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はだしのゲン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

はだしのゲン』は、中沢啓治による、自身の原爆被爆体験を元にした漫画。同タイトルで実写映画アニメ映画化もされている。

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目次

[編集] 概要

1972年に「週刊少年マガジン」の漫画家自伝企画の第1弾として掲載された、中沢の自叙伝『おれは見た』を元に、脚色を交えて1973年から「週刊少年ジャンプ」での連載が始まった。

作品の内容、表現等について様々な意見があるが、作者の実体験に基づく原爆の惨禍や当時の時代背景・世相風俗を良く表現していながら、教育的なだけではなく優れたエンターテインメントとしても見せる名作として国内外での評価は高く、映画アニメミュージカル絵本化もされている。

自伝を元にした作品で、作中のエピソードの多くも中沢が実際に体験したことである。当然ながら、実際の体験と作中のエピソードには差異がある。例えば中沢は父や姉弟の死を直接には見ておらず、後に実際に立ち会った母から聞かされている。また母親の死にも中沢は立ち会っていなかった(作中の戦後すぐの死去ではなく終戦から20年後で、中沢は当時東京にいた)。作中にもある母親を火葬した際、骨が残らなかったエピソードが、中沢に広島原爆の被爆を題材とした漫画を描かせるきっかけとなる。

単行本、文庫本などを含めた累計発行部数は1000万部を超える。

また、独特の描写や広島弁を含むセリフなどから、インターネット上で度々ネタにされる。

[編集] 連載誌


注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。


[編集] あらすじ

物語は、広島県広島市舟入本町(現在の広島市中区舟入本町)に住む国民学校2年生の主人公・中岡元(なかおか げん)が1945年8月6日に投下された原爆で・大吉(だいきち)、・英子(えいこ)、・進次(しんじ)の3人を亡くしながらも、たくましく生きる姿を描く。

舞台は 1945年、終戦間近の広島市。元の父で下駄の絵付け職人大吉は、反戦思想の持ち主。こうしたことから、中岡家の家族は町内会長の鮫島や近所から「非国民」扱いされた。元の長兄の浩二(こうじ)が、「非国民」の重みをはね返すために海軍予科練に志願し、元の次兄の昭(あきら)は、広島市郊外の山間部に疎開に行っていた為、浩二と昭は、原爆の難を逃れている。ちなみに英子は昭より年上だったが、体が弱かったため疎開できなかった。

原爆投下後に、大吉・英子・進次は家の下敷きになり、そのまま家に火がついて3人は生きたまま焼かれて死亡、元の母である君江(きみえ)がショックで女児を出産。名前は、友達がたくさんできることを願って「友子(ともこ)」と名づけられた。その後、元は毛髪が原爆症で抜け落ち、自分も放射線障害で死ぬことに恐怖した。ハゲ頭になった元は、焼け野原になった広島市内の道端で拾った消防団帽子で頭を隠した。

元は江波で原爆で死んだ弟・進次に瓜ふたつの原爆孤児・近藤隆太(こんどう りゅうた)と出会う。隆太は原爆孤児の仲間と共に、被爆をまぬがれた江波の農家から食糧を盗み、飢えをしのいでいた。隆太と初めて会った元は、進次が生きていると思い込んでいた。2回目に会った時は、食糧を盗もうとしていた時に百姓に追い回されていたところを元に助けられた。隆太の仲間は警察に捕まり、感化院に送られた。そして、元と君江は隆太を弟代わりに育てる事になった。そして、君江の友人のキヨの家で暮らし、元達は江波で新たな生活を始めるがそこでは、キヨの姑や子供達からの迫害を受けた。

江波に着いた際、原爆の熱線で全身に大やけどを負った画家志望生の吉田政二(よしだ せいじ)に元は出会う。学徒動員で勤労奉仕に行く途中に原爆の熱光を浴び、大やけどを負ったのだった。政二の家族は「ピカドンの毒がうつる」という噂を信じ、政二を隔離。政二をとても嫌い、ろくに面倒もみていなかった。このことに元は怒り、吉田家で大暴れする。政二が死んだとき、政二を最後まで苦しめた原爆を永久に怨む決意をする。元は政二から絵画を教えてもらった(政二の両手は原爆による火傷で不自由になり、口で筆をくわえて絵を描いていた)。政二の火葬の際も、元と隆太の2人が立ち会うだけだった。

