JR東日本E217系電車
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JR東日本E217系電車 | |
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スカ色のE217系(2006年9月21日、北鎌倉~大船間にて撮影) | |
起動加速度 | 2.0km/h/s |
営業最高速度 | 120km/h |
設計最高速度 | 120km/h |
減速度 | 3.3km/h/s(非常) |
軌間 | 1,067mm |
電気方式 | 直流1,500V(架空電車線方式) |
編成出力 | 1,520kW |
駆動装置 | TD継手平行カルダン駆動方式 |
制御装置 | VVVFインバータ |
ブレーキ方式 | 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ |
保安装置 | ATS-SN,ATS-P,ATC |
E217系電車(E217けいでんしゃ)は東日本旅客鉄道(JR東日本)の直流近郊形電車。
目次 |
[編集] 概説
横須賀線と総武快速線で運用されていた113系の置き換えを目的として1994年(平成6年)に登場し、同年12月3日より営業運転を開始した。JR東日本が「新系列車両」として開発した209系と同じ設計思想に基づいており、事実上の兄弟車両と言える。首都圏の通勤輸送に対応するため、近郊形電車としては初の4扉車両となり、2階建てグリーン車も登場した。
本系列のデザイン開発はGKインダストリアルデザインによるものである。1995年度通商産業省(現・経済産業省)選定グッドデザイン商品(商品デザイン部門)受賞。
車両製造は川崎重工業、東急車輛製造およびJR東日本新津車両製作所が行い、1994年より大船電車区(現・鎌倉車両センター)と幕張電車区(現・幕張車両センター)に集中投入され、1999年12月4日のダイヤ改正をもって横須賀線・総武快速線のすべての113系を置き換えた。その後本系列の動向に変化はなかったが、2006年3月18日のダイヤ改正より一部の編成が国府津車両センターに転属し、東海道本線に転用された。詳しくは下記の「東海道本線への転用」の項目を参照されたい。
本系列の後、近郊形電車の生産は「一般形電車」として統一されたE231系近郊タイプに引き継がれたが、同形式の車体の基本構造や内装デザインに大きな相違はなく、本系列は新系列車両の基本的なデザインを完成させた車両と言えよう。
[編集] スペック
[編集] 車体
209系と同じ軽量ステンレス車体であるが、車体幅が2,950mm(209系0番台は2,800mm)に拡大され、裾絞りのある車体となった。車体の大型化と高速走行時の安定性の観点から、台車間距離が13,800mm(209系は13,300mm)に拡げられた。
車内設備は概ね209系に準じており、ドア上にLEDによる車内案内表示装置とドアチャイム装置が設置されている。車外側面の行先表示器は製造開始当初209系と同じ幕式であったが、1998年度製造の編成よりLED式を採用した。また、最近は初期の車両も改造により幕式からLEDに交換された車両も存在する。
座席はロングシート車両とセミクロスシート車両があり、セミクロスシート車両は、両端の座席はロングシート(3席)、ドア間の座席は「ロング2席・ボックス4席・ロング2席」の配置となっている。ただし先頭車両は構造上の関係(後述)で最前位のドアが後位寄りへ設置されたため、ロングシート車両・セミクロスシート車両ともに先頭側のドア間の座席はロングシート(4席)となっている。また、ドア間の大窓が開閉可能となり、セミクロスシート車および初期のロングシート車両は、側窓を3分割し、中間部分が下降式となっている。ロングシート車両の側窓は製造途中より2分割となり、大きい方の窓が下降式となっている。なお、開閉不可能な窓も存在しているが、こちらは2007年から開閉可能にする工事が行われている。
基本編成・付属編成の久里浜方先頭車にはトイレが設置されている。なお、バリアフリーの観点から1997年(平成9年)製造の編成より基本編成の久里浜方先頭車(1号車:クハE216形2000番台)にに車いす対応の洋式トイレが設置されている。既存の編成についても1号車のみ新造車両と交換し、捻出した車両を新規投入編成の付属編成に転用する方法により、すべての基本編成に車いす対応トイレ付き車両が組み込まれた。
