山田線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
山田線(やまだせん)は、岩手県盛岡市にある盛岡駅と岩手県釜石市にある釜石駅を結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(地方交通線)である。北上線同様、周りの他のJR線のような愛称は付けられていない。
盛岡駅~宮古駅間は閉伊街道沿いを走る山越え区間である。宮古駅~釜石駅の区間は三陸海岸沿いを走り、気仙沼線・大船渡線・三陸鉄道などとともに三陸縦貫線を構成する。釜石線営業所の管轄下である浪板海岸駅から釜石駅までの各駅には、釜石線同様エスペラントによる別名が付けられている。
目次 |
[編集] 路線データ
- 管轄(事業種別):東日本旅客鉄道(第一種鉄道事業者)
- 区間(営業キロ):盛岡~釜石 157.5km
- 軌間:1067mm
- 駅数:30駅(起終点駅含む)
- 複線区間:なし(全線単線)
- 電化区間:なし(全線非電化)
- 閉塞方式:
- 盛岡~宮古間 連査閉塞式
- 宮古~釜石間 特殊自動閉塞式(電子符号照査式)
- 運転指令所:盛岡輸送指令室
[編集] 運行形態
運行系統としては、盛岡~宮古間の山地越え区間と、宮古~釜石間の三陸海岸区間に分かれており、両区間を直通する列車はない。また、線路名称上の起点は盛岡であるが、列車運行上は釜石で接続する釜石線などとあわせて盛岡に向かう列車が下り扱い(列車番号が奇数)となっている。
[編集] 盛岡~宮古
全国でも屈指の閑散線区であり、全区間を直通する列車は、1日に4往復が設定されているに過ぎない。地図で見る限りでは盛岡駅~上米内駅の近郊輸送として需要があるように思えるが、実際は盛岡~上米内の区間列車が朝方に2往復(うち1往復は休日運休)しか設定されておらず、近郊輸送としては全く機能していない。また、そのうち1往復半(下り2本、上り1本)は、主要駅停車の快速「リアス」である。また、盛岡側では上米内~盛岡間の区間列車、宮古側には宮古~川内間の区間列車のほか、宮古~茂市間に岩泉線直通列車が乗入れる。盛岡~区界の峠越えの後、宮古までは山を降りるだけなのだが、60km/hの制限区間があまりにも多いため改修もままならないまま放置されている。
人的輸送需要が無いわけではなく、山田線にほぼ並行している国道106号には「106急行バス」が頻繁に運行されているが、東日本旅客鉄道は対抗策を全くと言っていいほど取っておらず、軌道の改良や車両の更新などの近代化も行わず旧態依然のまま放置しているのが実情である。「本区間を廃止すれば岩泉線が孤立するため、岩泉線の孤立防止のために残しているのではないか」という説さえある。
[編集] 宮古~釜石
三陸縦貫線の一部として、三陸鉄道南リアス線・北リアス線と相互直通運転を行っている。また、快速「はまゆり」1往復が釜石線経由で宮古~盛岡間に運転(快速運転は上りのみ)されている。また、イベント列車として仙台~八戸間に三陸縦貫列車「リアス・シーライナー」が夏季に運転される。
かつては、山田線~釜石線~東北本線を回る盛岡発盛岡行きの循環急行「そとやま」・「五葉」が存在した。
2時間に1本程度の運行になっている。
[編集] 臨時列車
最近運転されている臨時列車としては、主に春のシーズンには「さんりくトレイン」・「岩泉龍泉洞号」といった観光列車の他、昨今では牛山隆信の作品の影響で「秘境駅」めぐりがブームになったこともあり、同線の大志田駅・浅岸駅、岩泉線の押角駅などに停車する「秘境駅号」が盛岡駅~茂市駅~岩泉駅間に設定されたりもしている。また、夏休み期間・年末年始には、キハ28・58「kenji」を使って、盛岡~宮古間ノンストップの快速「ふるさと宮古」または、「さんりくトレイン宮古」が運転される。以前は、一般車両を使用した臨時快速「三陸」・「みやこ」も運転されていた。
[編集] 車両
盛岡~宮古間は、キハ58形や、キハ52形(盛岡車両センター所属)などが運転されている。 一部のキハ52は車体塗装が赤地に窓周りがクリーム色の国鉄一般色に、またキハ58は国鉄急行色に変更されている。