終戦後、昭と浩二が広島に戻ってきて、中岡家は隆太を含めて6人で暮らすようになった。しかし、君江の友人のキヨの姑に家を追い出され、一時洞穴で生活し、その後、バラックに移り住んだ。その後、隆太はヤクザに騙され、自分達がアメリカ軍駐屯地から死ぬ覚悟で盗んできたミルク闇市で叩き売りされたことにより、ヤクザの男2人を陸軍が武装解除で捨てた拳銃殺害した。それにより、警察に捕まりそうになった隆太は別のヤクザに助けられ、ヤクザの子分(鉄砲玉)として働く事になる。しかしその後、ヤクザと手を切っている。

その後友子は、元の友人の雨森頑吉(あまもり がんきち、通称・クソ森)の住む集落で暮らす原爆で子供を失った男とその仲間たちに囚われた。男たちは、友子を「お姫さま」と慕った。元は、友子を奪い返そうと男たちと押し問答となる。友子はその後、栄養失調に加え原爆症が併発し、病院で診察した結果、「手おくれだ」と医者から宣告された。元は、治療費の10万円を稼ごうと、雨森と共に近所の原爆症で亡くなった人の家を訪ねて、読経を唱えるアルバイト(近所のお寺で読経を僧侶から教えてもらった)をするが、目標の金額には達しなかった。そんな中、原爆投下前に中岡家の近所に住んでいた朝鮮人の朴(ぼく)が元の前に現れ、朴は元に10万円とミルクを差し渡した。朴が持っていた大金とミルクは、闇市で稼いだ物だった。朴は元の父・大吉から世話になった(大吉が朴を差別しなかった)ことを忘れず、恩を返そうとしたのだった。家に帰った元は、昭から友子の死を知らされた。しかし、元は死を受け入れなかった。元は友子にミルクを飲ませようとしたが、友子の口元からミルクがあふれ出たところで友子の死を知った。友子の火葬の際、元は死んだ友子のために、読経を唱えて友子を天国へ送り出した。

友子の死後、丸ハゲだった元の頭に毛が生えた。その後、君江の体も原爆症に蝕まれ、浩二は君江を助ける為、九州地方炭鉱に出稼ぎに行ったが、浩二は全く働かずにびたりの毎日だった。入院させようにも金がないため、どこの病院も断られてしまう。金を手に入れるため、隆太がヤクザの賭場荒らしをして大金を手に入れ、君江を入院させることができた。しかしヤクザの打山組の組長は怒り、隆太を逃がさないようにして、殺すよう、子分に命令する。逃げ道がないと知った元は警察へ行くよう説得して隆太は自首した。1950年、君江は、退院したが、そのとき4ヶ月の命だと医者が宣告する。元は、君江の思い出の場所、京都へ旅行させるため、ウンコ取りを始め(当時は肥料として人糞の需要が高かった)、京都旅行ができる金額に達した。そのころ浩二が九州から帰ってきたが、本人は家に入りづらかったので元は自分が稼いだ金を浩二が稼いだものということにして、京都旅行に出発。しかし君江は、原爆症に伴う胃ガンで死亡。火葬の際、君江の遺骨はほとんど残らなかった。元は隆太と、隆太の仲間の原爆孤児・勝子(かつこ)とムスビたちが暮らす家に住む事に。そして原爆投下直後に米を貰いにいった際に出会った英子そっくりの女性・大原夏江(おおはら なつえ)に再会し、洋裁店の設立を目指して奮闘する。

浩二は婚約者と広島市内のアパートで暮らすことになり、昭は繊維問屋の商人になるために大阪へ旅立った。瓦礫を集めて建てた家も、広島市の復興計画による道路拡張工事の為に、元と隆太の必死抵抗も空しく取り壊される。中学生になった元は、父・大吉の遺志を継ごうと絵付け職人になることを決意、看板屋の仕事を手伝うようになった。一方、隆太は設立されたばかりの広島カープの応援に熱中する。しかし、夏江は盲腸で入院した後体調が芳しくなく、手術しても原爆症による白血球の減少で傷口が塞がらなかった。死期を悟った夏江は生きる希望を失っていくが、元に叱責され、隆太らに励まされる。しかし、それも束の間。夏江は直腸ガンと急性心臓マヒで亡くなる。

