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国鉄キハ35系気動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

八高線で活躍していたころの姿。金子→箱根ヶ崎間にて。(1994年)
八高線で活躍していたころの姿。金子→箱根ヶ崎間にて。(1994年)

キハ35系気動車(こくてつキハ35けいきどうしゃ)は、日本国有鉄道(国鉄)が1961年から製作した通勤形気動車である。

この呼称は車両形式称号規程に則った正式のものではないが、同一の設計思想によって製作された気動車のグループを便宜的に総称したものである。具体的には、キハ35形キハ36形キハ30形及びこれらの改造車を指す。

目次

[編集] 概要

昭和30年代の高度経済成長期、大都市近郊の非電化通勤路線向けとして開発されたものである。1961年1966年の間にグループ総計で413両が製作され、関西本線を皮切りにして首都圏新潟名古屋関西を中心に全国各地で使用された。

旅客乗降の効率化のため、両開きの幅広ドアを片側あたり3ヶ所に設け、収容力を重視して車内の座席をすべてロングシートとしたことが特徴である。このためラッシュ時の輸送に絶大な能力を発揮した。しかし大都市近郊の路線が軒並み電化されたことと、長距離運用に不向きな設備が災いし、1980年代以降は急激に淘汰された。

1987年の国鉄分割民営化時には、キハ35形とキハ30形が本州以南の各旅客鉄道会社に承継された。

[編集] 開発の経緯

関西本線の湊町(現・JR難波)~奈良間は大都市近郊区間であり、1950年代以降通勤客が大幅に増加していた。この区間は戦前に電化も計画されたことがあるが実現せず、1960年当時でも非電化のままだった(電化は1973年)。当時の関西本線は蒸気機関車牽引の客車列車が主力として運転されていた。

客車は老朽化し、ドアは手動であり、蒸気機関車の煤煙に悩まされるという、昭和初期と大差ない前時代的な旅客サービス水準であり、並行する近畿日本鉄道奈良線(複線電化)には、列車本数、スピード、接客設備とも大きく水を開けられていた。

また、いまだ蒸気機関車が主力であったことから、輸送量が同等の国鉄他線区に比べると固定資産が多く、輸送コストが割高で営業成績が低迷し、収支改善のテコ入れを迫られていた。この状況に対して国鉄は、当時の関西本線の輸送量では電化では採算が合わないと判断し、気動車の大量投入により輸送力強化を図ることを決定した。

この頃、関西線には既に気動車が部分的導入されていたが、車両は2ドアセミクロスシートのキハ10系キハ20系であり、ラッシュ時の客扱い能力にはいささか難があった。そこで、ラッシュ対応型の通勤形気動車として、新たにキハ35系気動車を開発することになったのである。

[編集] 構造

[編集] 車体

国鉄は1957年に斬新な通勤形電車101系(当初名称はモハ90系)を開発し、中央線等に投入して輸送改善の成果を挙げていた。通勤形気動車についてもこの101系の基本構造を踏襲している。

したがって、オールロングシート、切妻形の簡素な車端形状、1.3m幅(有効幅は1.2m)の両開き扉(気動車としては初採用)、グローブベンチレーター、蛍光灯照明と扇風機の装備等は、101系にならったものである。ただし寒冷地形はベンチレーターを押し込み式とした。

だが気動車ゆえに次のような改変が為された。

  • 3ドア・外吊りドアの採用
101系並の片側4ドア車体は最混雑線区でもない限り過剰装備であり、本系列は3ドアとされた。
しかし、気動車が運行される路線は客車基準の低いホームが普通であり、乗降口にはステップを設ける必要があった。ステップ設置は台枠の切り欠きを伴い、台枠強度を低下させるおそれがある。従来の狭幅2ドア気動車では切り欠き長さは僅かで、ステップ下に補強を入れるだけで済んだが、広幅3ドアでは著しい強度低下が予想された。それに加えて、ドアを作るというのは車体に穴を開けるわけなので、戸袋面積も考えると車体が空洞になっている部分は考えるより広く、車体強度が低下することになる。その戸袋横に補強材を入れることになると、その重量分が余計に増加してしまうことにもつながる。当時のエンジンはもちろんDMH17Hであり、出力があまりに低いものなので、車体重量を悪戯に重くするわけにも行かなかったという背景もある。
そこで、ドア両脇の戸袋を廃し、この部分の車体強度を高めることで全体の強度を確保した。このためドアは、ドア上のレールから車体外側に吊り下げられる「外吊り式」を用いることになった。ドア下部は車両限界確保のため、段差が付いて薄くなっている。この結果、武骨な外観を呈し、本系列最大の特徴となった。しかも、この構造を採用したことにより、冬期には車体との隙間から冷気が入りやすく、乗客からの不評も聞かれた。
窓は簡素な2段式であるが、ドア両脇の小窓(通常なら戸袋窓に当たる)は開閉可能なものの、ドアに手を挟まれる事故を防止するため開口面積が小さい。
  • 正面貫通扉の設置
気動車は頻繁な分割併合運用を行うことから、利便性確保のため、通り抜け可能な正面貫通扉の設置が一般化していた。本系列にもこれは踏襲されている。埋め込み式ヘッドライト、貫通扉両側の正面窓の配置など、簡素ながらおとなしく好ましいデザインに仕上がったが、多くは後年施工された衝突対策の前面強化のため、印象が大きく変わっている。
  • トイレ設置
キハ35形は比較的長距離の運用も想定してトイレを設置している。トイレ向かい側の座席はトイレへの視線をそらすためクロスシートとなっている。

