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少子化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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少子化しょうしか)とは、出生率が低下して子供の数が減少すること。

目次

[編集] 概要

長期的に人口が安定的に維持される合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数)を人口置換水準(Replacement-level fertility)という。国際連合は標準的な人口置換水準を2.1と推計している。人口学において少子化とは、合計特殊出生率が人口置換水準を相当長期間下回っている状況のことをいう。

出生率が長らく人口置換水準近傍にあった場合、出生率の低下はすぐに出生数と総人口の減少をもたらす。しかし出生率が長らく人口置換水準を上回っていたならば、出生率の低下による出生数の減少はしばらく親世代の人口増加に相殺され、総人口の減少は老人の増加によってさらに遅れる。

日本政府は平成16年版少子化社会白書において、「合計特殊出生率が人口置き換え水準をはるかに下まわり、かつ、子どもの数[1]が高齢者人口(65歳以上人口)よりも少なくなった社会」を「少子社会」と定義している。日本は1997年に少子社会となった。日本の人口置換水準は2.08と推計されているが、日本の出生率は1974年以降2.08を下回っており、日本の総人口は2005年に戦後初めて自然減少した。[1]

なお、単純に子供の減少を少子化と呼ぶ例もある。

[編集] 人口転換

経済発展と生活水準の向上に伴う出生率と死亡率の変化には、多産多死から多産少死、少産少死へ至る傾向があり、人口転換と呼ばれる。

多産少死のとき人口爆発が生じることは古くより知られ、研究が進められてきた。日本では江戸時代前半(約3倍増)と明治以降(約4倍増)の2度、人口爆発が起きた。[2]

かつて少産少死社会は人口安定的と考えられていたが、1970年代に西欧諸国で出生率が急落して以降、将来の人口減少が予測されるようになった。多くの先進諸国では死亡率が下げ止まる一方で出生率の低落が続き、1980年にはハンガリーが人口減少過程に入った。

[編集] 少子化の原因

少子化の主な直接原因は、晩産化の進展による女性一人あたりの生涯出産数の減少である。[2]晩産化が進む背景としては、女性の就労機会の上昇などライフスタイルの変化によって結婚・育児の人生における優先順位が低下する中、結婚や育児・教育環境に高い条件を求める傾向が強まっていることが挙げられる。

また、結婚と出産が文化的に密接な関係を保っている地域では、晩婚化の進展および生涯未婚率の上昇が晩産化・無産化に直結している。

[編集] 欧米の少子化の状況

欧米の先進諸国は世界でもいち早く少子化を経験した地域である。ヨーロッパの人口転換は戦前に終了していたが、アメリカ合衆国では1950年代後半にベビーブームが起きた。

1960年代には、欧米は日本より合計特殊出生率が高かったが、1970年代には日本の緩やかな低下とは対照的に急激な低下が起こり、1980年代前半には欧米、日本ともほぼ同水準に達した。

80年代中頃までは多くの国で出生率は低下し続けたが、80年代後半からはわずかに反転あるいは横ばいとなる国が増えている。アメリカやスウェーデンなどは1990年に人口置換水準を回復したが、その後再び低下した。多くの国では出生率回復を政策目標とはせず、育児支援などは児童・家族政策として行われている。

南欧では70年代後半から合計特殊出生率が急低下し、イタリアスペインでは1.1台という超低出生率となった。伝統的価値観が強く、急激に進んだ女性の社会進出と高学歴化に対応できなかったことが原因とみられる。90年代後半以降、法制度面の改善と規範意識の変革により、出生率の持ち直しが見られる国もある。[3]

東欧・旧ソ連では計画的な人口抑制政策や女性の社会進出が早かったことなどから、もともと出生率が低かった。また80年代以降、経済停滞や共産主義体制の崩壊などの社会的混乱による死亡率の上昇が生じ、20世紀中に人口減少過程に入った国が多い。

[編集] アメリカの出生率上昇について

アメリカでは、1985年以降出生率が上昇に転じ、1990年以降合計特殊出生率2.0付近で横ばいになっている。これはヒスパニック系国民の出生率が高いためであり(2003年で2.79)、非ヒスパニック系白人やアジア系の出生率は人口置換水準を下回ったままである。しかし一方で非ヒスパニック系白人の出生率も2000年以降1.85程度と(2003年で1.86)、人口置換水準以下ではあっても日本・欧州よりは高い水準にあり、かつ低下傾向ではなく横ばい状態にある点には留意すべきだ。また、かつて非常に高かった黒人の出生率は1970年代以降急激に下降し、白人やアジア系の水準に近づいている(2003年で2.00)。なお、アメリカでは欧州各国のような国が直接的に関与する出産・育児支援制度などはほとんどなく、基本的には民間の企業やNPO、財団法人などが少子化対策に対応しているケースが多い。