1953年、中学を卒業した元は、中尾光子(なかお みつこ)という名前の女子学生に一目惚れし、元は光子との交際を始めるが、光子は原爆による急性白血病で死亡。

元の仲間の一人、ムスビはあるきっかけで覚醒剤ヒロポン)中毒となってしまう(1951年まで麻薬を取り締まる法律は無く、所持や使用は違法では無かった。また、薬局で堂々と販売しており、同時に中毒者も多かった)。麻薬中毒となったムスビは、麻薬を買うために申し訳無いと思いつつも皆で貯めたお金を使い果たしてしまう。その後、お金が無くなっても麻薬を欲しがるムスビに対し、麻薬の売人であるバー「マドンナ」の関係者が重傷を負わせた。その怪我がきっかけでムスビは死亡する。ムスビを麻薬中毒にして殺し、勝子と洋服店を開く為に必死で貯めてきた金を奪われた事が原因で、隆太は麻薬の売人であるバー「マドンナ」のマスターを拳銃で撃って殺害し、その女給にも手に重傷を負わせる。その後、ヤクザを2人殺害し、逃れられる為東京へと向かう貨物トラックで勝子と共に逃亡する。

1953年、ムスビの遺骨を自分の家の墓に納めた元は、その後、光子の父・重蔵や天野達に見送られ、未来に挑戦するために東京へ旅立つ。

テーマから戦争風刺漫画であるように捕らえる向きもあるようだが、むしろ全編が「怒り」に満ちていると言える。また単なる反戦漫画の範疇を超えた作品であるとの見方もある。

10巻の最後のページには、「第一部完」と書かれているが、「第二部」はまだ始まっていない。「第二部 東京編」は中沢氏も考えており、ネームを進めていたが、2000年に約30年前から患っていた糖尿病がもとで左目が見えにくくなり、その為に掲載開始の目処は立っていない。