宮古~釜石間は、釜石線と共通運用のキハ100系(「快速はまゆり」は、キハ110形)が運転されている。キハ110形が最初に投入されたのがこの路線である。
[編集] 歴史
盛岡~陸中山田間は、盛岡と三陸地方を結ぶ鉄道として、1892年公布の鉄道敷設法にすでに規定されていた区間である。測量調査が行われたものの、盛岡~宮古間で標高1,000mを超す山地(北上山地区界峠)を越えるため、予定線の検討は行われたものの、建設は具体化しないままとなってしまった。地元岩手県出身の原敬が首相となった1920年に至って漸く建設が決定され、1923年から1935年にかけて開業した。
陸中山田以南の区間は、改正鉄道敷設法別表第7号に規定する「岩手県山田ヨリ釜石ヲ経テ大船渡ニ至ル鉄道」の一部で、三陸縦貫線を構成する予定線であったが、釜石までの区間は、前述の区間に引き続いて戦前の1939年までに開業したものの、釜石以南については戦後の建設、開業となり、現在三陸鉄道南リアス線となっている。
盛岡~宮古間は山の中である。この路線を敷設するかどうかを帝国議会で審議した際、野党憲政会は猛烈に反対し、同党議員からの「こんな所に鉄道を敷いて、首相は山猿でも乗せるつもりか」という非難に対し、原敬首相(当時)は、「鉄道規則を読んでいただければわかりますが、猿は乗せないことになっております」と平然と答弁した、というエピソードがある。だが開業後、盛岡~宮古間は満員で座ることができず、立ち通しのことも少なくなかった。
また、太平洋戦争後の1946年11月、山田線は風水害により平津戸~蟇目間が長期運休となった。全線復旧に1954年までの8年間を要した大災害であり、その代替としてGHQの指示により釜石線の改築が促進された。また、このときに沿岸側に取り残された機関車を宮古港から青函連絡船で運び出した。
- 1923年(大正12年)10月10日 【開業】山田線 盛岡~上米内(9.9km) 【駅新設】上盛岡、上米内
- 1928年(昭和3年)9月25日 【延伸開業】上米内~区界(25.7km) 【駅新設】大志田、浅岸、区界
- 1930年(昭和5年)10月31日 【延伸開業】区界~松草(8.0km) 【駅新設】松草
- 1931年(昭和6年)10月31日 【延伸開業】松草~平津戸(8.6km) 【駅新設】平津戸
- 1933年(昭和8年)11月30日 【延伸開業】平津戸~陸中川井(21.3km) 【駅新設】川内、箱石、陸中川井
- 1934年(昭和9年)11月6日 【延伸開業】陸中川井~宮古(28.6km) 【駅新設】腹帯、茂市、蟇目、千徳、宮古
- 1935年(昭和10年)11月17日 【延伸開業】宮古~陸中山田(26.5km) 【駅新設】磯鶏、津軽石、豊間根、陸中山田
- 1936年(昭和11年)11月10日 【延伸開業】陸中山田~岩手船越(5.0km) 【駅新設】織笠、岩手船越
- 1938年(昭和13年)4月5日 【延伸開業】岩手船越~大槌(11.6km) 【駅新設】吉里吉里、大槌
- 1939年(昭和14年)9月17日 【延伸開業・全通】大槌~釜石(12.3km) 【駅新設】鵜住居、釜石
- 1943年(昭和18年)11月22日 【貨物線開業】宮古~宮古港(2.0km) 【駅新設】(貨)宮古港
- 1944年(昭和19年)3月12日 平津戸~川内間で雪崩のため鉄橋が流され下り貨物列車が転落。機関士死亡。機関助士負傷。
- 1946年(昭和21年)11月26日 【営業停止】平津戸~蟇目(風水害による)
- 1949年(昭和24年)3月5日 【営業再開】蟇目~茂市
- 1951年(昭和26年)7月23日 【仮停車場新設】両石
- 1952年(昭和27年)2月10日 【駅新設】山岸
- 1953年(昭和28年)3月25日 【営業再開】腹帯~茂市
- 1954年(昭和29年)9月1日 【仮停車場→駅】両石
- 1954年(昭和29年)11月21日 【営業再開】平津戸~腹帯(全線復旧)
- 1961年(昭和36年)12月20日 【駅新設】花原市、浪板