[編集] フランスの少子化対策

フランスでは長く出生率は欧州諸国の中で比較的高い位置にあったが、1980年代以降急速に下がり1995年には1.65人にまで低下した(過去最低)。その後政府は出生率を人口置換水準である2.07人にまで改善させる事を目標と定め、各種の福祉制度や出産・育児優遇の税制を整備した。女性の勤労と育児を両立を可能とする「保育ママ制度」、子供が多いほど課税が低くなる『N分N乗税制』導入や、育児手当を先進国最高の20歳にまで引き上げる施策、各公共交通機関や美術館などでの家族ぐるみの割引システムなどが有名。この結果低下したフランスの出生率は2006年に欧州最高水準の2.01人にまで回復した

一方で、子供を4人以上産めば事実上各種手当だけで生活する事が可能となるため、低所得者が多いイスラム系移民や西アフリカ出身者、アジア系の出産ばかりが激増しているのではないかとの指摘もあるが、フランスにおける新生児の48.5%は法的に結婚していないカップルの子供であり、これは移民層の持つ伝統的な価値観とは大きく異なる。むしろ、事実婚一人親家庭などの多様な家族のあり方に対して社会が寛容である事、シングルマザーでも働きながら何人も子供を生み育てることが可能な労働環境と育児支援が法整備されていることが最大の特徴と言える。なお、フランス国立統計経済研究所(INSEE)は「移民の出生率は0.4ポイント高いが、人口比では大きくないので大勢には影響しない」としている。[4]このことは、移民以外の出生率も1.9以上の高水準であることを意味している。

[編集] イギリスにおける出生率推移

イギリスは1960年代後半から出生率が下がり1990年代後半まで1.6人前後で推移していた。トニー・ブレア労働党政権以後、フレキシブル制度の奨励をはじめとする労働環境の改善やサッチャー保守党政権下で発生した公教育崩壊の建て直し(具体的には予算の配分増加・NPOによる教育支援)、外国人の出産無料などが行なわれた。その結果2000年以降イギリスの出生率は持ち直し、2005年には1.79人にまで回復した。1990年代前半のスウェーデンのように経済的支援だけに目を向けた出生率維持の色が濃厚な短期的少子化解決政策ではなく、父母双方が育児をしやすい労働体系の再構築や景気回復による個人所得の増加を併せた総合的・長期的な出産・育児支援政策の結果として出生率が上がったことは、現在国内外でかなり高く評価されている。

[編集] スウェーデンの少子化に対する対応

スウェーデンでは出生率が1980年代に1.6人台にまで低下し、早くに社会問題となった。そこで、女性の社会進出支援や低所得者でも出産・育児がしやすくなるような各種手当の導入が進められた。また婚外子(結婚していないカップルの間に誕生した子供)に嫡出子と法的同等の立場を与える法制度改正も同時進行して行なわれた。結果1990年代前半にスウェーデンの出生率は2人を超え、先進国最高水準となった。この時期、出生率回復の成功国として多くの先進国がこのスウェーデン・モデルを参考にした。しかし1990年代後半、社会保障の高コスト化に伴う財政悪化により政府は行財政改革の一環として各種手当の一部廃止や減額、労働時間の長期化を認める政策をとった。結果2000年にはスウェーデンの出生率は1.50人にまで急落した。その後はイギリスと同様男女共に働きつつ育児をすることが容易になる労働体系の抜本的見直しや更なる公教育の低コストを図り、2005年時点で出生率は1.77人まで再び持ち直した。2006年は1月から11月までの11ヶ月間で既に前年1年間の出生数に匹敵する出産が確認され、出生率上昇はほぼ確実と見られている。