中央公論新社発行の文庫版(全7巻)では、週刊少年ジャンプ掲載分を第一部、以降のシリーズを第二部に区切りしている。汐文社では愛蔵版を10巻まで発行している。

[編集] 登場人物

中岡元(なかおか げん)
このマンガの主人公。通称「ゲン」。登場時は国民学校(小学校)2年生。父・大吉、弟・進次、姉・英子を亡くしながらも、たくましく生きる少年。特技は絵画と浪曲(ラジオで覚えたらしい)と読経(友子が誘拐され、同級生に勧められた為)。ケンカも強い。天皇制を嫌っている。
近藤隆太(こんどう りゅうた)
ゲンの弟・進次と瓜二つの原爆孤児。登場時は国民学校1年生。ゲンの弟と勘違いされがちだが、血もつながってないまったくの他人である。ゲンを慕い、弟分としてふるまう。ゲンを半殺しにしたヤクザを拾ってきた旧日本軍拳銃で射殺した後、その敵対ヤクザに拾われ育てられたためにゲンとの再会時は不良っぽくなっていた。そしてその敵対ヤクザと縁を切るため、敵対ヤクザを銃で撃ってしまい(敵対ヤクザは負傷しただけで死ななかった)、賭場荒らしをやって、復讐から逃れる為、警察に自首し感化院(少年院)に入所。感化院をノロと一緒に脱獄後、ノロの親戚の飼い犬タロウを銃で殺害。麻薬中毒にされ、死んでしまったムスビの復讐の為、バーマドンナ」のマスターと、ヤクザ2人を射殺し、勝子とともに東京へ逃れた。野球チームの「広島カープ」の熱狂的なファンで、「西鉄ライオンズ(今の西武ライオンズ)」「中日ドラゴンズ」「阪神タイガース」を嫌っている。「人のものはわしのもの、わしのものはわしのもの」というドラえもん剛田武のようなセリフをスリをやった後などに発する。
中岡進次(なかおか しんじ)
ゲンの本当の弟。原爆投下の際、燃える家に挟まれたまま、ゲンがガラス屋から貰った模型の軍艦を抱いて焼死してしまった。ゲンの浪曲に合わせて踊るのが得意。
中岡君江 (なかおか きみえ)
ゲンの母親。優しくて芯が強い。原爆の猛火の中で末娘の友子を産み落とす。未亡人となりゲン達を抱えて辛苦を味わうが、ゲンの大きな心の支えであった。1950年に原爆による後遺症でこの世を去った。
中岡大吉 (なかおか だいきち)
ゲンの父親。下駄の絵付け職人。「日本は負ける」と戦争に強く反対していた為、警察に逮捕され、監獄でたくさん殴られたり、自分はもとより、ゲンら家族まで周囲から様々な迫害を受けたが、決して自分の説を曲げることはなかった。原爆投下の際、燃える家に挟まれたまま、焼死してしまう。「踏まれても真っ直ぐ伸びるのように強くなれ」とゲンら兄弟に言い聞かせて育てた。
中岡英子 (なかおか えいこ)
ゲンの姉。国民学校5年生。体が病弱で、学校の集団疎開には行けなかった。鮫島竜吉が英子が財布を盗んだと先生に告げ口されたため、先生に犯人扱いされた上に、裸にまでされた。原爆投下の際、燃える家に挟まれたまま、焼死してしまった。
なお漫画版と実写版では死に際して差異(実写版ではゲンが家に帰った時には既に亡くなっていた)があるが、作者の中沢の姉が実際には原爆投下で柱に押し潰され即死状態だったからである(中沢は父や姉弟の死には立ち会ってはいない)。
中岡浩二(なかおか こうじ)
ゲンの長兄。登場時17歳。「非国民」として迫害されるのを撥ね返す為、海軍予科練に志願。後に就職し、結婚。
中岡昭(なかおか あきら)
ゲンの次兄。登場時は国民学校3年生。原爆投下時は、学校の集団疎開により広島県山県郡の山間部にいた。後に繊維問屋の商人を目指すため、大阪に行く。
中岡友子(なかおか ともこ)
ゲンの妹。原爆投下後間もなくして誕生。「友達がたくさんできるように」との願いをこめてゲンが名づけた。しかし栄養失調のため1年後に死去。
朴(ぼく)
原爆投下前、中岡家の隣に住んでいた朝鮮系の男性。徴用(俗に言う強制連行)のため、朝鮮から内地に移り住んでいる。妻、子供がいる(1巻で「妻や子供に会いたい」と語っている)。朝鮮人であることを差別されていたが、隣の中岡家とは親しい付き合いであり、大吉やゲンら兄弟は親切な態度であったため恩を感じている。非国民と迫害されても戦争に反対している大吉を尊敬していた。近所では彼だけが中岡家の味方だった。大吉が警察から帰ってきたとき米を分けてくれた。原爆投下後、彼の父は火傷を負ったが、救護所では「朝鮮人か」と差別され、傷の手当てをしてもらえず死亡してしまった。そのことが原因で日本人を憎むようになる。戦後は商店を経営し裕福になり、ゲンらを助ける。ちなみに「ぼく」は日本語読みで、朝鮮語読みでは「パク」。