[編集] 主要機器

同時期に登場した急行形気動車のキハ58系と共通の設計である。温水式暖房や、車端部に設置され、客室容積を犠牲にしない排気管なども、キハ58系に引き続き採用された手法である。

[編集] エンジン・変速機

エンジンもキハ58系同様の、水平シリンダ形のDMH17H(180PS/1,500rpm)で、各形式とも1基が搭載され、2エンジン車は存在しない。垂直シリンダエンジンは調達コストがやや低いものの、床に点検蓋を設ける必要があり、強度用件上補強が必要となるため、重量増が嫌われ、企画段階で廃案となっている。これに標準型の液体変速機、TC-2AまたはDF115Aが組み合わされた。

[編集] 台車

台車は標準型を改良した金属バネ式のDT22C形(動台車)、TR51B形(付随台車)。ラッシュ時の荷重を考慮し、車軸径が僅かに大きくされている。

特筆事項として、長大編成の電圧降下に対応した、総括予熱・始動回路の設置がある。エンジン予熱用のグロープラグと機関始動回路に補助リレーを接続したもので、先頭車からの操作で、先頭車の電源によって編成各車の補助リレーを作動させ、個々の車両が自車電源でエンジン予熱と始動を行うようになっている。

[編集] 個別形式

[編集] キハ35形

本系列の中核となる片運転台・トイレ付車。1961年~1966年にかけて258両が製造された。

[編集] 0番台(1~217)

温暖地向けの一般形。最終番号の217は便所内の照明に蛍光灯が採用され、便所の窓が細長くなっている。

[編集] 500番台(501~531)

1962年から製造された新潟地区向けの寒冷地形。寒地対策として、押し込み式ベンチレーター、複線用のスノープラウ、前面窓への電熱式デフロスター設置、水タンクのカバー設置などの設計変更がなされた。主に弥彦線越後線で使用された。

[編集] 900番台(901~910)

1963年に10両が製造されたステンレス車。

東急車輛製造アメリカバッド社ライセンスによるオールステンレス車両開発の一環として製作したもので、1962年開発の東急7000系と並び、日本におけるオールステンレス車の草分けとなった車両である。車体の基本諸元は0番台に準じるが、外板・骨組み・台枠に至るまで全てステンレス製で、幕板・腰板部分にはコルゲートが走り、側面外吊りドア上の戸車カバーは、車体全長に渡る長大なものとなった。0番台に比して、3.6tもの軽量化を実現している。

房総東西線勝浦館山間における潮風による塩害対策という名目であったが、当時の総武各線は、朝夕の通勤時間帯には蒸気機関車牽引の客車列車を多用していた状況で、気動車列車で鋼製車とステンレス車の使い分けができるだけの数の余裕は無く、実際には混用された。

普通鋼より硬く、錆びない特性を生かし、薄肉化(腐食代・ふしょくしろ、くさりしろが不要)による軽量化と、塗装省略によるメンテナンスフリーを長所とした。が、当時の塗装費と比して製造コストが高すぎること、バッド社のライセンスの関係から東急車輛製造以外での製造が難しいこと、鋼製車との取り扱いの差異、塗装現場省力化に対する労働組合の拒否反応等、多くの障害があり、量産化には至らなかった。

製造当初は無塗装だったが、配属先は霧の出やすい気候のため、後に安全上の問題から、遠方視認性を高める目的で前面に赤帯が入り、更に末期には一般車と同様「首都圏色」(たらこ色)に塗装された。国鉄におけるステンレス車両は、これに限らず取り扱い上の問題から後に一般車に準じて塗装された例が多い。