[編集] ドイツの出生率低下と現況

ドイツは2005年時点で出生率が1.34人と世界でもかなり低い水準にある。東西分裂時代より旧西ドイツ側では経済の安定や教育の高コスト化などに伴う少子化が進行しており、1990年ごろには既に人口置換水準を東西共に大幅に下回っていた。その後ドイツ政府は人口維持のため各種教育手当の導入やベビーシッターなど育児産業の公的支援、教育費の大幅増額などを進めた。しかしドイツでは保育所の不足や手当の支給期間の短さ、更に長く続く不況による社会不安などが影響して2000年の1.41人をピークに再び微減傾向にある。出生数も2005年に70万人の大台を割り、今のところ大きな成果は挙げられていない。なおドイツは既に毎年10~15万人前後(2005年は約14.4万人の自然減)の人口自然減に突入しており、このまま推移すると2050年には総人口が今より1000万人あまり減る事が予想され、政府は大胆な対応を迫られている。またドイツは世界有数の移民大国・外国人労働者受け入れ国家でもあるが、既にその移民や外国人労働者の家族も上記の理由で少子化が進んでおり、移民社会の末期的様相を呈し始めている。

[編集] イタリアの少子化状況

イタリアは1970年代後半から大幅に出生率が落ち込み、1990年代には既に世界有数の少子国となっていた。イタリアの場合他の国とは少し異なり著しい地域間格差(経済的に豊かで人口の多い北部と人口減少が続き産業の乏しい南部での格差)、出産・育児に関する社会保障制度の不備、女性の社会進出などに伴う核家族化の進行そして根強い伝統的価値観に基づく男女の役割意識の強さなど、かなり個性的な問題が背景にあった。こうした中でベルルスコーニ政権は出産に際しての一時金(出産ボーナス)の導入や公的教育機関での奨学金受給枠拡大、医療産業への支援を行なった。結果2005年に出生率は1.33人にまで回復したが、依然として出生率そのものは世界的にかなり低い水準に留まっている。イタリアをはじめとして南欧や東欧では男女の家庭内における役割意識など保守的価値観が強く(婚外子の割合も英米仏、北欧と比べてかなり低い)、行政施策だけでは抜本的な少子化解決につながらないとの見方が有力である。

[編集] オランダの少子化への取り組み

オランダは1970年代から1980年代にかけて出生率が大きく下がり、1995年には過去最低の1.53に低下した。そこで政府は子育てがしやすい社会の再構築のため、数々の施策を試みた。北欧と同様、法律婚によらなくても家庭を持ち子育てが可能となるような政策が広く知られている。具体的には『登録パートナー制度』と呼ばれ、養子を取ることや同姓同士でも子育てが認められるなど、伝統的なリベラル国家オランダらしい制度が知られている。また世界でもいち早くワークシェアリング や同一労働同一賃金制度を取り入れ、パートタイム労働者であっても正社員と同等の社会的地位・権利が認められるようになった。これは家計の維持のしやすさや家庭で過ごす時間の増加につながり、ひいては出生率回復の大きな原動力となった。また、オランダでは国籍に関係なく18歳以下の子供を持つ家庭においては税制上の優遇措置もしくは各種育児手当支給のいずれかを選択できるようになっており、これにより東欧系やインドネシア(旧植民地)系、南米スリナム系はもちろん旧住民(主に白人)の高い出生率が維持されている。2000年以降オランダの出生率は1.73~1.75人で推移しており、欧州諸国の中でも比較的子育てのしやすい国として注目されている。→ [5]

[編集] 人口減少が続くロシア

ロシアでは出生率の低下が続いており、ソ連崩壊後の死亡率上昇、他国への移住による人口流出のため、1992年に主要国で最も早く人口減少過程に入った。以降、人口の自然減が続き、プーチン大統領は演説で「年間70万人の人口が減っている」と述べた。ロシアの人口は2001年時点で1億4600万人だったが、「2050年には1億人すれすれになる」とも予測されている。他方で資源バブルや欧米資本による工場建設などを背景に経済成長は著しく、国家全体でも1人あたりでもGDPの増大が続く。

[編集] アジアの少子化の状況

韓国台湾香港シンガポールなどのNIESでは1960年代 - 70年代に出生率が急激に低下し、日本を超える急速な少子化が問題となっている。2003年の各国の出生率は、香港が0.94、台湾が1.24、シンガポールは1.25、韓国は02年で1.17である。[6]家族構成の変化や女性の社会進出(賃金労働者化)、高学歴化による教育費の高騰など日本と同様の原因が指摘されている。

中国タイでも、出生率が人口置換水準を下回っている。多くのアジア諸国では出生率が人口置換水準を上回っているものの、低下傾向にある国が多い。中国では一人っ子政策による人口抑制が一番の要因とされる。


