国鉄ED75形電気機関車
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ED75形電気機関車(ED75がたでんききかんしゃ)とは、1963年から製造された日本国有鉄道(国鉄)の交流用電気機関車である。
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[編集] 概要

1963年に常磐線が平まで電化開業するのに伴い、従来の技術を集大成し汎用性を重視して設計された交流用標準型機関車である。先にシリコン整流器を搭載して製造されたED74形を基本に、下記のような変更点がある。
ED74形は変圧器の1次側で巻線比を切替える高圧タップ制御を用いたが、電流を連続的に制御できないシリコン整流器の問題点を解決できず、従来の水銀整流器搭載機と同等の粘着力をいかに確保するかが技術的課題であった。変圧器の2次側で巻線比を切替える低圧タップ制御とすれば、起動時に先天的に定電圧特性が働き、理論上この問題は解決できる。低圧側の制御は高圧側に比べ大電流を扱うため電流ピークが発生しやすいが、磁気増幅器によるバーニア制御で連続制御が可能となり、電気的粘着力の問題は解決した。その他の制御方式の電気機関車と区別するため、磁気増幅器(マグネティック アンプリファイアー)の略称からM形と呼ばれている。磁気増幅器は重量が大きいため、将来的にサイリスタインバーターが実用化された際には、換装が可能な設計に予めされている。これは後述の500番台(S形)で述べる理由によりED75形としては実現しないまま終わったが、ED79形への改造の際に生かされている。
台車はED74形と同様、ジャックマン式と呼ばれる、引張棒で牽引力を伝達する仮想心皿方式のDT129を使用して、力点をレール面まで下げ、機械的粘着力を確保している。
各所に20‰超の勾配区間が散在しながら、1200t牽引が要求される東北本線でも使用するため、重連総括制御が可能な設計とされ、貫通扉を持つ。車体構造も、1号機以外は、外板を別組して後から台枠と接合する方式を採用したため、車体の裾が一段引っ込んだ形態となっている。外部塗色は交流機関車標準の赤2号である。
列車暖房装置は電気暖房方式を採用している。蒸気暖房方式の同系機としては、九州用に開発されたED76形がある。
投入開始以来、本来の東北・常磐地区のほか、北海道や九州にも投入され、1976年までに総数302両が製造された。特急列車から一般貨物列車まで幅広く運用されたが、1980年代以降はEF81形の運用拡大、夜行客車列車や貨物列車の削減、普通客車列車の電車化・気動車化などによって運用が減少し、JR移行時には初期車を中心に大量の廃車が発生した。その直後、廃車となった一部の車両が日本貨物鉄道(JR貨物)の輸送量増大に対応するため車籍を復活して運用に就いたが、現在ではEH500形の増備によって淘汰が進んでいる。
本形式は用途や使用区間によって細かい番台区分があり、以下に詳述する。
[編集] 番台区分
- 基本番台(0番台、M形)(1~160)
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- 1~49号機
- 東北本線・常磐線用に、1963年より製造された。1・2号機は試作車で、1号機は車体構造のほか、タップ切替器の駆動方式や機器配置も量産機と異なる。1964年製造の3号機以降が量産機で、2号機の仕様を基に各機器を改良している。スカートの裾が丸い。
- 50~100号機(耐寒型)
- 東北本線盛岡電化に際し1965年から製造されたグループ。耐寒耐雪装備を強化し、正面窓には保護柵とツララ切りが設けられ、外観の印象が一変している。黒磯駅構内で発生しうる直流電化区間誤進入時の機器保護のため、主回路にヒューズを設けた。
- 1966年製造の85号機以降は、暖房器強化・床下のリアクトル冷却風循環化など、耐寒・耐雪性能の改善が図られている。外観では、後部標識板の廃止に伴い、尾灯に飾りリングが付いた。
- 101~160号機
- 300番台(301~311)
- ED75形唯一の60Hz仕様機。ED73形の増備機として九州地区に投入するため、1965年に10両、1968年に1両が製造された。外観上は一般のM形機とほぼ同一であるが、20系客車用のジャンパとホースを持ち、屋根上のヒューズが省略されている。スノープラウ(雪かき器)は省略された。1968年製は尾灯、スカートなどが年式相応のものに変更された。
- 本番台はブレーキ増圧装置・電磁ブレーキ対応(311)などの高速運転対応装備を搭載し、主に高速貨物列車や寝台特急の牽引に使用された。軸重の関係から北部九州地区に運用が限定され、九州地区の一般形客車は電気暖房を使用しないため客車列車への充当にも制限があった。製造は11両で終了し、九州内で汎用的に使用できるED76形に淘汰される形で1986年3月に全機が一斉廃車となり、区分消滅した。