関東鉄道に在籍しているキハ3518(2006年11月4日撮影)
関東鉄道に在籍しているキハ3518(2006年11月4日撮影)

[編集] キハ36形(1~49)

1962年に製造された片運転台・トイレなし車。同年中に温暖地用のみ49両が作られた。トイレが無く、車内が完全ロングシートであることを除けばキハ35形0番台に準ずる。

当初、キハ35形とのペアを組むことを想定されたが、その目的ならより小回りの利く両運転台車の方が有利なため、量産はキハ30形に移行した。本系列は短期間製造されたのみに終わり、JRに引継がれた車両もなかった。関東鉄道に譲渡された車両のうち、17と28が同社キハ3518,351として現存している。

[編集] キハ30形

久留里線のキハ30形気動車(2004年7月24日撮影)
久留里線のキハ30形気動車(2004年7月24日撮影)

トイレのない両運転台車。1963年~1966年に106両製造された。

[編集] 0番台(1~100)

温暖地向けの一般形。基本仕様はキハ35形0番台に準ずる。

[編集] 500番台(501~506)

寒冷地向けの耐寒形。基本仕様はキハ35形500番台に準ずる。1964年~1965年に少数製造されたのみ。

[編集] 改造車

[編集] キハ35形300番台(301~304)、キクハ35形300番台(301~304)

キハ35系300番台(1999年7月30日 兵庫駅)
キハ35系300番台(1999年7月30日 兵庫駅)

西日本旅客鉄道(JR西日本)が1990年鷹取工場でキハ35形0番台の改造により製作した、山陽本線支線(和田岬線)向け仕様車である。1駅間のみの短距離路線で朝夕ラッシュ時のみ運用されるという同線の特殊条件にかんがみ、多くのユニークな改造が施された。本系列における、形式番号の変更をともなう唯一の改造例である。形式番号の新旧対照は、次のとおり。

キハ35 123,137,189,207 → キハ35 301~304
キハ35 156,157,181,195 → キクハ35 301~304

保守費低減のため、兵庫方のキハ35形からはエンジンが撤去され、キクハ35形としてキハ35形と1M1Tの2両ユニットを組むこととされた。車両1両当たりの平均出力は僅か90PS、駆動軸1軸で満員の乗客を乗せた2両の車両を動かすことになった。国鉄民営化後の旅客車両としては例のない低出力編成であるが、トルクコンバーターの働きによるトルク増大効果で発進は可能であり、平坦で最高速度が30km/h程度の和田岬線では、実用上問題なかった。この車両は、車両基地でもある鷹取工場のある鷹取と兵庫の間で山陽本線上を自力回送されていたが、空車では最高速度60~70km/hに達していたという。

車体関係では、座席の一部撤去、トイレの撤去などのほか、兵庫駅和田岬駅のホームが同じ側(和田岬に向かって右側)にしかないことから、キハ35形の運転席側、キクハ35形の助士席側の客室扉は中央扉(非常用)を除いて埋め込まれた。また、キクハ35形には暖房用熱源となるエンジンがないことから、機関予熱器を搭載して温水暖房の熱源としている。

それまでの旧型客車列車に代わり、和田岬線専用車として通常6両編成で朝夕のラッシュ輸送に用いられた。2001年の和田岬線の電化により全車が運用離脱したが、キハ35 301のみ2004年11月末まで保留車として亀山鉄道部で屋内保管されていた。その後、後藤総合車両所へ回送され、同年12月25日付で廃車となり解体された。この時点でキハ35は廃形式となった。