先頭車両は踏切が多い区間を高速運転するため高運転台化され、品川駅~錦糸町駅間の地下区間(東京トンネル)を走行することから前面貫通構造となった。しかし、普通鉄道構造規則が改正され、トンネル外径が広く車両側面からの脱出経路が確保できる場合には前面貫通路を省くことが認められたため、後に前面の貫通扉は廃止されたが前面デザイン形状は変更していない。また、1992年(平成4年)の成田線大菅踏切事故の経験を踏まえ、運転士の安全を確保するため先頭車両をクラッシャブル(衝撃吸収)構造とし、運転台部分の奥行きを長く確保している。なお、通勤形の209系0番台では運転士の救出口が運転台背面に設けられているが、運転台の奥行きは広げていない。この構造は後のE231系近郊タイプやE531系、E233系にも採用された。
集電装置は209系と同じPS28型菱形パンタグラフが採用されている。狭小トンネル対策が採られていないため、中央本線高尾駅以西などへの乗り入れはできない。
[編集] 動力装置
制御装置とモーターには、209系と同じ三菱電機製のGTO素子によるVVVFインバータ制御装置と出力95kwのかご形三相誘導電動機(MT68型、後にMT73型)を採用しているが、運用条件である最高速度120km/hを達成するため、歯数比は6.06(209系は7.07)とされ、その結果起動加速度は2.0km/h/s(209系は2.5km/h/s)に抑えられている。その後のE231系は歯数比7.07とされたが、電動機の許容最高回転数を上げて120km/h運転を可能とした。
台車も209系と同様で、軸梁式ボルスタレス台車のDT61/TR246系が採用されている。総武快速線などで120km/hの高速運転を行うため、量産先行車には新製当初ヨーダンパが装備されたが、走行試験の結果、グリーン車を除き以後の車両への装備は行われず、量産先行車からも撤去されている。
[編集] グリーン車
グリーン車は、従来通り基本編成の4・5号車に組み込まれ、利用者数の増加と成田空港アクセス需要(エアポート成田)への期待などから、2両とも2階建てグリーン車となった。車両は211系の2階建てグリーン車の設計をベースとしているが、台車やドアチャイム設置などの車内設備は新系列車両に準じている。また、座席には片持ち式のリクライニングシートが採用されている。
横須賀線と総武快速線では、東海道本線と共に2006年3月18日のダイヤ改正よりグリーン車Suicaシステムを導入した。それに先駆けて2005年度に全座席の上部にSuicaをタッチするための装置(R/W(リーダ/ライタ))が設置されている。
2006年8月以降、グリーン車の座席がE231系に準じたものに交換される編成が出始めた。しかし座席の台座は流用されており、設備も背面テーブルのみと従来のE217系に準じたものとなっている。
[編集] 113系との併結計画
本系列の計画段階では東海道本線への投入や房総地区のローカル列車の置き換えを同時に実施する構想があり、長期間113系と共存することが予想されたため、量産先行車の2編成には非常時に113系と連結することを想定して久里浜寄り先頭車にブレーキ読み替え装置が搭載された。しかし、車両投入の方針が横須賀線・総武快速線の短期集中投入と決まり、また併結試験において技術的な問題も出たため、第3編成以降にブレーキ読み替え装置は設置されず、量産先行車からも装置は撤去された。
[編集] 運用路線と所属・編成
[編集] 横須賀線・総武快速線
1994年より横須賀線・総武快速線用に投入された編成は、グリーン車を含む11両の基本編成と4両の付属編成とで構成される。基本編成の電動車と付随車の比率(MT比)は4M7T、付属編成のMT比は2M2Tである。車体に巻く帯のラインカラーは窓上・窓下ともに「横須賀色」(通称:スカ色)と呼ばれる青とクリームのツートンとなっている。また、先頭車の正面貫通扉の右中央には右側にE217系のロゴと「EAST JAPAN RAILWAY COMPANY」のロゴが、左側に帯色ロゴが刻印されている。