[編集] 韓国の少子化と政府の対応

韓国は1970年頃に4.53人あった出生率が、経済発展と同時に急落。2000年には1.47人、2002年には1.17人、2003年には1.19人と推移した。はじめは人口急増による失業者増大などを恐れ出産抑制策をとっていた政府も21世紀に入って急激な少子化を抑えるため姿勢を一転させる。具体的には2005年のこども家庭省新設、大統領直属の少子化対策本部立ち上げ、出産支援を目的とした手当導入などが挙げられる。しかし韓国では他の東アジア先進地域(台湾やシンガポール、香港など)と同様女性の社会進出に伴う晩婚化の進展や未婚女性の増加、そして保守的な家庭観(男尊女卑に基づく男児優遇など)に由来する出産忌避が進んだ。加えて韓国の私的教育費はOECD加盟国最高水準という状態で、激しい受験戦争や高学歴化に伴う家庭の負担増加は韓国を更なる少子国に追いやった。2005年の出生率は1.08人と事実上世界最低水準に落ち込み、現在のところ韓国の少子化対策は不調気味であると言える。加えて韓国では経済成長の蔭り、治安悪化などによる社会不安によって若年層の海外移住や海外出産が増えており、政財界を悩ませている。→ [7]


2000年から2005年までの少子化人口の推移
2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年
1.47 1.30 1.17 1.19 1.16 1.08

[編集] 日本の少子化

日本の出生率低下は戦前から始まっていたが、戦時中の出産先送り現象のため終戦直後の1940年代後半にはベビーブームが起き、出生数は年間約270万人に達した(1947年の合計特殊出生率は4.54)。しかし1950年代には希望子供数が減少し、人工妊娠中絶(1948年合法化)の急速な普及をバネに合計特殊出生率は急落し、多産少死から少産少死の社会へと構造的な変化を遂げた。

1960年代から1970年代前半にかけて高度成長を背景に出生率は2.13前後で安定する。しかし第二次ベビーブームと呼ばれた1973年をピーク(出生数約209万人、合計特殊出生率 2.14)として、第一次オイルショック後の1975年には出生率が2を下回り、出生数は200万人を割り込んだ。以降、人口置換水準を回復していない。

1980年代には景気回復と出生率低下が同時に進み、1987年には一年間の出生数が丙午のため出産抑制が生じた1966年の出生数を初めて割り込んだ。1989年の人口動態統計では合計特殊出生率が1.57となり、1966年の1.58をも下回ったため「1.57ショック」として社会的関心を集めた。

1990年代以降も出生率低下は続き、1992年度の国民生活白書で少子化という言葉が使われ、一般に広まった。1995年に生産年齢人口(15~64歳)が最高値(8717万人)となり、1996年より減少過程に入った。1997年には少子社会となった。

2005年には総人口の減少が始まった。同年の労働人口は過去最大の6870万人となったが、2006年以降は女性や高齢者の就労率上昇にもかかわらず労働人口の減少が予想されている。

2005年国勢調査による確定値を基に計算した結果、同年の出生率は過去最低の1.26人となった。政府や研究者の間では団塊ジュニア(主に1971~1974年生まれ)の駆け込み出産や景気回復による将来への展望の持ちやすさが今後生じ、出生率はいくらか持ち直す可能性があるという見方があるが、一方で非正規雇用の拡大に伴う労働環境や低所得者層の増加、更に社会保障や治安など社会全般に対する不安感が依然として強いことを理由に、今後の景気や施策次第では出生率はこれからも下がり続けるだろうと主張する識者も少なくない。

[編集] 日本の少子化の原因

晩産化、無産化が少子化の主な直接原因である。日本では婚外子を忌避する文化が根強く、社会制度などの面でも不利がある。そのため未婚化・晩婚化の進展も少子化に強く影響している。また、たとえ結婚できても、下記のような原因で、子供が生まれたときの十分な養育費が確保できる見通しがたたないと考え、出産を控える傾向がある。

企業による派遣制度等、雇用状態の変化により将来的生活の不安定さの為、結婚や出産を諦めざるを得ないケースが増加している。労働政策研究・研修機構の2005年のレポートによれば、男性は正社員であれば結婚率が高く、また収入が高いほど結婚率が高くなる。女性については、収入と結婚率との間に明確な差は現れてはいない。