雨森頑吉(あまもり がんきち)
ゲンの同級生。通学途中にお腹が痛くなり、中岡家の前で野グソをしようとしたところをゲンに注意され、「クソ森」と呼ばれるようになった。ゲンと仲が悪かったが、友子の一件以降は悪友に。中学卒業後は高校に進学。ゲンの名台詞「わりゃクソ森、ええかげんにせえ」のクソ森。
勝子(かつこ)
隆太と共にいた原爆孤児の少女。顔の左半分を火傷していて、そのため心無い人々にオバケ扱いされる。夏江とともに洋裁店を開く望みを持つ。
ムスビ
本名は勝二。隆太と共にいた原爆孤児の一人で警察の追っ手から逃れた少年。1953年、夜遊びがキッカケで、ヤクザ麻薬中毒にされてしまい、ゲンたちと貯めた貯金60万円を使い果たしてしまう。薬物依存症に耐えきれず、ヤクザ(バーのマスター)宅に麻薬を盗みにいったが、ヤクザに見つかってしまい、内臓が破裂するほどの暴行を受けて川辺に投げ捨てられる。虫の息になりながらも隆太達のところに帰り着き、貯金のことなどを打ち明けるが、「また貯めればいい」と自分を許してくれた皆に感激し、「ありがとう」と言いながらこの世を去った。
大原夏江(おおはら なつえ)
ゲンが似島へ米を貰いにいった際に出会った踊り子の少女。姉の英子に似ておりゲンらに慕われる。顔全体の火傷で虐められ何度も死のうとするが、ゲンに止められ叱咤され、勝子らと洋裁店を開く決意をする。しかし、盲腸で入院後再び死を考えるようになる。ゲンの叱咤で立ち直ったのも束の間、直腸ガンでこの世を去る。
堀川(ほりかわ)
原爆投下前、ゲンの近所に住んでいたガラス屋。戦争で片足を失い、おまけに借金に苦しんでいた。自分を助けようと他人の家のガラスを割っていたゲンに感激し、ゲンに予科練に志願して戦死した息子のものだった軍艦をプレゼントする。
吉田政二(よしだ せいじ)
県美展で何度も入賞する程の絵の達人。原爆によって全身に火傷を負ったせいで、家族はもとより、街の人からも「オバケ」と罵られ、「ピカの毒がうつる」として介護も受けられず放置されていた。1日3円で身の回りの世話の仕事を始めたゲンと隆太の叱咤を受けて奮起するも病気が悪化し、未完成の絵をゲンに託し、肺病で亡くなる。
吉田英造(よしだ えいぞう)
吉田政二の兄。路上で仕事を求めていたゲンに政二の世話を託す。
吉田ハナ(よしだ はな)
吉田英造の妻。「ピカの毒がうつる」と言って政二を忌み嫌っている。
吉田秋子・冬子(よしだ あきこ・ふゆこ)
英造・ハナ夫妻の娘で政二の姪。かつては政二に絵を教わるなど仲が良かったが、政二の被爆後は一転して忌み嫌うようになる。政二が死んだ時には母とともに喜んでいた。
鮫島伝次郎(さめじま でんじろう)
原爆投下前は町内会長を務めていた。猛烈な戦争支持者で、戦争に反対する中岡家をいじめていた(反対していたことを警察に告げ口し、大吉を逮捕させて監獄に入れられ、警察にたくさん殴られた)。そのことを知ったゲンと進次は指を噛み千切った。さらに君江は子どもを守る一心で包丁で伝次郎を殺そうとして、朴が止めた。このことから鮫島や近所の人は中岡家を非国民扱いする。(大切に育てた麦を荒らすなど)原爆投下の際に竜吉と共に家の下敷きとなったが、ゲンに助けられた。その後、ゲンから大吉・英子・進次の救助への協力を頼まれたが、そのまま逃亡。戦後は、盗みを働きつつ、闇市で商売をして資産家になり、商店会会長に就任。その後は戦争反対派(戦前から戦争に反対していたことにしている)に鞍替えし、市会議員を経て県会議員となる。
鮫島竜吉(さめじま りゅうきち)
鮫島伝次郎の息子。国民学校6年生。父同様にゲンや英子を非国民扱いし、いじめていた。父同様に、ゲンに指を噛み千切られた。
鮫島伝次郎の妻
原爆投下前、伝次郎が中岡家をいじめたことを言ったとき、「中岡さんをいじめない方がいい」「中岡さんが言っていることが正しい」と言っていた。原爆投下後、鮫島家が逃げるとき居なかったので、死亡したと思われる。
平山松吉(ひらやま まつきち)
