の中でも関係者の事故が多い作品として知られる。
[編集] ストーリー
[編集] 謎の宇宙船
アメリカとソ連の宇宙船が謎の飛行物体に捉えられるという事件が起こり、米ソ間が一触即発の状態になるものの、イギリスの諜報機関であるMI6はその宇宙船が日本から飛び立っているという情報をつかむ。その情報の真偽を確かめるためにショーン・コネリー演ずるジェームズ・ボンドがMI6により日本に派遣されることになる。
[編集] “一度目” の死
ボンドは敵の目を欺くために一度香港で殺されたことにされ、その後イギリス海軍の潜水艦で隠密裏に日本へ上陸。日本上陸後は、横綱佐田の山の手引きで蔵前国技館で若林映子演ずる謎の女「アキ」と会い、在日イギリス人の協力者にようやく出会うものの、会った直後に彼が殺されてしまう。
[編集] スタッフ
- 監督:ルイス・ギルバート
- 製作:アルバート・R・ブロッコリ (Albert R. Broccoli)、ハリー・サルツマン (Harry Saltzman)
- 脚本:ロアルド・ダール
- 主題歌:「You Only Live Twice」
- ナンシー・シナトラ(フランク・シナトラの娘)
[編集] キャスト
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- ジェームズ・ボンド:ショーン・コネリー
- タイガー田中:丹波哲郎
- アキ:若林映子
- キッシー鈴木:浜美枝
- エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド:ドナルド・プレザンス
- 大里:島田テル
- ヘルガ・ブラント:カリン・ドール
- ヘンダーソン:チャールズ・グレイ
- 香港人女性:ツァイ・チン
- 第50代横綱佐田の山:本人
- M:バーナード・リー
- Q:デスモンド・リュウェリン
- マネーペニー:ロイス・マクスウェル
[編集] ロケ地
[編集] 都内
[編集] 国内
[編集] 海外
- 香港、ビクトリア・ハーバー(冒頭シーン)
[編集] エピソード
[編集] 配役
- 当初は女優としては格が上の若林映子が海女の「キッシー鈴木 (Kissy Suzuki)」役で、浜美枝が公安エージェントの「スキ (Suki)」役の予定だった。撮影が始まる前、若林・浜・丹波哲郎の三人は英語特訓のため数週間ロンドンに留学するが、そこで浜の英語力では台詞が難しいスキ役は無理と判断され、更迭が決まった。これを知った丹波が「それではあまりにも浜が気の毒」とプロデューサーに懇願、「そんなことを話したら明日にでもホテルのバルコニーから飛び降りるに違いない」と脅しまでかけた。そこで二人の役柄を交換し、キッシーの台詞を大幅に減らし、逆にスキの出番を増やすことになった。イアン・フレミングの原作ではキッシーの方が準主役級の相方でスキは脇役にすぎないが、映画ではこれが逆転しているのはこのため。またこの映画が「二人のボンドガール」という異例のキャスティングになったのもこのためである。
- この際、原作の「スキ」という日本人には馴染まない名前が、若林映子の名前「あきこ」を取って「アキ」に変更されている。
- 一方「キッシー鈴木」という役名は映画でも原作通りだが、「鈴木」の姓は劇中ではなぜか言及されていない。これはキッシーの出番を大幅にカットしたことから生じた「うっかりミス」で、そもそも仮編集の段階では「キッシー」のキの字もなく、これに気づいた監督が慌ててひとつだけ撮ってあった「キッシー」入りのシーンを差し込んだのだという。このようにして、名無しボンドガールという不名誉は辛くも回避された。
- 若林映子がこの映画の後間もなく映画界を引退し「忘れられた存在」になったことから、「日本人ボンドガール」というと日本では先ず浜美枝の名前が上がるが、実際の準主役は若林であり、アメリカでも一般にそのように認知されている。彼女の役名「アキ」は、40年を経た今日でもアメリカ人が知っている日本女性の名前としては五指に入るものとなっている。
- なお若林や浜とは違って日常会話程度の英語は話せた丹波は、この後もなにかにつけてプロデューサーや監督と日本人俳優やスタッフとの間に立って潤滑油としての役割を果たしたという。
[編集] 撮影
- ロケハンのために、監督をはじめとするスタッフは全日空の前身である日本ヘリコプターのヘリコプターを借りて日本全国を飛び回った。
- 神戸港の第7突堤で撮影されたスポットは、1995年1月の阪神大震災で倒壊してしまった。
- その神戸での格闘シーンで、かつて笑点の座布団持ちで親しまれた松崎真が出演している。
- また大里化学(ホテルニューオータニ)で格闘する相手は、ハワイ出身のプロレスラー、ピーター・メイビアである。
- なお、ホテルニューオータニで撮影を行ったにもかかわらず、映画の中でボンドはヒルトンホテルに宿泊していることになっている。これはショーン・コネリーが日本滞在中に東京ヒルトン(後のキャピトル東急)に宿泊する際、この台詞を入れるかわりに宿泊費を大幅に割り引いてくれないかとプロデューサーが頼んだため。いわゆるタイアップ宣伝のはしりである。