横須賀線・総武快速線の編成は、113系時代より東海道本線とは異なり基本編成が東京方・付属編成が久里浜方となっている。これは分割・併結を行う逗子駅の構内配線の都合によるものである。横須賀線・総武快速線への本系列投入に際しては、東海道本線の編成と同様の基本編成10両+東京方に付属編成5両への変更も検討されたが、逗子駅の配線の変更や留置線の延長が困難であったため、久里浜方に付属編成4両+東京方に基本編成11両の編成が維持された。このため、ホーム長が10両分に満たない田浦駅での一部ドア締め切り問題は解決しておらず、本系列においても両先頭車+2両目(2・10号車)の先頭車寄りドアの締め切りスイッチが装備され、そのことを示すステッカーが該当するドアに貼付されている。また、15両編成時の動力車比率が6M9Tとなるのに対し、基本編成の単独運転時には4M7Tであり動力性能が低下するが、その場合も設計所定の性能を発揮できるように自動的に限流値(モータに流す電流の量)を増加させる機能を備えている。
現在、鎌倉車両センターに基本編成48本(528両)と付属編成43本(172両)の計700両が配置されている。以前は同所と幕張車両センターに分散配置されていたが、2006年3月18日改正で鎌倉への集約配置に変更となった。これに伴い編成番号も従来の「F-○○」(鎌倉)「R-○○」(幕張)から「Y-○○」に変更された。なお、幕張での車両留置は引き続き行われている。
運用区間は横須賀線・総武快速線を中心とするが、総武本線(千葉~成東間)、成田線(佐倉~成田空港・香取間、但し成田~香取間は付属編成のみ)、鹿島線(香取~鹿島神宮間、付属編成のみ)、内房線(蘇我~君津間)、外房線(千葉~上総一ノ宮間 以前は大原・勝浦までの直通も存在した)にも乗り入れる。
1999年(平成11年)10月19日より総武快速線錦糸町駅~千葉駅で、2004年(平成16年)10月16日のダイヤ改正より横須賀線品川駅~大船駅間でそれぞれ最高速度120km/hでの運転を行っている。
以前は付属編成のみが夜間帯に千葉発成東行普通列車の運用に入っていた時期もあったが、混雑が非常に激しかったため、数年で113系6両編成に置き換えられている。これ以降、鹿島線直通列車を除き房総各線のローカル列車に付属編成が単独で使用されることはなくなった。
2001年12月1日改正から2004年10月16日改正までは、215系とともに、湘南新宿ラインの横須賀線~新宿駅折り返し運用も存在した。この時は先頭車の行先が「普通」と表示されていた。
[編集] 東海道本線への転用
朝ラッシュ時の湘南新宿ライン増発による横須賀線運転本数の削減と湘南新宿ラインのE231系化(2004年10月16日ダイヤ改正)により、横須賀線・総武快速線のE217系には運用数に対して余剰車が発生した。このため、鎌倉車両センター所属のE217系のうち15両編成3本(45両)が東海道本線と伊東線の113系の置き換えのために国府津車両センターへ転属し、2006年(平成18年)3月18日のダイヤ改正より運転を開始した。
東海道本線への転属に際しては東京総合車両センターにおいて転用改造が行われ、211系およびE231系と同じく熱海寄りに基本編成10両、東京寄りに付属編成5両へと組み替えられた。当初は基本編成の7号車(ロングシート車)を付属編成に移動する予定であったが、混雑率の偏りを避けるため、実際にはセミクロスシート設置の旧10号車が付属編成へ移動した。
帯色はE231系と同じ新湘南色となった。車体側面のJRマークの位置は横須賀線時代と同じ戸袋部に存置、また先頭車の正面にある「E217」ロゴも残されたが、その左にあった横須賀色の帯色ロゴは撤去された。
半自動ドア装置などの寒冷地設備がないため湘南新宿ラインへの運用はなく、東海旅客鉄道(JR東海)エリアへの直通運用もない。また2006年3月改正時点では運用中の分割・併合が設定されておらず、終日15両編成で運用されているため、伊東線への乗り入れもない。結果、運用区間は東京~熱海(非営業の回送で伊東線来宮まで)間に限定され、運転室のモニター装置には『この車両は東京⇔熱海(来宮)間限定運用です』というシールを貼付している。E231系と異なり、自動放送は設置されていない。
横須賀線・総武快速線から東海道本線に転属したのは最初に製造された3編成(基本F01~F03編成と付属F51~F53編成で、F3・F53を除き量産先行車)である。行先表示器は付属編成のF52編成のみ転用改造時にLED式に変更されたが、現在ではF1・F51が全検出場後に、F3編成もLED式に交換され、F53編成のみが従来通りの幕式のままである。新たに作成された字幕表示の書体は横須賀線・総武快速線の「東日本書体」ではなく、漢字部分のみが211系と同じいわゆる「旧国鉄書体」となった。また、非常用ドアコックなどの使用方法のステッカーが209系と同じタイプのものに貼り替えられた。