元新聞記者。原爆投下前は広島市の十日市に住んでいた。原爆で一家7人全員を失い、親戚からも嫌われていたとき、ゲンたちと出会い、元気を取り戻し、隆太ら孤児の父代わりになる。しかし、原爆症に冒されてしまい、自らの被爆体験に基づく小説『夏のおわり』を遺し、この世を去る。ゲンや隆太からは「おっさん」と呼ばれ慕われていた。過去に自分の書いた小説で一等を取り、賞品のメダルを獲得した事がある。
大場・三次(おおば・みつぎ)
ゲンや隆太を騙し、粉ミルクを闇市で売りさばき、ゲンに暴行したあと、隆太に射殺される。
政・秀(まさ・ひで)
大場や三次を殺し逃走していた隆太たちを匿い、ヤクザの一員として働かせる。後に隆太に撃たれ、負傷する。
ドングリ
隆太、ムスビと共にいた原爆孤児の一人で、ムスビと共に警察の追っ手から逃れた少年。ヤクザに撃たれて死亡。
太田先生(おおた)
ゲンの中学の時の担任。生徒たちから慕われていたが、戦争反対派で警察予備隊(現:陸上自衛隊)の設立に反対を唱えていたために学校を去る事に。後に私塾を開く。
マイク・ヒロタ
日本人のような顔つきだが、実は日系アメリカ人である。『夏のおわり』を無償で配っていたゲンたちを監禁し、洗脳しようと企むが、ゲンたちが拷問に備えた特訓(洗面器で尻を叩き、その痛みをこらえる特訓)をしているところを見て、恐怖のあまり狂ったと勘違いして釈放してしまう。
天野星雅(あまの せいが)
ゲンに絵について教えた絵描き。ゲンが絵描きを目指すきっかけとなった。
天野達郎(あまの たつろう)
星雅の孫。生活苦のため絵の描けない祖父のためにゲンの持っていた骨壷を金品と勘違いして盗むが、星雅に諭されて以降はゲンを兄のように慕う。
黒崎(くろさき)
ゲンがアルバイトをしていた看板屋の正社員。国民学校6年生のときに原爆で家族親類を失い、戦災孤児となる。その後広島郊外の島にある寺の住職に拾われたが、住職による強制労働やいやがらせ(牛に糞まみれにされるなど)を受けて、ひねくれた性格になってしまった。後に島を脱出した後、「人工の虹」を見て看板屋になる。
大月徹(おおつきとおる)
ゲンがアルバイトをしていた看板屋につとめる広島一の絵描き。性格は悪い。ゲンに投げ飛ばされて腕の骨を折ってしまう。
中尾光子(なかお みつこ)
女子学生。ゲンが中学を卒業後、広島市内の左官町電停(現・本川町電停)で出会い一目惚れし、後に交際を始める。原爆投下時に母と弟(悟)を見殺しにしてしまったことを後悔していたが、ゲンに励まされ立ち直る。また、ゲンと同じ気の強さも持っていて、ヤクザをもこらしめた。しかし、交際から数週間後、白血病で死去。
中尾重蔵(なかお じゅうぞう)
光子の父。ゲンがアルバイトをしている看板屋の社長。元大日本帝国陸軍軍曹。当初熱心な戦争支持者でゲンとは犬猿の仲だったが、娘の死を境に核兵器を憎むようになり、平和主義者へと転ずる。後にゲンとも和解し、ゲンが東京へ旅立つ際、ゲンを見送った。
ノロ(のろ)
本名は年男(としお)。隆太と一緒に感化院から脱獄した。脱獄後、嫌がらせをされた親戚(おじ)を殺そうとしてその親戚の飼い犬タロウに噛まれて重傷を負ってしまう。川岸で倒れているところをゲンと隆太に助けられ、協力しておじを懲らしめた。
林キヨ(はやし きよ)
君江の友人。君江とは小学校からの友人。ピカで家がなくなった君江たちに家を貸す。優しい心がある。主人は沖縄で戦死。
林辰夫(はやし たつお)
キヨの息子。竹子の兄。ゲンたちを嫌い、祖母から許しをもらい、いじめていたが、最後にはゲンや隆太によって仕返し(口に馬糞を詰め込んだ)された。
林竹子(はやし たけこ)
キヨの娘。辰夫の妹。辰夫同様にゲンたちをいじめていたが、辰夫同様にゲンや隆太に仕返しされた。
林キヨの姑
冷たい婆さんで、ゲンが似島で貰ってきた米を、君江が林家で盗んだと言い、派出所で始末書に名前を書かせる。君江が米を盗んでいないことがわかっても、謝らなかった。ゲンをたたくなどしていじめていた。浩二が帰ってきたとき、沖縄で戦死した息子(正造)を思い出してムカムカすると言って、君江たちを追い出したが、後に辰夫や竹子とともにゲンや隆太によって仕返し(肥溜めに落とされた)された。
倉持勇造(くらもち ゆうぞう)
元日本軍の兵士。かつては満州にいたらしい。終戦後に自身が持っていた鉄くずを言い値で買い取られたことから大金持ちになる。しかし性格は残酷で戦争を賛辞している。いわゆる成金で、歯は全部純金の金歯、上着はロンドン製、靴はイタリア製のものを身につけており、外車にも乗っている。