- トヨタ自動車が車両提供を行ったため、上記の2000GTの他にも、ボンドカーを追う悪役の車として2代目クラウンが、東京の街中を疾走するシーンでは3代目コロナが登場する。なお、撮影のために3台作成した2000GTのコンバーチブル仕様の内の1台はその後行方不明になってしまった。
- 国宝姫路城では現在映画の撮影を一切許可していないが、これはこの映画が原因。特殊部隊訓練シーンの撮影の際、城壁に畳を掛け、そこに手裏剣を投げ込むシーンの撮影で外れた手裏剣が城壁にブスブスと当たったり、長刀を振り回した拍子にザクリと傷を刻んでしまったため。これに閉口した文化庁は、以後姫路城での映画撮影を原則的に禁止した。
- 漁村のシーンが撮られた鹿児島県坊津は、「神戸と上海の間にある島」として登場する[4]。撮影はハリウッドらしく、町民の長年の陳情によって前年に作られたばかりのコンクリートで補強された桟橋が「映画の雰囲気に合わない」と一夜にして撤去、木製のものに作り替えられるなど、トラブルも多かったという[5]。一方毎日大勢のスタッフ等が大量のビールを消費するなどしたため、近所の商店で大儲けをしたところもあったという[6]。現在は町を見下ろす高台にショーン・コネリー、丹波哲郎らのサインの入った記念石碑が建てられ、観光スポットとなっている。
- 坊津で撮影が始まると、困ったのは肝心の海女が潜れないという、笑うに笑えない確認漏れだった。浜美枝は泳げるのがやっと、海女役の日本人エキストラたちも泳げるが潜水は自信がないと及び腰。「それならわたしがやるわ」と名乗り出たのがショーン・コネリーに同伴していた妻のダイアン・シレントだった。シレントは子供の頃から泳ぎが得意で、潜水も長時間息を継がずにできるという、願ってもない助け舟。映画の中でキッシーが潜っているシーンはすべてこのシレントが演じている。
- 海女の少女役で、松岡きっこがほんの数秒出演しているが(ボンドの操縦する小型のオートジャイロを見上げる役)、この僅か数秒の出演でさえ厳しいオーディションがあったと本人が語っている。
[編集] ボンド
- ボンドの結婚は『女王陛下の007』でのテレサ(トレーシー)との一度きりだが、本作でのキッシー鈴木との偽装結婚もあわせて厳密には二度。なお、ジョン・ピアソンの仮想ボンド伝によれば、キッシーはのちにボンドの子を出産、ボンドが名乗った偽名から太郎と名づけたことになっている。「鈴木太郎」は、2005年現在40歳前後であるはず。
- 「世界一有名だが変装はしないスパイ」といわれるボンドだが、本作では日本人になりすますため変装を用いている(後のシリーズ第13作『007 オクトパシー』ではピエロに変装したりもする)。ただし、映画化された際のショーン・コネリーのメイクを見る限り、あまりうまく変装したとは言えない。
- 今日「007」は日本でも原語とおなじように「ダブルオーセブン」と読んでいるが、その昔は「ゼロゼロセブン」と読んでいた(シリーズ第7作『007 ダイヤモンドは永遠に』まで)。映画の中でもタイガー田中がボンドのことをちゃんと「ゼロゼロ」と呼んでいる。
[編集] 吹き替え
- 映画が公開されてから約10年後の1970年代にテレビ放映された際、丹波哲郎や浜美枝ら出演者本人が日本語吹き替えを行って話題になった(原盤は英語)。ただし既に女優を引退していた若林映子は、アテレコに参加していない。
[編集] 日本語吹き替え
TBS『月曜ロードショー』
2006年11月22日発売 DVD アルティメット・コレクション
[編集] 注・出典
- ^ 公開時。日本でも「ダブルオーセブン」と言うようになったのは第8作『007 死ぬのは奴らだ』から
- ^ “after Basho” – You Only Live Twice epigraph
- ^ “You only live twice: Once when you're born, And once when you look death in the face.” – You Only Live Twice epigraph
- ^ 確かに坊津は「神戸と上海の間」ではあるが、島ではなく陸続きである
- ^ 『探偵!ナイトスクープ』による。ただし、撮影終了後は全て元通りに直したという。
- ^ 『探偵!ナイトスクープ』
[編集] 関連項目
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ショーン・コネリー | ドクター・ノオ - ロシアより愛をこめて - ゴールドフィンガー - サンダーボール作戦 - 007は二度死ぬ - ダイヤモンドは永遠に |
ジョージ・レーゼンビー | 女王陛下の007 |
ロジャー・ムーア | 死ぬのは奴らだ - 黄金銃を持つ男 - 私を愛したスパイ - ムーンレイカー - ユア・アイズ・オンリー - オクトパシー - 美しき獲物たち |
ティモシー・ダルトン | リビング・デイライツ - 消されたライセンス |
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関連項目 | ジェームズ・ボンド - ボンドガール - ボンドカー - MI6 - 007シリーズ |