前面種別幕は、東海道本線では白色で「普通」もしくは「東海道線」を、快速アクティーの運用に入るときは、赤色で「快速アクティー」と表示される。 一般的に「東京」行きのときに「東海道線」、小田原・熱海方面の行き先のときは「普通」と表示される。
[編集] 形式・番台区分
- モハE217形:千葉(東京)寄り中間電動車
- モハE216形:久里浜(熱海)寄り中間電動車
- 1000番台:ロングシート車。モハE217形0番台とユニットを組む。基本編成の8号車(鎌倉・国府津)。
- 2000番台:ロングシート車。基本編成の2号車(鎌倉・国府津)、付属編成の増2号車(鎌倉)・12号車(国府津)。
- クハE217形:千葉(東京)寄り制御車。
- 0番台:セミクロスシート車。基本編成の11号車(鎌倉)・10号車(国府津)。国府津所属車両には電気連結器装備。トイレ設置。(鎌倉、国府津)
- 2000番台:ロングシート車。付属編成の増4号車(鎌倉)・15号車(国府津)。電気連結器装備。
- クハE216形:久里浜(熱海)寄り制御車。
- 1000番台:ロングシート車。和式トイレ設置。付属編成の増1号車(鎌倉)・11号車(国府津)。国府津所属車両には電気連結器装備。
- 2000番台:ロングシート車。電気連結器装備。基本編成の1号車(鎌倉・国府津:車いす対応トイレ設置)、基本編成への2000番台(車いす対応トイレ設置)投入による一部の付属編成の増1号車(鎌倉:和式トイレ設置)。
- サハE217形:付随車
- 0番台:セミクロスシート車。基本編成の10号車(鎌倉)、付属編成の14号車(国府津)。
- 2000番台:ロングシート車。基本編成の6・7号車(鎌倉・国府津)。
- サロE217形(0番台):付随車。千葉(東京)寄りグリーン車。久里浜(熱海)寄りにトイレ設置。
- サロE216形(0番台):付随車。久里浜(熱海)寄りグリーン車。千葉(東京)寄りに乗務員室設置。
[編集] 年表
- 1994年(平成6年) - 量産先行車(2編成)と量産第1号車が完成。非常用ドアコックの使用方法などのステッカーが従来車と違ったものになっていた。
- 1995年(平成7年) - 基本量産車の投入を開始。この車両から非常用ドアコックの使用方法のステッカーが209系などと同じタイプになった。
- 1998年(平成10年) - この年の増備車から側面の方向幕が幕式からLED式に変更され、非貫通型になった。またロングシート車の窓の構造が同期に製造された209系500番台と同じタイプに(2分割)なり、開閉できるのは1両中4ヶ所となった。
- 1999年(平成11年) - 横須賀線・総武快速線への投入終了。近郊形電車の生産はE231系(翌2000年より宇都宮線(東北本線)と高崎線に投入)に継承され、本系列の製造は終了した。
- 2001年(平成13年) - 湘南新宿ラインに投入され、215系と共に横須賀線~新宿駅系統で運用に就く。
- 2004年(平成16年) - 湘南新宿ラインの運用を外れる。
- 2006年(平成18年) - 量産先行車2編成+量産第1号車1編成の合計3編成が横須賀線・総武快速線から離れ、東海道本線に転用される。
[編集] 関連商品
- Nゲージ鉄道模型では、トミーテック(TOMIX)と関水金属(KATO)が商品化している。TOMIXの商品はF-01・F-51編成登場時をモデルとしており、KATOの商品はF-25・F-77編成の登場時をモデルとしている。
[編集] 参考文献
- 鉄道ファン(交友社刊)2002年5月号 ~JR東日本の通勤電車開発史~
[編集] 今後の予定
- 2007年度より制御装置などの機器類の更新と自動放送機能を整備することが、前者は2006年12月5日付、後者は2007年3月6日付のJR東日本のプレスリリースで発表されている。
- 前述の通り、開閉不可能な窓の開閉可能化工事も行われている。
[編集] 関連項目
- JR東日本の在来線電車 (■国鉄引継車を含む全一覧 / ■カテゴリ) ■Template ■ノート
- 国鉄113系電車