- 1970年(昭和45年)2月28日 蒸気機関車運行終了(C58)。3月1日から無煙化
- 1984年(昭和59年)2月1日 【貨物線廃止】宮古~宮古港(-2.0km) 【駅廃止】(貨)宮古港
- 1986年(昭和61年)11月1日 【貨物営業廃止】盛岡~釜石
- 1987年(昭和62年)4月1日 【承継】東日本旅客鉄道
- 1994年(平成6年)12月3日 【駅名改称】浪板→浪板海岸
[編集] 蒸気機関車の復活運転
1987年7月から、廃線となっていた宮古~宮古港間の貨物線を利用して、蒸気機関車の復活運転が実施された。これは、地元の「甦れSL C10-8運営協議会」が宮古市のラサ工業株式会社の専用線で使用されていたC10形蒸気機関車(C108)に貨車改造の客車2両を連結し、SLリアス線「しおかぜ号」として1989年までの夏休み期間及び9~10月の休日に運行したものである。鉄道事業ではなく遊戯施設扱いであったが、宮古市役所前のはまぎく駅からうみねこ駅までの1.4kmで、途中にミニ浄土ヶ浜公園前駅が設けられていた。
また、1992年にも「三陸・海の博覧会」に協賛して、市役所前~白浜丸発着所間の約0.5kmで機関車のみの展示運転を実施している。この展示運転に使用されたC108は、1994年に大井川鉄道に譲渡されている。
[編集] 駅一覧
駅名 | エスペラント による愛称と意味 |
営業キロ | 接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|---|
盛岡駅* | 0.0 | 東日本旅客鉄道:東北新幹線・東北本線・田沢湖線(秋田新幹線) IGRいわて銀河鉄道:いわて銀河鉄道線(花輪線乗り入れ) |
岩手県 | 盛岡市 | |
上盛岡駅 | 2.8 | ||||
山岸駅 | 4.9 | ||||
上米内駅* | 9.9 | ||||
大志田駅 | 19.2 | ||||
浅岸駅 | 27.6 | ||||
区界駅* | 35.6 | 下閉伊郡川井村 | |||
松草駅 | 43.6 | ||||
平津戸駅 | 52.2 | ||||
川内駅* | 61.5 | ||||
箱石駅 | 65.7 | ||||
陸中川井駅 | 73.5 | ||||
腹帯駅 | 82.6 | 宮古市 | |||
茂市駅* | 87.0 | 東日本旅客鉄道:岩泉線(宮古駅まで直通あり) | |||
蟇目駅 | 91.5 | ||||
花原市駅 | 94.2 | ||||
千徳駅 | 98.8 | ||||
宮古駅* | 102.1 | 三陸鉄道:北リアス線(釜石駅方面と直通あり) | |||
磯鶏駅 | 104.1 | ||||
津軽石駅* | 111.3 | ||||
豊間根駅 | 117.5 | 下閉伊郡山田町 | |||
陸中山田駅* | 128.6 | ||||
織笠駅 | 130.8 | ||||
岩手船越駅* | 133.6 | ||||
浪板海岸駅 | Ondokrestoj(波頭) | 140.0 | 上閉伊郡大槌町 | ||
吉里吉里駅 | Reĝolando(王国) | 141.8 | |||
大槌駅* | Lumoturo(灯台) | 145.2 | |||
鵜住居駅* | Plaĝo(砂浜) | 149.2 | 釜石市 | ||
両石駅 | Fiŝhaveno(漁港) | 151.4 | |||
釜石駅* | La Oceano(大洋) | 157.5 | 東日本旅客鉄道:釜石線(直通あり) 三陸鉄道:南リアス線(宮古駅方面と直通あり) |
- 凡例
- *:交換可能駅
[編集] 山田線が登場する作品
- 映画
- 『大いなる旅路』 - 1944年3月12日に平津戸~川内間で起きた列車転落事故をモデルとした作品。事故シーンの撮影は当時の国鉄の協力で1960年に事故現場近くで実際に機関車を転落させて行われた。
- 漫画
- 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(単行本第8巻)