[編集] 実写映画

はだしのゲン(1976年)

はだしのゲン 涙の爆発(1977年)

はだしのゲン PART3 ヒロシマのたたかい(1980年)

監督は3作品とも山田典吾。 これらの作品はタモリ赤塚不二夫竹下景子ケーシー高峰等、大勢の著名人がカメオ出演している事でも話題になった。

[編集] アニメ映画

本作を原作としたアニメ作品は1983年6月に第一部が、1987年6月に第二部が制作され、1989年8月にテレビで放映された。製作はゲンプロダクション(アニメーション制作はマッドハウス)。

主人公の中岡元役はオーディションによって選ばれ、当時小学生(中岡元と同じ年齢)であった広島市出身の声優宮崎一成が演じた。宮崎は変声前の幼い声を生かして中岡元役を好演し高い評価を得た。なお、1作目のナレーションはダンディな声に定評がある、故・城達也が担当した。

原作者中沢啓治が、漫画や実写映画では描ききれない原爆の実情を表現したいとの意図で一部私財を投じて製作され、一般公開された際には大きな反響を呼んだ作品である。

第一部、第二部ともに2005年、原爆記念日にあたる8月6日にジェネオンエンタテインメントよりDVD化して発売された。アメリカでもDVDが発売されている。

[編集] スタッフ

第1部

  • 原作・脚本・製作:中沢啓治
  • 監督:真崎守
  • 作画監督・キャラクター設計:富沢和雄
  • 美術監督:男鹿和雄
  • 色彩設計:西表美智代
  • 撮影監督:石川欽一
  • 編集;尾形治敏
  • 音響監督:明田川進
  • 音楽:羽田健太郎
  • プロデューサー:吉元尊則・岩瀬安輝
  • 設定:丸山正雄

第2部

  • 原作:中沢啓治
  • 監督:平田敏夫
  • 脚本:高屋敷英夫
  • 設定:丸山正雄
  • 作画監督・キャラクター設計:さかいあきお
  • 美術監督:番野雅好
  • 色彩設計:西表美智代
  • 撮影監督:石川欽一
  • 編集:尾形治敏
  • 音響監督:明田川進
  • 音楽:羽田健太郎
  • プロデューサー:吉元尊則・岩瀬安輝・田辺昭太郎

[編集] キャスト

  • 元:宮崎一成
  • 進次・隆太:甲田将樹
  • 大吉:井上孝雄
  • 君江:島村佳江
  • 英子:中野聖子
  • 朴(第1部):西村淳二
  • 政二(第1部):森功至
  • 政(第2部):中村啓
  • 勝子(第2部):青山貴美

[編集] 作品に対する評価

1980年代頃から多くの図書館に置かれた漫画であり、少年少女に幅広く読まれている。小学校中学校の図書室にもよく置いてあり、今日では平和学習の重要な参考書としての側面を持つ稀有な漫画として、また実際に起こった「原爆投下」という現実、戦争下における人々の心の動きや戦争の悲惨さを、作者の目というフィルターを通してはいるが生々しく描き(作者によれば、これでも原爆による被害の表現は少年誌向けに抑えてあるという)、現代の子供たちが知り得る事が難しいが、語り継がねばならない歴史の事実に触れることが出来る貴重な作品である。また、戦争漫画としてだけでなく、戦中戦後の風俗・社会情勢をよく捉えており高く評価されている。

ただ時代考証については明らかに誤って表現されている箇所(※1原爆製造・実験時にアインシュタインが立ち会っているシーン・※2原子爆弾『リトルボーイ』が落下傘を取り付けられて投下されたシーン等)がしばしば見られるということで(時代考証や表現の間違いに付いては作者も一部認めている)、この漫画を歴史の史料あるいは平和教育の副読本としての価値を否定する意見もある一方、あくまで原爆地獄を生き抜いて来た少年の物語であり、社会科学に基づく歴史の実証性という意味合いから、時間経過や事実誤認に関して追及するのはナンセンスだという見方がある。

作品のスタンスについては、原爆投下時の凄惨な場面や中国大陸における日本軍による民間人虐殺(信憑性が怪しいものも含めて)のシーンが描写されていること、昭和天皇には戦争責任があると言明していること、国歌の「君が代」が天皇制につながるとして反対している表現があることなどから、反体制的あるいは左翼的であるという意見がある。

ただし、原爆を投下したアメリカに対する怒りを込めた描写(原爆投下後に、捕虜となっていた米兵の死体に対して老婆が石を投げつける場面、進駐軍の車両の燃料タンクに角砂糖を混入させてエンジントラブルを起こさせる描写、進駐軍アメリカ兵による婦女暴行のシーン等)が多々見られる一方、広島にいる米国の捕虜が被爆死した姿を見て、主人公のゲンが哀れんでいるシーンも描写しており、また朝鮮人については戦時中の差別を描くなど基本的に日本の被害者と位置付けている一方で、「戦後逆に日本人を見下すようになった朝鮮人」という左翼的な作品ではあまり描かれない描写(かつて石原慎太郎都知事が不法外国人を称した、いわゆる「三国人」)も見られるなど、特定の国や民族に強く肩入れしたニュアンスは感じられない(ただ「三国人」が横暴を働くシーンでは、あくまでゲンは「三国人」の行為を容認し擁護する立場であり、「角度を変えた肩入れではないか」とする見解もある)。