子育てにかかる費用の高騰にも一因があり、国民生活白書によれば子供一人に対し1300万円の養育費がかかるという。但しこの数値は基本的な生活費によるもので、高校や大学への進学費を含めると最低2100万円はかかるという。経済産業研究所の藤原美貴子は日本人官僚に対するセミナーで「今の日本において、子育ては非常に高くつきます。ですから、子供を作るか、夏用の別荘を買うか、最新モデルのベンツを買うか、という選択を迫られているようなものです。」と説明している。[3]

その他の要因として、産婦人科医や小児科医の不足(→出産難民参照)、治安に対する不安の高まりなどが指摘されている。

[編集] 低所得者層の増加による影響

配偶者および子供がいる者の割合(%)

所得\年齢

20〜24歳

25〜29歳

30〜34歳

35〜39歳

〜99万円

0.7

0.6

10.8

12.8

100〜199万円

2.3

7.9

19.1

30.0

200〜299万円

4.2

11.4

25.2

37.9

300〜499万円

7.8

18.9

37.8

51.1

500〜699万円

8.2

28.9

50.5

62.4

700万円〜

10.3

27.1

52.0

70.7

資料出所:若年者雇用の不安定化の概況

厚生労働省の調査によると「配偶者や子供がいる割合」は概ね所得の高い層に多く、所得が低くなるに従って未婚率が高くなるという傾向が示されており、低所得者層の増加が少子化の誘因となっている様子が伺える。

[編集] 女性の社会的地位向上による影響

男女雇用機会均等法の施行以来、女性の社会的地位は年々高まる傾向にある。しかし結婚に際して、男性は下方婚(地位・所得・学歴などが自己よりも低い相手と結婚すること)を求める傾向があるのに対し、女性は上方婚(地位・所得・学歴などが自己よりも高い相手と結婚すること)を求める傾向があるため、それらの条件を満たさない何割かの男女が、配偶者を得る機会を失っているという指摘があり、そのことが少子化を助長しているのではないかとも言われている。

[編集] 年代と少子化

厚生労働省の人口動態統計によると、1980年以降20代の出生率は低下し、30代の出生率は上昇しているが、全体の出生率は下がり続けている。1980年以降、未婚率、平均初婚年齢、初産時平均年齢は上昇している。1950年代生まれの世代までは、完結出生児数は2.2人前後と安定した水準を維持していたが、1990年前後に結婚した1960年代生まれの夫婦からは年齢に対する出生児数の低下がみられる。第12回出生動向基本調査(2002年)によると、結婚持続期間が0~4年の夫婦の平均理想子ども数と平均予定子ども数は上の世代より減少しており、少子化の加速が懸念される。

[編集] 地域特性と少子化

厚生労働省の1998年から2002年までの人口動態統計によると、市区町村別の合計特殊出生率は渋谷区が最低の 0.75 であり、最高は沖縄県多良間村の 3.14 であった。少子化傾向は都市部に顕著で、2004年7月の「平成15年人口動態統計(概数)」によれば、最も合計特殊出生率が低い東京都は全国で初めて 1.00 を下回った(発表された数字は 0.9987 で、切り上げると1.00となる)。一方、出生率の上位10町村はいずれも島(島嶼部)であった。

[編集] 日本政府の施策

日本政府は出生力回復を目指す施策を推進する一方、少子高齢化社会に対応した社会保障制度の改正と経済政策の研究に取り組んでいる。

[編集] 出生力回復を目指す施策

1980年代以降、政府・財界では高齢者の増加による社会保障費の増大や、労働人口の減少により社会の活力が低下することへの懸念などから抜本的な対策を講じるべきだとの論議が次第に活発化した。

政府は1995年度から本格的な少子化対策に着手し、育児休業制度の整備、病気の子供の看護休暇制度の普及促進、保育所の充実などの子育て支援や、乳幼児や妊婦への保健サービスの強化を進めてきた。しかし政府の対策は十分な効果を上げられず、2002年の合計特殊出生率は 1.29 へ低下し、第二次世界大戦後初めて 1.2 台に落ち込んだ。

出生率低下の主要因は高学歴化・長時間労働・未婚化・晩婚化と言われているが、結婚への政府介入には否定的な声が大きい。また日本では婚姻外で子をもうけることへの抵抗感も根強く、また男女の所得格差が大きいため、女性一人では子供を育てにくい環境にある。そのため少子化対策は主に既婚者を対象とせざるをえない状況にある。また長時間労働は自己の力で解決は難しいため何らかの対策が求められる。