[編集] 運用

[編集] 主として使用された路線

相模線から八高線に転入した車両。群馬藤岡駅にて。(1991年)
相模線から八高線に転入した車両。群馬藤岡駅にて。(1991年)
相模線電化前に使用されていた車両。橋本駅にて。(1988年)
相模線電化前に使用されていた車両。橋本駅にて。(1988年)
  • 関西本線
    前述の輸送力増強計画により、1961年12月10日のダイヤ改正よりキハ35系気動車が順次大量投入され、奈良機関区に計81両を配置し、従来の蒸機牽引旅客列車はごく一部の通勤列車を除いて全て気動車化された。これにより湊町-奈良間にて国電型の定間隔運行ダイヤが実施され、国鉄は「オールDC化」「待たずに乗れる関西本線」と大々的にPRした。この体制は1973年9月の湊町-奈良間電化まで続いた。一部は奈良以東の亀山駅名古屋駅まで直通する運用もあったが、長距離客へのサービス面ではロングシートのキハ35系はいささか難があった。奈良電化後のキハ35系は奈良以東および周辺支線区での運用に移り、一部は他線区へ転出した。
  • 奈良線草津線桜井線和歌山線紀勢本線
    関西本線向けに奈良機関区に配置された車両を使用した。関西本線一部電化以降は一部が和歌山機関区に転属し、紀勢本線でも使用された。上記各線が電化されるごとに運用が縮小され、最後に残った奈良線・和歌山線五条以西が1984年10月までに電化された時点で奈良・和歌山区のキハ35系はすべて廃車または転属となった。
  • 房総地区
    1962年にキハ36形18両が千葉機関区に配置されたのをはじめ、以後ステンレス車の900番台10両を含む49両が千葉機関区に、24両が木更津支区に配置され、房総西線(現・内房線)・房総東線(現・外房線)・総武本線成田線鹿島線・木原線(現・いすみ鉄道いすみ線)・久留里線で使用された。房総各線の電化が進んだことにより1972年から1975年の間に木原線・久留里線用の車両を残して他は高崎第一機関区などに転属。久留里線では現在キハ30形3両が使用されている(下記「現況」の項を参照)。
  • 川越線
    1964年に大宮機関区にキハ30形7両を新製配置し、以後、キハ35形も配置された。1972年に大宮から高崎第一機関区(現在の高崎車両センター高崎支所)に転属し、八高線と共通運用となるとともに、同線の大半の列車に本系列が運用されることとなった。1985年9月30日の全線電化開業にともなって運用を離脱した。
  • 八高線
    1965年から高崎第一機関区に6両が新製配置され使用開始。1972~75年に千葉から大量に転入し、川越線と共通運用となり、同線の大半の列車に本系列が運用されることとなった。1996年3月16日の八王子-高麗川間電化開業および高麗川-高崎間へのキハ110形投入にともなって撤退し、久留里線などに転用されたごく一部の車両を除いて大部分が廃車となった。晩年はキハ38形と共通運用を組んだが、朝のラッシュ時には最大5両編成となるなど、本系列の設計思想に合致した環境で運用されていた。
    川越・八高線用の車両は半自動扉を押しボタン操作式に改造する工事が1972年から実施されていた。
  • 相模線
    1965年にキハ30形5両が茅ヶ崎機関区に配置されたのち、1975年頃から本系列への車種統一が実施され、全線が電化された1991年3月まで使用された。八高線とともに首都圏では数少ない非電化路線だったので、ラッシュ時には4~5両編成も見られ、当系列の本来の使われ方をしていた。晩年は朱色一色からクリームと青の相模線カラーに塗りかえられていた。
  • 弥彦線越後線
    1962年から寒冷地用のキハ30形・キハ35形500番台を配置。越後線の電化および弥彦線の電化と東三条~越後長沢間の廃止により1985年に全車廃車または転属となった。
  • 筑肥線
    1965年から東唐津機関区に21両が新製配置された。1983年に唐津以東の電化・一部廃止が実施された後は筑肥線非電化区間や長崎本線大村線で使用された。JR九州に承継されたキハ35系は1991年までに全廃されている。

[編集] 現況

2006年時点では、東日本旅客鉄道(JR東日本)千葉運転区木更津支区にキハ30形3両(62,98,100)が残存しており、久留里線で営業運転に用いられている。東海旅客鉄道(JR東海)にも保存目的でキハ30形1両(51)が伊勢車両区に在籍するが、既に営業運転には使われておらず、現車は美濃太田車両区で保管されている。

この他、1986年にキハ35形の改造名義で製造されたキハ38形が、久留里線で使用されている。

民営鉄道への譲渡車については、1987年から1992年にかけて、各形式が関東鉄道常総線キハ300形、キハ350形、キハ100形として39両移籍しており、キハ300形のうち1両は1986年に筑波鉄道に譲渡された後、同鉄道線の廃止後、関東鉄道に移ったものである。これらは、ほとんどが冷房化や機関の換装を受けたが、老朽化が進んだため、現在急速にその数を減らしている。

会津鉄道ではキハ30形1両(19)が展望用トロッコ車両(AT-300形・301)に改造されて用いられている。

[編集] 車籍なしで現存するもの

[編集] 保存車

碓氷峠鉄道文化むらに静態保存されているキハ35 901(2007年4月9日撮影)
碓氷峠鉄道文化むらに静態保存されているキハ35 901(2007年4月9日撮影)

保存車としては、前述のJR東海のキハ30 51ほか、次の車両が静態保存されている。

[編集] 他の用途での利用など

他の用途で利用されているものとしては、次の車両がある。


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