- 500番台(S形)(501)
- 北海道交流電化用の試作機として、1966年に三菱重工業で1両のみ製造された。酷寒地用として特に耐寒装備が強化され、凍結防止の観点から特別高圧機器を室内に収納、空気遮断機や避雷器は主変圧器に内蔵し主整流器も大容量化された。車側フィルタからの雪の進入を抑えるため、冷却風は床下より取るよう設計されている。パンタグラフは落成時は一般機同様PS101で、ブレーキ装置とあわせヒーターが設置されており、電源として前頭部に一見避雷器に見える提灯形の絶縁変圧器が設置されていた。1968年に耐雪性に優れた下枠交差式のPS102Aに換装され、ブレーキのヒーターや絶縁変圧器も撤去されている。これらの特殊装備の関係により全長は14600mmとなるが、これは他のED75形より300mm長い。
- 制御方式は故障防止の観点から無接点制御を図り、1965年製造のED93形で採用されたものを基礎として可飽和リアクトルを用いた全サイリスタ位相制御とされた。これは本機の大きな特徴で、このことから1輌のみの存在であるにもかかわらずS形と呼ばれる。一応M形とは重連可能であるが、当面は北海道内のみの運用にとどまる存在であったことから総括制御用の機器は一部省略されて竣功している。
- 本機の試験運用ではサイリスタから発生するパルス波による通信・信号に対する誘導障害が著しく、また、列車暖房の必要から、実際の量産はSG(暖房蒸気発生装置)を搭載したED76形500番台とされた。本機は札幌都市圏での誘導障害を避け、岩見沢以北の貨物列車に運用が限定された。JR移行直前の1987年に廃車されている。
- 700番台(701~791)

- 奥羽本線・羽越本線用の耐雪、耐塩害対策装備機として、1971年から1976年までに91両が製造された。ただし、1974年に736号機が羽越本線内の崩落土砂による脱線事故で廃車されたため、全機が一度に揃ったことはない。
- 東北日本海側の電化にあたっては、冬季の強い北西風による塩害が懸念された。そのため、基本番台では屋根上に配置されていた特別高圧機器を室内配置に変更した。これはED76形500番台用をベースに主変圧器とタップ切換器をユニット化した上で列車暖房回線を追加したもので、特高回路遮断器・交流回路用単位スイッチ・継電器などを真空式に変更して小型軽量化し、重量増加を抑えた。これにより無接点・無電弧化も進み、メンテナンスフリーが図られた。1972年製造の735号機以降は単機増圧ブレーキが追加され、同年製造の738号機以降はパンタグラフの断路器を変更している。
- 耐雪性にすぐれた下枠交差式のPS103形パンタグラフを採用し、屋根上の機器が少ないため、基本番台と比べると屋根上は直流電気機関車並に簡素な印象を受ける。
- 運転席の操作機器類は人間工学の考え方を採り入れ、黒色の計器盤にメーター類を横一列に配置するなど、視認性や操作性を重視したものに一新された。
- 新製以来奥羽本線と羽越本線で使用されるが、EF81形の増備により1981年から一部が福島機関区に転属し、東北本線でも運用されるようになる。1986年には青函トンネル専用機のED79形に34両が改造された。JR移行にあたり、残存機は客車普通列車牽引用として東日本旅客鉄道(JR東日本)に承継されるが、1992年以降は701系電車への置換により運用が激減した。当初の投入線区(羽越線酒田以北)の関係で、黒磯駅構内で発生しうる直流き電区間冒進時の主回路機器保護対策がなされていないため、貨物運用への転用は困難で、経年が新しいにもかかわらず基本番台より先に廃車が進んだ。
- かつては特異機としてジョイフルトレイン『オリエントサルーン』用に塗装変更したものが延べ5両存在したが、2005年の767号機の入場・一般色化に伴って消滅した。
- 1000番台(P形)(1001~1039)
- 東北本線全線電化に合わせ、1968年から1976年までに39両が製造された、高速貨物列車及び20系寝台特急客車牽引に対応した高速運転用のグループ。
- コキ10000系コンテナ車や20系客車が標準で装備する電磁ブレーキを操作するため、元空気ダメ引通しと電磁ブレーキ指令回路を追加し、ブレーキ増圧装置を搭載している。10000系貨車が装備するTR203形台車の空気バネに空気を供給することも可能。
- 床下の機器保温箱と平滑リアクトル排風ダクトは101号機以降と同様の大型のものを設け、空気配管は耐雪カバーに収められた。
- 1973年製の1026号機からは尾灯を外ハメ式に変更したほか、前面飾り帯の素材変更・前面通風口の廃止・ブロック式ナンバープレートの採用などで、700番台に近い前面形状になっている。
- 「ゆうづる」「はくつる」「あけぼの」「北星」「十和田」などの20系寝台特急・急行、10000系貨車で組成された高速貨物列車に限定運用されたが、牽引機に特殊な装備を必要としない14系・24系客車、コキ50000系貨車が投入されると、一般機と区別なく運用されるようになった。