2003年7月23日、超党派の国会議員により少子化社会対策基本法[8]が成立し、9月に施行された。衆議院での審議過程で「女性の自己決定権の考えに逆行する」との批判を受け、前文に「結婚や出産は個人の決定に基づく」の一文が盛り込まれた。基本法は少子化社会に対応する基本理念や国、地方公共団体の責務を明確にした上で、安心して子供を生み、育てることのできる環境を整えるとしている。

2003年、政府は次世代育成支援対策推進法[9]を成立・公布し、出産・育児環境の整備を進めている。

[編集] 少子高齢化に対応する施策

1997年、政府は健康保険法を改正、2000年に再改正し、患者負担、高額療養費、保険料率を見直した。少子高齢化は今後も進展するため、厚生労働省では医療制度改革の検討が続いている。[10]

2000年、内閣府は「人口減少下の経済に関する研究会」を催し、女性・高齢者の就職率の上昇および生産性の上昇によって少子化のマイナス面を補い、1人あたりでも社会全体でもGDPを増大させ生活を改善していくことは十分に可能、との中間報告を公表した。[11]

2004年、政府は年金制度を改正し、持続可能性の向上、多様な価値観への対応、制度への信頼確保を図った。[12]しかし「現役世代に対する給付水準 50% の維持」の前提となる出生率 1.39 を現実の出生率が下回るなど、国民の不安は払拭されていない。

[編集] 日本の少子化をめぐる議論

[編集] 少子化への姿勢

少子化対策は「出生力低下の要因への対応」と「少子化の影響への対応」の大きく2つに分けられ、いずれを重視し政策的に優先すべきかによって、基本的な少子化への姿勢が異なっている。

[編集] 出生力回復を重視する立場

少子化には多くのデメリットがあり、出生力回復なしにそれらを回避することはできない。

  • 日本の生産年齢人口は1995年に8717万人となり、以後減少している。女性や高齢者の就労率上昇が続いたにもかかわらず、労働人口も2005年にピーク(6870万人)を迎えた。このまま少子化が続けば深刻な労働人口の減少が生じ、経済活動の停滞と生活水準の低下が予想される。
  • 生産年齢人口(15~64歳)に対する高齢人口(65歳以上)の比率の上昇が年金などの社会保障体制の維持を困難にする。
  • ゲーム、漫画、音楽CDなど若者向けの商品、サービスが売れなくなる。現に少年向けの漫画雑誌の発行部数は1990年代半ばをピークに減少し、音楽CDの販売数量も1990年代後半にピークアウトした。世代別消費動向を見ると、この先いずれは住宅耐久消費財の需要の抜本的減少も容易に予想できる。

出生力は政府の施策しだいで回復を期待できる。少子化の緩和・解消こそ喫緊の課題である。2006年2月ぐらいから出生数が多少増加する傾向が見られる。

[編集] 少子化に対応した社会の構築を重視する立場

少子化のデメリットはいずれも克服できる。

  • 景気回復および仕事と育児の両立支援により労働人口を微減に留め、生産性の上昇によってGDPを増大させ続けることは可能である。実際に東欧・旧ソ連では人口減少下の経済成長を実現し、社会全体でも1人あたりでもGDPを増大させた国が少なくない。
  • 高齢人口の増大は年少人口の減少に相殺され、生産人口と総人口の比率は安定的である。高齢者の雇用増大や制度の再設計により、社会保障体制の持続は可能だ。
  • 離乳食やおむつなどベビー用品業界の売上は伸びており、商品の高付加価値化や新たな需要の掘り起こしにより若者向け産業は発展を続けられる。

少子化の政策的解消は困難であり、少子化に対応した社会の再構築こそ重要である。

[編集] 高福祉は少子化を改善するか

スウェーデンでは1980年代後半に出生率が急激に回復したことから少子化対策の成功例といわれ(竹崎孜『スウェーデンはなぜ少子国家にならなかったのか』あけび書房、2002年)、日本において出産・育児への充実した社会的支援が注目されている。[13]

しかしオーストラリアでは1980年代から、日本では1990年代から、家族・子供向け公的支出がGDP比でほぼ毎年増加しているが、いずれも出生率は低落傾向が続いている。[14]

個別の施策と出生率の関係を厳密に定量化することは難しく、高福祉が少子化を改善するか否かは総合的な観察からも明瞭な結論は導かれない。[15]

