国鉄EC40形電気機関車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
EC40形電気機関車(EC40がたでんききかんしゃ)は、日本国有鉄道(国鉄)の前身である鉄道院が1912年(明治45年)に輸入した直流用電気機関車である。日本の国有鉄道が初めて導入した電気機関車である。そして、日本で唯一、動輪数が奇数の電気機関車である。
目次 |
[編集] 概要
信越本線横川~軽井沢間(碓氷峠)用のアプト式電気機関車で、1912年5月11日の同区間の電化の際に使用される電気機関車として、12両が輸入された。ドイツのアルゲマイネ社(Allgemeine/A.E.G.)及びエスリンゲン社(Esslingen)の合作により1911年に製造された。
製造当初の形式番号は10000形(10000~10011)と称したが、1928年(昭和3年)10月の車両形式称号規程改正により、EC40形(EC401~EC4012)に改められた。
横軽間では、1893年(明治26年)の開業時からアプト式蒸気機関車が使用されていたが、26か所ものトンネルが存在するうえ、運転速度が低い(横川~軽井沢間の運転に1時間15分を要した)ため、乗務員や乗客は機関車から出る煤煙に苦しめられていた。乗務員の窒息事故も多発しており、機関車に特殊な形状の煙突を取付け、煤煙を機関車の後方に導く等の対策も行なわれたが、思ったような結果が得られずにいた。そのため、同区間を電化し、乗務員の労働環境改善と輸送力の増加を図ることとした。電化により横軽間の運転時分は49分と大幅に短縮されるとともに、1列車あたりの輸送力も若干ではあるが増加している。
車体は、前後に短いボンネット(機器室)を有する凸型である。当初、運転台は両側に設けられていたが、しばらくして坂上の軽井沢側の運転台が撤去されて蓄電池が搭載され、横川側のみの片運転台式となった。
集電装置は当初、構内区間用はポールであったが、後にパンタグラフに変更された。本線上ではトンネルの建築限界が小さく、第三軌条方式による電化を行なったため、第三軌条から集電を行なうための集電靴を片側2か所に設備していた。集電靴は、第三軌条の下側に接触する方式で、日本では唯一のものであった。
3対の動輪をもつ台車は固定式で、動輪は連結棒で中間軸と主電動機の大歯車につながっており、ラックレールに噛み合うラック歯車は、同じ方式で専用の主電動機と結ばれている。
一貫して横川機関区に配置され、信越本線の横川~軽井沢間で使用されたが、老朽化と後継機(ED42形)の投入により、1936年(昭和11年)4月に全車が廃車された。
廃車後は大宮工場(現在の大宮総合車両センター)に保管されていたが、1941年(昭和16年)に4両が京福電気鉄道に払い下げられ、そのうちの2両が、同社のテキ511,512(旧ED401,2)となって福井支社の越前本線や三国芦原線で使用された。払い下げの際、アプト式の機器類はすべて撤去されており、ボンネットの片側も撤去されてデッキが設置された。これは、ラック用機器の撤去により室内空間に余裕が生じたのと、入換え作業での係員乗車用スペースの確保を図ったためと思われる。テキ511は次項で述べるとおり復元保存のため国鉄に譲渡されたが、残るテキ512は1970年(昭和45年)7月15日付けで廃車となった。
[編集] 保存
京福電気鉄道で使用されていたテキ511は、国鉄での復元保存のため、ED2811(テキ531)との交換により1964年(昭和39年)2月17日付けで廃車され、大宮工場で明治時代の状態に復元のうえ、鉄道記念物に指定された。現在は、「10000」として旧軽井沢駅舎記念館に静態保存されている。
[編集] 主要諸元
※カッコ内はラックレール使用時のデータ。
- 全長:9550mm
- 全幅:2905mm(集電靴を含めた全幅)
- 全高:4200mm
- 運転整備重量:46.00t
- 電気方式:直流600V(第三軌条方式、架空電車線方式併用)
- 軸配置:Cb
- 台車形式:―
- 主電動機:MT3形×2基
- 歯車比(動輪):14:91(1:6.50)
- 歯車比(歯輪):15:88(1:5.86)
- 1時間定格出力:420kW
- 1時間定格引張力:5500kg(11000kg)
- 動力伝達方式:歯車1段減速、連結棒式
- 制御方式:非重連、抵抗制御、2段組み合わせ制御
- 制御装置:電磁単位スイッチ式
- ブレーキ方式:EL14B空気ブレーキ、電気ブレーキ、手用動輪用ブレーキ、手用ラック歯車用帯ブレーキ
- 最高運転速度:
[編集] 関連項目
- 国鉄3900形蒸気機関車
- 日本国有鉄道の旧型電気機関車 ■Template ■ノート
- B・D型機(貨物用) - EB10 / AB10 - ED10 - ED11 - ED12 - ED13 - ED14 - ED15 - ED16 - ED17 - ED18 - ED19 - ED23 - ED24
- D型機(旅客用)- ED50 - ED51 - ED52 - ED53 - ED54 - ED55(計画のみ) - ED56 - ED57
- F型機(貨物用)- EF10 - EF11 - EF12 - EF13 - EF14 - EF15 - EF16 - EF18
- F型機(旅客用)- EF50 - EF51 - EF52 - EF53 - EF54 - EF55 - EF56 - EF57 - EF58 - EF59
- H型機 - EH10
- アプト式 - EC40 - ED40 - ED41 - ED42
- 私鉄買収機 - ED20 - ED21 - ED22 - ED25 - ED26 - ED27 - ED28 - ED29 - ED30 / ED25II - ED31 - ED32- ED33 / ED26II - ED34 / ED27II - ED35 / ED28II - ED36 - ED37 / ED29II - ED38 - ケED10 - デキ1(旧宇部) - ロコ1(旧富山地鉄) - デキ501(旧三信) - ロコ1100(旧南海)
- 新性能機関車
- 開発史 - 日本の電気機関車史