- 国鉄末期、ブレーキを改造し100km/h走行を可能にしたコキ50000形250000代が投入されると、この専用編成を牽引するため、当番代に限り1988年に常用ブレーキ促進装置の取付などの対応改造がなされ、再び限定運用が組まれている。
- 本区分のうちJR東日本に継承された車両は、東北本線客車列車の末期に、使用頻度の低い電磁ブレーキ指令回路を閉塞して、代わりに側扉閉パイロットランプ回路用のジャンパ栓受が設置された。当該車両の一部は後にJR貨物へ移籍し、現在も運用中である。
[編集] 現況と動向
2006年現在、JRで定期運用を持つ電気機関車としては最も運用開始年が古い形式であるが、現在では客車列車の定期運用はなく、貨物列車もEH500形の増備により淘汰が進んでいる。
2006年現在、JR東日本所属機は700番台が秋田車両センターに4両(うち稼動車は3両)、仙台車両センターに3両在籍し、定期運用はJR貨物から運用委託された土崎-酒田間の不定期貨物列車が週1日前後運転されるのみである。仙台車両センター所属車は仙台周辺の工臨などの他に、EF81形の故障時に、寝台特急「カシオペア」・「北斗星」の代替牽引に使われたこともある。
0番台・1000番台は全車がJR貨物仙台総合鉄道部に所属しており、ほとんどの車両が1993年以降に機器取替などの更新工事を受け、外部塗色が変更されている。
当初の施工機は外板下半分が白く「白更新」と通称されるが、2003年7月に出場した1028号機から車体裾のみ白くした「新更新色」となっている。この1028号機は仙台総合鉄道部で車体に『ED75』と巨大なレタリングが入れられ、EF81形95号機などの「スーパーエクスプレスレインボー」専用色に類似した外観である。近年はEH500形の故障続出によって稼動機の必要数が不足し、いったん運用を外れた本形式が再度整備されて復帰する事態も発生していた。これにより、長年休車となっていた1039号機(ED75形の最終製造機)なども大修理を経て復帰し、運用中である。
EH500形の稼動状況が安定し、増備がさらに進行している現在では、M形を中心に更新工事の有無を問わず検査期限が切迫した車両から順次運用を外れ、廃車・解体の処分が進行している。
[編集] 保存機
- ED75 1(利府駅留置、2002年以降新幹線総合車両センターに移設)同年のFIFAワールドカップの際に再整備され移設したもの。
- ED75 501(小樽交通記念館)
- ED75 775(鉄道博物館に収蔵予定)
[編集] 主要諸元
(0番台)
- 全長:14300mm
- 全幅:2800mm
- 全高:4017mm
- 運転整備重量:67.2t
- 電気方式:交流20kV、単相50Hz
- 軸配置:B-B
- 台車形式:DT129系
- 主電動機:MT52×4(MT52A×4)
- 1時間定格出力:1900kW
- 1時間定格引張力:14100kg
- 制御方式:重連総括制御、変圧器低圧無電弧タップ制御、タップ間電圧連続制御、弱界磁制御
- 駆動方式:ツリカケ式
- ブレーキ方式:EL14AS増圧装置
- 最高運転速度:100km/h
[編集] 参考文献
- 電気車研究会『鉄道ピクトリアル』1993年7月号 No.577 特集:ED75形電気機関車
- 交友社『鉄道ファン』1993年12月号 No.392 p59~67
- SHIN企画/機芸出版社 『資料 ED75形のメカニズム』 1998年
[編集] 関連項目
- 旧型機関車
- B・D型機(貨物用) - EB10 / AB10 - ED10 - ED11 - ED12 - ED13 - ED14 - ED15 - ED16 - ED17 - ED18 - ED19 - ED23 - ED24
- D型機(旅客用)- ED50 - ED51 - ED52 - ED53 - ED54 - ED55(計画のみ) - ED56 - ED57
- F型機(貨物用)- EF10 - EF11 - EF12 - EF13 - EF14 - EF15 - EF16 - EF18
- F型機(旅客用)- EF50 - EF51 - EF52 - EF53 - EF54 - EF55 - EF56 - EF57 - EF58 - EF59
- H型機 - EH10
- アプト式 - EC40 - ED40 - ED41 - ED42
- 私鉄買収機
- ED20 - ED21 - ED22 - ED25 - ED26 - ED27 - ED28 - ED29 - ED30 / ED25II - ED31 - ED32- ED33 / ED26II - ED34 / ED27II - ED35 / ED28II - ED36 - ED37 / ED29II - ED38 - ケED10 - デキ1(旧宇部) - ロコ1(旧富山地鉄) - デキ501(旧三信) - ロコ1100(旧南海)
- 開発史 - 日本の電気機関車史