単行本の出版にも紆余曲折があり、当初の連載元である集英社からは、長い間単行本化されなかった。「週刊誌は1週間で店頭から消えるが、単行本化すれば後まで残る」として、後々の抗議を恐れたためという。ジャンプ連載にもかかわらず、ジャンプコミックス版がないのはそのためである(ただし1977年、一部が集英社文庫に収録された。また、2005年、コンビニ向けの「ジャンプリミックス」シリーズで単行本化された)。単行本は1975年、汐文社より発売された。他に市民社、翠楊社、ほるぷ出版、中央公論社(中央公論新社)版もある。2007年現在、汐文社版、中央公論新社版、集英社ジャンプリミックス版が発売中である。さらに中公版を元にした電子書籍版もある。ただし集英社版はジャンプ連載時の内容のみで、汐文社版以外は一部の差別用語とされる単語を削除している。

アニメ版については、小学校・中学校での平和学習教育時間に上映される事が多く、観た事があるという者の割合は若年者層を中心に高い。広島県等ではかつて夏休みの登校日などに上映されることが多くあり、子供たちに衝撃を与えることもあった。こうした事柄について、原爆投下時の描写が余りにもリアルかつ嫌悪感を憶える(特に被爆者の描き方)ものであった為、トラウマになったという者も多く、この点を問題視して今日ではこのアニメを学校で強制的に鑑賞させる事に否定的な意見も多い。また、観た児童生徒の書いた感想文などの中には、一般市民に対してこのような虐殺行為を行ったアメリカに対する報復を主張するものや、日本も核を持つべき、核武装すべきなどという、原作者の意図に反した感想も見られる。

中沢啓治本人の評価は「はだしのゲンのアニメ映画を見たことでトラウマを植え付け、それによって原爆に対して嫌悪感を持ってくれればいい」という旨を語っているほか、自伝でも「泣き叫んだ子供達、ありがとう 君たちは原爆の本当の真実を知ってくれたのだ!」と語っており、原爆によるショックを受けることが原爆の悲惨さ、真実を知ることになるというスタンスである。

※1 これは誤って表現されたと考えるよりも、作者による意図的な描写(アインシュタインと原子爆弾とは深い関係があることを読者に気付いて、知ってもらうため)であるともとることができる(実際にはアインシュタイン自身は原爆の開発製造には一切関与してはおらず、原爆開発の実質的責任者はロバート・オッペンハイマーである)。作者自身はこの描写に付いて間違いなのか、あるいは悪戯なのか、たんに科学者のステレオタイプとしてアインシュタインのイメージを借用したのかは公表していない。アメリカ合衆国での翻訳出版では、誤解を招かない様出版社側が配慮したのかジョージ・ルーカス風の男に修正されている。

※2 原爆投下直前、原爆の威力を計測する為に落下傘に取り付けたラジオゾンデを投下しており、それを確認した被爆者が「原爆は落下傘に付けられて投下された」と誤認する証言が多かった(現在では原爆(リトルボーイ)は落下傘を取り付けずに直接投下された事が資料等で判明している)。状況から見て原作者がB29を視認した頃に投下されたラジオゾンデ付きの落下傘を原爆と誤認したのは当然あり得る誤解である(アニメ版『はだしのゲン』でもこの誤認シーンが使用されており、原爆詩人で有名な峠三吉も誤認に基づく詩を書いている)。

[編集] 翻訳

海外(特にアメリカ中国韓国)に於いては、「日本の原爆被害ばかりを過大に表現している」とする批判も多く、一部では自国での出版に強硬に反対する意見も存在する。但し上記の通り、戦場における日本の加害行為も描写されており、朝鮮人差別問題等もしっかりと描かれている。

しかしながら本作品が表現するテーマ性から世界各国でも高い評価を受けており、初期からボランティアの手によって多くの言語に翻訳されている。一説によれば、1977年から大学生のグループによって翻訳された英語版(英題:Barefoot Gen)は、全編が英訳された初の日本漫画である[1]。2005年現在、少なくとも英語版、フランス語版、ドイツ語版、イタリア語版、朝鮮語版、ロシア語版、スペイン語版、インドネシア語版、タイ語版、エスペラント版(エス題:Nudpieda Gen)が既に刊行されている。

[編集] 外部リンク

[編集] 参考文献

  • [1]The Comics Journal,#256(October 2003) p.51

本作は複数の出版社から刊行されているが、現在入手可能なものを一例として挙げる。

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