[編集] 移民受入の是非

人口減少下において労働人口を確保するためには(1960年代のヨーロッパ諸国のように)移民を積極的に受け入れざるをえない、との主張がある。

これに対し「文化摩擦、社会の階層化、差別など深刻な社会問題が生じかねない」「移民は1~3世代で少産のライフスタイルに同化する傾向にある」など、移民の受入はデメリットが多くメリットが少ない、との反論がある。

[編集] 「産まない女性」の立場からの提言

出産しない、出来ない女性の立場からは、フェミニストの社会学者、上野千鶴子が『1・57ショック 出生率・気にしているのはだれ?』(1991年)を著し、社会的整備を抜きに女性に対し一方的に子育てを押しつける社会のあり方に疑問を投げかけた。「気にしている」のは、「産まない女性」ではなく、政府・財界だと説明したのである。この上野の著作が嚆矢(初め)となって様々な著作が書かれている。

なお、女性の人工中絶を禁止することが少子化対策になるのではないかという意見もあるが、人工中絶を悪しきものとする倫理観が高いカトリック国のイタリアドイツも、人工中絶数が多いロシアも、ともに日本並みに出生率が低く、人工中絶数と少子化の度合いに直接の関連性はみられない。

また、今の政府の少子化対策は、太平洋戦争中の「産めよ増やせよ」政策のように「女性は子供を産むための“道具”でしかないのか」と女性団体から批判を受けることがある。

さらに、自治体や企業によっては、第2子以上を出産すると補助金や育児金といった制度を充実させているところもあるが、「お金のために子供を産むみたいで気が引ける」「補助金よりも育児環境を充実してほしい」という声も聞かれる。

[編集] 人口密度の減少は望ましいか

日本の人口密度は、人口爆発への懸念から一人っ子政策を進める中華人民共和国の約3倍(日本:336人/km2、中華人民共和国:134人/km2)であるなど、国際比較の観点から、人口の減少による人口密度の低下は望ましい、との意見がある。都市部の過密解消、地価下落、住環境や自然環境の改善などに寄与するとされる。

これに対し、近代の社会システムは労働力と資本の集約を前提としており、都市部への人口集中が続く限り、人口の減少は過疎地の増大と地方都市の荒廃をもたらすだけだ、との反論がある。例として、前述の日中比較において、東京都中野区の19,000人/km2に対し、上海中心部は40,000人/km2を越える。また人口密度の適正化は望ましいが、移行期に社会保障や経済などの面で圧迫される世代が生じるため、急激な少子化は容認できないとする意見もある。

[編集] 高齢出産との関係

これまで、晩婚化高齢出産につながり、女性の出生能力が減少するという観点から、女性の早期結婚が特に奨励されがちであった。しかし、近年の欧米の研究では、高齢により男性の精子の質も劣化し、子供ができる可能性が低下し染色体異常が発生しやすくなることなどが報告されている[16]。実際、日本の夫婦の平均年齢差は2歳であるが、不妊理由は男性側・女性側の原因が概ね半々となっている。この観点からは、男性・女性ともに早期に結婚し子どもを作ることが、少子化対策としては望ましいといえる。

[編集] 女性を「産む機械」に喩えた発言

柳沢伯夫厚生労働大臣は2007年1月27日、島根県松江市で開かれた自民県議の後援会の集会で「…産む機械って言っちゃあまぁアレだけども、装置がもう数が決まっちゃったから、機械の数が…機械って言っちゃあまぁほんとぉ申し訳ないんだけども(会場内失笑)…そういう〜のが決まっちゃったということになると、あとは1つの…ま、機械って言っちゃごめんなさい、その産む、産む役目の人が1人頭で頑張ってもらうしかないんですよ皆さん!…」という発言をした。

この発言については、現職の厚生労働大臣が女性を「機械」「装置」に喩えたこと、また「申し訳ないけど」と言いながら、発言の実質的内容も少子化の責任をすべて女性に押し付けるもの(産む「機械・装置」である女性に頑張ってもらうしかない)であることについて、各方面から批判が相次いでいる。

これに類似した発言として、民主党菅直人の「産む生産性」発言がある。「東京は生産性が高いと言われるが、子どもの生産性が最も低い」と2007年1月の愛知県知事選挙の応援演説の際に発言した[17]

[編集] 世界各国・地域の合計特殊出生率

ヨーロッパ地域のソース(2005年)→ [37]

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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[編集] オンライン記事

[編集] 関連文献

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